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4話 剣の舞

式の日、夜明け前。私は白い服に身を包んでいた。それは甲冑というより、むしろ舞姫か宮廷の乙女の装いのようだった。


膝丈までふんわりと広がるスカート、肩を露出する広がった袖。黒い縁取りと繊細なフリルが、人形のドレスを連想させる。胴には軽い銀のプレートがあり、防具というより装飾、聖なる護符のように見えた。


膝下まで伸びる銀のブーツは、軽装の鎧として作られ、エレガントにフィットしていた。小さなヒールが歩くたびに儀式めいた音を立てる。重くはない。それは戦いで踏みつぶすためではなく、舞を支えるためのものだった。縁には控えめな金の細工、花の模様が刻まれている。白い花の冠と薄いヴェールが、清らかさを添えていた。


「花嫁みたいね。女神の前に誓う乙女は、こうでなくちゃ」


リリスは泣きそうになりながら私の手を握った。


「誰にも言わないでね。でもこのデザイン、ちょっと意外。もっと厳かなものを想像してた。でも、意味があるんだろうし、気になっただけ」


リリスはそっと涙を拭った。


「似合ってるわよ。聖なる装束や武器は、その人の使命と関係するもの。さあ、行きなさい。聖女になりなさい」


私はうなずき、彼女を抱きしめた。大聖堂の回廊を歩く。もうあの日の恐れた子どもでもなく、ただ命令に従う神官でもない。そこには庶民や貴族、教会の人々が集まり、期待と微かな疑念と嫉妬の入り混じった視線が私を迎えていた。


私は、魔王の滅亡後に初めての聖女として任命される者だ。多くの人が私を信じている。


大司祭様が声を上げる。

「リュダよ、本日、汝は聖女として奉献される。女神のみならず、この世界に誓いを立てよ」


祭壇の前で私は深く息を吸った。祈りは静まり、私の声が高い天井に反響する。


「私は、恐怖と疑いに飲まれぬことを誓います。

光と正義のために戦い、たとえ命を失うことになってもそれを厭いません。

悔いなき生を送り、助けを必要とする者に仕えます」


数人の神官が祭壇へ長い木箱を運んだ。封を開ければ、教会の印章の押された書簡と、鞘に収められた一振りの剣が現れた。柄は黒象牙のようで、夜の稲妻のような暗い文様が嵌め込まれている。刃の付け根、鍔の中央には赤い花の宝石がはめられ、そこから黒い棘が伸びるような意匠があって、少し呪われたようでありながらも優雅だった。


大司祭様は書簡を取り、封を切り、 solemn に読み上げる。

「聖なる神託により、ここに汝の天命を授ける。女神の鍛えしこの剣を以て、魔王の息子を討ち、この世に調和をもたらせ」


私は膝まずき、頭を垂れた。

「謙虚と献身をもって、この使命を受け入れます」


「ならば、これよりこの剣は汝の美徳なり。未来を護るため、道を見失うな。逃げるな。たとえ明日が崩れ落ちようとも、希望の光であり続けよ」


「誓います」


大司祭様はヴェールを取り、手をかざして祝福した。これは夫との結びつきではない。自分自身との、そして背負うべき運命との誓いだった。


私は立ち上がり、剣を柄ごと手に取って鞘を抜いた。刃は銀色に磨かれ、鏡のように光る。その側面には花の彫刻が繊細に施され、中央には一直線の金の筋が走っていた。まるで光の脈のように、神聖な力が宿っているかのようだ。威圧するだけでなく、心を奮い立たせる美しさがあった。聖女の真の力は破壊ではなく守護にある、そう告げる象徴だった。


私は柄を握り、剣を頭上に投げて空中で留めた。先端は天を指している。

――ダンス・オブ・ソード(剣の舞)。何年も練習してきた技。今日、この聖剣で初めて披露する。


片腕を伸ばし、手のひらを開いて剣を支える。誇らしげに刃を見上げると、参列者たちの拍手が雷鳴のように響いた。鐘は朝を告げ、ステンドグラスから差す朝陽が刃に反射して壁を照らす。清らかでありながら舞踏のしなやかさを纏った装いで、私は聖女として、剣とともに舞い出た。


***


その夜明け前の森の広場は、まだ月光に照らされていた。私は両手で剣の柄を握り、刃を地面に突き立て、その上に身を預けていた。


「陰から見てるのはやめて。気味が悪い」


クロはどこからともなく現れ、いつもより陽気に振る舞っていた。

「許してくれ、聖女の装いを拝まずにはいられなかった。それに、その構え、かっこいいよ」


私はため息をついた。


「まいったな……君はそんなに立派な格好なのに、俺なんてただの地味な服だ。釣り合わないよ」

クロは杖を地に突き、唇に微笑みを浮かべた。

「まあいいさ、約束は約束だ。でも、殺されないなら一つだけ頼みを聞いてもらおう」


「悪魔と取引はしない」


「大したことじゃない。君について一つだけ知りたいだけだ」


「時間がない。今から君を一分以内に討つ」


私は右手で剣を構え、クルリと振り抜き、ダンス・オブ・ソードで剣を呼び戻して周囲に漂わせた。身体の動きに合わせて刃が舞う。


一歩一歩が打撃だ。回転は防御。


クロの顔はこれまで見たことのない表情だった。驚嘆に満ちている。恐れて避けるのではなく、笑っている。


彼は私の手に触れるふりをして、かすかに腕を通り抜けるように動き、私をダンスの流れに引き寄せた。剣は彼の肩上をかすめるだけで、深く傷つけることはなかった。


「なんて美しい所作だ」


彼は汗もかかず、息も乱れない。まるで――楽しんでいるかのようだ。


「ふざけないで!」


私は怒りと苛立ちで叫んだ。


「ただ君に合わせてるだけだよ。左、右……完璧だ」


彼は柔らかく回避し、剣を踊る相手の一部として扱った。なぜ攻撃が当たらないのか、自分でも分からない。集中しろ、と自分を叱咤する。


クロは腰をかがめ、まるでワルツのように私の腰に手をかけるふりをした。だが触れはしない。唇が耳元に近づき、囁いた。


「聖女が悪魔と舞うなんて、なんて面白い冒涜だ」


その言葉に、鳥肌が立つ。


彼は優雅に初手をかわした。再び剣を振り下ろした時、彼は自分の杖で間に合わないと悟り、慌てて私の手を掴んだ。刃は彼の首元から数センチ。じっと目を見合わせると、彼の琥珀の瞳が私の瞳を映す。


彼はすぐに視線を逸らし、頬を赤らめた。


「……ごめん。触るべきじゃなかった」


そう囁き、私の手を強く握った。

「でも、もし放っておいたら、今頃は死んでた」


鼓動が早くなる。恥ずかしさを隠そうと、私は彼の手を荒く振りほどいた。顔を強張らせて言う。


「約束は果たした。あなたを討つと言った。失敗だ」


素早く剣を呼び寄せ、鞘に収める。クロは黙ってそれを見守り、かすかな微笑を浮かべた。


「じゃあ、次は僕の番だ。質問してもいいかい?」


ため息が出る。悪魔と取り引きするなど、不適切で罪深いことだ。けれど契約はすでに交わされてしまった。私は意地を張ってうなずく。


彼は興味津々に首をかしげる。

「君の名は……リュダ。どういう意味なんだ?」


驚いてまばたきする。

「えっと……“ルミナス”の“ル”(光)と、古い方言で“里の人”を組み合わせたみたいなもの。聖女は光と民のためにあることを思い出させる名前」


「なるほど」


その笑みには、どこか懐かしさが混じっていた。


「どうしてそんな顔をするんだ。まるで僕の忘れた何かを思い出したみたいだ」


「ただの偶然よ。有名な裏切り者の名と似ているだけ」


彼は慌てて言葉を打ち消すように視線を落とした。

「関係ない。単なる偶然だ」


私は眉をひそめて答える。

「裏切り者なんて知らない。この世界の歴史に、そんな名の有名な裏切り者はいない」


だがその言葉は私の胸に刺さった。裏切り者――私が悪魔を信じること自体が裏切りなのか。


クロはまた私を見た。

「君の名が刹那みたいに物悲しくないって分かって安心したよ」


「え?」


「いや、つぶやいただけ」


その言葉が頭に残る。物悲しい、刹那――それらは私には似合わない。それなのに、胸の奥が微かに震える。記憶の欠片が触れたような感触だ。


「馬鹿らしい」


私はそう呟き、顔の熱を隠すために踵を返して森の出口へ向かう。声を強める。


「これで終わりだと思うな、死霊術師。隣町での勤めがある。信徒の世話を優先する。影の掃討に時間を割くつもりはない」


ちらりと後ろを振り返り、そっと言う。

「自由を楽しめ。だが戻った時、容赦はしない」


誰の返事も聞かずに去ろうとする。剣の柄を握りしめ、震える手を隠す。背後で、静かな笑い声がする。


「ふふ……冷たい聖女だ」


クロの声は軽いが、どこか苦味が混じる。

「せっかくの楽しみを奪うなんて」


目を閉じ、振り向く衝動を抑える。彼は強く誘うように囁いた。風に溶けるかのような声。


「また会おう」


その言葉が脅しなのか、優しい約束なのか、私にはまだわからなかった。


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