第7話 無力化(パラリシス)〜コウタロウ
「遂に・・この日が来たか。」
ジンは、漸くチームが結成されるこの日を迎え、かつ、これほどの力を味方として取り込めることに、心から喜びを噛み締めていた。
「でも、最後の一人が少し変なのよ。」
ヨウコは最後の一人の能力について、怪訝な表情を浮かべながら言った。
<他の者に聞かれてはマズイから、コッチで話そう。>
ジンは、さっき仲間になったばかりの二人に会話が聞こえないように、テレメスでの密談を促していた。
<変?と、言うと?どう変なんだ?>
<私の遠隔催眠が全く通じないの。>
<何?テレメスは絶対能力なんじゃないのか!?>
<今まで、私もそう思っていたわ。昨日まではね。でも、今日一日で、これが二度目なのよ。>
そう言いながら、ヨウコは、ジンに
「あなたもよね?」
と言わんとばかりに、白い歯を見せながら、ニコッっと口角を上げ、首を擡げた。
<バ、バカな!>
<少なくとも、私が心に入れなかった、このことは事実ね。>
<と言うことは、それ・・・>
・・・話している途中で、ジンは突如、完全停止した。
「どうしたの?!」
ヨウコは、てっきり、ジンが時空操作したのかと思った。
しかし、ジンが止まって、自分は動いている・・?
「ジン!?ふざけないでよ!」
いくら叫んでも、ピクリともしない。
ふと後ろを見ると、ユウタも見事に停止している。
まさか!敵!?
敵のディメンション!?
ヨウコは恐れていたことが起きてしまったと感じた。
しかし、ノリコはユウタの横で、耳を塞ぎながら、俯き加減で頭を前に垂れ下げ、何かに怯えていた。
ノリコは動いていたのだ。
(何者かによる時間停止!?・・でも、私とノリコはどうして動けているのかしら。仮に、もしそうだとしても、ジンはディメンションの能力者だから、ジンに能力が及ぶことはあり得ないし・・。)
ヨウコには何が何だか分からなかった。
辻褄が合わない現象に、ただ、戸惑いを隠せなかった。
唯一分かること。
それは、たった今、ヨウコとノリコ、この女性二人だけが動いるということ・・・。
女性二人だけ・・・。
女性・・・。
そういえば、さっき、ジンは女性に弱く、ノリコの能力に逆らわれていた。
そのジンの能力が発動したのか・・ジンの意思とは別に・・・しかし、ジンはまるで力を奪われたかのように無力・・・。
無力・・・。
ヨウコは直感で悟った。
まさか!
もう一人の能力者って!
「無力化!!噂には聞いたことがある。光、重力、能力に至るまで、全てを吸収して、相手を無力化にしてしまうという、タブーの能力。」
パチ、パチ、パチ・・・。
背後から手を叩く音。
「ご名答!へー。君、能力もすごいけど、推察力もすごいんだね〜。」
いつの間に!!
その男は、気付いた時には、ヨウコのすぐ背後にいて、両手を叩きながら近づいていた。
<・・・>
ヨウコは油断した相手の隙を見て、テレメスを試みた。
「無駄だよ。俺にはすべての能力を吸収するチカラがあるからね。それは君も分かってるだろ。」
「本当に無力化の能力者がいたということね。驚きだわ。」
「そういう君の方こそ!相手を遠隔で操作しちゃうんだから、驚きだよ。油断すると、そこにいるお仲間の様に、自分の意思に反して配下にされちゃうところだったからね。ま、僕は彼らの様に単純じゃないんでね。」
「あなたの目的は何なの。」
「おいおい。そんな言い方ないだろ〜。そもそも、君が俺に入って来ようとしたんだぜ。さすがに初めは驚いたぜ。急に別の人格が現れそうになったんだから。」
「でも、あなたは操れなかった。。。その時におかしいと思ったわ。それが出来るのは、時空操作か、能力のテリトリー外にいる時。でも、私のテリトリーは同じ次元なら無限だから、てっきり時空操作の能力者と思ったわ。」
「ヘェ〜。あれだけの短時間に、いろんなことを考えてたんだね。でも、俺にとって今の君は、取るに足りない、ただの女。たっぷり可愛がってあげるよ。」
そういいながら、じりじりとヨウコに近寄って行く。
<このままではマズイ。。。>
今のヨウコにはなす術がなかった。
しかし、その時だった。
ズンッ!
「なんだ!?」
そう言いながら、その男は、急にカラダが重くなった様に、膝をつき、重りでもつけられたかの様に、バタンと、全身を強く前に打ちつけた。
始めは一瞬、何がどうなってるのか、分からなかった。
でも、この優しい感覚。
さっきジンが恐れてたノリコの謎の雰囲気と同じだ。
そうか!
ノリコの能力!
無力化の反対、物体再生!
「ノリコの能力、物体再生が、自動で発動したんだわ。
彼女は危険を察知した相手に、その人物の弱点となるものを再生するのよ。
無意識にね。だから、あなたはもちろん、ノリコ本人にも発動するタイミングが分からないわ。」
ヨウコは咄嗟に、今、起こったこと、このことを理解するのに、頭脳をフル回転させた。
ヨウコ自身も、今起こっている目の前の事象に驚いていたからだ。
「ぬ。。なに・・。そんなばかな!おれの無力化はいかなる能力をも無力化するものだぞ・・。タイミングなど無関係!」
「ホコとタテね。あなたがいかなる能力も無意識に無力化出来るなら、彼女はいかなる能力も無意識に物体再生できるのよ。
でも、今のあなたには、私のテレメス、ジンのディメンションと、少し欲をかき過ぎたみたいね。
あまりにも大きい能力を取り込んだために、パラリシス本来の能力、その均衡が崩れたのよ。恐らくはね。」
「し、しかし、この重力の様な感覚。。。これは一体、誰の・・・。」
「あなた自身よ。あなたは、常日頃から重力を無力化しているでしょ。それをノリコにより数倍に再生されたのよ。あなたの一番恐れている弱点、重力をね。」
「くそったれがー!!!!」
男は必死に重力に抗うが、抗えば抗うほどに、重力は重みを増していく。
コンクリートの床が徐々に陥没していくほどに。
(今しかないわ。)
<・・・>
能力を封じられた彼に、ノリコはテレメスを再発動した。
「ようこそ。最後のイオさん。」
◇
「・・・ん!?何が起こったんだ!」
漸く目が覚めたジンは、テレメスでヨウコに一部始終を伝えられる。
「さすがだよ。君が敵でなくて、本当良かった。。。」
ジンは心からそう思った。
これで、最後のメンバーを加え、「アルファ」として、最強組織を結成した。
ジンは喜びを噛み締めつつも、これから起こるであろう厳しい現実を受け入れ、改めて、兜の緒を締めなくては、という気持ちになった。
<ヨウコ、最後の彼の名前は?>
<・・・彼からは名前らしきものは受け取れないわ。>
ジンはその男に近付き、
「体は大丈夫か?」
と、重力の恐怖を引きずったまま、仲間として洗脳された男へ声をかけた。
「・・・はい。総隊長。」
男は違和感を感じながらも、自分にとってジンは絶対的存在とヨウコに洗脳されていたため、その事実を受け入れざるを得なかった。
「自分の名前は答えれるか?」
ジンは、自然の会話から名前を確かめた。
「名前?そのようなものは持ち合わせていません。」
(名前がないだと?!)
彼もまた、この時代の被害者なのかもしれない。と、ジンは感じ、
「今日から君は、コウタロウと名乗れ。いいな。」
「コウタロウ・・・俺が・・・?名前を?」
これにより、より仲間意識を芽生えさせ、洗脳を一層強固なものにしようという、ジンの狙いだ。
「よーし!みんな聞いてくれ。」
ジンは手を叩き、そこにいるメンバーを集めた。
「少しトラブルがあったので、我々アルファとしてのメンバー結束を再度、強固にするために、今一度、部隊の確認を行う。
そういうと、さっき時間を止めて、書いた紙を壁に貼り出しておき、それを指差した。
そこにはこう書かれていた。
ユウタ
特攻隊隊長
特技-衝撃波
コウタロウ
援護隊隊長
特技-無力化
ノリコ
医療部隊隊長
特技-物体再生
リュウ
情報部隊隊長
特技-忍術
ヒョウマ
輸送部隊隊長
特技-光操作
ヨウコ
交渉部隊隊長
特技-遠隔催眠
ジン
総隊長
特技-時空操作
以上、総隊長率いる、6隊長によるα(アルファ)を今日より始動することとなる。