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断全の魔剣と裏切り勇者

作者: 蓬莱茜
掲載日:2026/01/16

 怖い怖い怖い。落ちる。いや落ちてる!


 吹き上げる風に、身体が煽られる。どうしよう。こんな高さから落ちたんじゃ、防御アップなんて意味ない。



 キース、俺達は今日から本当の仲間だ。

 だから――

 

 少し前のアーサーの声。顔。吐き気がする。あいつは僕を剣で脅して、崖まで追い立てやがった。

 僕が落ちた瞬間、気持ち悪く笑ったくそ野郎。



 もうきっと地面。ああ無理だ、助からない。

 何でこんな時に僕は、右手を上に(かざ)してるんだ。

  

 手袋の下は、赤黒く変色した手と腕。くそ野郎(アーサー)を庇った時に浴びた、魔族のブラドの血。

 今となっては、裏切られた道化者(ピエロ)の証。



「あんなやつのために、死にたくない……!」

『同感だ。その反転、実に心地良い醜さ』


 頭の中に、聞いたことのある男の声が響く。

 その瞬間に右手と右腕に走る、熱と痺れ。

 

『こちらに憑いたのは不本意だったが、僥倖。その憎しみを祝い、我の力を解放してやろう』 

「わっ!? まぶ、しい……!」



 目が開けてられない。そんな場合じゃないけど。もうすぐ落ちるし。でも、あれ? 落ちたのに、痛くない。むしろ、芝生のちくちくが気持ちいい。

  

「助かった……?」

『呆けすぎだ、小僧。名を聞いてやる、名乗れ』


 偉そう。でもこの声、つい最近どこかで……?

 頭の中に響くけど、きっと声の主はこの右手。


「僕は、キースです。支援術士です。え、とあなたは?」


 何て言ったらいいかわからなかったから、とりあえず普通に。右手に名前聞くのって変な気分。



(われ)はブラド。――斬首公のブラド』


 

 ……何て? 君、僕達が四日前に倒したじゃん。

 


◇◇◇◇◇



 僕が崖から落とされた、その日の朝。


 宿屋のベッドから、僕は身体を起こした。

 目の前には、赤髪を床に擦り付けた土下座男。

 

「キース! 俺が悪かった、許してくれ!」


 男の名前はアーサー。僕達、冒険者四人組のリーダーだ。僕と違ってガタイのいい身体だから、土下座してもまだ大きい。


 でも顔がいいのもあって、いつも自信たっぷりな表情は、今は情けないの。……何か、ざまあって思った。


 でもさ、謝られる覚えがない。四日前に、少し先の上級魔族を協力して倒しただけだよね?

 


――通称『斬首公のブラド』。何でも斬るというやばい剣を持った、嫌味なくらい気障ったらしい奴。最期に何か叫んで、自分の首斬ったのはキモかった。


 アーサーにその血がかかりそうな時、僕が代わりに右手に受けたことを言ってるのかな。


 確かに、背中押されたことは覚えてるけど。

 その後、僕が宿に着いて高熱三日出したのも。



 でも、僕は無事に治ったし、それに僕が倒れるのはよくあること。一方のアーサーはいつも無傷。

 強い魔物や魔族を倒せたのは、やっぱり彼が勇者で、強いからなんだろう。


 むしろ、僕を心配してくれたのは初めてだ。

 ちょっと嬉しい。

 

「よくわかんないけど。許すよ、気にしないで」

「ありがとう、キース! お前はやっぱりいい奴だ!」

 

 アーサーがしがみついてきた。ごっつい、重い。



「よかったわねアーサー。キースも、あんただけいつも怪我や呪い! 反省しなさいよ、ねえミア」

「ケイティさん、そのくらいで。私達三人と違い、キースさんは弱いのですから」


 ローグのケイティと、攻撃術士のミアは容赦ない。でも、僕の支援魔法で君達は強くなってるんだよ?


「心配かけてごめんね、二人とも。もう大丈夫だよ」

「よし。元気になったなら、まずはお前にやってもらいたいことがあるんだ」

「うん、何かな? アーサー」 


 アーサーは、にこにこと僕の肩を掴んで笑った。横のケイティとミアは、何故か武器に手をかける。


 

「キース、俺達は今日から本当の仲間だ。

だから――」



◇◇◇◇◇



『それで、全てを斬る剣とやらに目覚めるために落とされたと。はは、欺瞞だろうに』


 ここは、僕が落とされた崖の下。芝生に無傷で着地した僕は今、正座で右手のブラドと話してる。

 この偉そうなブラドの声は、どうやら僕の頭の中だけぽい。



「お前に言われなくてもわかってるよ。絶対、アーサーは僕を殺そうとしてた。そんな剣あるはず無いのに」


『あるぞ』 

「え? 今なんて?」


 目を丸くした僕の脳内に響く、誇らしげな声。

 

『全てを断つ剣――断全(だんぜん)。我の』

「ダサいね」

『……我の魔剣の名だ。己が知覚したもの、全て断つ』


 無視して話進めたな。魔族に精神的ダメージは効かない、と。まあいいや。


「お前のスキルってこと? 何で僕が使えるの」 

『我の血を受けただろう? あれは我が次の肉体に乗り移るための触媒だ』

 

 は? それって僕をまさか、乗っ取る気じゃ。

 黙った僕に、ブラドは言う。

 


『そうだ。あれは血を継ぐ儀式。貴様はじきに我に身体を――痛っ!』


 腹立つ。アーサーもだけど、なんでこいつまで僕を利用しようとするんだ。


 思わず腕で地面を叩いたら、悲鳴が頭に。ははは、無茶苦茶に焦ってる、格好悪い。つうかこれで痛いんだ、こいつ今は弱いんじゃ?

――これ、使えるかも。


『何をする!? 下等な人の身が、我の肉体となれるのだぞ光栄と思え!』


「却下。このまま地面をドラムにして、右手で大地の演奏してやるよ。身体を譲るとか真っ平」


『なっ!? や、やめろ、そんなことを続ければ我の魂が揺れてしまう。もし傷付いたら』



――ドンピシャ。血を浴びたのが頭じゃなくて右手なのはラッキーだ。この交渉、僕が絶対に有利。



「嫌なら、僕に従って。お前は、僕の右手に取り憑いたままでいいから、スキルは僕に使わせろ」


『何だと!? 愚かな人の身で、この高貴なる――痛っ』


「あー、何か右手が疼くなぁ。地面叩きたいなぁ」


『や、やめろっ! わかった! わかった従う!』



 斬首公のブラドのはずなのにチョロい。何だかすごくスッキリして、僕は笑い出したい気分になっていた。

 



 右手で、赤と黒のうねるような炎が舞い踊る。熱くはないけど、僕の魔力と衝突して、ぴりぴりする。

 

『――我の魔剣は、貴様の支援魔法である魔法剣と同じく使えるようにした。それでいいか』


「オーケーだよ。ところでさ」 

『何だ』 


「口調や声って変えられる? 偉そうな男の声がずっと頭に響くとノイローゼになりそう。地面叩こうかな」

『……少し待て』


 随分とドラム作戦は効いたみたい。ブラドはすごく素直になって、しばらく静かになった。


『これで構わない?』

「わっ!?」


 びっくりした。だって頭の中に若い女の声が響くんだもん! しかも綺麗な声だし、言葉遣いも変わってる。森で歌ってるの聞いたら、好きになっちゃうかも。


『要望通りなのに、随分な反応ね。気に入らないの?』

「う、ううん。気に入った。気に入ったけど、すごく変わってて、驚いたんだよ。何でこんな声」


『――我の肉体が女だった頃の声だ。……貴方達に倒された、その前に使っていた肉体のものよ。エルフの娘だったかしら。戻す?』



 戻さなくていいです! 絶対こっち!

 僕は右手に向かって頭を下げてた。


「ブラド、この声でお願いします! 是非! 決定!」




 崖下から、まわり道を通って僕達は登っていく。

 無言で進む僕に、頭の中で聞こえる可愛らしい声。 

 

『で、これからどうするの?』

「アーサーと合流する予定」

『えっ? 貴様は、殺されかけたのにまだ仲間だと思ってるの? 馬鹿なの?』


「違うよ。仲間だなんて思ってない。だから」


 ブラドの呆れたような、馬鹿にする声。さすがに僕だって、あの顔のアーサー達を信じようとは思わない。



「――借りを返しに行くよ。魔剣で、倒してやる」



 少しだけ握った右手に、汗が滲む。

 支援術士の僕が、勇者を斬るんだ。




◆◆◆◆◆


「そういえばね、気になることがあるんだ」

『気になること?』

 

 森の中を歩きながら、僕はブラドに話しかけた。疲れよりも緊張が、身体全体に回って気持ち悪い。

 ああ神よ、魔族でも話し相手を授けてくれたことを感謝します。


「アーサーはどうして、君の魔剣のこと知ってたんだろう。ううん、思い返してみると、あいつは君達魔族のことをよく知ってた」


 全てを斬る剣だと、確かに言っていた。

 

 そして、僕達四人は他にも強い魔族を討伐してる。アーサーは、初見の彼らと戦う時に、都度注意すべき技を話していた。


  

『ふうん。調べた……と言いたいところだけど、違うわね。(われ)の魔剣について知るのは、魔王様や同格達だけよ』

「だよね。何か、秘密があるはずだ」

 

『それにあの男……我の致命の一撃は全て回避していたわ。見てからじゃない。――わかっていた気がする』


 わかっていた。そうだ、あれは予想じゃなく確信していた。知識というよりも、記憶。

 

「もしかして未来予知?」

『可能性はあるわね。今回も我が、貴様の身体を乗っ取るのを検知して、先回りして処分を図ったのかも』

「……」

 

 処分かあ。ブラドの言い方は容赦ない。

 僕自身、その通りだとは思う。……悔しい。


『きゃっ! な、何よ急に、痛た』

「あ、ごめんっ! 君を傷つけるつもりじゃ。ごめん」

 

 頭に響く焦った声。しまった、つい右手をぐっと握っちゃった。慌てて緩めると、かすかな囁き声。

 

『……我も悪かったわ』


 あれ、謝られた。僕が怒って握ったと思ってる? でも声の感じは、怖れよりも気まずそう。なら僕が傷付いたのを感じとって?

 

 チョロい。でもそれはきっと僕もだ。

 僕は右手を一撫でし、歩みに力を入れた。



「視魔、聴魔。――ブラド、ゆっくり行くよ」

 

 奴等の気配を感じて、僕は足を止めた。支援魔法で今までの感知能力に加え、視力と聴力も強化する。

 

 警戒に長けたケイティに気付かれないように、少しずつ歩みを進める。

 ぱちぱちと焚き火が爆ぜる音、楽しそうな笑い声。ミアの声が聞こえる。

 

「ところでアーサーさん。聞きたいことが」

「何だ?」

 

「キースさん、あの高さからでは助からないのでは? 魔剣を手に入れたとしても、死なれては困りませんか」

「構わねえよ。それならそれで」

 

 アーサーは全く動じない。構わない? おかしい。未来予知なら僕が今、来ることもわかってるはずだ。

 別の意味で、ケイティがアーサーの発言に疑問を持ったみたい。こちらにはまだ気付いていない。

 

「アーサー、どうして? あなた、キースが怪我するのいつも気にしないわよね」

 

「あいつはそういう運命なんだ。俺達の悪いことは、全てあいつが背負えば上手くいく。勇者様を支援出来るんだ、本望だろ」

 

「確かに運ありませんものね、キースさん」

「まあ、そうね。お荷物だけど盾としては優秀だわ」


 納得したように応じる彼女達。馬鹿にしたように聞こえるのは気のせいじゃない。


 

 ブラドもそう感じたようで、頭の中に声がする。

  

『貴様、随分な言われようね。本当に仲間だったの?』

「……僕はそう思ってたよ。朝までは」


 本当に、仲間だと思ってた。喉がからからに渇く。

 そんな僕の感傷なんて気付かずに、アーサーが笑う。

  

「だろ? 今回こそが、俺達にキースが一番貢献してくれるんだ。魔剣に目覚めるなんて期待してない。むしろ、将来のやばい魔剣持ちに消えてほしいんだ」


 

 動悸がやばい。気持ち悪いものがせり上がってくる。

 聞きたくないのに、全て聞こえてしまう。


  

「俺が繰り返した結果。その答えは、あいつがこれで死ぬことなんだよ」


 息が詰まる。

 殺す気だったのはわかってた。でも改めて死ねと言われると、胸の中の心臓がキュッと萎んだように痛い。


 

――冒険者ギルドで、立ち竦んだ僕に声をかけてくれた君の姿が、消えていく。


 あれは、助けだったのか。

 それとも、使える駒を拾っただけだった?


 

 もう、信じない。

 僕の答えも、お前(アーサー)達を殺すことだ。


 

◇◇◇◇◇

 

「なにっ!? 敵襲か!」

「きゃっ!? これ、は……っ!」


 木々から伸びる影が無数の根となり、ミアとケイティを瞬時に縛り上げる。アーサーには避けられたけど、仕方ない。二人は封じることが出来た。


 

「全部聞いたよ、アーサー」

「キース!! お前……っ!?」

「ありがとう。君たちのおかげで、無事魔剣を手に入れることが出来たよ」

 

 この登場の仕方、僕が悪者だ。何だか笑えてくる。

 既に紡いでいた印、詠唱。右手で抜いたショートソードを、左手で撫でる。

  

「――来たれ、全てを灰燼(かいじん)と帰すために。魔剣――《断全》」


 熱い。魔力のうねりが、右手からあふれる。赤黒い炎が剣に宿り、剣呑な黒い輝きを見せる。

 僕が構えたのを見て、アーサーも剣を抜いた。

 

「くそっ! いつもいつも。お前は俺の邪魔を!」



 

 重い斬撃を受け止めるため、僕は足を踏ん張る。右からの払い。即時の突き。近付かれる。斬り上げは、ダメだ回避! ……うわギリギリ。危なかった。


「威勢いいのは口だけかよ、キースっ!」

「くっ、強い……!」


 押される。当たり前だ。勇者として長く剣で戦ってきたアーサーと、術士であり護身メインの僕じゃ、同等になんてなれない。

 

 それでも防戦なら出来るのは、支援魔法が今、僕にしかかかっていないからだ。


 

 何回目かの跳ね上げを(かわ)した時、欠伸混じりの面倒くさそうな声が聞こえた。

 

『本当、大言の割には情けないわね。時間をかけすぎたら、女達が復帰するんじゃない?』

「わかってる! でも僕だって」


 意地がある! そう叫ぶ前に、右手が一瞬だけ、ほんの僅かに揺れる。

 澄んだ声が、目の前の攻撃を鮮やかに捌いた。

 

『――仕方無いわね。貴様の肉体が今死ぬのは、我にも都合が悪いのよ』

「わっ!? え、右手が」


 勝手に。身体を合わせるのがやっとだ。バランスを整え、向きを変え、呼吸を確保。全力で右手支援。

 いつの間にか、僕が攻める方になっていた。


 汗を滲ませたアーサーが目を見開く。

  

「何っ! キース、お前いつの間に……!?」


 や、僕じゃないです。思わず否定しそうになった時に、被せてきた声があった。


『誇っていいわよ。貴様の支援魔法も、体捌きも見事だわ』


 褒められた。何だよ、褒めた方が自信に溢れてる。偉そう。でも、戦闘中なのに胸がとても熱くなる。

――アーサー達は、僕を褒めたことなんて無かった。

 

 嬉しいって思っちゃったじゃないか。

 くそ、僕がこんなにチョロかったなんて。

 


 

 ギィン! 高く鈍い金属音。アーサーの剣が遠くに飛んでいく。


「ここまでだね、アーサー」

『追い詰めたのは我だけど?』


 無粋なツッコミはやめてくれるかな。僕はブラドを無視し、アーサーに剣を突き付けた。


「はっ。さっさと殺せよ。どうせまたやり直すだけだ」

「やり直す?」

 

 アーサーは鼻で笑うだけだった。僕の反芻にも、顎をしゃくって(いや)らしく笑ってる。

 

「俺のスキルだ。死に戻りだよ。今日の朝から、お前を殺すために何度だって挑戦してやる」


――死に戻り。その瞬間、全てが繋がった。

 アーサーの土下座。

 魔族の情報。致命の回避。


 アーサーは、死ぬ度に手に入れた記憶を使って、死の未来を変えてきていたんだ。

 そして今は、僕に殺される未来を変えるために。

 

 でも。

 僕は魔剣を握る右手に力を籠めた。


 

「アーサー。ブラドや、ううん他の魔族も。君は何度も死んで、繰り返して勝ってきたのか?」

 

「ああ、そうだ。俺は死なない。だからお前が死ぬまで、お前を殺すまで諦めないんだよ!」

 

「わかった。じゃあ」


 ヒュン、と軽い風切音。僕が両手で持った魔剣を、アーサーに振り下ろす。死に戻りスキル、ね。


  

「そのスキルを断ってやる」


  

――リィイン。薄いガラスが割れたような、澄んだ綺麗な音。右手に確かに伝う、何かを斬った手応え。


「な、何だ? キース、お前、何をした?」


 きょろきょろするアーサーは、自分が斬られなかったのが不思議だったみたい。でも、違和感は覚えているはずだ。今まであったものが、無くなった感覚。


「斬った。いや、断った(たった)、というべきかな。君の、その死に戻り能力。魔剣で断たせてもらったよ。本当か、今から試してみよう」


 もう一度、僕は剣を構えた。どうやらアーサーも気付いたみたい。うって変わった、真っ青な顔。

 

「はっ!? ば、馬鹿な……。そんなこと、出来るわけ。ひっ、や、やめてくれキース! 俺が悪かった、許してくれ!」

 

 既視感(デジャブ)。今朝に聞いたよ、それ。僕が許したら、殺しに来るんだろ? 何度でも。


 

「ねえアーサー、聞きたいことがあるんだ」

「な、何だ? 何でも聞いてくれ、話すよ」


 必死だね、アーサー。今朝の土下座は顔が見れなかったけど、きっと今とは別の顔だったよね。

 アーサーの目が必死に揺れる。だが、僕の心はもう決まっていた。


「君が何度も死に戻りして、突破を頑張ってたのはすごいと思うよ。でも」


 チャキ、と剣が鳴る。皆のために頑張ってきた君を、苦しませる気は無い。

 

「僕を助けるためには決して頑張らないんだね」


――さよなら、勇者様(アーサー)



◇◇◇◇◇


 鳥の羽ばたく音。ああ、暑いと思ったら、太陽が高い。もう昼を過ぎてたんだ。一仕事したから汗だくだよ。


『お人好しとはこのことね。女達を見逃した挙句、裏切り者をわざわざ弔うなんて』


「ただのケジメだよ。それに、ケイティ達がこの森を抜けられるとは思えないから」


 封呪魔法が解けた後、ケイティとミアは悲鳴を上げながら走っていった。でも、ずっとアーサーと僕に守られて戦っていた二人。

 僕の初級魔法すら解除出来なかったくらいじゃ、魔物に襲われたら終わりだろう。


『だからと言って我の魔剣を土いじり……』


 ブラドが気に入らないのはそこ!? 本当、ガチで便利だった。硬い地盤だな、太い木の根だな、と認識したらスッと入るもん。断全、最高!


 

 一筋の涼しい風が吹く。うん、気持ちいい。周囲を見回したら、何だかすごく眺めがいい。

 もう、僕しかいないんだね。

 

「……少し、寂しいな」

『ふむ。我に身体を譲ればそんな悩みは』

「よっし、景気付けにドラムやろうかな! 右手が疼くぜ!」

『地面はやめてえ! ごめんなさいいい』


 手のひら返し早いの。でも、何だか楽しくなってきて、笑えてくる。

 そのまま笑ってたら、頭の中にも笑い声がした。




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