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王子が十歳の誕生日を数日後に控えたある日、彼らの幸せは音を立てて崩れた。それは『革命』と言う名の『反乱』が平和なグラスフィリア王国を襲ったのだ。反乱の首謀者は王の忠臣と誉れ高く左腕と賞される将軍『ファランディアス・ガーグ』であった。彼は国と王をこよなく愛している人物であり、ただ彼は『永遠の幸せ』望み、王は僅かでも噛み締める『平凡な幸せ』を願った。共に平和を望みながらすれ違う想い、彼らはそれを知りながらそれでも背を向け続けた。いつかその均衡が崩れると知りながら。
そして、戦火は国を飲み込み、王は玉座に倒れ、王子は逃げ追われる身となった。
王子が産まれ、国を離れた事により『木々の契約』は果たされ大樹は枯れ始め、二千年の春が終わりを告げ永い冬がグラスフィリアに訪れた、そして大樹によって遠ざけられていた『悪意』は遮るのもが無くなった事により塊となって押し寄せ国は無残にも滅びさった。かつてこの世の最後の楽園と呼ばれた美しい大地は見る影も無く、草木の一本も生えない不毛の地へと変わってしまった。
共に逃げたはずの姉たちは混乱の中ではぐれ、見つけた時にはもう姉たちの命は尽き果てており絶望が王子を襲った。そして、王子はたった一人で放浪を余儀なくされた。
皮肉にも、その日は王子の十歳の誕生日だった。王子は何もかも失った、家族も家も国も地位も何もかも王子は失った。
王子は幼い手足を必死に動かし姉たちを埋葬すると涙を拭いまっすぐに歩きだした。当てのない旅、黒い髪に黒い眼を持つが故に長く一所には留まれず、王子は人目をはばかる様に流れ続け、拙い魔術を『手品』と呼び名を変え行く先々で僅かな旅費を稼いだ。
そんな旅を続けて一年程が経ったある日、王子は唐突に気付いた。
『自分の名前が、思い出せない』




