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5話

 朝、立花に呼ばれて屋上前の階段に来た。 ひどく疲れ切ったような顔をしている。

 昨日、夕莉と何かあったのはあの顔を見れば、だいたい予想がつく。 思い通りにならなかったんだろうな。

 何をしたか聞きだすより早く、立花は頭を下げた。


「すまん! 昨日……やっちまった」

「やっぱりお前絡みか。 近江の調子が変だから、なんとなくは予想はしていたけど……。 それで、なにをしたんだ」


 立花は昨日の放課後、夕莉にした話をそのまましてくれた。

 話し終わることには、立花の顔はさらにひどいものになっていた。 もうこの世の終わりとでもいいたげな顔をしている。


「希望を持てたからって、調子こいた……。 完全に嫌われた……」

「俺からもなんとか言ってみるから、少しは元気出せ」

「マジか! 頼む! もう話せるだけでいいから!」


 立花に手を強く握られ、晴れ晴れした顔で教室に戻っていった。

 一人になった俺は階段に腰を下ろした。

 結局、あいつも友達以上を望んでいるということだろう。 夕莉がそれを望んでないことを知りながら、友達に徹することができなかった。

 確かに他人の好意を受け入れられないのは辛いことかもしれない。 でもそれをどうこうするのは、立花(おまえ)や俺じゃなくて、夕莉(あいつ)だろ。

 深い息を吐いて立ちあがる。 俺も戻るか。


「あっ! おったおった! 中村、英語の辞書貸して!」

「関……」


 ある意味で気分転換になった。




「いや~助かった。 持つべきものは中村だな」


 バンバンと肩を叩かれながら辞書を返してもらう。


「それはいいんだけど、近江……どうしてる?」

「ん、あぁ……私と話すときはいつも通りにしているけど、一人でいるときは……」


 関は言いにくそうに言葉を濁らせた。 それだけで十分すぎるほど分かった。


「なにかあったの? 聞いても何も言ってくれないし」

「まぁ、ちょっとな。 何かあったら助けてやってくれ」

「それはいいんだけどさ、ちょっと今日忙しいから……完全には無理だよ」

「それでもいい」


 関は軽く返事をして自分の教室に戻って行った。 俺も自分の席について英語の授業の準備をする。




 期末勉強に時間を割きすぎて予習が甘かった。

 いつもなら分からない単語や、先生が聞いてきそうな単語の意味を事前に調べておくのにやってこなかた。 期末勉強を頑張ったしいいか、と思ってサボってしまった。

 そんな時に限って当たるものだ。 初めて見る長い単語の意味を聞かれ、答えきれずに立たされている。 この高校の先生は予習を忘れた生徒をその場で立たせて、答えるまで放置する。

 先生が余談をして時間を作ってくれてる間に辞書で単語の意味を調べる。 『電子辞書があれば……』と思いながらペラペラとページをめくっていくと、『放課後、階段で』と書かれたノートの切れ端が挟まっているページがあった。

 それを握りつぶして、単語を探した。

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