EP.5 「イーオイオイオ、そんなの当たらないイオねぇ!」
「星見は昼休みに職員室に来いよー」
ホームルームが終わった瞬間だった。
先生が教室を出て行くや否や、堰を切ったようにクラスメイトたちが僕の席へと殺到した。
「え、ちょ、マジで星見なの!? 外見も中身も原型一切残ってないんだけど!? 可愛すぎない!?」
そう叫ぶのはギャルグループのリーダー、槍大千華だ。
バカみたいな改造制服で褐色肌が丸出しになり、よく目立っている。
原作ではモブだったけど、正直かなりモブにしておくのが勿体ないキャラデザだ。
「えへへ、そうだよ。僕が星見射音だよ」
僕はスカートの裾を少し摘んで、優雅にお辞儀をしてみせた。
その完璧な所作は股下ギリギリのマイクロミニスカートでなお、見えそうで見えないチラリズムの極致とも言える鉄壁スカートをを実現してみせた。
「エッロ……!」
「正気かコイツ……! 誘ってるでしょコレ」
「男じゃなければ襲ってた」
「ちょっとTS魔術開発してくる」
「もう中身とかどうでもいいわ。これならドブカスのままでもいいよ」
僕のあまりのエッチさに、彼女達は次々と欲望を露わにしていく。
百合ゲー世界だからかやっぱり女装の方が反応いいね。
多分この世界、筋肉ムキムキな男らしい男より、男の娘とかショタみたいな男の方がモテるんじゃないだろうか。
「そんなことはどうでもいいのよ! アンタ燕と一体どういう関係なわけ!?」
深紅の髪少女が声を張り上げる。
彼女はメインヒロインの1人、荊朱音。
炎属性暴力系脳筋ツンデレ美少女だ。
暴力ヒロインではあるけど、暴力が可愛く見えるレベルでエロい目にあってるから不憫枠として扱われている。
「朱音……」
「名前で呼ばれる筋合いはないんだけど!? 私は認めないからね!」
声がデカい。
凄くデカい。
原作ではエッチシーン以外ではセリフの9割にビックリマークがついていた。
毎回大声出すせいで声優が喉壊した逸話を持っている。
ちなみに喘ぎ声もデカい上に汚い。
原作では遠隔姦イベントがある。
イベント内ではギリギリ周囲に隠し通せたで終わるが、後日譚で実は喘ぎ声が大きすぎて全員にバレてたけどみんな面白がって気づかないフリをしてたということが判明してたりするくらいだ。
もう朱音の尊厳はボロボロ。
「それでどういう関係なわけ!?」
朱音は大声で問い詰め顔を近づけてくる。
興奮し過ぎて顔が近づき過ぎていることに気づいていないようだ。
僕が少しでも動いたらキスしてしまいそうだ。
「同棲してる仲……かな?」
「「「はぁぁぁ!?」」」
僕がそう答えると、朱音だけでなく周囲の女子たちも叫んだ。
周囲が騒然とする。
「有罪、死刑」
「性欲ないからって許されると思うなー!」
「はうぅ……私の燕ちゃんがぁ……」
「お前のじゃねぇよ。オドオドしてる癖に図太いな」
ちなみに3番目に喋った図太いメカクレ陰キャ女子はモブの中で一番お気に入りだ。
豆腐メンタルだけど中々図太く厚かましい性格をしている。
後ムッツリスケベで授業中も教科書に隠してエロ本読んでたりするから結構ヤベー子だったりする。
そんなだから赤点ギリギリなんだよ。
「どどど、同棲って、燕!? 正気なの!? こんな奴と! なんで!?」
「実は僕、家から追い出されちゃってね。燕ちゃんのお母さんが拾ってくれたんだ」
「真々子さんに!?」
本当にいい巡り合わせだった。
あそこで彼女に出会えなければ本格的に野垂れ死にしてたかもしれない。
「『クズな上に穀潰しな男は不要、と家から追放されたら学校一の美少女の母親に拾われました。帰ってこいと言われてももう遅い』?」
「追放系ざまぁ小説かな?」
追放理由が残当過ぎる。
これで実家がざまぁされたら理不尽にも程があるでしょ。
「まあそんなこんなで拾われた僕なんだけど、今は真々子さんとラブコメしてるよ」
「ラブコメ……? あれが……?」
燕ちゃんが困惑した様子でポツリと呟く。
ようやく喋ったね。
さっきから無言でニコニコと、まるでお母さんの様にコチラを見守っていたのだ。
そんなやり取りをしていると、先生が教室に入ってきた。
この先生は先程の担任とは別人だ。
「はーいそろそろ授業が始まりますよー」
「早く席に着かないとお尻ペンペンしちゃいますからねー」
するとみんなは蜘蛛の子を散らすように解散し、速攻で席に着く。
この先生、脅しでもなんでもなくホントにするから生徒に恐れられている。
最初の授業で千華ちゃんがみんなの前で全裸にさせられ、お尻を叩かれるスチルがあり、それ以降彼女の授業で遅刻するとパーティーメンバーそれぞれのスパンキングを見ることが出来るのだ。
百歩譲ってお尻ペンペンはまだ分かる。
でも全裸にする必要ありますかね……。
「あら? そちらの方はどちら様でしょうか?」
「あ、そのくだりさっきやりました」
なんてやり取りをしつつ、授業が始まる。
その後別の先生が来るたびに全く同じやり取りを繰り返すのであった……。
―――――
この日最後の授業が始まった。
5限目は戦闘訓練だ。
訓練場にそれぞれの装備を身に着けて集まる。
「あのー、僕も参加していいですか?」
「「「……は?」」」
僕が手を挙げそう言うと、みんなはポカンとした表情でコチラを見る。
余りにもあり得ない発言過ぎて、僕の言った事を理解出来ていないようだった。
「はぁ!? アンタバカなの!? 確かに決闘魔術のお陰でどんな怪我をしても! 例え死んでもなかったことになるわよ!? でも痛いものは痛いし! 死の恐怖もあるの! トラウマになるわよ!? 悪いことは言わないからやめときなさい!? 大体魔術も使えないのにどうやって戦う気よ! 魔術どころか魔力による身体強化すらないんだからね!?」
朱音が真っ先に捲し立てる。
彼女はなんだかんだで面倒見がよくお人好しな為、僕なんかのことすら本気で心配してくれているのだ。
「大丈夫。装備は用意してきたから」
「電魔の杖!? 確かにそれなら魔力がなくても使える! けど術式一つで勝てると思ってるなら大間違いなんだから!」
「それはどうかな?」
僕は先生を上手く言いくるめ、参加を認めさせた。
僕の相手は朱音に決まった。
「手加減は一切しないわ!」
「始め!」
先生の合図と共に彼女は詠唱を始める。
「紅き炎よ! 剣と成りて、舞い踊れ! 『燃え盛る剣舞』!」
朱音の周囲に、灼熱の焔がいくつも現れた。
それらは次第に剣を形取り、彼女の周りをふわりと回転する。
熱気がこちらまで伝わってくる。
「この魔術は森羅万象を灼き尽くす勝利の剣! 降参するなら今のうちよ!」
「そんな御大層なこと言うより、負けた時の言い訳を考えておいた方がいいんじゃない?」
ニヤリと笑いそう煽ると、彼女は顔を真っ赤にして青筋を立てる。
「っ! ならいいわ! お望み通り燃やしてあげる! さあ! 避けられるかしら!?」
彼女がコチラを指差すと、焔の剣が放たれた。
軽く身体をずらすと、一直線に飛んでくるそれらは数センチ横を通過する。
熱風が前髪を煽り、服が舞い上がった。
「なっ……!」
「イーオイオイオ、そんなの当たらないイオねぇ!」
「何よその笑い方! バカにしてるの!? なら!」
朱音が指を振り上げると、通り過ぎたはずの剣が空中で急旋回し、背後から射音を襲う。
高速で動くそれは不規則な軌道を描きながら、こちらを切り刻もうと殺到した。
「『火炎弾』!」
彼女の指先から小さな火の玉が放たれ、剣と同時に僕を撃ち抜かんとする。
しかし──
「よっと」
飛び上がり空中で体を捻る。
幾本もの剣が、寸前で横切った。
まさに紙一重。
計算され尽くした、最小限の動きで攻撃を回避していく。
「嘘でしょ!? なんで避けられるわけ!?」
「視線だよ、視線。後は魔力の流れかな」
朱音の最も得意とする魔術、『燃え盛る焔の剣舞』。
それは焔の剣を創り出し、ソードビットとして射出する火属性魔術だ。
剣の生成さえしてしまえば、維持に必要な魔力はほとんどなく、 かなりコスパがいい。
だけど自立稼働型ではなく、自分で遠隔操作しなければいけない。
「君、剣を操作する時、事前に狙う場所に視線が行ってるんだよね。魔力感知の練習、ちゃんとしなよ? 遠隔操作型の魔術は魔力感知が一番大事なんだから」
きちんと魔力感知が出来ていれば視界に頼る必要もない。
というか2桁を超える剣をあの魔力感知の精度でここまで操れてる方がおかしいのだ。
魔力感知が杜撰な、というか基本大雑把なんだよね、朱音は。
昔からそうだった。
もちろん僕は魔力感知をフル活用し相手の攻撃を予測している。
いくら僕が天才でも、魔力感知なしじゃここまで精度の高い予測は難しい。
戦闘経験を積めば話は別だろうけどね。
そう、僕には戦闘経験がないのだ。
ダンジョンの戦闘はほとんど一方的に攻撃してただけだし、経験と呼べる程のものではない。
それでこれだけ戦えるのだから、僕の才能凄すぎとしか言いようがないだろう。
「じゃあ次は僕がお手本を見せてあげよう。変換魔力、高速充填。術式励起。『揺蕩い流れる水の剣舞』」
杖を翳すと、魔法陣が投影される。
魔力が流し込まれ、術式が励起した。
周囲に5つの水球が現れ、剣を形取る。
朱音の使っていた魔術、その水属性版である。
魔力操作により極限まで圧縮し、刃をより薄く、より鋭利に創り上げた。
「さあ、行くよ」
水剣を巧みに手繰り、炎剣を弾いていく。
なるべく彼女の見本となるように、分かりやすく。
その瞬間、剣が頬を掠める。
ポタリと地面に血が落ちた。
肉が焼ける匂いが周囲に漂う。
「すごいすごーい! もう改善しちゃったんだ? 流石朱音だね!」
指摘されてからほんの数秒で改善しちゃうなんて、本当に凄いね。
魔力感知なんて日々の地道な修行が大事だから、そんないきなり成長することなんて普通はあり得ないんだけど。
「舐めんじゃないわよ!」
次々と襲い来る攻撃を捌く。
炎剣と水剣がぶつかり合った。
しかし、少しづつ攻撃が読み取り辛くなっていき、身体に傷が増えていく。
このままだとジリ貧だ。
そう考えた僕は、宙を舞う水剣、その内の1本を握り締める。
防御を捨て、捨て身で駆け出した。
致命傷となる攻撃のみを防ぎ、それ以外は無視して走り続ける。
「はぁ!」
彼女の目前にまで迫り、剣を振りかざす。
だがそれは、彼女に触れる寸前に止まってしまった。
気がつくと、手首足首に炎の円環が着けられていた
「はぁ……はぁ……。『灼熱の束縛』、ぶっつけ本番だったけど、上手く行ってよかったわ……」
まさか今ここで新しい魔術を覚えるとは。
しかも初めてにも関わらず、無詠唱での魔術行使を成功させるなんて……。
「どうかしら、まだやる?」
炎剣が僕の喉元に突き付けられた。
「参りました」
僕の言葉と共に、歓声がドッと響く。
クラスメイトはもちろん、先生すら審判の仕事を忘れ夢中になっていた。




