プロローグ 「未成年飲酒した挙句クラスメイトの母親とワンナイトラブしたクズ、それが僕です」
「あ゛あ゛あ゛やっちゃったー!」
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
暖かいベッドの中で僕──星見射音はゆっくりと瞼を開けた。
その開口一番がこれだ。
……頭が割れそうでズキズキ痛い。
これが二日酔い、か。
昨日の記憶が、断片的に蘇ってくる。
家を追い出された僕はアテもなく彷徨って、小さな公園で頭を抱えながら途方に暮れていたこと。
そこで偶然、クラスメイトの母親──大弋真々子さん──に声をかけられたこと。
そのまま真々子さんに拾われて家に連れ込まれたこと。
真々子さんに勧められるがままにやけ酒をしてお酒を一気飲みしたこと。
そして──
隣を見ると、そこには頭より大きな胸が、信じられないほど強調された、ムチムチの裸体が横たわっていた。
彼女はまだスヤスヤと眠っている。
首筋や胸、太ももに刻まれた無数のキスマークは、昨夜の激しさを物語っていた。
なぜこうなったのか。
そう、アレは昨日の出来事だった。
―――――
およそ一世紀昔のこと、ある日突然、世界は一変した。
男女比は1:100、男はただの1人の例外もなく草食化し、女性は全員性欲つよつよ。
オマケに魔力やダンジョン、魔物なんかのファンタジー要素が増えた。
最初は希少な男が大事にされて来たけど、男の性欲がほぼEDレベルで減衰してる上に恋愛感情までほとんどなくなってるせいで今はほとんど人工授精。
なんなら魔術のお陰で女性同士でも子をなせる。
オマケに魔力は女性にしか宿らないから男女の力関係も逆転し、もはや完全に女尊世界になった。
わざわざ男をイジメようなんて女性が少ないから特に差別も無く幸せに暮らせてるけど、まあその程度だ。
「はぁ……これからどうしよう」
僕はブランコを揺らしながら溜息を吐いていた。
夕焼けに照らされ、その背中には哀愁が漂っている。
何があったか端的に言うと、僕は家を追い出されたのだ。
この世界では珍しく溺愛され、花よ花よと育てられた箱入り息子。
増長し、傲慢になり、何をしても許されると思い込んだ勘違い男はとうとうメイドだけでなく家族にも愛想を尽かれ、絶縁されて着の身着のままで家を追放されてしまった。
せっかくの前世の記憶も、追放のタイミングで思い出してはもう手遅れ。
アテも無く彷徨い、辿り着いた公園で途方に暮れていたと言うわけだ。
漫画喫茶で寝泊まりするにもお金がない。
お金を稼ごうにも女性より遥かにか弱い男、しかも未成年だ。
雇ってくれる所はないし、ダンジョンなんかそもそも入れてもらえないだろう。
これじゃ原作知識なんてあっても宝の持ち腐れだ。
せめて最低限の資金くらいくれればよかったのに、と思わなくもないが、追放に関しては前世の僕からしても擁護のしようがないほど僕が100%悪いからなんも言えない。
「あら? 貴方、大丈夫?」
「えっ? あっ、はい?」
そんなことを考えていると、僕は不意に魅力的な女性に声をかけられた。
笑顔はとても優しげで、口調も穏やか。
きっと彼女は、誰かの母親なのだろう。
そう直感する風貌だった。
「こんな人気のない公園で1人だなんて、危ないわよ? 最近この辺りも治安が悪くなってきてるし」
「あー、まあ、大丈夫です。一応、防犯用の魔道具あるので」
身に付けてるものまでは剥がされなくてよかったよ。
大したものじゃないけど、襲われても身を守る程度はどうにかなる。
「ねぇ、私の家に来ない?」
「……へ?」
今、なんて言った?
家に……来ない?
信じられない言葉を聞いた。
だってそうだろう。
言っちゃなんだが、僕なんて何の役にも立たない穀潰しにしかならない。
というか今の時代は僕に限らず、男はみんなそうなんだけど。
「貴方、行くところがないんでしょう? 家出か何かは知らないけど」
「いいんですか? こんな怪しい男なんて家族の方が納得しないんじゃ……」
本当に信じられない。
僕を拾おうなんてお人好しにも程がある。
いや、この人の外見、漂う雰囲気、お人好しな性格。
もしかして──
「それなら大丈夫。夫は別居中だし、娘も最近は朝帰りが多くて……」
へぇ、夫がいるんだ?
珍しいね。
この世界じゃ基本女性同士での結婚が基本だ。
男が恋愛への興味を失ったから、女性はそれに適応してバイが増えていった。
結婚する男なんて子供を作ると支給される補助金目的で愛なんてないし子育ても押し付けるで酷い有様だ。
だから男と結婚する女性は金目的かDVヒモ彼氏に依存するタイプの人が殆どだ。
金目的って感じには見えないし、依存するタイプなんだろうね。
まあ、別居中だから多分最初は依存してたけど子供が出来たことで目を覚まして別居コースかな。
「娘さん、なんてお名前なんですか?」
「燕。大弋燕よ。そして私は大弋真々子」
「あぁ……」
やっぱりかぁ。
なんか見覚えあるなぁと思ってたんだよねぇ。
大弋燕は僕のクラスメイトだ。
成績優秀容姿端麗、魔性の女でクラスの人気者……というかクラスどころか学校中の人気者だ。
ぶっちゃけ作中の恋愛関係のトラブルは7割燕ちゃんが原因。
本人に口説いてるつもりがないのが余計質が悪い。
燕が悪いんだよ。
それもそのはず。
彼女はこの世界の主人公なのだから。
朝帰りは大体トラブルに巻き込まれてるかヒロインといちゃついてるかだろうね。
何せこの世界は百合エロゲ―。
学校にヒロインとお泊りして仲を深めることが出来る。
きっと8人のヒロインを攻略してるのだろう。
「知り合いなの?」
「クラスメイトです」
「その……燕は、大丈夫かしら。上手くやっていけてる?」
「まあ、大変な目に遭ってはいますけど、それでもなんだかんだで幸せそうですよ。素敵なお友達もいますし」
「そう、ならよかったわ」
燕ちゃんも、悪い子だなぁ。
親をこんなに心配させるなんて。
まあ、それを言ったら僕の方が問題だけど。
「それで、どうする?」
「行かせてください」
行く当てなんてないしね。
そうして大弋さんの家に連れて行かれた僕は、彼女にお酒を勧められた。
というのも大弋さん、僕と出会った時点で酔っぱらっていたらしい。
酔っぱらった勢いで強引にお酒を飲ませてきたのだ。
そうして酔いが回った僕は、彼女に話を聞いてもらった。
「だって、誰も言ってくれなかった! 誰もこれが間違いだなんて言ってくれなかった!」
これは僕ではなく、僕の慟哭だ。
転生したばかりだから前世の僕と今世の僕の自我は分かたれていた。
その内統合されて1つになる……というより既に何割かは融合してるし、明日には完全に1つになるだろうけど、今はまだ違うから、客観的に考えることが出来る。
「そう……可哀想に。間違いを正してくれる人がいなかったのね」
この子も大概可哀そうな子だ。
星見射音は端的に言って理解不能の化け物だ。
自己中心的で傲慢、癇癪持ちで暴言暴力は日常茶飯事、他責思考で自己愛に溢れた人間。
だが、こうなったのは周囲の環境があまりにも悪い。
確かに射音は元々アレな所はあったのだろう。
でもそれは普通の家庭で育っていたならまだ可愛げのあるレベルだったのを、周囲の環境がここまで肥大化させた。
周囲の人間は家族も、お付きのメイドも、元婚約者も、だれ一人として僕の行動を咎めなかった。
星見家は、例え情けない存在に落ちぶれたとしても、かつて世界が一変するまでこの家系を苦労して支えてきたのは男なのだから、男を優遇し甘やかすことにしよう、と考えた。
その方針が行き過ぎた結果、男である僕はどれだけ好き勝手振舞っても咎められることなく全肯定されてきたのだ。
それに男女の力量差が激し過ぎて僕が癇癪を起した所でノーダメージだったってのもある。
周囲の人間が甘やかしすぎだと、悪い事を悪いと僕を叱りつけるべきだったと、気付いた時には既に手遅れ。
もはや矯正不可能な自己愛の怪物に成り果てていた。
公式設定ではもしもまともな親の下……例えば主人公の家に生まれていたら少しカスな所はあるけど基本善良で滅茶苦茶貢献するサブキャラになっていたと明言されている。
そもそも男なのに学園に入学出来てる時点でかなりの天才だからね。
男だと実家が太いだけじゃ入学出来ないし。
欠点が男であることとドブカスな性格しかないなんて言われてるレベルだ。
「分かってる……分かってる……全て僕が悪い事なんて、わかってる……!」
それでも……それでも僕は……『お前たちのせいで、僕はこう成り果てたのに』と思わずにはいられない。
まあ、本人だけじゃどうしようもない事情はあったのは確かだ。
だけど、それはそれとして僕がカスなのは揺るぎない事実だから追い出されたのは当然なんだけどね。
でも僕は僕に転生したことは割とポジティブに捉えてる。
僕の人格、記憶、知識、価値観が、僕を改心させる為の材料になるからね。
僕はそこそこの善性さえあれば輝けるだけの才能がある。
別に統合された所で僕が消えるわけじゃないしね。
憑依ではなく転生だから、どちらも僕だ。
なにより、前世では叶わなかった夢をかなえるチャンスだ。
僕の容姿はかなりいい。
しかも男らしいとかイケメンというよりは女らしい、美少女よりの外見だ。
そう、所謂男の娘という奴である。
僕は男の娘が好きだ。
アス〇ルフォ、ウェ〇ディ、潮〇渚、暁山〇希etc.
いいかい?
想像してみるといい。
白くて細い脚、華奢な肉付き、愛らしい顔……。
パッと見は完璧な美少女だ。
だけど垣間見える男の骨格、ゴツっとした関節、そして喉仏。
女らしさの中にそういった雄が存在するというギャップ!
最高じゃないか!
「ねぇ……真々子さん」
っと、不味い。
もっと男の娘への愛を語りたいところだけど、だいぶ僕と混ざってきてる。
僕にも酔いの影響……が……。
「真々子さん、凄く綺麗だ……僕、もう我慢出来ないや」
そんな甘い声で囁きながら、おっぱいを鷲掴みにして押し倒す。
真々子さんが「だ、ダメよ……。私……人妻なのよ……」なんて言いながら、本当に抵抗する気があるのかどうか怪しい、余りにも弱弱しい抵抗を見せるのも、情欲を燃え上がらせるスパイスにしかならなかった。
強引に唇を奪い、そしてそのまま……。
―――――
そうです。
未成年飲酒した挙句クラスメイトの母親とワンナイトラブしたクズ、それが僕です。
ごめんなさいね。
僕は自分の下半身を見下ろした。
まだ朝立ちしているそれが、シーツを押し上げている。
昨夜は何度も何度も、容赦なく腰を打ちつけ続けたそれが。
昨日あれだけやったのにまだ勃つらしい。
草食化してるんじゃなかったのか、と言いたいが前世由来の性欲のせいだろうね。
僕は思わず両手で頭を抱えた。
やらかした……完全にやらかした……!
クラスメイトの、それも原作主人公の母親だぞ。
人妻なんだぞ?
僕の最も忌み嫌うNTRを僕がしてしまった自己嫌悪に苛まれながらも、この世界の男は恋愛感情とか愛とか夫婦愛とかないし、実質シングルマザーみたいなものだからセーフと、意味があるのかわからない理論武装で心を護る。
そうだよ。
よく考えればこの世界の男どもNTR成立しないレベルで草食化してるから気にしなくていいじゃん。
僕人妻は好きだけどNTRは嫌いだから。
この世界最高じゃん。
そんな馬鹿なことを考えてると、隣で真々子さんが小さく身じろぎした。
「……ん……んぁ?」
寝ぼけ眼でこちらを見上げるその瞳に、昨夜の快楽の余韻がまだ残っているのがわかる。
「あ、ら……? 私、昨日は……」
真々子さんは気怠げに身を起こすと、シーツが滑り落ちて露わになった自分の胸元を見る。
それから僕の顔を見て、数秒ほどフリーズした。
そして、カッと顔を真っ赤にする。
「い、射音くん……!? 私、嘘……貴方みたいな子供を、無理やり……!?」
「ち、ちがっ! 僕の方から……その、我慢できなくて……」
彼女は涙目になりながら頭を下げようとする。
僕は慌てて手を振りながら否定した。
そうか、そうなるのか。
この世界の価値観だと、男が襲ったという発想にならないのだろう。
状況だけ見れば「酔った大人の女性が、行き場のない未成年男子を連れ込んで喰った」という構図にしかならない。
実際は僕がガッツリ襲ったんだけど。
「射音くん……。その……射音くんが良ければなんだけど……行くところがないのなら、ここに住まないかしら」
真々子さんはそう上目遣いで懇願してきた。
瞳が潤み、完全に雌の顔になっている。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして僕の、新たなる人生が幕を開けることになった。




