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タネナシとキュウコン  作者: 有象む象
6/12

薬物と過去(後)

ナッちゃんが現れて。家を建て替える事となった。

皆の要望を詰め込んだ、平屋が半年で完成した。



 3人は、奥の部屋から出て。

 仏間を、横切ろうとした時に。

 京子が、立ち止まり。東江に声をかけた。


 「東江さん。新しい服とバッグが欲しいのだけど。お仏壇のお金を借りてもいいかな」


 京子は、返事を聞く前に。お金に手を伸ばしていた。


 「良いよ。そんなに、高い物を買わなければ」

 俺は、簡単に返事をしてしまった。


 「ありがとう。体で返すから、期待してて」

 京子は、適当に取り。10万円が抜けた。


 更に、2万を追加して。左手で4万円を抜いた。


 「別に、体で返す必要ないから」

 京子は、俺の返事を無視して。


 「新しい、下着欲しくない」

 京子は、露骨にアピールをして。

 3人の秘密を作ろうとした。


 何も考えずに、朱美が4万円を取り。

 「純白のセットを買うの。そして、パパ色に染まるの」

 2人は、玩具を思い出して。『染まるのね』と、思った。


 「子供ね。純白なんて。最初だけよ、あんなの。私は、黒よ。クーラーガンガン効かせて。網タイツを履くの。どんな男も、イチコロよ」

 幼女体形の京子が、拳銃を撃つポーズをした。


 「私は、通販でも間に合わない。日本人サイズでは無いから。簡単に無いのよね。注文はするけど。私は、肌が黒いから、濃ゆいピンクが映えるの」

 ナンシーもドサクサに紛れて。4万円を取った。


 「もう、こんな時間になるの」

 ナンシーは、時計を見て驚き。


 「ピザを取るから、ここに普を読んでもいいかな」


 ナンシーは、チラシを見ずに。ピザ屋に電話して。適当に、6枚のピザとドリンクを注文した。 


 京子も、兆志と真琴を呼び。お寿司を取った。

 京子は、スマホの画面を見て、注文をしていた。


 俺は、ナンシーの肉じゃがを食わされた。


 天音ちゃんの魔女っ子衣装を、週末に買いに行く事となり。

 兆志が、便乗して。ゲーム機のハードを買う事となった。ここで、如くシリーズをする気らしい。


 問題は、ここだった。

 「お姉チャンも、新機種欲しがってたじゃん。お願いしてみたら」


 兆志が、余計なことを口走った。

 「私は、遠慮しとく。ご飯も食べたから、そろそろ帰ろうかな」


 真琴は、俺の顔をまともに見れず。

 顔を赤らめて、逃げるように帰ろうとしたが。


 「真琴。全然、食べて無いじゃない。具合悪いの。顔赤いわよ」

 真琴の顔は、更に赤くなった。


 「無理すること無いよ。ピザ1枚持ち帰って。お腹が空いたら、食べたら良いよ」

 俺は、真琴を家に返そうとしあ。


 京子が、真琴の顔を触り。

 「大変。熱があるじゃない。喉は、頭は、……」

 母親の行動を、取っていた。


 ナンシーが、空いたピザの箱に、色々なピザの盛り合わせを作り。真琴に持たせた。


 本人も、ピザを受け取り。家に向かった。


 優等生の普は、模範解答を見せた。

 「お母さんの為のマッサージ機が欲しいです」

 お母さんは、多分ですが所持してます。


 10時過ぎた辺りから。天音ちゃんが、ウトウトを始めて。朱美は、帰った。


 兆志も、部屋に戻り。


 ナンシーと普が、一通りの片付けをして。帰路に着いた。


 京子は、介助の為に残り。

 俺は、医者の忠告を破った。


 俺は、激しい運動を強いられて。

 看護師が、「リハビリ。リハビリ」と言い張り。

 娘の心配を他所に、俺に掛かり付けだった。



 1日置いて、騒ぎが大きくなった。

 ガキ共のパーティーの件で、原因が俺だとバレて。


 苦情や不安が、寄せられて。

 向かいのアパートからも、俺のアパートからも、引っ越しをする方がいて。 


 赤嶺不動産に、頭を下げて。

 空き部屋を、探してもらい。

 転居費用や、経費を支払い。

 菓子折りを持ち。近所に挨拶回りをした。


 急ぎだった事も有ったが。

 赤嶺不動産には、足元を見られて。

 お金を使った。


 反社だった事も有り。ご近所に挨拶回りをして。

 ご近所トラブルを回避した。


 俺は、色々と有ったが。3人と関係を持ち。

 車2台を出して。週末に、買い物へ行った。


 その後に、なっちゃんが現れた。

 なっちゃんとは、羽田空港で熱いキスをして以来だった。


 『雀のお宿』からの刺客で。

 俺の子種を搾取して。子を作る事が、使命なのだが。裕美姉の娘が、『巫女』なのが。驚いた。


 今週、中三日が危険日との事で。

 一週間は、なっちゃんが俺の介護をして。

 月に1人、『巫女』が送られてくる事となった。


 裕美姉が、由布院で宗教法人を立ち上げて。

 俺が、『マンだらけ教』の教祖となり。

 新たな、教祖を迎える為に、『巫女』が送られてきた。


 追加報酬の3億円と、実家の建て替えを打診されて。

 俺より先に、3人がOKした。



 東江は、ガレージから、父親のコスモスポーツを出して。車検に出した。


 バッテリーが、上がっていて。エンジンは、直ぐにかからなかったが。

 新品のバッテリーと交換したら。一発でかかり。


 子供ながらに、ウルトラマンごっこして。

 ボンネットに登り、叱られたのを思い出した。



 俺は、303号室に移り。

 必要最低限のものだけ残した。


 なっちゃんが、帰った後も。 

 3人が世話をしてくれて。

 2ヶ月で完治した。



 今日、スナックナンシーへ、刺客を放った。

 勘違いの島袋くんだ。


 金城くんに、話をしたら。

 島袋くんが来た。


 何でも、日当30万の仕事だっただけに。抜け出せないらしい。


 今日は、第一作戦だ。


 ルールは、至って簡単なモノだ。

 財布に、現金100万円が入り。

 スナックナンシーで、飲み食いした分が。ギャラになる。シンプルなルールだった。


 ボトルは、5万円以下ならOK。

 カウンターでは無く。ボックス席に座る事。

 付いた嬢が、アフターに誘うまで粘れ。

 ボトルを入れる度に、財布の中身を見せろ。

 最後に、アフター用の20万は残せ。


 流石は、島袋くん。

 店に着くまで、30分かかり。

 黒服にも、相手にされていない。


 ここからは、マイクのみだった。


 「いらっしゃいませ。何方かご指名はありますか」

 分かってて、効いてくるセリフだ。


 「始めてのお店なんで、お任せします」

 素人感出てる。


 「カウンターの方で、宜しかったですか」

 ここは、断われ。ボックスだ。


 「ボックスシートで、お願いします」

 ヨシヨシ。良いよ。


 「3番テーブル入りまーす」

 順調だった。


 「忍です。宜しくお願いします」

 20歳後半の女性が付いた。


 「し…島袋です。よろしくお願いします」

 島袋は、立ち上がり。テーブルに足を当てた。


 「大丈夫ですか」

 忍は、前かがみになり。

 島袋の足を気にして。足を触ったが。

 胸の谷間を、きっちりとアピールしていた。


 「大丈夫です。問題有りません」

 島袋も、しっかりと。目で追っていた。


 「なら、良かった。座りましょ」

 忍は、腕を絡めて。そのままシートに座った。


 「チョット待って」

 島袋は、もう一度立ち上がり。

 後ろのポケットから。買ったばかりのアルマーニの財布を出して。テーブルに置いた。


 金城くんのカードが入り。それらしく見えて。

 現金が見やすいように、ファスナーは開いていた。


 忍もボーイも、チラチラと見ていた。


 「島袋さ何を飲みます。早く乾杯しましょう」

 忍は、メニューを開いて渡した。


 だが、何処で練習をしていたのか。

 「シャンパンとフルーツ。少しお腹が空いたので、サンドイッチを、お願いします」


 120%の答えを出した。完全に浮いていた。


 「それじゃ。私、ドンペリ飲みたい。ピンクでなくてもいいから、お願い」

 島袋は、メニュー表を確認して。

 38000円だったので。


 「ドンペリで。交換は、大丈夫ですか」

 島袋は、ボーイに確認をした。


 「全然、大丈夫ですよ。直ぐにお取り返しますね」

 ボーイは、シャンパンを取り替えて。

 ドンペリを奥から取り出してきて。シャンパンクーラーに刺した。


 そのまま、フルート型のシャンパングラスを、テーブルに置いて。


 「フルーツとサンドイッチの方は、少々お待ちください」

 ボーイは、直ぐに立ち去った。

 忍は、シャンパンを取り出して。

 乾いたタオルで、表面を拭き取り。

 開けるふりをして、爪をチラつかせた。


 「ネイルが、剥げちゃう」

 忍は、甘えて見せて。


 「貸してみて」

 島袋は、男を見せようとしたが。


 「待って。タオルで頭を押さえて」

 島袋くんは、減点10点を貰った。


 その後は、シャンパンで乾杯をして。

 忍のリードで、会話が進み。

 ウイスキーの水割りに変えて、ペースが落ちた。


 「島袋くんは、この後開いてる。アフターなんだけど」

 俺達は、これを待っていた。


 「はい。大丈夫ですよ」

 上手く行き過ぎてて怖かった。


 「それでね。元気になる薬があるのだけど。どうかな~」

 穴から顔を出しだ。

 早く、餌に食い付きたくて、たまらないはずさ。


 忍は、足を少し開き。ミニスカートから、黒い下着が見え隠れして。


 「大丈夫だよ。僕は、若いから」

 馬鹿。違うだろ。何やってる。ちゃんとやれよ。


 「でも、でも。私は、島袋さんと気持ち良くなりたいかな。1つ3万円で、2人分で6万なんだけど。お願い。それが無いと、私、頑張れない」


 忍は、ルアーを追いかけ始めた。


 島袋くんは、財布を確認して。3枚を2回に分けて、取り出した。演技では無い。酔っていた。


 「すみません。お願いします」

 忍は、ボーイを呼び。現金を渡した。


 「えっ。大丈夫なの」 

 疑うな。スケベな狼になれよ。


 「大丈夫よ。お店を出る準備をしましょう」

 巣穴を出て、テリトリーも、出ようとしていた。


 島袋くんは、もう少し飲んで。バイト代を稼ごうとしていたが。


 忍は、伝票を確認して。アルマーニの財布から、11万を抜き取り。


 「お願いしまーす。それと、アフターします」

 忍は。ほぼ、餌に食いついていた。


 忍は、1度席を離れて。荷物を持って、直ぐに現れた。


 「ホテル行くわよ。急いで」

 島袋くんは、最後にボトルを空けて。更にキープを作ろうとしていた。


 「領収書、下さい」

 忍は、呆れていたが。

 ボーイに、断わりを入れて。カウンターに入り、領収書を上様で切った。


 忍の行動力は凄く。タクシーも、待たせていて。

 直ぐに、飛び乗った。


 俺達は、タクシーを追いかけて。いつでも、島袋くんを助けに行く、準備をしていたのだが。


 ラブホやビジネスを使わずに。

 リゾートホテルに向かっていた。


 2人は、ホテルに着くと。

 忍は、ロビーの椅子に、島袋くんを座らせて。

 受付は、忍が行い。

 俺達は、部屋の番号を知る事が出来ず。

 2人は、エレベーターに乗り。消えた。


 俺は、3階から、調べ。

 金城くんは、16階から降りてきた。


 俺達は、ダウジングの棒のようなアンテナを、両手に持ち。島袋くんの部屋を探した。


 島袋の音声が途絶えたからだ。

 忍のシャワーの音は、拾うことが出来たのだが。

 生きているのかの、確証が欲しかった。


 7024号室で、反応があると。車で待機していた、辺土名弁護士から、連絡を受けた。


 部屋の中では、忍がシャワーを終えて。

 「ねぇ、まだ寝てるの。私、一人でも始めちゃうよ。良いよね」


 忍は、財布から綺麗に折られた、紙を取り出して。

 大切に広げて、鼻から逝った。

 忍の喘ぎ声が続き。時折、島袋くんのいびきが入り込んだ。


 俺達は、辺土名弁護士から、連絡を受けて。

 踏み込むこと無く、撤収をした。


 そこからは、簡単だった。

 タクシーに乗った、3人には。申し訳ないが。


 病院の前で、オカマを掘った。

 3人に精密検査をさせて。

 忍は、逮捕となり。

 スナックナンシーに、取り調べが入った。


 鼻が良いのか。前田は、逃がしたが。

 スナックナンシーは、潰すことが出来た。



 俺達は、パーティーを開いていた。

 5LDKsの平屋が完成した。

 広いパントリーに、お米が大量に届き。

 ワインや日本酒。御当地ラーメンにスイート。

 恐ろしい程の、新築祝いが届き。


 京子は、寝室の扉が重い事に驚き。

 朱美は、憧れていた。ウォキングクローゼットに、私物を詰め込んでいた。

 ナンシーは、ガレージへ行き。綺麗に片付けられて、整備されている事と。俺が追加した、シャワールームと小さなサウナ室に感謝をした。


 これから、運動器具が順に増えて行く予定だ。


 俺は、キッチンでフルーツを切っていた。

 傷みやすいから、早く処理したかった。


 しかし、兆志は自由で。勝手に湯煎して、レトルトのカレーを食べていた。


 京子も、スイーツを空けて。

 真琴に、進めていた。


 ナンシーは、まだ無職で。スナックナンシーが無くなってからは。週末だけ、バイトに出かけている。


 普は、天音ちゃん面倒を見ていて。

 天音ちゃんは、新築の家を走り回っていた。


 朱美は、近場で経理の仕事を始めている。


 ガレージの前には、コロナスポーツが蘇り。

 たまに、同年代が写真を撮りに来ていた。


 ナンシーが、桃のワインを飲んでいると。

 走り回っていた、天音ちゃんとぶつかった。


 桃のワインは、天音ちゃんを襲い。

 頭からワインをかかった。


 朱美は、天音ちゃんの服を取りに行き。

 ナンシーは、新築の家の床を拭いた。

 京子は、子供達の面倒を見ていて。


 俺は、天音ちゃんを抱えて。お風呂場に飛び込んだ。

 服を脱がせて、頭から洗った。

 天音ちゃんも、嫌がること無く。

 大人しかった。


 2回に分けて、シャンプーをしたのだが。

 お酒の匂いは取れず。諦めた。


 天音ちゃんを、抱えて風呂場を出ると。

 明美が泣いていた。


 「パパに、お風呂入れてもらったの。良かったね」

 

 俺は、泣いている朱美から、バスタオルを受け取り。天音ちゃんの体を拭き始めた。


 「天音は、昔から男性を裂ける時があるから、少し不安だったのよね。少し安心した」


 俺は、天音ちゃんの頭にタオルを被せられながら。髪の毛を、ゴシゴシと拭いて。


 「まだ、クチャいね」と、笑った。


 天音ちゃんは、髪の毛を右手で摘み。鼻で匂いを嗅いだ。


 「クチャいね」と、笑顔で返された。


 「俺も、お風呂入るから。着替えをお願い」


 朱美に、天音ちゃんを預けて。

 シャワーを浴びた。


 ナンシーは、天音ちゃんに謝り。

 天音ちゃんも、ナンシーに謝った。


 そして、ナンシーが残り。

 日曜の朝を迎えた。


 朝早くに、チャイムが鳴り。

 俺は、服を着て。玄関を開けた。


 そこには、大きな風呂敷を持った。すみれ姉さんがいた。


 「何で、ここにアンタが」

 すみれ姉さんは、目つきを変えて。


 「蜂峯組の娘が、薬に手を出すわけ無いだろ。馬鹿か、蜂峯組は薬、御法度なんだよ。昔からな」 


 そして、大きな風呂敷を俺に渡して。


 「スナックナンシーの迷惑料だ。それと新築祝いも入っている」


 俺は、風呂敷を受け取り。話を切り出そうとしたら。すみれ姉さんが、話し始めた。


 「前田は、死んだよ。前田を匿った、志乃さんも一緒に始末した」


 俺は、動揺と感謝を見せた。


 「当然だろ。蜂峯組の組長の娘を置いて。逃げたのだから。そして、蜂峯組の二代目を、私の息子前田正勝が、継承する事となって。アンタは、二代目の仇になっちまったんだよ」


 俺は、風呂敷を玄関に置き。すみれ姉さんの説得を試みた。


 「そんな物騒な物はしまって下さい。怪我しますよ。報復は、何も生みません」


 すみれ姉さんが、少しやさしい顔になった。


 「報復は、何も生まないな。か。そうだな。私も、最初はそうだった。相楽の事を許して欲くて、

近付いただけたった。前田と松田が加わり、スナックナンシーは、おかしくなった」


 松田と前田は、繋がっていた。


 「やっぱり。松田が、裏にいたんだな」


 すみれ姉さんは、驚いて。押し黙った。


 「どうして。すみれさんが、ここにいるのですか」


 ナンシーが、何処から聞いていたのか知らない。

 すみれ姉さんは、懐刀の鞘を抜き。捨てた。


 仇を討つべく。振り回さずに、刺しに来た。


 細く軽いすみれ姉さんは、手の平を切った。

 俺の腹には、懐刀が刺さり。


 着物の袖から伸びる白い手からは、赤黒い血が流れていた。


 俺の傷口は浅く。懐刀を、抜くか、そのままにしておくか、微妙な判断をしていて。抜けないように、手で押さえてはいた。


 俺は、玄関に向かい。風呂敷をバラして。

 6000万の現金と横綱の祝儀袋彷彿させるモノを、玄関にぶちまけた。


 「ナンシーさん、新しいタオルを貰えますか」


 俺は、ナンシーを使い。新品のタオルをすみれ姉さんに渡して、風呂敷を歯で結びを作り。すみれ姉さんの首にかけた。


 「あの子は、父親のいい面ばかりを見てきた。報復は、絶対に訪れる。薬をやる前は、男前だったんだよ。蜂峯組の二代目のプレッシャーに負けて。落ちぶれたのさ。あいつは」


 すみれ姉さんは、そう言い残し。帰って行った。


 ナンシーは、俺に近づき。心配をして。京子に電話をかけた。


 「東江さんが、刺された」


 京子は、四階のベランダから顔を出して。俺は、右手を上げて応えた。


 京子は、急いで階段を降りてきて。

 刺された箇所を、確認した。


 「痛いの、痛いの、飛んでゆけ」


 京子は、オマジナイをかけて。痛みを和らげた。


 「っで、どうなの。抜いても平気だと思うけど。まずいかな」


 俺は、冷静に。京子に聞いた。

 「大丈夫じゃないかな。4針ってところよ」


 京子も、冷静に答えた。

 「二人共、何を言っているの。人が刺されたのよ。何で冷静なの」


 そして、サイレンの音が、住宅街に流れ。

 「私も呼んで、救急車も呼んだわけ」


 京子は、少し呆れて。

 「そうだね。間違っていれば。1分1秒を争う事になるわね。ごめん」


 俺は、単独で救急車に向かおうとしたが。

 京子が、玄関のお金に気付き。


 「何なのこのお金は」

 大声て叫んだ。


 俺は、振り向いて。

 「後で、説明するけど。スナックナンシーの詫びらしい」


 俺は、そう言い残し。救急車に乗り込んだ。

 

 救急車の騒いで、表に出てきた朱美達は。

 朱美は、刃物が刺さった俺を見て、驚いていたが。

 「パパ、バイバイ」

 天音ちゃんは、手を振っていた。


 俺は、ジャグリングの失敗と、言い訳した。

 苦しいが、通った。


 家に帰ると、ナンシーが焼けを起こしていて。

 天音ちゃんは、201号室で普が見ていた。


 京子と朱美が、とばっちりに遭い。

 俺の帰りと、同時に。

 家に帰ろうとしたのだが、帰してもらえず。

 ナンシーに、絡まれていた。


 「東江さんは、私を馬鹿にしているのですか。貴方が、亡くなって、この家やアパートなんかを貰って、喜べるとお思いですか」


 俺は、その言葉で命を軽く考えていた。

 ナンシーの言葉は、経験しているからの、重みが有った。


 松田学を、亡くしたから。重みのある言葉へと変わった。


 「あんなお金なんか、いりません。東江さんを、失う方が私は怖いのです」


 悲しい事を、言いますかと思えば。

 突然、キレ始めた。


 「お腹は、大丈夫なの。見せて」


 京子は、傷の具合を確かめようとして。

 俺は、安心させようとして。


 皆の前で、普通にスウェット上着を脱いで。黒いシャツの前を捲った。


 6ヶ月前の、包帯ぐるぐるとは違い。

 京子の言う通り。4針縫い。薬を塗って。ガーゼで終わっていた。


 「大丈夫そうだね。良かった」

 京子は、お腹を擦って。安心している。


 そこに、酔ったナンシーが絡んできた。

 「上着を脱いで。ちゃんと見せて」


 俺は、スッと上着を脱ぎ。仏間の畳に、黒いシャツを落とした。


 段々と、脂肪が付いてきて。7年の塀の中で、鍛えていた腹筋が、見る影を失っている。


 タイミング良く、テレビからCMの音が漏れて。

 俺の体は、反応して。手を大きく振り。腰をくねらせ。CMの様に踊りだした。


 ナンシーは、アデルのスカイフォールを流し。


 「そんなに、踊りたいなら。ストリップしなさいよ」


 俺は、ただスローテンポの曲に、クルクルと廻り。ゆっくりと脱ぎ始めた。


 目に付いたのが、仏壇の一万円で。

 一度パンツを脱いで。収納タンスから、派手なブーメランを出して。履き替えた。


 仏壇から、更の一万円札を摘み。軽く口で咥えた。

 肩をセクシーに、揺らして。ナンシーに近づき。

 口移しで、一万円を渡した。

 今度は、ブーメランパンツのゴム紐を引っ張り。

 チップを求めて。


 ノリの良いナンシーは、一万円札を縦に折り。

 パンツの広げた部分に入れた。


 俺は、一万円札を仏壇に置いて。

 パンツを脱ぎ。ナンシーの頭に被せた。


 俺は、終わりと思ったが。

 京子が、ビリー・アイリッシュのノータイム・トゥダイの曲を流した。

 京子は、両手を広げて。外国人の様に煽り。

 アンコールを、求めた。


 俺は、遊びで買った。新品のパンツを、皆の前で開封して。ノリノリでパンツを履いて。踊り始めた。


 ナンシーのように、一万円札を渡して。

 パンツに挟むと。京子は、何度も俺のお尻を叩いた。



 最後は、Official髭男dismのミックスナッツだった。


 ジャズで激しく踊り。

 最後に、パンツを被せて。

 仏壇に、お金を納めて。

 皆に、背中を向けた。  

 

 ナンシーが、スマホで写真を撮った。

 おじさんのお尻を、待受にでもするのか。

 俺の頭は、お花畑だったが。


 ナンシーは違った。


 「学さんは、普を残してくれた。貴方は、『この家とアパート』をくれると言うけど。私は、別なモノを頂く」


 ナンシーは、背中の閻魔大王を欲しがった。


 「私は、貴方が不慮の死を迎えたら。背中に閻魔大王を彫ります。この家とアパートが有れば、安泰だから。貴方が、最も嫌う事を。私はします。だから、死なないで」


 俺は、簡単に死ぬことが出来さなくなった。






 俺は、巻きたばこ屋にいた。

 安物の葉っぱを、大量に買い。

 ビニール袋に入れた。


 子供達を集めて、「バイクと交換しよう」と、交渉を始めた。


 14台のバイクが集まり。

 子供達は、大量の煙草の葉を持って消えた。


 この場で、確認しろよ。馬鹿なのか。

 詐欺に引っかかるぞ。


 俺は、3時間無駄にして。彼等は、戻って来た。


 『おっさん、騙したな』

 『ぶっ殺すぞ』

 『ハイに、なんねぇじゃないか』


「悪い、悪い。封筒に、5万円ずつ入ってるから。受け取って。ガレージの中で待っててくれ。ガレージの中に、隠してあるから」


 ガキ共は、俺から5万円を受け取り。

 ガレージの中に消えた。


 この後、予定が詰まっているのに。

 3時間も、ズレてしまった。


 俺は、ガレージの中で、上着を脱ぎ。

 閻魔大王を、晒した。


 ガキ共は、誰を相手にしていたかを知り。

 封筒を、回収した。


 「あれれ、おかしいな、おい。偽札に変わってんぞ。詐欺だろ。取り敢えず、両手を挙げようか」



 俺は、復讐をする為に。3人に、電話をかけた。


 『おっさん、ヤメロ。洒落になってねぇぞ』

 『てめえ、完全にライン越えたぞ』

 『お願い。何でもします。許して下さい』


 色々と、罵声を浴びながら。

 ガレージに、3人を入れた。


 3人は、スマホを取り出して。写真を撮り始めた。


 俺は、ガキ共のズボンとパンツを、くるぶしまで下げていた。


 屈辱は、屈辱で返した。

 更に、真琴達レディースを呼び。

 壁を向いてもらい。懐かしい言葉を言った。


 「ご対メーン」と叫び。

 皆、薄暗い部屋で。ガキ共だけに照明を当てて。

 レディースは、シルエットだけ、動いていた。


 一斉に、シャッター音とフラッシュが焚かれて。

 女性陣が、ガキ共の弱みを握った。


 そして、パンツを上げる。競売が始まった。


 「それでは、100円から始めたいと思います」


 そんなに、上がる事は無く。400円前後で、オタクぽい彼女が、ほぼ独占をしていた。


 「麻美。助けてくれよ。頼むよ」

 まーくんは、情けない声を上げて。麻美に、呼びかけた。


 「嫌よ。私のお金は、三上先輩に賭けるの。アレだけ、『葉っぱは、辞めてって』言ったのに。約束破ったんだから。私、まーくんと別れる」


 麻美は、シルエットの中にいた。


 「こんどこそ、真面目になるから。お前を、悲しませたりしないから。許してくれよ。お前が、居なくなったら、俺は、抜け殻になるだろ」


 まーくんは、ポンポンと言葉が出てきていた。


「300円」

 麻美は、まーくんの更生にベットした。


 オタク風の女子が、空気を読まずに。

 「340円」値を、吊り上げた。


 麻美は、諦めずに。

 「380円」と、負けずに上げて。


 邪魔が入る前に。

 「ハンマープライス」と俺が叫んだ。

 

 そして、麻美が、前に出てこようとしたのだが。


 ここで、例の言葉を発した。

 「チョット待った〜」


 皆が、俺に注目した。

 俺は、スマホを高く上げて。画面を見せた。


 画面は、『録音』と表示されていて。タイマーが、徐々に増えていた。 


 「約束して。私を、悲しませないって。大切に扱うって。皆の前で、約束して。破ったら。私、本当に別れるから」


 麻美は、スマホをまーくんに見せて。答えを待った。


 「分かったよ。大切にするから。俺を、捨てないでくれ」


 麻美は、『録音』タイマーが廻り続ける。スマホを皆に見せて。


 麻美の友達数人も、スマホを掲げて。『録音』していた。この中には、真琴もいた。


 麻美は、まーくんのパンツを上げて。後ろに戻った。


 一番の盛り上がりを見せたのは、特攻隊隊長の三上だった。


 『3820円』まで、上がり。女の子は、友達からお金を借りて。オタク風から、勝ち取っていた。


 一番の問題作は。朱美が、2000円で買い取った。


 彼は、フラッシュが焚かれた辺りから。

 夢を、膨らましており。


 「子供に、触らす訳には行きません。私が処理します」


 多分、彼女の正義感だ。そう願う。



 俺は、ガキ共に5万円の借用書に、サインをさせて。解放した。



 翌朝、まーくんは母親を連れてきて。


 「ZⅡを、返せ」と、叫んでいた。


 「貴方ね。子供からお金を巻き上げている方って。恥ずかしく無いのですか」


 まーくんの母親、俺を詰った。


 「まずは、これにサインをしてもらってます。効力は無いのですが。気持ちです」


 東江が、用意したのは。1枚の紙で。雑に、殴り書きされたモノだった。


 『もう、マリファナに手を出しません』


 母親は、この一文を読み。態度を変えた。


 「5万円は、お支払しますから。この事は、学校に伏せてもらえますか」 


 まーくんは、ZⅡに夢中で。

 母親は、カバンから。銀行の名前が入った、封筒を取り出して。俺に渡した。


 「これは、一度お預かりしますが。サインをさせるのが先です」


 まーくんは、簡単にサインをして。


 「早く、ZⅡの鍵をくれよ。乗って帰るから」


 俺は、神谷正義とガムテープに書いて。ZⅡのタンクに貼った。


 「鍵は、今無い。明日、郵便で届く予定だ。今朝、ポストに投函したから。まだ、赤いポストの中だ」


 まーくんは、腹をたてたが。

 「騙したな。卑怯だぞ」


 俺は、上のカメラを指して。

 「録音も、されているぞ。良いのか」


 まーくんは、何を言っても解決しないことを知り。母親と帰って行った。


 午後になると。学校で相談したのか。1人で来る者は無く。早退して来ていたが。


 ZⅡに貼られた、まーくんの名前を見て。

 ZⅡを、諦めていた。


 真琴が帰宅して。まーくんの動画を見せた。

 直ぐに、麻美を召喚して。

 麻美は、まーくんに電話をかけて。


 「まーくん。私、約束したよね。悲しませないって。もう、終わりにしましょう。バイト先にも来ないで」


 麻美は、一方的に電話を切り。

 直ぐに、着信したが。少しスマホをいじり。

 伝家の宝刀、『着信拒否』を使った。


 うるさい程、鳴っていた音が消えた。

 俺は、始めて見た。


 麻美は、ガレージの裏に移動をして。

 数人が、入れ替わりながら。

 麻美を、慰めていた。 


 俺は、真琴に3万円渡して。

 人数分の、お菓子と飲み物を買いに行くと、思われたが。


 女子数人を引き連れて、カラオケに向かった。


 10時頃に、バイトを終えた。三上が現れて。

 ZⅡから、まーくんのガムテープを剥がし。

 ガキ共のサインが揃い。

 


 俺は、花壇から鍵を掘り出して。

 「乗って帰ってもいいぞ」

 皆を、解放した。


 


 面白いことに、まーくんにも連絡が行き。

 当日に、自分のバイクを乗って帰った。 



 俺は、まーくんの母親に、直接お金を返し。

 皆に書いてもらった、契約書をラミネートして。

 ガレージのポストに入れた。


 数人が、勝手に敷地に入り。

 ラミネートを片手に。写メを取っていた。

 レディースのメンバーも、勝手に契約書を作り。

 ラミネートを、俺に頼み。

 ポストに、入っている。




 この事が、数年後。おヒレ、はヒレが付き。

 チームを解散させた。ヤクザとなり。

 拳銃やロケットランチャーを、隠しているだの。

 1人で、特攻隊を潰しただの。

 1人で、抗争を起こして。組事務所を壊滅させただの。

向かいのアパートに、変態が現れて。

朱美が、家のアパートに引っ越しをしてきた。

東江は、変態と対峙して、無抵抗にやられた。

変態は、無知で、無敵だった。

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