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第一話 帰ってきた二号

こちらのキーボ君の背景は白い黒猫さんからお借りしています。

 ここは松平(まつひら)市にある希望が丘駅前商店街――通称『ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘』。国会議員の重光(しげみつ)幸太郎(こうたろう)先生の事務所があり、先生の自宅もある、いわゆるお膝元というやつだ。


 この商店街は実に様々な店舗が入っていて、それぞれに個性豊かなメンバーがそろっている上、商店街の住人達も非常に仲がいいのである。






+++++





「お、青いやつ、ちゃんと活躍してるじゃん」


 俺の名前は安住(あずみ)恭一(きょういち)。この駅前商店街のすぐ裏にある寺、昌胤寺(しょういんじ)が実家だ。


 寺の方はといえば、七つ上の兄貴が継ぐ予定になっている。兄の秀一(しゅういち)は、弟の俺が言うのもなんだが、本当に穏やかな菩薩(ぼさつ)のような人間で、俺とは真逆の人間だった。そんな兄だが、俺が高校卒業後に自衛官になると言った時に、父親の反対を押し切って後押しをしてくれた。


「自分の人生だ。後悔しないようにな」


 そんな兄のはげましもあり、厳しい訓練にも耐えて今に至る。


 久し振りに地元に戻ってきた俺の視界に飛び込んできたのは、商店街のユルキャラマスコット、確か名前はキーボ君。実のところ空挺(くうてい)への配属希望が通らなかったら、俺が中の人になっていたかもしれないヤツだ。子供達に囲まれて、戸惑っている感じがなんとも初々しいな、誰が入ることになったんだ?


「あれ、帰ってきてたんだ、恭一さん」

「よう、半年ぶりだな……えーと……」


 俺に声をかけてきたのは、商店街の中にある喫茶店トムトムの双子の……えーと、どっちだったかなとジーッと相手の顔を見詰めた。


次郎(じろう)です」

「すまん、しばらく離れていると、どうやってお前等を見分けていたか忘れるよ。ところで青いの、本格的に活動を始めたのか」

「ええ。最初は、子供達に怖がられていたみたいですけどね。今じゃ、ちょっとしたアイドルですよ」

「へえ。中には誰が? まさか太郎(たろう)じゃないよな?」

「黒猫さんとこの甥っ子さんに、お袋達がお願いしたみたいです」

「ああ、そりゃあ……」


 気の毒にという気持ちがわきあがる。この商店街の婦人会の面々に、頼み事をされて断れるはずがない。声をかけられ時点で確定事項だったんだろうな。


「でも安心してください」

「ん?」

「ちゃんと恭一さんの分も、作ってありますから」

「は?」

「だって、最初に中の人になるはずだったのは恭一さんじゃないですか。たしか、お寺に置いてあったはずですよ、二号」

「……二号?」

「あっちが一号で」


 ……別に俺は、中の人に絶対なりたいわけじゃないんだけどな。



+++




「やあ、お帰り」


 実家に顔を出した俺を出迎えたのは兄。相変わらず菩薩(ぼさつ)の笑みを浮かべている。その笑みをながめながら、兄貴が本気で怒るなんてことはあるんだろうかと考える。……いや、あまり考えたくないな。だってそれって、恐ろしい世紀末を考えるようなものじゃないか。


「そう言えばさ、商店街で動いているキーボ君、見たぞ」

「ああ、お前が入る予定だったやつだよね。こっちでもあずかっているよ。お前が帰ってきたら、中に入ってみたいんじゃないかって」

「どこに置いてあるんだ?」

「本堂に」

「なんで本堂なんだよ。広いだけが取り柄の寺なんだから、置くところなんて、どこにでもあるだろ?」

「父さんがそこに置くように言ったんだよ」


 しかも本当にいるよ本堂に。しかもご本尊様の真横だ。


 親父、こんなんの視線を受けながらよく冷静にお勤めができるな。さすが坊主歴五十年越え。ちょっとやそっとでは驚かないらしい。


「……これ、どうやって着るんだ?」

「手伝うよ?」


 いきなり後ろで声がして飛び上がった。


「ぉうぁっ?! 義姉(ねえ)さんっ」

「ほらほら、入って入って。ファスナーは私が上げてあげるから♪」


 菩薩(ぼさつ)の嫁は天然ちゃん。もう夫婦そろって最強すぎて笑えない。


「なんで俺にサイズがピッタリなんだよ……」

「そりゃ恭一君のためのオーダーメイドだもの。私、サイズがわかっていたから、ちゃんと知らせたのよ?」


 ほめて?と期待満面の顔でこちらを見る義姉(ねえ)さん。はあ、やっぱりこの手の人種には勝てる気がしない。


「それはわざわざ、どうもありがとうございます、義姉(ねえ)さん」

「どういたしまして♪ はい、チャックしめまーす」


 中からは、目の部分からちゃんと外が見えるようになっている。視界はそれほどせまくないし、それほど重くもないので、動く分には問題ないな。足もそこそこ上がる。手は……うん、これは万歳も敬礼もあきらめたほうが良さそうだ。


「じゃあ行ってらっしゃい♪」

「行ってらっしゃいって、どこへ?」

「商店街のイベント、初めてキーボ君が二人そろうってことで、みんな待ってるよ?」


 おい……おい、誰が知らせた誰が?!

【補足】

安住恭一くん

三宅京子さん

こちらは【恋と愛とで抱きしめて】で登場した安住さんと奥さんの京子さん。

彼等の若いころのお話です。

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