噂と現実
イベントの開催回数を変更しました
まだ6月だと言うのに、太陽は容赦無く人類を焼きにくる。夏休みまで2ヶ月。大学生の休みが長くてよかったと言わざるおえないほどの異常気象だ。もはや、地球を捨てるべきなのではなかろうか。もしくは、人類が滅ぶか。2つに1つだ。
教室に入ると、生徒達がスマホやパソコンを弄ったり、おしゃべりしていた。室内は空調がしっかり効いていて、むしろ寒いくらいだった。私は目が悪く、かつ、小学生並みの身長しかないため、障害となる人がいない、前の方の席を占領している。席が指定されていないとはいえ、2回目ぐらいには暗黙の了解で、いつも座る席、というものができる。何となく、いつも同じ席に座ってしまうのだ。そして、隣の席は荷物が占領する。これは、複数人で座っている集団でもそうだ。2人組なら、間を1つ空けて、荷物置きにする。
「ねぇ、あの噂、知ってる?」
「ああ! あの、『お願いゲーム』でしょ? 知ってる知ってる!」
後ろの席に座っている、陽キャ女子2人がきゃっきゃっと楽しそうに話している。先ほどまでは雑音でしかなかったが『お願いゲーム』、という単語に思わず聞き耳を立ててしまう。
「あれ、ほんとなのかな? 何でも1つ願い事が叶うって」
「さあ? 実際にプレイしてる人会ったこと無いし」
「まあ、言えないよね、普通。だって、デスゲームでしょ?」
「表立って人殺ししてます、とはねぇ」
あははは、なんて笑い声でその話題は締められ、彼女達の彼氏の愚痴大会が始まる。
『お願いゲーム』。最近巷を騒がせているゲームの俗称である。正式な名は『アテナゲーム』。ギリシャの女神の名を冠したゲームだ。このゲームが最近話題の理由は、なんでも、1つだけ願いを叶えてくれる。しかし、条件があり、同じアプリを持つ者を殺害しなければならない。
ここまでが世間で噂されている内容だ。この噂は、当たらずも遠からず、といったところである。実際、願いを叶えるためには、このゲームでレベルカンストを目指して、やっと願いを叶える権利を獲得できる。レベルは99まであり、そこに至るまで何千人、下手したら1万人ほど殺さないと、カンストはできないかもしれない。殺す相手を見極めれば、なるべく少人数で済むが。それでも、最低千人は殺さないと難しいだろう。特に、レベルが低い内はろくな武器やスキルがない。あと、ルーキーは、『低レベルでプレイ歴が長い奴』に狙われやすい。レベル上位者は大半が同じくレベル上位者、トップレベルに近い者達を狙う。ただ、快楽殺人鬼がいないわけではない。ルーキー狩りが趣味の奴もいる。そういう奴は然程実力は無いくせに、レベルだけは高い。そして、レベル上位者に経験値狙いで試合を組まされ、死ぬ。
さて、何故私がここまで詳しいのか。簡単な話だ。私がプレイヤーだから。
私がこのゲームを始めるきっかけとなったのは、偶々だった。知らぬ間にスマホの中にアプリがインストールされていた。最初は怪しいからすぐに消そうと思った。けど、その前にネットで調べてから、なんて思ったのが運の尽き。噂を鵜呑みにし、アプリを開いてしまった。最初は、1人殺せばいいと思っていた。しかし、実際はそんな単純な話ではなかった。何人も何百人も殺して、年に1回あるイベントにも参加して、レベルカンストを目指す。地獄のゲームだった。
1度プレイヤーになってしまえば、後戻りなんてできない。ただひたすら、叶えたい願いのために、がむしゃらに戦い続けるしかなかった。もう、正しさなんて分からない。
後ろの女子は呑気でいいなぁ、と心の中で呟くと、チャイムが鳴った。数分後、先生が入ってきて、授業が始まった。今日は2限だけだから、家に直行だ。今日は誰とも戦いたくないなぁ。
授業終了後、アテナアプリに通知があった。何かと思って開いてみれば、イベントの知らせだった。このゲームは年に1回、イベントが開催される。内容は宝取りゲームである。勿論、毎回詳細は異なる。プレイヤー同士で協力したり、謎解き要素もある。開催地も異なる。ただし、全プレイヤーが参加できるわけではない。レベル30以上でなければ参加できないのだ。理由は不明。しかも、強制参加。
「さて、準備しますか」
私の呟きは誰にも拾われること無く、空に溶けていった。




