序章
「や、やめてくれ。殺さないでくれ。あ、あ、か、金か? いくらでも払う! だから、どうか……」
目の前の金髪のチャラ男が惨めったらしく、命乞いをする。それなりにいい顔が、今や見る影もない。涙や鼻水で顔面がぐしょぐしょだ。勿体ないな、と思いながら男を見下ろす。今の私はきっと、酷く冷めた目をしているだろう。
「何? 今更命乞い? あんたから仕掛けてきたんだろうが。そもそも、どっちかが死なないと終わらないしな」
我が愛刀の切先を男の首に当てる。男は小さく悲鳴をあげ、後退りしていく。ああ、何やってるんだろう、私。そう思いつつも、私は容赦無く刀を横に薙ぎ払う。すると、男の首から血が吹き出した。私は血飛沫を浴びないように、一歩飛んで、後ろに下がった。
「プレイヤーの死亡を確認しました。10分後に自動返送されます。生存したプレイヤーは帰還準備をしてください」
女性の声がそう告げた。ゲーム終了時にいつも流れるアナウンスだ。私は男のスマホを手に取り、アイテムボックスとスキルを確認する。
「はあ、ろくなの無いじゃん。親が金持ちでも、ステータスは雑魚、か。まあ、ルーキーだからなぁ。仕方ない」
うーん、と唸りながら首を傾げる。長い、10分が長い。私は地面に胡座をかいた。地面は芝生で、座り心地は悪くない。しかも、この空間の芝生は不思議なことに、座っても服が汚れない。今の私は着物を着ている。真紅の袴に桜色の着物、撫子色の羽織の上に、向こうが透けて見える素材の羽織だ。そのまた上にカーキ色のフード付きマントを身に纏っている。靴は茶色の編み上げブーツで、腰には紫の鞘の刀、スマホが入るほどの茶色のウエストポーチ、ポーチの中にはポーションが2本。傷を癒すポーションと魔力回復のポーションだ。太股にはサバイバルナイフが1本。袴で隠れるようにしている。
このゲームでは銃を使う人が多い。刀なんて長い得物、日常での試合ならともかく、イベント時はホテルなどの室内戦闘が多く、不利でしかない。だから、否が応でも私は目立つ。レベルも高く、プレイ歴も2年で、期待の新人として注目されてしまっている。
「5秒後に転送します。3、2、1、0」
そう聞こえると、世界は光に包まれた。
眩しくて目を閉じていたが、光が収まったのを感じ、目を開ける。そこは、大通りから1本入った路地だった。転移させられた時と同じ場所。何百回と試合をしてきたが、未だに慣れない。
「ん、三千万か。あと二百万でレベルアップできる」
スマホで入金額と残高、経験値を確認する。とりあえず、今の格好は目立つため、左手の人差し指に嵌められた金色の指輪を叩く。指輪にはアメジストのような紫色の石が嵌め込まれている。石が僅かに光り、私の服が半袖のシャツとガウチョに変化した。
「相変わらず、不思議な現象だなぁ」
目の前には男が着ていた服と所持品、画面がバキバキに壊れたスマホ。男が使っていた銃などの武器は完全消滅していた。これで、このゲームが明るみに出ることはないだろう。最近連日ニュースになっている、連続行方不明事件として処理される。刑事の1人や2人、疑問に思っても、上からの圧力で、捜査なんて遅々として進まなくなる。
こうやって、全て、闇の中に葬られるのだ。




