最高な世界の廻し方
「はぁーー間に合った!」
(いや、ほぼ間に合ってねぇよ。)
「とかいってぇ〜〜!まだ待っててくれてるジャーン!てことでコーヒーお願いします!」
(はいはい、料金は倍な。)
《この人は最近転勤で引っ越してきたらしく、毎日店にやってくる。
コーヒー飲まないと1日やってられない!んだそうだ
隣の病院で働いてるらしく、いつもは昼休憩の時間帯に来るが、今日は店が閉まるギリギリに来ると元々言っていた》
《訳としては、ある病気らしく、一定期間が経つと記憶がリセットされるらしい。
リセットまでの期間は3ヶ月。
原因は「なんか頭ぶつけちゃってー」だそうだ。
言動もそうだが、この人の病気なんて感じさせない明るさには脱帽し、親しみやすさには、まんまと絆されている。》
《「今回の世界も終わるから、1番好きな事をしておわらせるの!終わりよければ全てよしってやつだね!」
という重いんだか軽いんだかわからない話をされて、今日を迎えた。》
「そーいえば見て!可愛くない!?朝通勤の時にみつけてさー!あなたに見せようと思って」
そう言って見せてきたのは、嫌がることなくこの人の手を受け入れてる猫の写真
「猫好きって言ってたでしょ?」
(ふーーん、ずいぶん人懐っこそうな猫だな。)
最後とは思えない、いつもの流れで世間話をしながら、コーヒーを作っていく。
(はいよ、お待たせしました)
「え!!!かっわいい!!猫のラテアート?写真撮っていい?!悪用しないから!」
(どーぞ、初めてやってみたけど結構うまくできたな)
「さすが猫好き!日頃の観察が発揮されてるんだよ」
(それもあるのか?…てか、そんなに俺、猫好きな話してたか?その通りだけどさ)
「しつれいなー!確かに忘れちゃうけど、記録はバッチリしてあるんだから!じゃなきゃ仕事にも影響出るでしょー??私医者よ??」
(確かに…時たま忘れそうになるけど、お医者さまだったよな)
「忘れないでくださーーい」
毎回この時間が忘れられたとしても、この人と喋る時間が好きだと、何度だってそう思う。
「美味しかったし、可愛かったです!ごちそーさまでした!」
(…今回の世界もいい終わり方にできそうか?)
《最後の日はその時の1番のお気に入りの場所で終わらせると聞いた。
明日になれば今までのことは忘れているのかもしれないが、最後の日に選んでくれたのは純粋に嬉しさもある。それと同時に今までの最後はどこで過ごしたのか気になるなんて、重症だなと思い知らされる。》
「今回も、今までで1番最高の世界だったよ!美味しいコーヒーにも出会えたし、かわいいわんちゃんのラテアートも見れたしね!」
(いや、猫な。散々話したろ。もうリセットされてるのか?)
「そうだったそうだった!猫ね!忘れてないよ!」
(次のリクエストは犬のやつな、練習しとく)
「おお!約束ね!次はわんちゃんでよろしく!」
(この店のこと忘れてなければな)
「忘れないよ。絶対。」
(期待しないで待っておくよ、またの来店を)
何度体験してもこの瞬間だけは慣れないな。
(ご注文はお決まりですか?)
「コーヒーでお願いします!飲まないと1日やってられなくて!」
(そんなにお好きなんですね、コーヒー)
「それはそれは美味しいコーヒーを入れられる人に出逢っちゃいましてね、そこからは生活の一部です。」
(それはハードルが上がりますね。ご期待に添える様に尽力致します。)
「大丈夫ですよ。そこは忘れていないはずですから」
(はい?)
「いえ、なんでも!」
(以前もコーヒーはこのあたりのお店で?)
「引っ越してきたんですよ!最近!隣の病院で医者をやってます」
(お医者さんでしたか、隣の病院には僕もお世話になってるんですよ、1年程前に事故にあってから)
「それは大変でしたね…具合はいかがなんですか?」
(今は定期検診だけでして、身体に不調はありませんよ、ありがとうございます)
「ならよかった!でも何か不調があったり、思い出したらすぐに病院ですよ!」
(分かりました、肝に免じておきます。)
(お待たせしました。)
「…かわいいですね、わんちゃんですか?」
(はい、初めて作ってみたんですが、猫派だったりしました?)
「いえ…とてもかわいいです!写真!とってもいいですか?悪用しないので!」
(もちろんどうぞ、喜んで頂けて何よりです。)
「…覚えててくれたり…?」
(なにかお約束があるんですか?)
「いえ!何でも!頂きます!」
(どうぞごゆっくり)
忘れないって言ったでしょ。
さあ、今回も始めようか。
最高な世界を、あなたとなら何度だって