2話
屋上前の階段でひとまず落ち着くことにした。 階段に腰かけて会話のないまま、時間だけが過ぎていく。
これまでにこういうことは何度もあった。 そのたびに俺が夕莉を励ましてきた。 だけど、切り出し方に戸惑う。 回数を重ねるうちに、言っていることが月並みのことしか言えてないことに気が付いた。 それで本当に夕莉を励ますことができていたのか、と疑問を持つようになった。
それといった解決方法を示したわけでもなく、具体的な言葉をかけてやった覚えもない。 それでも夕莉は夕莉で元気になった素振りを見せてくれるし、日をまたげばいつもの調子に戻っていることもある。 それが本当ならいいけど、強がっているようにも見えてしまう。
辛いなら辛いと言ってもいいし、無理に元気を振る舞うようなことはしないでほしい。
「あいつとは、仲いいの?」
「うん。 割と趣味とか合って、よく話していたんだけど……。 せっかく仲良くなれたのに、どう接したらいいのか、これからどうしたらいいんか分かんないよ……」
……またこいつは。
乱暴に夕莉の頭を撫でて髪を乱す。 「わっ」と驚いた声を上げて、ムスっとしてる俺を見る。
「分かってるよ。 静がいてくれることは」
微笑んだ顔を一瞬だけ見せて、すぐに思いつめたような顔をした。
「でも、人に好かれるのが怖いって自分でも変って思うし。 そんな理由で告白を断って、相手を傷つけるのも嫌だなって」
「そこまで自分のせいにしなくてもいいだろ」
「そうかな……」
顔を隠すようにうずくまった。
鼻から深い息を吐いて、夕莉の顔を起こそうとしたら夕莉を呼ぶ声が聞こえた。 その声ですぐに夕莉は顔を起こして、なんともないいつもの顔を瞬時に作った。
そうやって我慢するなよ……。
階段を駆けあがる音がはっきり聞こえてくると、軽くウェーブがかかった髪をした関 湊が階段から上がって来た。
「おったおった。 戻って来づらいと思って、迎えに来たぞ!」
「湊ちゃん!」
ぱぁっと晴れたような笑顔の夕莉を見て、これ以上言うことを止めた。 夕莉の友達もいることだし、男よりも同じ女子の方がうまくやってくるかもしれない。
「良かったな、クラスに女友達がいて」
「うん!」
「ただし、クラスでウワサになってるから覚悟しときー」
「やだもぁー」
じゃれあう二人と一緒に教室に戻る。
これからのクラスの追及に覚悟を固めている夕莉をよそに、関に話しかける。
「関がいてくれて助かるよ」
「そーおー? ところで、中村は夕莉に告白しないのぉ?」
「っ……!! 俺はいいんだよ!」
「えー! 誰かに持って行かれてもいーいーのー?」
ニヤニヤした顔を寄せてくる関を遠ざける。
告白なんてしない。 夕莉が望んでいるのは友達でいること。 だったら俺はそれでいい。
「静も話し聞いてくれてありがとね!」
すっかり元気になったような顔で夕莉は言った。




