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4話

 放課後の学食はいろんな生徒で混み合う。 普通に食事をする人と、友達と一緒に勉強する人。 勉強と言ったら図書館が定番だけど、あそこは友達と相談しながら勉強することに向いてない。 あそこは一人で黙々と勉強するのに使うような場所だ。

 その点、学食は騒いでも注意されることはない。 それに静かすぎるより、ザワザワしている方が何故だか集中できる。

 俺と夕莉、関はテキトーに席を見つけて期末勉強を始めた。

 夕莉と二人っきりだと視線が集まりそうな気がしたから、関も誘うことにした。


「ところでさ、最近その……立花? ……の様子はどうよ?」


 関はぎょっとした顔をしたが、夕莉はうれしそうな顔をしていた。


「それがね。 前のように普通に話しかけてくれるんだ! だから心配しなくても大丈夫だよ!」

「……そうか」


 この間、『根本的に解決してやりたい』と言っていたから何かしたのかと思っていたけど、特に何か行動しているというわけではないのか。

 ほっとしたような、期待が外れてがっかりしたような複雑な気持ちでいると関がヒソヒソと話しかけてくる。


「どっちかってーと周りにバレた分、気兼ねなく好きですオーラ放っていますが……」

「まぁ、どんなことがあろうが近江は断るだろう。 今までもそうだったし」

「ふーん?」


 関は探るような顔で返事をして、勉強に戻った。 俺も勉強に戻ろうとしたら、夕莉からSOSが飛んできた。


「助けて静、また行き詰まった」

「またか……どれ?」

「問3」


 教える側は、なかなか捗らないものだ。




 時間もいいところになったから、勉強をおしまいにして帰ることにした。 コップなんかを流し台に戻して学食を出た時、夕莉が思い出したように言った。


「立花君といえば、このあと呼ばれてたから湊ちゃん先に帰っていいよ」

「ほ~い」


 またしても関が俺にヒソヒソと話しかけてくる。


「お呼び出しとはな。 ……後つけてみない?」

「趣味悪いぞ」

「冗談、このあと見たいドラマあるからすぐ帰るよ。 じゃ~ね~」


 ニッシッシと笑いながら、小走りで帰っていった。


「……あまりしつこいようだったら、すぐ帰れよ」

「ありがと……。 大丈夫だよ」


 夕莉はふんわり笑って先に行ってしまった。




 確か……教室で待ってる、とか言ってたよね。 少し遅くなっちゃったし急がないと。 もうほとんど人のいない廊下を小走りでかける。

 少し息を切らしたところで立花君が待ってる教室に着いた。 入る前に深呼吸して呼吸を整え、中を覗くように入った。

 教室は夕日を浴びて赤く染まっていた。 その中に一人、窓から外を見てる立花君がいた。 床を踏む音でこちらに振り返って安堵したような顔をした。


「もしかしたら来ないんじゃないかと思ってた。 この間のこともあったし」

「それについてはもう謝ってくれたし……、それに今まで通りに普通に話してくれたから。 それで何か用でもあるの?」

「……中村から少し聞いたんだけど、他人から好意を向けられるのは嫌?」

「うん……」

「じゃあさ、逆に自分が好意を向けたことはないの?」

「……ごめんね。 もう帰るね」


 帰ろうとすると、大きな声で呼び止められた。


「待って! 俺、力になりたいんだ! 他人からの好意を受け入れられないなんて、そんなの辛いだろ! 誰かを死ぬほど好きになれば————」

「……ありがと。 ごめんね」


 急いでその場を去った。 走って走って、先生に注意されても構わず走った。

 『じゃあさ、逆に自分が好意を向けたことはないの?』

 そう言われたとき、ふと静の顔が浮かんだ。

 ダメ。 それだけは絶対に……。

 変な考えを持つ暇がないほど、走って走って走って……。

 またあんなことになるぐらいなら————。

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