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水穂戦記  作者: 江川 凛
第1章 水穂の国
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陣取り合戦1

 そんな感じで俺たちはその後も週に1,2度は城下の散策をすることになった。俺にしてみれば本当は金に興味があったので、商人のところでいろいろ見てみたかっただが、さすがにそれは無理との十蔵の意見もあり、農村を中心に回ることにした。


 とはいっても基本的に日帰りのところとなると、行けるところは限られていたことや、農民がその時期に何をしているか、見るのを大事との十蔵の意見で、結果として伊南村という、城からそう遠くない村を重点的に見て回ることにした。


 見て回ると言っても、最初は面白がっていろいろ聞いていたが、ある程度慣れてくると、聞くこともなくなり、視察云々というより、遊び(興味)半分で、その村の子供たちとも言葉を交わすようになった。

 最初は彼らも俺たちが、何をしてきているかという胡散臭そうな感じだったが、たまたまその村出身の小間使いの名前を覚えていたので、その者の家の手伝いをしに来ているということで話を合わせた。


 俺が親しくなったのは俺と同世代の五人の農民の子のグループで、リーダー格の名は五平といった。彼は体が大きく、力も強かったので、何となく他の子供たちは彼の後ろについて、石投げをしたりしてたわいもない遊びをいつもしていた。

 俺もいつの間にか、彼らのグループの一員とみなされていたようで、伊南村にいったときは、自然と一緒に遊ぶようになっていた。

 さすがに十蔵は少し歳が離れていたせいか、一緒に遊ぶということはなかったが、そんな俺の息抜きを黙って見逃してくれていた。


 ある時、俺が伊南村に行くと、五平が何か怒っている。何があったのか聞くともうすぐ開催される夏祭りに合わせていくつかの子供たちのグループで陣取り合戦をやるらしい。

 五平たちも参加することになったのだが、その対戦相手が庄屋の息子をリーダーとするグループで、最低でも10人のメンバーを参加させてくるという。

 それだけでなく、十蔵ほどの年齢のものを何名か参加してくるとのことで、まともにやったら勝ち目がないというのだ。


 「人数に制限はないのか」と聞くと、10人前後というだけで、特に規定はないらしい。大人にしてみれば、子供の遊び程度にしか思っていないのだろう。

 また、相手は庄屋の息子だ、その気になれば、ルールを自分たちに有利なように変えることがあったとしても何の不思議もない。

 子供の遊びとはいっても負けるのは面白くないのは誰もが同じで、だからこそ五平が怒り狂っていたというわけだ。 


 それを聞いてしまった以上、既にグループの一員をとみなされている俺たちに他の選択肢はなく、自動的に俺たちも夏祭りの陣取り合戦に参加することになった。

 しかし、これで数の上では7対10となったが、年齢差を考えると1対2以上の戦力差があるのは歴然だった。

 そこで俺は意地悪く十蔵をみると、十蔵は「やれやれ」といった感じでルールの確認をし始めた。


 それによると、互いに陣地を築いて旗をたてる。防衛と攻撃に人員をどれだけ割り振るかは自由だが、攻撃側が敵陣の旗をとると勝ちという、ある意味単純なものだ。

 武器の使用は不可だが、旗を奪い合うという性質上どうしても肉弾戦はつきものなので、ある程度の暴力は許容されるとのことであった。

 陣地は基本的に盛り土で、かまくらを土でつくったものと思えば十分だろう。五平の言によると、この陣地を如何に強固につくるかが大事だとのことであった。

 しかし、相手は最低でも10人、下手をすればそれ以上のものがこの陣地づくりに参加するであろうから、その点でも不利だとぼやいていた。


 そういう意味でも全く勝ち目がないと思っている様だが、俺の関心は既に十蔵がこの「戦」をどう料理すうかという点に移っていた。

 普段あれだけ俺に偉そうに講義している軍師殿が実戦をどのように戦うのかというのを見てみたかったというのが本音である。


 すると、十蔵は「投げ槍を使っての攻撃はどうでしょうか?」と言ってきた。「武器は使用不可だ。」と五平が再度説明したが、何故か「大丈夫です」と自信満々に答える。

 「ダメなものがダメ」と五平が再度説明するが、「大丈夫だから練習しろ」としつこい。五平は横の体格では十蔵に勝っていたが、身長は高くなかったため、上から見下ろす形で説得されて、とうとうあきらめた。

 実際、五平にしてみれば、何をしてもダメだと思っているので、試合を面白くするためのハンデとして、槍が使えるというのもありと信じたいというのもあったのかもしれない。


 十蔵は武士なので、当然のごとく武芸には一通り通じており、槍も使えるはずだが、彼が投げ槍をしているのは俺も見たことがない。

 そもそも槍という武器はそれほど安いものではないので、それを投げるということ自体がわりに合わない。それに、槍という武器は攻撃範囲が広いので、遠くから来る敵にも対応できる便利なものだ。

 それを投げてしまってはいざという時、身を身を守るものがなくなってしまうので、投げ槍という戦法自体どうかと思っているのだが、十蔵は自信満々である。


 早速皆で、竹を切りに行き、一人一本槍に見立てたものを用意した。

 それを投げるだけなのだが、思ったほどうまくいかない。右に左にぶれてどうもまっすぐ飛んでいかない。

 さすが十蔵はすぐにコツをつかんだようで、2,3投後には、もう思い通りのところに飛ばせるようになっていた。

 さっそく皆に飛ばし方を伝授し、その日のうちには皆何とかまっすぐ飛ばせるようになった。


 あとは陣地づくりだが、俺たちはさすがに毎日来るわけにはいかないので、これは五平たちにお願いして、互いに投げ槍の練習をしておくことにして別れた。

 そして、夏祭りの日を迎えることとなった。

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