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夜中の勢いシリーズ(短編)

永遠の偽り

作者: あしたば

 夜中の勢いで書き綴ったもの。なにぶん勢いで書いてますので、ぐだったところあり。

 大学生が普段どんな風にレポートとかしてるのかは高校生である作者は知りません。その辺は作者の勝手な想像です。ご了承ください。

「ごめん、ごめんな……」


 裏切ったのは俺の方なんだ。俺が悪いんだよ。

 だから俺に、そんな風に、……笑うな。


【永遠の偽り】


 肌に感じる風が心地よく夏も終わりに近づいたある日、俺は大学の先輩に呼ばれていた。

 理由はいたって普通。先輩が一度提出したレポートをプレゼン用に仕立て直すから、大学のコミュニティからパソコンに保存し直しておいて欲しいと頼まれたからだ。

 特に断る理由もなかったから俺は普通に了承して、自分は別にやることがあるからと部屋を出て行った先輩を見送った。

 後々考えればこれがおかしかった。

 普通、レポートを自分が書いたなら自分のデータベースにそれを残しておくだろうにそれをせず、先輩は態々コミュニティからレポートを再度コピーさせた。

 だがその時それに気付けなかった俺は、何も疑うことなく言われたことをしたんだ。


 その作業が終わって、先輩もやることをやり終えて帰ってきた頃。

 俺は親友との約束があって先輩に一言言ってから待ち合わせ場所であるファミレスに向かった。

 10分くらい待っただろうか。

 手を顔の前で縦にして遅くなってごめんと言いながら俺が座っていた席に親友が近づいてきた。

 テーブルを挟んで俺の反対側に座ったあいつは座るやいなや、鞄ならレポートのようなものを出してきた。


「なにこれ」

「これ? 今度教授たちが集まる集会あるじゃん? そこでプレゼンで出すんだよねー」

「プレゼンで? すげぇじゃん」

「だろ?」


 あいつは男なのにかわいいという言葉が似合う笑顔を浮かべた。その笑顔はまるで子供のようで、親友ではあるが少し兄貴になった気持ちで俺はあいつの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。

 なにすんだよーっとむすっとした顔で返してくるところも子供っぽい。喜怒哀楽がはっきりしてるやつだ。


「わりぃわりぃ」

「ったく……、しゃーない、なんか奢ってくれるなら許す」

「なんでだよ、頭撫でただけじゃねぇか」

「結構痛かったからご立腹なんです、俺は」

「へいへい。じゃあ特別に2個までは奢ってやる」

「まじで!?」


 キラキラした目でメニューを見だしたあいつを見て子供かよ、と思った。

 ファミレスのメニューなんてたかが知れてる。それなりにバイトもしていて、給料日後だった俺の財布にはいつもより余裕があった。それもあって奢るといった俺だったが、あいつは見た様子、2品以上頼もうとしていたので慌てて声をかける。

 俺も学生なんだぞと抗議すれば、渋々今食べる2品を決めていた。


「で、そのレポート見せてくれよ」

「んー、これは駄目。いくら親友でも見せられません」

「なんでだよ、たかがレポートだろ。それとも何か、俺が内容を盗むとでも?」

「んな風には思ってないよ。けどどうせなら本番で見て欲しいんだ。確か生徒も見れるはずだからさ」

「なんでわざわざ、」

「俺にとっても大事なプレゼンなんだ。だからこそ見てもらいたい」


 そんな自信に満ちあふれた目で見られたら、断る訳にいかない。

 俺は了解、楽しみにしてるとあいつに告げて、その話を終わらせた。


 それから一ヶ月後、俺はあいつから一本の電話を受けた。


『もう俺、駄目かもしんない』


 いつもとは全然違う、少し震えた声に驚かないはずがなかった。

 すぐに今いる場所を聞いて、外は雨が降ってたから傘を二本持って部屋から飛び出した。

 言われた場所に辿り着くと、あいつは手に濡れた紙を握りしめて、雨の中に立っていた。

 その姿があまりにも小さくて儚くて、一瞬、声をかけるのを躊躇した。


「……そんな雨の中立ってたら、風邪引くぞ」


 あいつはなにも答えなかった。ただひたすら雫を降らせるどす黒い空を虚ろな目に映す。


「それ、大事な、書類だろ。びしょびしょじゃねぇか」

「……いいんだよ。もう、必要ないから」

「何言ってんだよ。今度プレゼンするんだろ? 俺にも見にこいって言ってたじゃねぇか」

「そのプレゼン、無くなっちゃった」


 要点がなかなか見えなくて、ちゃんと説明しろと傘を差し出して俺は言った。

 そうすれば、空を見ていたあいつが今度は俯き、びしょびしょになった手の中のそれを俺に差し出す。

 俺は雨のせいでひっついてなかなか開けないそれを、破れないよう広げて滲みつつある文字に目を通す。

 一行目を読んで、俺は目を疑った。

 その内容は、一ヶ月前に先輩に言われてコピーしたものと同じものだったから。


「これは……?」

「同じものが教授の元に提出されたらしい。盗作だって言われた」

「盗作?」

「おかしいよな、俺、一度提出してるのに。みんなこぞって言うんだよ。同じものが別の生徒から提出されてる、って」

「んなこと……!」

「同じ学部の先輩が提出したらしい。教授もグルだよ」


 俺のやってきたことって、なんだったんだろうな。

 そう消えそうな声で呟いたあいつの顔は、俯いてて見ることは叶わなかった。だけど、確かにあの時のあいつの拳は、微かにに震えていた。


 あの後、あいつはプレゼンが出来なくなるだけじゃなく、人のものを盗んだと汚名を着せられて残り一年半の大学生活を送った。

 卒業してからも暫くは荒れていたあいつだったけど、就職してからは周りもいい人達だったようで楽しくやってるみたいだった。


 そして俺も特になにをするでもなく大学を卒業して、就職。

 俺はなにも、言うことができなかった。

 俺にそれを手伝わせた先輩にも、それを知ってた教授にも、被害者になってしまった親友にも。

 言えなかった。言ってしまえば、またあいつから笑顔を消すことになりそうで。


 たまの休みが重なって会うことになった俺達は、俺が先輩に手伝わされた日に行ったファミレスに来ていた。

 あの日と同じ状態で座ったあいつを見て俺は思った。

 あの時、俺が無理にでも中身を見ていたら、気付けていたら、止められたかもしれない。こいつがあんな思いをしなくても済んだかもしれない、と。

 そう思えば思うほど、真っ直ぐ目も合わせられなくなっていた。

 その顔に戻ったあの無邪気な笑顔が、その目が、俺を責めているような気がしたから。


「どうしたんだよ? 元気ないじゃん」

「……そうか? 俺は普通だけど」


 普通じゃない。自分がよくわかっていた。

 けど、言えない。言えばまた苦しめる。

 だから俺は笑ってその場を過ごした。言う気がないとわかったこいつもそれ以上追求することなく、無理すんなよ、とだけ俺に言った。


 嘘をついているのが辛かった。

 嘘ではなかったのかもしれない、でも、黙っていることは俺にとって嘘をついているのと同じだった。

 故意ではなかったにしても、俺がしたことは最低だ。

――言うべきか。けれど言ってしまえばこいつはどうする?

 俺に怒るか? それとも去るか?

 俺は、いくら自己満足だったとしても、側にこいつがいないことには耐えられない。離れて欲しくない。……怖い。


 だから俺は言わないことにした。

 黙っていればそれで片がつく。先輩や教授は自分達がしたことだから簡単に口を割ることはない。俺さえ言わなければ暴露(ばれ)ない。

 正しいかなんてわからない。

 けど言わなければ俺はこれから先もこいつと一緒に居られる。親友で、いられるんだ。


 罪悪感と恐怖で心が満たされながらも、こいつがいることへの少しの安堵感に俺はこれからもしがみつくんだろう。

 これでいい。

――――これで。


 少し補足説明を。私は大学生ではないので本来大学がどうやって情報管理をしているのか知りません。なのでここで出てくるデータの取り扱いは私の想像です。現実の大学とは異なると考えていただければと。

 ここでいうコミュニティは大学のデータベースに一時的に保存できる場所だと思ってください。IDとパスワードさえあれば入ることができます。そこから主人公はデータをコピーしたんですね。ですが、基本的には自分のUSBなどを使ってデータを保存します。そういう意味では親友もデータの取り扱いに注意が足りなかった、と言えるかもしれません。

 ちなみに。私ならこういう状況に成った場合、親友に言います。多分、主人公の親友も言われた方がいいタイプでしょう。事情がわかればおそらく傷つきながらも許してくれます。

 というか、もしかしたら既に知っている気もする親友ですね。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

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