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タネナシとキュウコン  作者: 有象む象
8/12

普と空手

普が、遠くの空手道場へ通いたいと、言ってきた。

理由を聞くと。先生が変わり。前の先生の元で空手がしたいと言い。

子供が、先生を選ぶのも変だと思いつつ。

親子参観みたいな気持ちで、照屋道場へ出かけた。

そこでは、地獄絵図がこの世に存在した。



 「ねぇ、東江のおじさん。空手道場を変えたいのだけど、駄目かな」


 それは、学校へ向かう途中の出来事だった。


 朝から、夕飯の事を考えていて。

 「何が食べたい」と、聞いたら。返ってきた言葉だ。


 「別に構わないが。理由を聞いてもいいかな」

 俺は、真面目な普が、変な事を聞いてきたので。聞き返した。


 「今の道場は、空手をさせてくれないんだ。前の先生の元で、空手がしたいんだ」


 普からは、切実な悩みだと感じたが。

 俺が、直接関わる事もできず。


 「やっぱり、おじさん一人では、返答できないな。お母さんのナンシーは、何って言っているんだい」


 俺は、普を信じていたが。

 子供が道場を選ぶ事と。先生を選ぶ事に違和感を感じた。


 「お母さんは、『おじさんに相談して』って。遠くの道場に通うなら、おじさんが車で往復するから」


 まぁ。最近、スナックでバイトをしているから。仕方ないけど。

 相談された事に、悪い気はしなかった。

 むしろ、嬉しい気持ちが勝った。


 「だけど、直ぐには返事が出来ない。一度、お母さんと、相談をして。返事をするよ。大丈夫、遠くても。おじさんは、車を出すから」


 俺は、天音ちゃんを左手で抱きながら。右手で、普の頭を撫でた。



 次の火曜日に、俺は照屋道場にいた。

 金城くんに、カメラマンをお願いして。

 突然のサプライズ訪問を決行した。


 胸の下に、『見学者』と書いた。プラカードを首から下げて。

 ウキウキで、授業参観を観に行く、父親になったつもりでいた。


 俺達は、少し離れた、玄関で待機して。

 子供達は、正座して。師範が来るのを待っている。


 2階から、師範の中村がゆっくり降りてきた。


 道場に入り。子供達の前で正座をすると。


 「師範に、礼」

 一人の少年が、号令をかけた。


 「「「お願いします」」」

 子供達は、口を揃えて。頭を下げた。


 「神棚に、礼」


 「「「お願いします」」」


 「今回は、見学者が来ています。挨拶をして下さい」


 俺達は、中村師範に呼ばれて。道場の片隅に案内された。

 座布団も無く。板の床に正座をした。


 普は、この時点で俺達に気付き。合図を出そうとしたが。


 「よそ見をしない。強い体を作る為に、体を鍛える事が、大事なんだ。いつものように、練習をします。始め」


 子供達は、道場の後ろに走り。プロテクターを身に着けた。


 小さな子供は、身の丈ほどのミットを持ち。

 中村師範のローキックを受けている。


 小さな体が、宙に浮き。後ろに飛んだ。

 その後方で、子供が子供を支えている。


 俺は、眼の前で起きている事に不愉快を覚えながら。金城くんを、横に見た。

 金城くんは、カメラを回し。撮影をしている。


 普の番が訪れて。俺はキレた。


 「何度言ったら、スナックナンシーを開けるんだ。お母さんに、お願いしろ」


 俺は、宙に舞う普を見て。

 立ち上がり。歩みを進め。


 次の瞬間、コケた。


 『バン』


 久しぶりに、顔から床に行った。

 多少、手で押さえたが。鼻や頭を、思い切りぶつけた。


 俺は、振り向き。金城くんを見た。

 金城くんが、俺のズボンの裾を引っ張って。

 俺を、ひっくり返した。


 金城くんは、冷静だった。

 全てを、録画するつもりらしい。


 子供達は、笑いだし。


 「東江さん、大丈夫ですか」

 中村も、反笑いで。俺に問いかけた。


 俺も、子供達の笑いで。少し冷静さを取り戻し。


 「すみません。足がシビレました」


 更に、子供達は俺を指し。笑っている。


 「東江さん達は、アグラをかいても宜しいので。自由にお座り下さい」

 中村も、ニタニタしている。


 だが、1時間半の地獄が始まった。

 拳を握り。その拳を、床にぶつける事も、許されず。太ももにぶつけ。シビレを治すふりをし。


 金城くんからは「声が漏れている」と。呟かれ。

 目の前では、地獄絵図が広がっている。


 中村を、地獄に落とす事も考えられないほど、怒りに満ちている。


 「師範に、礼」

 時間となり。地獄は終わった。


 「「「ありがとう御座いました」」」

 子供達は、素直に中村の言葉を信じている。


 解散となり。子供達は、更衣室へと向かい。

 中村は、俺達に近付いてきた。


 「どうでした。ここで、お子さんを鍛えたら。強い子供に、鍛えて見せますよ」


 俺は、スッと立ち上がり。10cmほど身長の高い中村に、終わりを告げた。


 「普。二度と、ここに通わなくていい。こんな馬鹿に、空手を教える資格はない」


 中村は、怒りを表し。金城くんから、カメラを取り上げようとした。


 俺は、金城くんを玄関の方に逃がし。中村を、捕まえた。


 その間も、金城くんはカメラを回し続け。中村は、罪を重ねた。



 俺は、周り50代とは違い。動ける方だが。武闘派で、鳴らしたわけではない。

 クリンチするだけだ。

 離れて、打撃を貰ったら。逆転してしまう。


 逃げる事が、優先されたが。

 金城くんは、道場に戻り。角度を変えて、撮影を続け。

 余計に、中村の攻撃を耐えないといけなくなった。

 「なぜだ。何故倒れない。素人のくせに」

 中村は、自信家のようだが。俺にも意地があった。


 「子供が、耐えたのに。大人の俺が倒れる訳には行かない」

 プロテクターも無く。体を密着させて。金城くんとカメラを守る事で、精一杯だった。


 これを止めたのは、駐車場で待機をしていた。大人の部の人達だった。


 6時半を回り、準備の為に。ゾロゾロと玄関を抜けて、中村師範を止めた。


 「違う。俺は騙されたんだ。あのカメラを、取り上げろ」


 中村は、羽交い締めされながら。大声で叫んでいる。


 中村の言葉で、2階から年老いた老人と。身重な女性が降りてきた。


 「何事だ。何があった」

 老人は、騒ぎの原因を聞き。


 「俺の指導は間違っていない。強い子供を作るために、やった事だ。俺は、悪く無い」


 俺は、大人の部の人に支えられながら。

 「お前の頭の中は異常だよ。あんな鍛え方は、おかしい」


 「何を言っている、強い子を育て。中村道場を、作り。俺のやり方で、空手界を盛り上げるんだよ」

 中村は、馬鹿な夢をほざいた。


 「そんな夢が、叶ってたまるか。お前は、終わりだよ」



 救急車のサイレンが聞こえ。見知った顔が、現れた。


 「東江さん、今日は出張営業ですか」

 全身ボロボロの俺を見て、第一声がこれだった。


 「あっ。東江さん。お疲れ様です。本日は、どうされましたか」

 こいつ等は、俺の事を『当たり屋』だと思っている。


 「見れば分かるだろ。被害者だ。病院に頼む」

 俺は、口の中が切れていて。会話もオックウになっている。


 「老人ホーム以外で、患者さんの名前覚えているの東江さんだけですよ。『毎度、どうも』ってレベルですよ』


 「最近、無かったから。捕まったもんだと思ってましたよ。なぁ」


 「そういえば、最近なかったな。貯金が尽きたですか」


 俺も、オジサンになったもんだ。言われ放題だ。

 睨みも効かないし。空気も読めない。


 「お願いします」

 金城くんが、口を開き。


 救急隊員は、ストレッチャーを出さずに。

 俺に肩を貸して、そのまま運んだ。


 「東江さん、当たり屋って儲かるんですか」

 クドい。俺は、ストレッチャーで横なりながら、馬鹿な質問に答えた。


 「あんな物は一時だけだ。年食ってから、身にしみるんだよ」

 俺は、反面教師になろうとしたが。


 「でも、続けてますよね。やっぱり、儲かるのかな」

 何を言っても、無駄なようだった。

 俺は、切れた口を押さえて。喋るのを辞めた。


 二度ある事は。


 「東江さん。診断書の方は、何て書きましょう」

 前回の大道芸が、マズかった。


 「普通に、打撲でお願いします」

 俺は、申し訳なく。頭を下げた。


 「階段じゃないのですか。あっ、そっちですか」

 医者の方も、勘違いをしている。


 「えっ。まぁ。はい、宜しくお願いします」

 まぁ、今回は、そっちだから。もう一度、頭を下げた。


 「あのー、申し上げにくいのですが。院内に、拳銃を持ち込むのを、止めてもらっても宜しいですか」

 俺には、何の事だか分かってなかったが。


 「養育費が、少し遅れただけで。銃口を向けないように、お願いしたいのですが。診断書の方は、何とかしますから。お願いします」


 先生は、深く頭を下げてきた。


 「申し訳無い。確認次第、言って聞かせます」


 先生は、何となく俺の過去を知っているようだった。


 それと、寝耳に水だ。

 真琴と兆志の父親だった。

 医者とは、聞いていたが。

 同じ病院だとは、知らなかった。


 俺は、ボロボロの体で。一人でタクシーで帰った。


 家に戻ると。皆に心配された。

 ナンシーは、特に気を使ってくれ。

 バイトを休んだ。


 俺は、金城くんが撮った動画を見ながら。

 ハラワタが、煮えくり返る思いがぶり返したが。

 中村に、一撃も与えていなかった。

 ずっと、中村に殴られ。耐えている。


 金城くんが、道場に戻り。

 玄関からでは無く。道場の端からのシーンに切り替わった。


 金城くんは、画角の中に。普を入れていた。


 自分よりも大きな、空手道場の生徒を守ろうと。

 一番前に立ち、両手を広げている。

 普が、そこにいた。


 中々、出来ることではない。

 俺は、松田学の話を思い出していた。


 これを見て、カメラマンを辺土名弁護士にしなくて良かったと思った。


 俺は、考える前に、言葉にしていた。

 「学さんって、凄い人だね」


 ナンシーは、普を後ろから強く抱きしめて。

 「私の宝物。似たのは、肌の色だけね。本当に、お父さんにそっくり」

 ナンシーは、普の頭を吸いながら。涙を流している。


 「ただいま」

 京子は、重たいカバンを置いて、俺の顔を見た。


 「派手にやられたね」

 

 俺は、京子に体を触られながら。

 京子のカバンを奪った。


 「駄目。女の子カバンを触るなんて。このスケベ。変態。辞め」


 京子のカバンの中から、リボルバー(レンコン)が出てきた。

 シリンダーの中は、空だったが。


 「東江さん、それ本物ですか」

 金城くんが、核心を突いた。


 俺は、シリンダーを戻して。銃口を、金城くんに向けた。


 「殺傷能力、100%を試してみるか」

 誰もが、固唾をのんだが。


 「本物な、わけないじゃん。玩具だよ、玩具」

 兆志が、突っ込みを入れた。


 「迫真の演技だと思ったんだけどな。Vシネマみたいに」

 俺は、銃口を下げて。金庫に銃を戻しに行った。


 金城くんは、ノートパソコンを使い。USBに動画を映しながら。冷めたピザを口に運んでいる。


 俺は、今に戻ると。

 「明日、金城くんは暇かな」


 「これは、脅しですか」

 銃口を向けられた事で、警戒された。


 「人聞きの悪い。暇なら、運転手をお願いしようと思って」

 そんな風に、金城くんを使ってはいない。


 「明日は、遠慮します。用事がありますので」

 カメラをイジルのに忙しい。


 「帰りに、照屋道場にUSBを届けてもらえないかな。頼むよ」

 俺は、帰りがけに仕事を依頼し。

 金城くんは、帰りの駄賃として、仕事をこなした。


 ナンシーは、バイトを休んだが。

 普と家に戻った。


 京子は、変わらずに。俺の世話をして。

 「リハビリ、リハビリ」なんて言い張り。

 俺に跨り。上で暴れていた。



 俺は、朝食当番を休み。お昼前に起きた。

 京子は、夜勤らしく。キスして、起こしたが。

 もう一休みするらしいし。


 俺は、熱いシャワーをひかえて。歯を磨きながらも。まだ口の中が痛む。


 中村に対しての怒りが湧いてきた。

 俺は、タクシーを呼び。豊見城の空手会館へ向かった。



 制服なのか。かりゆしウエアを着用した女性が受付に立っている。


 「アポをお持ちですか。ならず者は、排除して良いと、伺っております」

 腫れ上がった、俺の顔を見ての事だろう。

 だが、物騒な女性にも感じた。


 「アポを、取りに来た。これを、偉い人に見せて欲しい」

 俺は、受付の机にUSBを置き。


 「明日。弁護士の先生を連れて来ますので。よろしくお願いします」


 俺は、痛む口を押さえながら、言い切ったつもりだった。

 USBを、見てくれていたら。事の重要性を、知るだろうと思っていた。


 俺は、辺土名弁護士の元へと向かい。

 途中で、コンビニに寄り。沖縄そばとオニギリを購入した。


 辺土名弁護士は、仕事が早いのか。暇なのかは、知らないが。呑気に、小説を読んでいた。


 「辺土名先生は、お暇ですか」

 ここは、アポを取っていたので。問題無く入れた。


 「何ですか。離婚調停を1件抱えていますが。割と暇ですよ」

 推理小説を、開いたまま返して。机の上に置いた。


 「この、動画を見て。忌憚無い、弁護士の視点で意見を聞こうと思って」


 俺は、レンジを借りて。オニギリを温めた。

 沖縄そばは、時間が経ち。水分を大量に吸い取り。いい感じに、フヤケている。


 俺は、オニギリを小さくかじり。フヤケた麺とスープで、胃に落とした。


 「何ですか、この動画は。直ぐに、被害者の会に参加するべきです。これは、児童虐待ですよ」


 辺土名弁護士は、動画から目を離さずに。俺に語りかけた。


 「まだ、被害者の会は無い。これは、昨日の動画で。先に、空手会館に挨拶してきた」

 俺は、遅めの昼食の理由を話した。


 「子ども一人、三十万とPTSDの保証ですか。東江さんは、100万が、妥当ですかね」

 辺土名弁護士なりの答えを出した。


 「それだけか。他に何か無いか。俺の100万は安くないか。最低でも、500は取れるだろ」

 中村を潰す決定打が欲しかった。


 「空手道場の解体。くらいですか。二十歳までの保証だけても、お金はかかりますから」


 どちらの弁護士なのだか。アテにはして無かったが。暇そうなので助かった。

 

 翌日、辺土名弁護士と共に。空手会館に顔を出した。

 昨日の女性が、同じユニホームで。受付にいた。


 出迎えも無く。静かだった。

 拍子抜けだったが。


 「昨日、話しと通り。弁護士の先生をお連れした。偉い人を呼んで頂きたい」


 受付の女性は、蔑む目をしながら。


 「私に、卑猥な動画を見せて。ユーチューブにアップするつもりでしょ。迷惑系、ユーチューバーでしょ。貴方達」


 おいおい。世の中、馬鹿が多すぎるぞ。瑞慶覧で、お腹いっぱいなのだが。


 「すみません。昨日、アポを取りに来ましたよね」

 俺は、昨日の事を話した。


 「ですから、私はこのような卑猥な物は見ません。お引き取り下さい」


 「ごめんなさい。弁護士の辺土名と言います。遊びでも、ユーチューバーでもありません。どなたか、話が出来る方おられませんか」


 辺土名弁護士も、穏便に話し。東江の気が変わらない事を願っている。


 「クドいですよ。卑猥な物は持って帰って下さい」

 受付の女性は、USBを投げて返した。


 「いいのか本当に、大惨事になるぞ」

 俺は、大声を出し。口を抑えた。



 そこに、騒ぎを聞きつけた。西村課長が現れた。


 「何の騒ぎだ。ここを何処だと思っている」

 中年の小太りなオジサンが。同じユニホームを着て現れた。


 「こちらは、私の依頼者の東江さんで。被害者です」


 辺土名弁護士は、口を抑えた俺に気遣い。会話を進めようとした。


 「違いますよ。迷惑系のユーチューバーです。私に、卑猥な動画を見せようとして。USBを見ろと迫ったんです。絶対に。外で誰かが、動画を撮影していると思います」


 西村は、弁護士バッチを疑い。彼女を信じて。

 玄関の大きな鏡の前に立ち。髪の毛を整えた。


 その後は、外へと飛び出し。建物を一周して来た。


 返ってくるなり。ユニホームのかりゆしウェアのボタンを開けて。大量の汗をかきながら、自販機に走った。


 「何処にも、撮影クルーは居なかったが。警察を呼ぶ前に、ここに出せ」


 西村は、甘い炭酸を取り出して。喉を鳴らした。


 「何をしているのですか。騒々しい」

 空手着を着た、50代の男性が現れ。二人を叱りつけた。


 「ここで、貴方が一番偉いのですか。私は、弁護士をしております。辺土名と言います。こちらは、依頼者の東江様です」

 辺土名弁護士は、名刺を出し。挨拶をした。


 「安仁屋部長も、騙されないで下さい。こいつ等は、迷惑系のユーチューバーです」


 受付の砂川が、安仁屋部長に対しても。動画を見るのを、阻止しようとしている。


 「この動画を見ないのであれば、マスコミに垂れ流します。宜しいですね」


 俺は、辺土名弁護士から、USBを奪い。最後に、マスコミと言い。脅しとも取れる発言を俺がした。


 「砂川くんは、向こうを向いていなさい。私が確認をする」


 安仁屋部長は、俺からUSBを受け取り。

 テーブルのノートパソコンに刺した。


 そこには、目を疑う光景が流れて。

 「砂川くんも、西村課長もこの動画を見なさい」


 安仁屋は、ノートパソコンから目を離し。こちらを見た。

 「こちらは、何処の道場ですか」


 「浦添の照屋道場で。映っているとは、中村師範になります。っで、先程の答えですが。貴方よりも、偉い方は、居られますか」


 辺土名弁護士は、先程の答えを求めた。


 「私より上は居ますが。生憎と外出しています。今直ぐ、連絡入れを入れますので。応接間方へ移動願えますか」


 安仁屋は、ノートパソコンを持ち上げて。


 「砂川くんは、応接間へ案内して。西村くんは、自販機からお茶をお出せて下さい。私は、事務所で照屋道場へ確認の電話を入れないといけません」


 砂川は、態度を改め。俺達を案内して。

 西村は、ブツブツ言いながら。自販機へと向かった。


 「これだから、昨日の時点でアポを取ったんだ。辺土名先生帰ろう。非常に不愉快だ」


 案内しようとした、砂川を横目に。

 ノートパソコンをからやっと目を離した、安仁屋部長に苦言を呈した。


 「最近、何処だったかな。ホテルの中華が美味そうな店が有ったよな。食べに行きたいと思っていたんだけど。何処だったかな」


 俺は、独り言を言いながら。砂川に背を向けて、玄関へ向かい。そのまま外へ出た。


 後を追うように。辺土名弁護士も付いて来て。

 道路まで行き。タクシーを求めた。


 安仁屋は、西村に引き止めさせたが。

 「見送りは、いらない」と、突き返した。


 四時過ぎに、辺土名弁護士から連絡を受けた。


 「明日のお昼一時に、リゾートホテルの中華『包龍』での打診が有りましたが。どうしますか」


 俺は、二つ返事でOKした。

 中村をぶっ潰すプランが出来たからだ。


 「ねぇ。その昼食会に、私も参加出来たりするかな。昴さんを、疑う訳じゃ無いけど。中村を潰す所を確認したいのよ」


 俺は追加で、ナンシーの事をお願いして。明日の為に、ナンシーのスーツを買いに出かけた。



 ナンシーは、朝早くからメイクを終えて。

 スウェットの俺に対して、スーツを着るように求めている。


 ピンクのパンツスーツで。ギリギリ5件目でやっと見つけた。


 「俺は、被害者だから。スウェットで良いんだよ」


 しかし、追い打ちをかけるように。アイロンがビシッとかかったスーツで。辺土名弁護士が登場した。


 「ほら。辺土名先生も、アイロンのかかったスーツを着ているわよ。昴さんも、スーツにしましょ」


 ナンシーは、軽く辺土名弁護士をディスり。

 クリーニングのビニールがかかった。ダークグリーンのスーツを出した。


 俺は、スーツに着替えながら。

 「そろそろ、お前達もお腹に何か入れておけよ」


 「何を言っているんですか。これから、ホテルで中華なんですよ。他の物を入れるスペースは、有りませんよ」 


 辺土名弁護士は、中華を楽しみにしている。


 「お前は、口の中が切れている俺に、熱々の麻婆を食わすつもりか」


 少しは、治ってきたが。まだ完治していない。


 「せっかくのホテル中華を楽しみに。朝食を抜いたのに」

 辺土名弁護士は、残念そうに。


 「何故、ホテル中華にしたんですか」


 「そうよ。何で、ホテル中華にしたのよ」

 ナンシーも、疑問に思っていた。


 「日を改めて、家族で伺うからだろ。それに、味わうなら、家族団らんでが、一番だよ」


 俺は、ホテルの食券目当てなのを語った。


 「その時は、僕も呼んで下さいよ」

 辺土名弁護士は、ホテル中華を楽しみにしているた。


 「あぁ。心配するな、金城くんも誘う予定だ」

 俺は金城くんも、誘う予定だった。


 着替えも終わり。タイミング良く、タクシーが現れて。

 時間的に、少し早いが。俺達は、タクシーに乗り込んだ。


 やはり、少し早く到着した。

 俺達は、タクシーを降りて。ドアマンに、中華のレストランの場所を確認すると。


 「正面のエレベーターで3階に上がり。左手の一番奥でございます」


 距離が少し有りそうだ。

 ナンシーは、靴も新調して。まだ慣れてなかった。


 ボロボロの俺に、腕を絡めて。顔を歪めること無く。俺達は、エレベーターに乗り込んだ。


 辺土名弁護士を先に行かせ。

 俺とナンシーは、トイレへ向かった。


 先に、出て来た俺が、ナンシーを待ち。

 時間もあると思っていた。


 急いで、辺土名弁護士がやって来て。

 「皆さん、もう集まっています」

 余計な連絡を、挟んできた。


 まだ、30分近く早いが。

 全員揃っているらしい。


 「いちいち報告するな。予定の1時まで。まだ、時間は有るのたから。頼むから、うろたえるな。恥ずかしい」


 個室から飛び出して来たのが、見え見えだった。

 

 ナンシーが、メイクを直し。中華レストラン『包龍』へ向かった。


 辺土名弁護士が、先頭して。

 個室の前に、若いスーツが立っている。


 辺土名弁護士が、小走りで。若いスーツに声を掛けると。

 深く頭を下げられた。


 こちらも、頭を下げると。スーツの内ポケットから、名刺を取り出した。



 『空手協会沖縄支部、顧問弁護士。佐久間直臣』

 「顧問弁護士の佐久間です。御手柔らかにお願いいたします」


 挨拶を、そこそこに。個室の扉が開くと。

 9人の男女が土下座をしている。


 「「「「東江様。並びに松田様。この度は、誠に申し訳ございませんでした」」」」


 圧巻にも見えるが。厚かましくも感じる。

 特に、照屋道場の老人と身重の夫人は、最悪感すら覚える。


 「そんな事をして、済むのでしたら。警察や裁判所など入りません。3人以外は、席に着いて下さい」


 老人と夫人は動かず。西村が立とうとしている。


 「お前と砂川は、正座組だ。済みませんが、着席願えますか。痛々しくて、話にならない」


 俺が、老人に手を貸し。ナンシーが、夫人に手を貸した。 



 「取り敢えず。3人の名前を、お聞かせ願えますか」


 俺よりも年上だったが。先に名乗ってもらった。


 「沖縄支部の代表を務めています。前原です。この度は、東江様と普くんを始めとした、子供つに対して、責任を取り。辞職しようと思います」


 前原は、書道が得意なのか。達筆な字で、書かれた。分厚い辞表届を回転テーブルに置き。くるくる回して。辞表届を、俺の前で止めた。


 「少し、気が早すぎるが。退職金は、幾らの予定だ。夏のボーナスは、幾ら入る予定だった」


 前原は、横の男に聞いて。

 「退職金は、800万程で。夏のボーナスは、80万の予定だそうですが。何か繋がりは御座いますか」


 「大アリだ。こんな馬鹿のせいで、キャリアを失うのも。どうかと思うぞ。大事にする気なら、砂川と西村の時に、マスコミに話している」


 俺は、平和的な解決を望んでいる。


 「横の人は誰ですか」


 隣の具志堅が、立ち上がり。一例をして。

 「広報の具志堅です。マスコミに漏らさずに居てくれた事に感謝し。申し訳ないと、子供達にも謝罪をして。子供達の肉体的にも、精神的にも、保証し。賠償金も払う予定です。東江様にも、賠償金は、お支払いいたします」


 「当たり前だ。保証して貰わないと。マスコミに、バラすぞ」


 俺は、退職届を一時預かり。具志堅が置いた名刺を、回転テーブルを回して。受け取った。


 「豊見城の空手会館の館長をしております。大城です。昨日は、留守だったとは言え。部下が、失態をさらし。申し訳ありません」


 こちらも、分厚い辞表届を、テーブルに置き。回転テーブルを回した。


 「お前の罪は、重くなるな。二人が、辞表届をだしたぞ。中村」


 俺は、首を横に向けて。中村を睨んだ。

 中村は、酷い顔をしている。

 全ては、自業自得なのたが。見るも無惨だ。


 次に、安仁屋部長も挨拶をして。謝罪し。

 「二度とこのような失態がないように。道場に通達して。見回りを強化したいと思います」


 「ごめんなさい。悪乗りしました」

 西村は、反省の色が無かった。


 「馬鹿。頭を下げて。反省しろ」

 安仁屋部長が、顔を赤らめて。席を立ち。西村に言った


 「俺。そんなに悪い事をしましたか。この中村が、一番悪いし。砂川が、あんな事を言わなければ。普通に、対応していたと思うんですよ」


 砂川に、責任を押し付けようとしている。


 「はい。私が悪いです。子供達の不幸を1日伸ばしてしまいました。私の責任です」


 砂川は、頭を一度上げて。持参した、未開封の2Lの水を取り出し。ペットボトルに、頭突きをした。


 「誠に、申し訳御座いませんでした」


 『ゴン』


 2Lのペットボトルは、破裂して。西村に水をぶちまけ。本人は、意識を失っている。


 皆が心配して。西村が、砂川を揺すると。

 砂川は、意識を取り戻し。


 「御見苦しモノを、見せてしまい申し訳ありません」

 また、カバンから、ペットボトルを取り出そうとしたので。皆で止めた。


 「馬鹿、迷惑なんだよ」

 西村は、砂川を見限ろうとしている。


 「西村さんは、クビが怖くないのかい」

 俺は、些細な事を聞いた。


 「俺は、この女に騙されただけなんだよ。悪い事はしていない。それに、お前に、そんな権限は無い」

 西村は、立場が分かっていなかった。


 「馬鹿。お前も、言葉を慎め。東江さんは、お前の為に言っているんだぞ」

 館長の大城も、西村を叱りつけた。


 「ごめんなさい。西村さんは、独身ですか」

 俺は、失礼とは思わなかった。独身だったら、このまま首にした方が、良いとまで考えた。


 「居るが。居たら問題あるのか」

 西村は、更に強気で答えた。


 「分かった。テレフォンを使わせてやる。嫁さんに、クビになって良いか。確認を取れ。クビで良いのか、ファイナルアンサーしろ」


 俺、以外もクビで良いと。傾き始めた。


 「何で、俺が嫁の意見を聞かないといけない。クビに出来るならしてみろ」


 「良いから。西村くんは、奥さんに電話して。君の人生だけじ無いんだよ。子供も二人いるんだから」

 安仁屋部長が、西村に現状を知って欲しかった。


 安仁屋部長に、ほだされて。渋々嫁に、電話をかけた。


 「なぁ。俺、クビになっても構わないよな」

 西村は、最初だけ。強気だった。


 「どうでも、良いだろ。そんな事。えぇ。違うけど。そうじゃないけど。謝れば、何とか。離婚はしない。分かった」


 意気消沈した西村は、一転して謝った。

 「私が、間違ってました」

 西村は、砂川の横で。床に頭を付けた。


 俺は、道場主であろう老人に目を向けた。


 老人は、椅子から立ち上がり。西村の横で手をつき。頭を床に付けた。


 「ワシの事は、どうなっても構わない。孫と生まれて来るひ孫を、許してほしい。道場も畳む。引っ越せと言うなら、引っ越す。後生だ、孫には関係無い。ワシが、照屋道場の跡取りを、望んだだけなんだ」


 妊婦の孫も立ち。膝を付こうとして。

 俺が止めた。


 「これをすると、話が進まなくなるので。席に着いて下さい。お孫さんとひ孫の、これからを話し合う場です。ご着席下さい」


 老人は、もう一度頭を下げて。ゆっくりと立ち上がった。


 「私も、生まれてくるこの子に、何か有ってはなりません。私に、出来る限りの事はいたします。だから、この子だけは許して下さい」


 中村夫人も、涙を流し訴えた。


 「お子さんだけで、宜しいのですか。旦那さんは、どうなっても」


 俺は、中村夫人の真意を尋ねた。


 「どうなっても構いません。自分の子が生まれるのに。他人の子に、あんな非道が出来る人なんて。こっちから、願い下げです。明日にでも、離婚します」


 中村夫人は、あの動画を見たようだ。


 「どうなんだ、道場を一軒潰し。二人の老人を無職にして。子供達に非道を尽くした馬鹿。反省してるのか」


 俺は、中村の口に巻かれた。タオルを外すた。


 「助けてくれ。あの道場に居たら、俺は殺される」

 中村は、ボロボロの体で。涙ながらに訴えた。


 まぁ。そうなるはなぁ。

 俺が、あの道場関係者なら。中村は、こうなる事は、目に見えている。


 俺は、中村の口にタオルを戻し。

 聞きたくもない、中村の声を封じた。


 「最後に、佐久間さんの意見を聞きたい。貴方なら、この状況に対して。いかに、処罰を与えますか」


 「まずは、子供達に対して。一人50万の賠償金と二十歳までの保証をし。東江さんには、150万の賠償金をお約束いたします」


 佐久間は、俺の顔を一度見て。


 「飽くまで。私、個人の意見です。皆様には、減給をしていただき。照屋道場さんには、看板を下ろしてもらいます。中村さんは、法によって、裁きを得けてもらいます」


 辺土名弁護士よりは、良く出来ている。

 俺への賠償金が、少ないが。子供の手当が大きいからだらう。


 一通りの謝罪と、意見を聞けた。若干の違いは有ったが。ほぼ想定内だ。


 「俺への賠償金額は、一億だ」

 皆が、ザワツキ始めて。


 「あの道場を売っても、一億は無理です」

 老人が、口火を切った。


 「私の話を聞いてなかったのか。東江さん、アナタへの賠償金額は、良くて200万程度です。一億は流石に無理があります」

 佐久間は、落ち着いて話した。


 「あの、協会としても。そんなお金払えませんが」

 前原は、想定外過ぎて。理解が追いついていなかった。


 「問題無い。お前達からは、取る気など無い。賠償金額に当ててくれ」


 俺は、大声で叫び。皆が静まり返ると。続けた。


 「ユーチューブだ。あの最後の部分を、音声を消して。アップする」

 皆は、首をかしげた。


 「暴漢から、道場を守る。中村を作り出し。ヒーローに祭り上げ。再生数を伸ばす」


 「こんなヤツを、ヒーローにするのですか。解せません。却下です」

 安仁屋部長を始め。全ての人が、賛同した。


 「まだ途中だ。それに、中村の願いも叶えてやる」

 俺は、中村の方を見て。大きく頷き。続けた。


 「全国の空手家に、動画を見てもらい。いいねと登録をさせろ。それこそ、世界中でバズらすくらいに。再生させろ。その間は、道場の権利書は、俺が預かる。追随するように、子供達の動画を回し。師範を変えろ」


 俺は、前原にお願い事をした。


 「中村は、武者修行の全国行脚に出かける。例のUSBの動画を携えて。そのサポートを全国の空手協会で、面倒を見てほしい。最低でも、2年は生かしてくれ」


 次に、中村夫人の方を見た。

 「離婚は、しばらく待ってくれ。武者修行の旅は、永遠ではないが。保険金をかけている間は、離婚できない。未練はあるか」


 俺は、中村夫人に直接聞いた。


 「問題有りません。例え、ヒーローとして、亡くなったとしても。大きくなった子供には、あの動画を見せ。真実を伝えます」


 俺は、席を立ち。中村の側に寄った。


 「お前の第一声がマズかった。俺への謝罪でも。子供達への謝罪でも無く。自分の欲望が、先に出た。自業自得だ」


 そして、横の西村西村近づき。


 「減給だ。夏と冬のボーナスを、俺の元に出せ。全て水に流してやる。分かったな」


 砂川の方を見て。

 「お前もだ。2回分のボーナスを、俺の元に運べ」


 砂川は、素直に。

 「別に構わない。子供達は、私が指導して。オリンピアンを作る」 

 砂川は、変な方向へ歩み出した。


 「俺も、動画の編集とかは手伝う」

 西村も、照屋道場へ通うらしい。


 「お前達は、席に着いても良いぞ」

 俺は、二人を席に座らせた。


 辺土名弁護士が作成した。

 同意書にサインを求めて、契約書とした。


 その後は、広報の具志堅が料理を運ばせて。

 円卓に、豪華な料理が並び。


 俺は、熱々の唐揚げを。子供みたいに、手掴みして。口に運んだ。

 熱々の肉汁が、中から溢れ。切れた傷口に、染みた。

 思わず立ち上がり。中村に一発蹴りを入れ。


 俺は、八つ当たりを中村にした。

 こいつは、死んで当然のヤツだが。

 俺は、ナンシーの前で。未亡人を作った。


 

 そして、具志堅さんに。帰ると話。

 具志堅さんは、気を使い。

 ウエイトレスを呼び。ガードを渡した。


 しばらくして。

 ウエイトレスは、封筒を持参して。

 「またの、ご利用をお待ちしています」

 中身は、『包龍』の優待券30万円分だった。


 後日、皆と食事に出かけた。



 そして、事件が起きた。


 それは、普と3人で。ガレージに置くソファーを探して。歩き回っていた。何気ない、家族団らんな感じがしていた。


 俺もナンシーも、悪い気はしてなかった。

 普が、発言するまでは。


 「僕ね。大きくなったら、お父さんみたいに。警察官なる」


 ナンシーは、精査損的に膝から崩れた。

 ナンシーを、車に移動させて。休ませた。

 この日の、デートは終わり。

 ギクシャクした関係が始まる

一万で抑える事ができず。申し訳有りません。

次は、瑞慶覧リターンをします。

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