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リザ  作者: 月影悟
1/1

「花ひらく、その瞬間」

望んだわけではない。

誇りにもならない。

生まれながらに背負わされた運命を、

二人は同じように嫌っていた。

それでも――

その鎖の先で、

最も美しいものに出会ってしまった。

彼が聞いていたのは、ただ雨音だけだった。

まるで世界が、彼のために泣いているかのようだった。

立ち上がろうとしたが、激しく地面に倒れ込んだ。

立ち上がろうとするたびに、手は震え、顔は泥の中へ沈んでいく。

腹部の痛みは言葉では表せなかった。

まるで、あの弾丸が腹の中で弄ばれているかのようだった。

三度目に地面へ倒れたとき、彼は叫んだ。

腹の痛みから、頭の痛みから、そして――心の痛みから。

ゆっくりと頭を上げ、前を見た。

辺りはすべて暗闇だった。

自分が生きているのかどうかさえ、確信が持てなかった。

彼は体を仰向けにし、背中から地面に倒れた。

涙を流す空を、ただ見つめていた。

――こんな終わり方であるはずがない。

これほど多くの出来事があったのに……

人生は、こんなにも無意味であってはならない。

こんなにも目的なく、終わってはいけない。

腹の痛みはさらに増し、血は流れ続け、

彼の下の大地を濡らしていった。

彼は目を閉じ、そして最後に――立ち上がった。





午前五時三十分

セバスチャンは携帯電話を手に取り、朝のアラームを止めた。

ダブルベッドから起き上がり、洗面所へ向かう。

自立してからというもの、彼は朝のルーティンをとても大切にしていた。

温かいシャワーを浴び、顔を剃ろうとしたが……

どうやら今日は剃らないらしい。

無精ひげの残る顔に、彼は満足していた。

髪を軽く整え、右へ流す。

茶色の瞳の周りを拭き、洗面所を後にした。

黒と金のシーツを丁寧に整え、ベッドの上にきちんと置く。

キッチンへ入り、料理を始めた。

姉はいつも、

「あなたの料理は本当においしい。いつかレストランを開けるわよ」

と言っていた。

四枚のパンケーキと、フレッシュジュース。

彼にとっては完璧な朝食だった。

スマートフォンで仮想通貨市場を確認しながら、朝食を終える。

直近の取引で、1356ドルの利益を得ていた。

その半分を引き出し、残りは次の投資のために残した。

食器をシンクに置き、クローゼットへ向かう。

セバスチャンは物事を先延ばしにするタイプではない。

だが今は、すでに六時十五分。

まだ準備が終わっていなかった。

大学の授業は八時から始まる。

急がなければならない。

赤い縁取りのあるネイビーのフーディーを着て、

同じ色のスウェットパンツを履く。

出かける前に、家を見渡した。

姉の古い家――小さな家だった。

玄関のすぐ隣にキッチンがあり、

冷蔵庫とシンク、そして三、四つの棚があるだけ。

両側から入れるカウンターがあり、

その正面にはリビングが広がっていた。

ソファは三つ。

三人掛け、二人掛け、そして一人掛け。

一人掛けの横にテレビがあり、

二人掛けの隣には、小さな廊下が伸びていた。

廊下の先には三つの扉。

一つはバスルーム付きの寝室、

一つは窓のない部屋、

そして最後は浴槽付きのバスルーム。

家を出る。

空はまだ薄暗く、昨夜の雨のせいで雲が太陽を隠していた。

家の裏には、小さな公園がある。

木々と緑に満ちた場所だ。

彼は毎日、その周りを五周走る。

およそ一時間半。

だが今日は三周だけ、全力で走ることにした。

玄関を出た瞬間から、走り出す。

全身全霊で。

体は汗でびっしょりだったが、

それが彼のモチベーションをさらに高めた。

正しくトレーニングできている証拠だった。

三周目の途中、公園を通り抜けると、

あるものが彼の目に留まった。

ベンチに座り、新聞を読んでいる老人。

彼は近づき、

「おはようございます」

と声をかけた。

老人は敬意を示すように、

黒いフランス帽を軽く持ち上げた。

その老人は、毎朝七時十五分にここへ来る。

亡き妻との思い出を、ここで蘇らせるために。

セバスチャンは急いで家に戻り、

素早くシャワーを浴び、部屋へ駆け込んだ。

ネイビーの無地のシャツを着て、

裾を黒いジーンズに入れる。

同じ色のシンプルなベルトを締め、

袖を肘までまくり上げる。

髪を整え、

少しの香水と口臭スプレーで仕上げた。

時刻は七時四十五分。

駐車場へ向かい、

父から譲り受けた1969年式フォード・マスタングに乗り込む。

家族から受け継いだ、数少ないものの一つだった。

黒く深い車体は、

まるで太陽のように輝いていた。

彼はこの車を心から愛しており、

一切の汚れも許さなかった。

白いシートの内装も、常に清潔に保っている。

パリの街を十分ほど走り、大学に到着。

他の学生の車の横に駐車し、校舎へ向かった。

専攻の建物に入ると、

学生たちが談笑している光景が広がっていた。

二、三人のグループがほとんどだ。

四人以上のグループは、

あまり長続きしない。

雰囲気は心地よかった。

音楽専攻の学生たちが演奏し、

その音楽に合わせて踊るダンサーたち。

セバスチャンは、

建築と並行して音楽も学びたかった。

だが、過密なスケジュールがそれを許さなかった。

演奏に見入っていると、

彼は一人の少女とぶつかった。

彼女が倒れる前に、

彼は咄嗟に腕と背中を支えた。

一瞬、二人は見つめ合った。

彼女の緑の瞳が、

彼の心を捉えて離さなかった。

「離して!」

少女は勢いよく身を引き、

怒りに満ちた視線を彼に向けた。

腕を組み、荒く息を吐く。

「二度と私に触らないで。

次は前を見て歩きなさい。横じゃなくて」

少し戸惑いながら、セバスチャンは言った。

「ごめん。音楽に見とれていて……

大丈夫? ちょっと怒ってるみたいだけど、何か――」

彼女は振り返り、同じ苛立った口調で言った。

「余計なお世話よ。

前だけ見て歩けば、それで十分」

それ以上言う前に、

リザはその場を去っていった。





午前六時半。

「リザ!起きなさい、起きないと授業に遅れるわよ!」

リザはゆっくりと目を開けた。白いカーテン越しに、かろうじて差し込む光が、彼女の緑色の瞳に触れる。朝一番に母の声を聞くなんて、彼女の気分ではなかった。

また一日……また最悪な一日。家族と、くだらない人間たちに囲まれて過ごす一日。

突然、ドアが開き、メイド服を着た女性が部屋に入ってきた。

「奥様から、あなたを起こすように言われまして。」

リザは苛立ちを隠さずに言い返した。

「ノックもせずに入るの?それも私が教えなきゃいけないの?」

中年の女性だった。少しふくよかで背は低く、白くて縮れた髪がメイド帽の下からはみ出している。リザの言葉を聞いた彼女は、視線を落とし、か弱い声で謝った。

「申し訳ありません、お嬢様……もう二度としません。」

そう言って急いで部屋を出て、静かにドアを閉めた。

リザは小さく息をついた。ピンク色のシーツをどけ、ベッドから起き上がる。白い長めのTシャツとデニムのショートパンツだけ。昨夜は父の豪華なパーティーのあと、疲れ果てて着替えるのを忘れていたらしい。下腹部の痛みの理由が、今になって分かった。

洗面所で顔を洗いながら、ふと気づく。理由もなく、数分間ただ一点を見つめてしまうことがあるのだ。

部屋に戻り、散らかった室内を見渡す。床にはノートや雑誌、ベッドの下には空のピザ箱。机に近づき、窓のカーテンを開けて光を入れた。昨夜から開きっぱなしのノートパソコン。その横にはポテトチップスのかけらが散らばっている。

スマホを取ろうと振り返った瞬間、高価なパーティードレスを踏んでしまった。床に落ち、食べかすまみれになっている。気だるそうに拾い上げ、ベッドに放り投げた。

――あとでメイドたちが片づける。

スマホを手に取って、今日最大の不運を知る。

バッテリー残量、15%以下。

舌打ちしてスマホをベッドの反対側へ投げ、再び横になった。

――カレッジなんて。勉強なんて。人生なんて。

今のリザの正直な気持ちだった。

ここから遠く離れたい。この家族も、この街も、人間たちもいない場所へ。自然の中で、雨の音を“外から”ではなく、自分の身体で受け止めながら休みたい。豪邸の大きな窓越しではなく、誰も騒がない場所で。

ショートパンツを脱ぐと、ボタンの跡が肌に残っていた。部屋着に着替え、廊下へ出る。

彼女の部屋は、二階右側の一番奥。階段へ向かう途中、両親の部屋を掃除し終えたばかりの別のメイドが目に入った。

「ねえ、エミリー。革のジャケットとジーンズ、用意してくれる?授業に遅れたくないの。」

若いメイドはうなずき、リザの部屋へ向かった。

リザは螺旋階段を降り、メインホールを通り抜ける。母の注文で揃えられた豪華な椅子は少し乱れ、ガラスのテーブルには昨夜の飲み物と残り物がまだ残っていた。

ホールの奥、大きなダイニングテーブルでは両親が朝食をとっていた。金縁の白い皿に並ぶ多種多様な料理。黒い装いで席に着く父は、リザを見て驚いた。母も彼女に気づき、一瞬、喉に食べ物を詰まらせた。

「リザ?まだ準備できてないの?今日も遅刻する気?」

リザは無視し、オムレツの前の椅子に座った。両親とはいくつも席を空けて。

父はいつも通り、黒いスーツに白いシャツ、赤いネクタイでパンケーキを食べている。母への無礼な態度を見て、父は黒く長めの顎髭を掻き、わざとらしく咳払いした。

「リザ、その態度は感心しない。母さんは何も悪いことを言っていない。お前を心配しているだけだ。」

母は金髪をかき上げ、距離を置いて座る娘を見た。朝から完璧に化粧をしていることが、リザには信じられなかった。少し沈黙したあと、母は父に向かって言った。リザにも聞こえるように。

「ところで、あなたのボーイフレンドのジェイクは?昨夜のパーティーで見なかったわ。紹介してくれるって言ってたのに――」

「私は誰とも結婚しない!!」

怒りに震えた父はテーブルを叩き、立ち上がった。

「母親に向かってその口の利き方は何だ!二度と家に入れないようにしてやるぞ!」

「分かってないの?あの男が嫌いなの!あなたたちのくだらないマフィアごっこに付き合う気はない!」

母が割って入った。

「父親がそうだからって、本人も同じとは限らないでしょ?あなたは私の道を継いでる?」

「その結婚を受け入れたら、結果的に父の“立派な”仕事を助けることになるだけよ!」

「黙れ!!もう我慢ならない。私の前から消えなさい!」

リザは何も言わず立ち上がり、部屋へ戻った。どこか嬉しそうに。

――結局、悪人だらけのカレッジの方が、この悪魔みたいな両親といる家よりマシだ。

部屋に入ると、朝に失礼な態度を取ったメイドがいた。リザは深く息を吸い、ドアを閉めてから近づいた。視線を落とし、穏やかな声で言う。

「ジャネット……今朝はごめんなさい。ちょっと疲れてて、冷静じゃなかった。本当に悪気はなかったの。あなたのこと、好きだって知ってるでしょ。」

女性は微笑み、リザを抱きしめた。リザにとって、彼女は実の母より大切な存在だった。

「気にしないで。あなたたち若い子には慣れてるわ。私もあなたが大好きよ。ほら、頼まれた服、用意してあるわ。」

リザの頬が赤くなる。

「……ありがとう。」

女性はうなずき、部屋を出た。

リザは用意された服を手に取り、全身鏡の前に立つ。自分を見るたび、少し苛立つ。小柄で細い体。短い黒髪は乱れていたが、手で整えると落ち着いた。

黒いTシャツに、白い光沢ボタンの付いた黒い革ジャケット。ジーンズを履き、机へ向かう。散らかった中から、父がミラノで買ってきた高級な香水を取り出した。

首元までの髪は、まるでディズニープリンセスのように手入れが必要だ。金色の櫛で数秒とかし、香水を軽くつける。

黒い小さなリュックを背負い、部屋を出た。

父に見つからないよう、静かに家を出る。運転手付きで行かされるのはごめんだ。時間は分からないが、遅れているのは確かだった。

パリの路地を走り、十五分後、ようやくカレッジに到着。建物へ駆け込んだ瞬間、何かを思い出す。走りながらリュックを開けて探し物をしていたその時――誰かとぶつかった。

バランスを崩したが、背中から倒れる前に、温かい手が彼女を支えた。

見上げると、茶色の瞳。

数秒間、ただ見つめ合う。

リザは我に返り、慌てて離れた。なぜそんなふうに見つめられたのか、不思議だった。

男が口を開く前に、彼女が先に話し出した。





読んでくださり、ありがとうございます。

この物語は、静かな時間の中で育つ恋の話です。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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