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第八話 走るキーボーズ

白い黒猫さんのアイディアを安住君視点でお送りします。

 久し振りに地元に戻ってこれば何やら騒がしい。


 なんでも地元国会議員の重光先生が婚約したらしく、その取材陣が相手の婚約者を何とかカメラにおさめようと躍起になっているということだ。そして俺が帰ってきたその日も相変わらずの様子で商店街の面々に多大な被害を及ぼしているとのこと。


「やれやれ、一般人を追いかけまわすほどテレビ局っつーのは暇なのか?」


 そう言えば森永一尉が重光議員と親しかったよな確か。議員も何度か訓練を視察に来ているし、その時に横について説明しているのはだいたい森永一尉だ。


 ふむ、上官の知り合いが地元でエラい目に遭っているのか、それは忌々しき問題だ。国会議員も俺達が守るべき国民の一人であるし、婚約者のお嬢さんはまったくの民間人らしいし? さて、どうしたもんかな。そこで目に入ったのはキーボ君。これだ、これ。こいつを使えば良いんじゃないか、顔バレの心配もないし。


 久し振りのキーボ君の中に入ると少し痩せたせいか中で体をひねることが可能になっていて、そのまま自分でファスナーを上げることが出来た。そしていつものルートをのしのしと歩きながら中で携帯をかける。もちろんかけた相手は一号の東明君だ。


「……はい?」

「俺だよ、俺。安住だ。一号って今日はヒマか?」

「今は開店前なので手は空いてますけど、何かありましたか?」

「パトロールしないか? なんか商店街が騒がしいからさ、ここは正義の味方のキーボ君の出番だぞっと」

「いつのまにキーボ君が正義の味方になったんですか」

「正義の味方が嫌なら悪の手先でもいいけどな」

「そういう問題じゃなくて」

「とにかく準備していつもの倉庫で待ち合わせな」


 相手の返事を待たずに切る。断る隙を与えなかったから絶対に溜め息をつきながら出てくる筈だ。まあ出て来なかったら俺だけでも良いんだけどな、ただ京子の怒りの矛先が俺への一点集中砲火になるだけで。


 中央広場に差し掛かるとあちらこちらにテレビカメラを抱えた連中がウロウロしている。そんなところでウロウロするなら商店街の店でも紹介すりゃいいのに。


 篠宮酒店の倉庫前に来ると向こうの方から一号がノタノタと歩いてくる。京子が言うには俺と東明君は中身が入れ替わってもその仕草の違いですぐに分かるらしい。歩き方も違うのか? 一度カメラに映してもらって見てみないことには何とも言えないな。


「おーい兄貴~早くしろよ~」


 上がらない手で手を振ると一号は何やら嫌そうな素振りを見せた。面白いな、以前はそんな風に見えなかったんだが親しくなってからは一号の感情が良く伝わってくるようになった。いわゆる以心伝心みたいなもの? 一号はそんなことを言ったら嫌がりそうだが。


「兄貴いわないで下さい」

「でも兄貴なんだろ?」

「そんなに違わないでしょう、僕と二号さんは」

「学年が違えば十分に兄貴だよ。年功序列」

「自衛隊は実力主義だと思ってましたけど」

「意外と年功序列も幅を利かせてる」

「あ、それで思い出しました。足の具合はどうなんですか? もう痛まないんですか?」

「ああ。もう大丈夫だぞ、この通り」


 そう言ってその場でピョンピョン跳ねてみせた。


「もう医者からも完治したって言われたから、あのドロドロの特製スムージーは作ってもらわなくても大丈夫だから」

「僕のスムージーよりも孝子ちゃんのヨモギクッキーが効いたのかも」

「孝子のヨモーギーは異次元の食い物だよ、もう二度とあいつが差し出してきたモノは食わない」


 まったく孝子のあれはどうしたもんかな。いずれ誰かにきちんと面倒見てもらわないと超危険人物として公安に目をつけられるんじゃないかと他人事ながら心配になる。


「それでパトロールって何するんですか?」

「単なるパトルールだと面白くないからさ、あのカメラにどっちがたくさん映ることが出来るか競争しながら、交番までの道のりを行かないか?」

「……それパトロールですか?」


 怪しいと言いたげに体を揺らす一号。


「パトロールだぞ? ちゃんと商店街に怪しい連中がいないか見回るんだからな。もちろん怪しい奴は即通報する前にのしてやれば問題ない」

「……むちゃくちゃだ」

「あいつらの方がよっぽどむちゃくちゃだろ。勝った方がトムトムのミックスジュースをおごってもらえるってことで。じゃあスタート!」


 そう言って走り出す。


「ちょっと!」


 俺は先ず手近なカメラクルーの前をキーボ―!と叫びながら横切った。多分カメラには変な音声が入っているだろうな生中継なのに御愁傷様だ。それを慌てた様子で追いかけてくる一号。当然のことながらカメラの前を横切り、ご丁寧にも取材していたリポーターを跳ね飛ばしてた。おお、さすが兄貴なかなか素晴らしいじゃないか。


 交番までの真っ直ぐな通りにはテレビ局各局の取材クルーがウロウロしていたので彼等を探すのは苦労しなくて済んだ。


 カメラの前を走りながら通り抜け、たまに立ち止ってひき帰すとカメラを覗き込んで低い声でキーボ~と呟きながら邪魔しまくってやる。俺を追いかけてくる一号も時間差で彼等を邪魔することになるので効果は二倍、なかなか素晴らしい連携ぶりであったと後で自治会長からお褒めの言葉をいただいた。


 そしてその映像は全国放送で流れていたらしく、矢野と下山にはお前、なにやってんだ?と後で突っ込みを入れられることになる。



+++++



 思いっ切り取材クルーを邪魔して日々のストレスと憂さを晴らした俺は限りなく上機嫌でトムトムにやってきた。もちろん東明にミックスジュースをおごってもらう為だ。働いた後のジュースは美味い。一号はと言えばグッタリとした様子でキーボ君一号専用の大きな椅子に座っている。


「お前、体力無いよな~……これぐらいのことでバテるなよ」

「そっちが元気すぎるんですよ、そっちと一緒にしないで下さい」

「そうか? 俺はまだまだ元気だ。まあ暑くて汗はかいたが」

「俺には無理ですよ、二号さんの体力の限界に付き合っていたら壊れます」

「情けないなあ。そんなんじゃ俺と一緒に楽しいこと出来ないぞ」

「出来なくていいです、激しすぎるのは勘弁してください」

「手加減してたら意味ないだろー」


 俺と一号は何気ない会話をしているつもりだったんだが、何故かその後ろにいた女子高生達の脳味噌には違った意味で伝わったらしく、暫くして何やらキーボーズの怪しげな本が出回っているらしいと七海ちゃんに聞いたのはそれからしばらく経ってからのことだ。どんな本は気になったのだが、何故か絶対に見ない方が良いからと結局見せてもらえなかった。


 そして相変わらず俺は京子に怒られている。しかもキーボ君の恰好のままで。


「二か月も音信不通になって帰ってきたら普通はいの一番に婚約者に連絡をするものでしょ?! なんで一番最初に連絡したのが一号君なのよ?!」

「……すまん」

「まったく。商店街の子供達が二号が帰ってきたとか騒がなかったら今も気付かずじゃないの」

「ごめんなさい」

「本当に仲が良すぎて二人を知らなかったら浮気を疑っちゃうところじゃないの」

「いや、それはないから。俺はずっと京子一筋だから」

「その恰好のままで言っても信憑性に欠けるの!」

「問答無用で引き摺ってきたのはお前のくせに」

「なんですって?!」

「なんでもありません、ごめんなさい」


 こんな調子で京子の尻に敷かれ続けるのか俺?などとボンヤリと考えるある日の出来事。

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