6話
『放課後、階段で』
場所は階段とあるだけで曖昧すぎるが、どこの階段かすぐに分かった。 それに誰に呼ばれたかも。 だから戸惑った。
これまでのことを思い返しても、それらしい行動を見たこともないし、普通の友達として接してくれた。
それこそ男女の垣根を越えた仲だったと思う。 ただ、向こうはそれ以上に思っていた。
なにを答えればいいのか分からずじまいで、屋上前の階段に来た。
すでに手紙をくれた人が座って待っていた。 俺の顔を見ると照れたように笑う。
これまでに見たことのない顔で関が笑う。
「私って分かってた?」
「なんとなく」
「そっか」
また照れたように笑う。 関は立ち上がり、俺の目の前まで降りてきた。
「いろいろ覚悟して言うけどさ……。 付き合ってほしいんだ、私と」
ほんのりと関の顔が赤くなっている。 嘘なんかじゃない。
本当の告白。 本当の気持ち。
だけど----
「……ごめん」
「……そっか。 だよね」
悲しい顔もせずに優しい笑顔で言われた。 それが重みとなって俺にのし掛かる。
「いっつも夕莉のこと見てたもんね。 まさか気づいてないとでも思ってた。 バレバレだよ」
言葉を重ねていくうちに声が湿ってくる。
「それでもね、結構アピールしてたんだよ。 平静を装って顔を近づけたりとかしてさ。 『私のことも見てー!!』って想いで。 全然気づいてもらえなかったけど……。 なんだが無視されてるみたいで、すっっっっっごく苦しかった。 だからさ、直接伝えた。 これなら無視されないし」
俺は小さい声で謝ることしかできなかった。 付き合えないことと、これまで苦しませていたことに気が付かなかったことに対して。
「いいよ。 私の方こそ、ごめんね。 迷惑だったよね」
「いや、そんな……。 すげぇ、うれしい。 今でもちょっと信じられない……」
関はポツリと「無理しなくてもいいのに」といい、真剣な顔を作った。 目に涙が貯まっていた。
「苦しくないの?」
「なにが……」
「言わないと分かんない?」
ぐっと押し黙る。 正直に言えば、苦しいと感じたことはない。 夕莉が誰かと付き合うことがない、ということを知ってるから。 それに約束したから……。
「いつまで黙ってるつもり。 夕莉も中村もそれでいいの?」
「……夕莉は関係ないだろ」
「関係あるよ」
関は俺の言葉を待っていた。 俺の口から二文字の言葉が出ることを待っている。 勝手に決めた約束が無ければ簡単に口にすることができただろう。
俺の口からは言えない……。
「あ~、もう! フッたんだから言えよ! バカ野郎!!」
そう怒鳴り声を上げて、関は走って行った。 入れ替わるように数学の教科書を持った夕莉が不思議そうな顔をしてきた。
「湊ちゃんとなにかあった?」
「……何にもなかった」




