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水穂戦記  作者: 江川 凛
第2章 三川の国
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醜聞

 葛川隆明の3人の息子との面談はまずまずの成果と言ってよいであろう。

 ところがやはり葛川家での人質生活は、ある意味24時間監視されているようなものなので、それなりに不便はあった。


 特に困ったのが小夜と十蔵の3人で行っていた武芸の練習である。

 通常の木刀を使った練習なら見られてもかまわないのだが、これはあまり見せたくない。

 理由は極めて簡単で、そもそも武芸(格闘技)は相手に知られると、対応策をねられてしまうからだ。

 人は始めてみた技には、なかなか対応できないものだが、あらかじめ相手がこういう動きをするとわかっていると対応されてしまう。


 奥義などというものが、門外不出とされる理由も同じで、滅多やたらに見せてしまえば、対応を研究されてしまう。

 俺たちのやっていることを「奥義」になぞらえるほど、うぬぼれる気はないが、それにしても知らない人は少ないほうが良いに決まっている。

 それに人質の身としては、変わった戦闘訓練をしているなどとの噂でもたてられたらたまったものではない。


 そうなると、どこでやるかだが、居候の身としては適当な場所を見つけることもできない。

 幸い五島家にはまきなどを蓄えておく、大きな小屋があり、そこでなら何とかなりそうだったが、どうやって人払いをするかという問題が残った。

 仕方がないので、俺と小夜の2人で小屋に入り練習をし、十蔵が外で木刀の素振りをして誰も近づけないようにするという作戦を立てた。


 最初はこれで問題なかったのだが、やはり三條家から来た3人だけで何かしているとなると、五島家でもほおっておけないようで、小間使いを使って見に来るようになった。

 外で素振りをしている十蔵は問題ない。

 問題は小屋の中にいる俺と小夜が何をしているかだが、十蔵が人を近づけないように素振りをしているので、流石にそれをかいくぐって小屋に来ることはなかった。


 ただ、小間使いは、そこで何か作業をするふりをしながら、俺と小夜が小屋から出てくるのを待っていた。

 たまたまその日はかなり激しい練習をしたので、俺は疲れきって汗だくになりながら小屋を出たが、そのとたんに小間使いと目があった。

 それから小間使いは、何かを納得した様に、にやりと笑うとそのままどこかに行ってしまった。

 それを見ていた十蔵は「しまった」という感じの顔をしながら、俺にことの次第を説明してくれた。

 

 どうやら、小間使いは俺と小夜が小屋で秘め事でもしていると思ったらしい。

 そう考えると十蔵が人払いをするように、素振りをしていたのも納得できる。

 実際、夜には居候先の主人の五島種臣から呼び出され、「勉強をしに、三川に来ていることを忘れることのないように」との小言をもらった。


 それだけなら問題はないのだが、どうやら三條家にもこのことは報告されてしまったようで、母上からはかなりきつめの手紙をもらうこととなった。

 もともと俺と小夜との間を誤解していた節があったが、これで決定的と思ったようで、「三條家の跡取りともあろうものが」とか「身分の差をわきまえなさい」という言葉がこれでもかと並んでいた。

 挙句の果てには、「さっさと小夜を送り返しなさい。代わりにねねを送ります。」とまであった。


 手紙の9割がこうした感じであったが、最後に「おまえに兄弟ができることになりました。」とあったのは本当にびっくりした。

 母上は16で嫁入りし、翌年には俺を産んでいるから、30で再度出産ということになる。

 「多少高齢だが、何とかなるか」とか、「俺に兄弟が」とか、いろいろな思いが頭をよぎった。


 母上の誤解をといておきたかったが、手紙は検閲を受ける。

 実際、俺が受け取った手紙も開封された跡があった。 

 となると、武芸の練習をしていたことを書くわけにはいかない。

 全く説得力がないと思いながら、誤解であるということと、小夜をこのままここにおくことを伝え、「御懐妊おめでとうございます。」という言葉を並べた。

 

 どう考えてもこれで母上が納得してくれるとは思えなかったが、これ以上のことができないのでどうしようもないと、自分を納得させるしかなかった。

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