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タネナシとキュウコン  作者: 有象む象
3/12

天音と朱美

俺は、実家を売らずに。居住を決めた。

ボロいが、住めなくもない。

定食屋や居酒屋を、渡り歩くのも悪くないと思った。



 俺は、茹だるような暑さの中で、一夜を過ごさした。

 途中からは、室内で眠れずに。縁側に蚊取り線香を持ち出して。かすかな風を求め。

 ビールで喉を潤しながら、2時頃就寝した。


 日が差し始めた頃、体が痛く。寝返りをする度に、起こされて。いつの間にか、セミが騒ぎ。強敵、蚊の襲撃を凌駕している。


 だが、俺を起こしたのは、暑さだった。


 耐えられなかった。


 眩しいのも有ったが。室内からの蒸れた、カビ臭い匂いが。生暖かな風とともに吹き抜けて。

 俺は、目を覚まし。動かざろう得なかった。


 俺は、古い畳を、全て庭に放り投げ。燃やしたい怒りを抑え、せんべい布団も、序でに押入れから引っ張り出した。


 10時を廻り。赤嶺不動産へ電話をかけ。電気、水道、ガスを、通すように言い。

 防犯の為に、監視カメラを付けたいから。業者を紹介しろとも言った。


 電気は、直ぐに出来たが。

 ガスは、チューブとコンロを交換させられた。

 水道に至っては、屋上のタンクの交換を、余儀なくされた。


 そして、何でも屋の金城くんが、煩いオフロードバイクで登場した。


 「初めまして、金城です。防犯カメラの設置と聞いていますが。こちらで宜しいですか」


 高身長の好青年だ。


 「東江だ。宜しく頼む」


 俺は、戸を開けて、家を掃除しながら。古いクーラーを動かして。調子を見ていた。

 戸を開けていたのは、かび臭いからだ。


 「この家の防犯カメラですか」


 金城くんは、『こんなボロ家に、防犯カメラ入りますか』的な顔をした。


 俺は、アパートを指し


 「東と西の階段に、防犯カメラを付けてくれ」


 俺は、金城くんを引き連れて。

 東の階段から上がった。


 「各階の通路を、両方から撮影してほしい」


 このアパートは特殊で。東と西に4階までの階段が付いていて。両方から昇降が出来る。


 「それだと、防犯カメラは6つですね。踊り場は、どうしますか」


 金城くんは、カメラの台数を増やそうとしていた。


 「それはいい。要らない。殺人事件は、起こらないよ。追加なら、下の駐車場に2台頼む」


 金城くんに、笑顔が戻った。


 「それと。家のガレージ前と、玄関に仏間も頼む」


 俺は、合計11台のカメラを頼んだ。


 「もう一度、現場を確認してからでも良いですか」


 金城くんは、現場を見たがったので。2人で、家の方に向かった。


 まず、ガレージ前で止まり。屋根を指した。

 金城くんは、困った顔をして。


 「東江さん。夜間照明はお持ちですか。新品でも、中古でも。明るさセンサーや対人センサーの物があるのですが、購入されますか」


 俺は、少し考えて。


 「ガレージ前に、明るさセンサーを付けて。玄関に、対人センサーを付けてくれ。新品と中古は、お前に任す」


 俺は、ガレージを後にして。玄関で、細かい説明して。仏間に入った。


 金城くんは、最初は気づかなかったが。家の中に入って気付いた。


 「東江さん。このお金本物ですか」


 俺は、帯の着いた一万円の束を、仏壇に奉納していた。


 「ああ。だから、ここに一つ頼む」


 金城くんは、『仏壇の反対の壁に、カメラ』とメモに書いた。


 「これで、見積もりは幾らぐらいになる」


 俺は、アバウトな質問をした。


 「東江さんは、パソコンをお持ちですか。無ければ、中古をサービスでお安くしますけど。いかが致しますか」


 まだ、終わってなかった。


 「パソコンは無い。パソコンは、奥の部屋に頼む」


 「ざっと計算さして、145万ですが。断りますか。ギリギリの値段なのですが」


 金城くんのカメラは、市販の物を改造して。精度を上げたものらしく。少し割高で。賃金交渉では、断られたり。サービスの要求は当たり前で。交渉には、難を抱えていて。声のトーンが下がっていた。


 だから、赤嶺社長がここによこしたのだ。


 俺は、仏壇から100万円の束を、ポンと金城くんに渡して。


 「前金だ」


 金城くんは、逆に断られると思っていたらしい。


 「東江さんは、値切ったり。サービスしろとは言わないんですね。」


 金城くんは、100万円の束を見て浮かれていた。


 「俺達みたいな半端モノは。メンツで生きている。けちくさい事は余り言わない」


 俺は、少し間をおいて。


 「騙されたと知ったら、追い込みをかける。馬鹿にされたと、勘違いをして。トコトン追い込んで。逆に、3〜4倍のお金をぶんどる。素人は、泣き寝入りしかないが。俺達は逆だ」


 金城くんは、少し対応が変わった。


 「お金の確認は、しなくて良いのか。おじさんが、2枚ほど抜いてるかもしれないぞ」


 金城くんは、俺のジョークに対して。


 「その時は、その時です。勉強代として、支払った事にします」


 金城くんは、性格も良かった。

 この金は、金城くんが来る前にセットしたものだ。


 俺は、金城くんに近付いて。100万円の束の真ん中辺りを、1枚摘み。そのまま持ち上げて。

 100万円だと、証明をした。


 その日は、金城くんはその場で帰り。

 翌日から、仕事を開始した。


 俺は、金城くんと仲良くなり。

 軽トラを借りたり。

 アパートの清掃中に、飲み物の差し入れなんかもした。


 水場の床に、そのままベニヤ板を敷いたり。

 ソファーも、庭に出して叩いた。


 畳は入れずに、味気無いベッドを買い足した。


 ナンシーに、お金を上げた割には。貧乏性だった。


 そして、天井の雨漏りを気にしていたら、大雨が降り。バケツと鍋とゴミ箱で済んだ。


 俺は、コンビニへ行き。

 最近覚えた、ナンプレの雑誌と、アイスとビールの6缶パックを買い。傘を差して帰路についた。



 そこで、始めて天音ちゃんと遭遇した。


 小さな女の子が、アパートの駐車場で雨宿りをしていた。

 近くに親の影はなく、時折、空を見上げて。向かいのアパートを見ていた。


 俺は、荷物をアパートのポストの上に置き。


 (ここからは、犯罪です。見かけたら通報しましょう)


 もう一度、コンビニに戻った。

 適当にお菓子を選び、3個パックのジュースもかごに入れた。


 俺は、居もしない神に祈り。駐車場にたどり着いた。

 自分の行動を、駐車場のカメラに映しながら。

 女の子に、ジュースを渡した。


 恐る恐る、嫌われないように。

 3個パックから、一つを取り出して。渡した。


 段ボールに入った、小動物に餌付けするように。

 犯罪ギリギリなのも知っている。

 なるべく。駐車場の中央で、カメラの画角に収まるように。

 色々な事を、考えたが。

 この子の親に、一番腹が立っていた。


 女の子は、俺からジュースを奪い。

 ストローと格闘して。

 俺に助けを求めた。


 ストローは、俺でも苦戦をした。

 点線で切れず。薄く伸びて。

 ストローを取り出すと。

 喉が渇いていたのか、飲みたかったのか。パックの方を強く握り。ストローを刺すと。溢れていた。


 「パパとママは、どこにいるの」


 俺は、駐車場の真ん中で胡座をかいて座った。


 「パパは、いない。ママは、あっち」


 女の子は、向かいのアパートを指した。


 「天音ちゃんはね、もう少ししたら、お姉ちゃんになるの。だから、いい子にしないといけないの」


 俺は、父親が居ないのに、お姉ちゃんになるのが気になり。カマをかけた。


 「天音ちゃんは、新しいパパは、嫌い」


 天音ちゃんは、大きく頷き。


 「新しいパパは、叩くから嫌い」


 さらに突っ込んで聞いた。


 「お母さんも叩くの」


 天音ちゃんは、大きく首を振った。


 「ママは、天音ちゃんがわがままな時に叩く」


 微妙なラインだ。難しい事は聞けない。


 「新しいパパは、ママも叩くの」


 DVも疑った。

 天音ちゃんは、これにも首を振り。


 「天音ちゃんが、言う事を聞かないから。ママも叩かれる」


 天音ちゃんは、心を開いたのか。お腹が空いたのか。ビニール袋を漁りに来て、魔女っ子のウエハースチョコを取り出した。

 俺に、お菓子の開封を、頼みたいのか。そのまま渡してきた。


 俺は、お菓子の袋を開封した。


 天音ちゃんは、定位置に戻り。

 まず、ウエハースチョコを食べすに。シールを確認した。


 天音ちゃんは、お気に入りのシールが出たらしい。


 俺に、シールを巡って欲しいと、ねだりに来た。


 「1番はピンクで、3番は黄色。黄色が1番好き」


 この頃の俺は、この言葉を理解できてなかった。


 確かに、シールは。黄色のキラキラだった。

 剥がしたシールを、胸に貼って。ご機嫌だった。


 あの男が、階段を降りてくるまでは。


 天音ちゃんの表情が少し強張り。車の陰に隠れた。

 男は、一階に降りると。深く傘をさして、顔までは見れなかった。


 そのまま路地の奥に進み。駅への階段を登って行った。


 天音ちゃんは、駅への道を曲がった辺りから、動き出した。


 小さな道を、左右確認して。

 大雨の中を、駆け抜けた。

 階段は、壁に手を添えて。1段ずつ上がり。

 2階に上がると、ダッシュした。


 俺も、慌てて。階段を駆け上り。

 ギリギリ間に合った。


 203号室に、天音ちゃんは消えた。

 手前の2つだったら、見失っていたかもしれない。


 俺は、203号室のインターホンのボタンを押した。



 反応が無く。


 5度目のインターホンで、天音ちゃんが。怯えた表情で顔を見せた。


 天音ちゃんは、俺に気づくと。表情を戻し。何故か、大きくドアを開けた。


 「ママは、何処」と聞くと。


 天音ちゃんは、お風呂場を指した。


 ドアが大きく開いたせいで、焦げ臭い匂いが。俺は鼻をかすめた。


 突然、ベッドの布団が燃え上り。

 火災報知器が作動した。


 天音ちゃんは、怯えた表情に戻り。

 俺は、大きな窓を開けて。布団を外に投げた。


 出火元は、布団の中のアイロンだった。


 コードを抜き、布団の方に投げて。

 上着脱ぎ。スウェットの上で、マットレスを叩き。鎮火させた。


 その後は、マットレスもベランダに投げて。

 布団は、雨水を吸い。そこしずつ重たくなっていった。


 野次馬が、玄関から覗いたが。


 「申し訳ありません。ぼやです。すみません。」


 ひたすら謝り。

 入口から、人が消えると。お風呂場に向かった。


 この騒ぎで、優雅にお風呂は無い。

 俺は、確認の為に。お風呂場を覗いた。


 これが、朱美との出会いとなった。


 冷たいシャワーに打たれ。手は、バスタブから垂れ下がり。水も溢れていた。

 意識は虚ろで、両手首からは、出血していて。

 バスタブには、大きな氷が3つも浮いていた。


 朱美の体温は、非常に冷たく。

 唇は紫色に変色していた。


 俺は、朱美をバスタブから引きずり出して。

 濡れた服を、全て脱がし。薄い毛布をかけて。マッサージをした。


 血の巡りが良くなると。手首から、血が流れ始め。傷が深いのを知った。


 それでも、タオルで二の腕を縛り。マッサージを続けた。


 そして、救急が到着して。朱美と天音ちゃんを連れて行った。


 俺は、朱美の鞄を取り。ベランダから、アパートの駐車場へ鞄を投げた。


 最大の不審車で、容疑者な俺は。辺土名弁護士を召喚した。


 辺土名弁護士は、俺が事情聴取を受けている時に到着した。


 暇な弁護士で助かった。


 俺は、救急隊員に。辺土名弁護士の名刺を渡していて。朱美の入院先も、辺土名弁護士は、知っていた。


 辺土名弁護士が、俺の身元を引き受けてくれて。

 一度、容疑者のレッテルは、消えた。


 203号室は、警察の監視下に置かれ。

 俺は、駐車場の鞄を取り。狭い軽自動車で、病院へと向かった。



 「あのアパートで、何が有ったのですか」


 身元を引き受けた以上、聞く必要があった。


 「殺人事件だ」


 俺は、ボソッと呟いた。


 「んな理由無いじゃありませんか。殺人なら、東江は、拘留されてます。事情聴取だけでは済ませんよ」


 そんなことを言いながら。病院に着いた。


 まず、インフォメーションに行き。比嘉朱美の病室を聞いた。

 病室までは、教えてもらえなかったが。四階の産婦人科だと教わった。


 「そちらのエレベーターを四階に上りまして、正面に、ステーションがございます。そちらでご確認ください」


 俺と辺土名弁護士が、エレベーターに向かおうとして、俺は振り返り。


 「お腹の子は、どうなりました」


 昭和初期まで、夜鷹達が使った。流産の方法だ。諸説あるが、冷たい水に長時間耐えて。胎児を殺める。民間の風習だった。


 インフォメーションの人は、言葉を濁し。


 「こちらでは、分かりかねます」


 俺は、会釈をして。


 「分かりました、上で聞いてみます」と返し。

 辺土名弁護士と共に、エレベーターに乗り込んだ。


 「東江さんは、沖縄に来て。半月で彼女を、妊娠させたのですか」


 明後日の方角から、大炎上のナパームが飛んで来た。

 エレベーターにはか他の方も乗っていて。恥ずかしくなり。キレた。


 「たったの半月で、妊娠したか。お前は分かるのか」


 辺土名弁護士は、クスクスと笑われた。


 4階に着き。ナースステーションで、慌てた人を演出した。


 「朱美は、どうなりましたか。お腹の子は、お腹の子は、無事ですか」


 俺が、焦っている様子に。


 「残念ですが。お子様の方は、残念です病院に着いた時には、脈は無かったそうです。奥様の自暴自棄だ」


 看護師は口をつぐみ。俺を、犯人扱いした。


 「比嘉様の病室は、4103号室になります。この通路奥から3番目の右手にございます。警察の方も見えてますので、お声のボリュームを下げて頂くようお願いできませんか」


 別の看護師が、後ろから声をかけて。教えてくれた。


 「有難うございます。向こうですね」


 俺が、辺土名弁護士のヨレヨレスーツの裾を引っ張り。理解してもらえた。

 俺が、横柄な態度を取ったので。

 辺土名弁護士が、俺を止めて。挨拶をした。

 車での練習は、無駄にならなかった。


 俺は、ここから辺土名弁護士とバラバラに動き。途中の空いたベンチに座り。軽自動車から盗んだ、小説をパラパラ捲った。


 辺土名弁護士は、比嘉さんの部屋の入り口横に置かれたベンチに座り。ソワソワしていた。


 比嘉朱美のヒステリックな声は、少し離れていても、飛んできた。

 怒り狂っている。


 警察は、比嘉さんを落ち着かせて。

 逃げるように、比嘉さんの部屋から逃げてきた。


 俺は、辺土名弁護士と離れていて、正解だった。


 辺土名弁護士は、職質を受けていた。

 俺と、一緒だったら。結果は、かなり変わっていただろう。


 警察が、俺の前を通り。職質されなかった。


 辺土名弁護士が、比嘉さんの部屋に入り。俺は、ゆっくり近付いて。比嘉さんの部屋をノックした。


 「初めまして、容疑者の東江です。僕だけは、貴女の味方です。怖がらないで下さい」


 俺は、比嘉さんの家で、盗んだ鞄を。比嘉さんのベッドに、フワッと投げた。


 朱美は、自分のバッグと気付くと。パンパンの中身を確認しようと、勢い良く開けて。

 顔を、真っ赤にした。


 鞄の中身は、比嘉さんの下着だ。何の変哲のない下着だが。


 「アレは、彼の趣味なの。私の物じゃ無いの」


 朱美は、自爆して。恥ずかしくなっていた。


 「俺は、何も見てません。彼の趣味です。ですので、下着泥棒を許して下さい」


 小説を、沢山読んでいる。妄想癖の強い弁護士でも、気付いた。


 俺は、掴んだ所で。話を切り出した。


 「辺土名弁護士先生は、この問題をどう解決する。弁護士先生の見解を、教えてくれ」


 辺土名弁護士は、いくつかの質問を、朱美にして。出した答えは。


 「難しいですね。1番の問題は、比嘉さんの胎児を、殺した証拠と、アパートに放火した証拠なのですが。両方の立証は難しいですね。相手が、罪を認めても、胎児なので100万も取れませんし。ベッドと部屋のグリーン代で、250万円取れたら、言い方です。刑も、初犯なら執行猶予で直ぐに出てきます」


 期待していた、朱美は落胆を隠せなかった。

 警察が、言っていたことと同じだったからだ。


 「っで。比嘉さんは、どうしたい。あの男を追い込むなら、手を貸すぞ」


 俺は、言葉は優しく。個室だった為。上着を脱ぎ。背中の閻魔大王を晒して。誘導した。


 朱美は、俺の正体を知り。怖くなっていて。恐る恐る聞いた。 


 「私は、何をしたら宜しいのですか」


 俺は、こっちのペースに持ち込んだ事を確信して。昔取った杵柄を活かし。


 「簡単な事だ。ヤツの名前を教えろ」


 簡単に、調べたら分かるが。これは、踏み絵だ。

 彼女が、ヤツを売るのかどうかを知りたかった。


 そして、俺の頭は、ヤツをどう追い込むか、思案し。絵を書き始めた。


 「羽瀬です。羽瀬信也です。C建設で、営業をしていて。隣の宜野湾に住んでいます」


 朱美は、踏み絵を踏み。羽瀬の首を、閻魔に差し出した。


 「俺は、やる事が出来たので。ここで解散とします」


 俺は、1番を2つ作る弁護士を残し。朱美の病室を出た。


 辺土名弁護士と警察に諭された朱美は、不安になり。

 辺土名弁護士も、自分の見解を信じていた。


 「俺にとって。素人を、追い込むぐらい簡単だよ。比嘉さんの期待に添えられるか、分からないけど。羽瀬の命もチンチンも取らずに、追い込むから。大船に乗ったつもりで、任せて欲しい」


 朱美は、東江の湧いてくる自信に、身を委ねた。


 俺は、早速一つの仕事をコナシ。

 金城くんに、電話をかけて。バイトをするか聞いた。


 1週間後は、道後の温泉に浸かり。

 翌日は、今治に入り。帰りは、タオルを大量に購入し。お土産は、16タルトをチョイスした。


 ボヤ騒ぎから2週間の今日、地獄の門が開かれ。閻魔の裁判がはじまった。


 今治のいなから。羽瀬の両親を呼びつけて。

 『那覇空港』と描かれた、石の前で。羽瀬の両親と朱美を入れて。写真を撮り。


 羽瀬の母親のスマホから、写真付きのラインを送った。


 『これから、昼食を取り。3時間後に、朱美の部屋で話し合いを行います。ご参加いただけない場合は、C建設の前で写真を撮ります』


 脅すと、3時間後に、羽瀬は現れた。


 開口一番に。


 「俺とお前の関係は、終わったんだ。諦めろ」


 ドアを、思いっきり開け放ち。羽瀬が叫んだ言葉だった。


 羽瀬の母親は、育て方を間違えたと知り。うつ向き。反省して。ハラワタが煮えくり返っていた。


 父親は、他人のアパートなのに。

 息子の信也を、玄関で押し倒して。2発ほど殴った。


 もう少し見たかったが。空気が重くなり。


 「羽瀬さんを、痛めつけるだけなら。もう、海に沈めています。話し合いを、持っているのです。大人しく座って下さい」


 羽瀬の父親は、ドカドカと歩き。

 数十年前に流行った。ダン・ヒルのセカンドバッグを開けて。銀行の袋を出した。


 「ここに。600万入っている。これで、この問題は解決する話だ。信也には、沖縄を出て。愛媛で就職させて結婚させる。問題ないだろ」


 父親は、信也を連れて帰ると言った。


 「俺は、帰らないぞ。40歳までは、独身を貫くんだ。人生を謳歌しない奴が、アホなんだ。全て、モテないお前たちの僻みだ。俺は、独身貴族を貫くぞ」


 この手の男の共通のアホ持論を聞いた。


 「お前が、謳歌し過ぎたから、こうなったのだろう。反省しろよ。設計の喜舎場さんは、どうするつもりだ。喜舎場部長も、孫を楽しみにしているみたいじゃないか。それに、今日も下請けの受付している、花城さんとデートしていたんだろ。なんと言って、ドライブデートを断ったんだ」


 俺は、喜舎場さんとのラインのスクショを。アイパッドで出した。


 「喜舎場さんは、待ってくれるさ。例え別れたとしても。俺は、変わらない。謳歌し続けてやる」


 俺等の背中側の襖が力強く開き。まだ、焦げ臭い匂いが部屋を駆け抜けた。


 『カン』


 そこには、設計の喜舎場さんが立っていた。


 「羽瀬さん。明日の朝早くに、退職届を持ってきて下さい。私が、会社と掛け合って。退職金と今月分の給与とボーナスは、少ないですが。比嘉さんの慰謝料として、お支払します。それと、東江さんには、この男を私の分も含めて、地獄へ落として下さい」


 喜舎場さんの登場は、もう少し後の予定だったが。シナリオ道理には行かず。

 襖が、開いてしまったが。タイミング的には結果オーライだった。


 喜舎場さんが、部屋の扉を開けると。

 追加攻撃が、発動した。

 花城さんと鉢合わせをした。


 「ごめんなさい。私は終わったわ。後は好きにして」


 喜舎場さんは、ヒールを下駄箱から出して。背筋を伸ばし。颯爽と帰った。


 「私は、東江さんのお陰で。羽瀬とセックスをする前に、命を救っていただきました。私が、比嘉さんの立場に立ったら。羽瀬を、刺し殺していると思います。人生を、棒に振らずに助かりました。世の中の為に、地獄を味あわせて下さい」


 辛辣な言葉を、羽瀬は食らって。

 自称モテ男は、自分がクズ男だと認定され。自覚した。


 花城さんは、ここまで連れてきた。バイトの金城くん達4人と、ハイタッチをして。帰って行った。


 朱美の穴埋め的な。役だったのだろう。

 

 

 辺土名弁護士は、冷静に帯をズラして。現金を数え始めて。

 比嘉さんは、ペンを持ち。誓約書に、サインをしようとしていた。


 「おい。田舎の常識を、ここに持ち込むな。桁が違うだろ。倍は出せ。道路沿いの土地を、売りに出せば。お釣りが来るだろ」


 俺は、色々とお金をかけて、調べていた。


 「何を言っている。おそこは、後10年で道が出来て、跳ね上がるのだぞ」


 父親は、頭に血が上り。暴発した。


 「貴方。何を言っているの。ここは、お家を抵当に入れましょう。残りの600万は、後日お支払いを、いたしますので。どうか、穏便にしていただけませんか」


 羽瀬の母親は、1200万を提示して。

 辺土名弁護士は、600万を数え終えて。借用書として。600万の書類に父親のサインをさせて。


 朱美は、慰謝料1200万の書類にサインをした。


 ここからは、俺のアドリブだった。

 暴走と言ってもいい。


 俺は、病院の診断書を出して。


 朱美を、ビッチにした。


 「あぁ。朱美が、1200万なら。俺は、800万を請求する。本物の無精子症の診断書だ。お前は、俺の子供を殺したんだ。お前が、階段から降りてくる映像もバッチリ映っているぞ。観念しろ」


 俺の言葉を皮切りに。金城くん達が入って来た。


 「何を言っている。朱美との子供は、俺の子だ。俺達は、半年後に結婚する予定だったんだ」


 金城くんは、戦隊モノのヒーローのように。オーバーアクションで語り。


 「何を言っているんだ。俺は、子どもと住む家まで買ったんだぞ。30年のローンだ」


 悲劇のヒーローを演じ。


 「俺は、大学を辞めて。就職までしたのだぞ。全て、生まれてくる。我が子のために」


 嘆き悲しんだ。


 「………」

 島袋くんは、固まったまま。動けなかった。


 テンポが崩れ。茶番が茶番で終わりかけた頃に。


 朱美が立ち上がって。茶番に華を添えた。


 「赤嶺くんは、そのままでいいの。私が、立派な漢にしてあげるの」


 朱美は、そう言って。島袋くんの唇にキスをした。


 馬鹿げた茶番を終えて。1人300万を請求した。


 俺は、追加で2000万を請求した。


 金城くんが、ガレージに取り付けたカメラに。

 羽瀬が階段から降りてくる動画が、収まっており。高性能で、拡大したモノを、アイパッドで、流した。


 「田舎で、こんなモノが出回ったら。村八分じゃ済まないよな」


 父親は、跡が残るほど、拳を握り。

 母親は、信也を叩いた。


 「これじゃ。執行猶予付かないな。殺人事件だろうな。5年はかたいな」


 俺は、上着を脱いで語った。


 「喜舎場さんも、花城さんも、地獄を見せろと。仰っていたので。よろしくお願いします」


 俺は、ジリジリと追い込んだ。


 「家には。もう、そんな金なんてないぞ」


 父親が落単して言った。


 「しょうがないですね。お爺さんの土地を売りましょう。また、1からのスタートですよ。お父さん。信也も、帰ってきますし」


 母親は、父親の背中に手を当てて。優しく諭し。

 こちらを睨みつけて。


 「もう、父親は増えませんよね。約束して下さい」


 母親は、どうにか。2000万を作り出そうとしていた。


 当の本人は、事切れたかのような、木偶人形になっている。


 しかし、俺が仰せつかったのは。信也の地獄で。両親の地獄ではない。


 俺は、今治の田舎の話を始めた。


 「俺が、田舎の細い道を迷いながら走らせていると。13件目の大きな家で、森吟村長に会ったんだよ」


 両親は、最後の手段を取られていて。

 信也は、発狂したように。髪をグシャグシャに掻きむしった。


 「優しい方だったよ。お前の事を話したら。婿さんの一大事だって。親身になってくれて。一人娘と、祝言挙げたら。『800万渡す』と言われた。さらに、半年後のお嬢さんの誕生日の前だと。ボーナスで、500万くれるって。俺は、彼女が好きなホテルに、予約してきたぞ」


 母親は、叩いていた背中を、撫でていた。


 「子ども一人に、300万。男の子だと500万出すって。男の子4人で、もとが取れるぞ」


 俺は、両親を睨みつけて。


 「決定事項なので。とどこうりなくお願いします」



 その後、羽瀬は。森吟の婿養子に入り。

 見事な結婚式を挙げて。彼女のお腹に、男の子が居るそうだ。

 森吟村長は、婿の経歴を消すために。全額支払った。


 俺は、羽瀬を地獄に送り。

 3200万を回収した。


 1200万円を、朱美が受取り。

  100万円を、辺土名弁護士へ渡し。

   60万円を、金城くんに渡し。 

   30万円を、×3バイト代として渡し。

   30万円は、俺の旅費に消え。

  120万円は、興信所に支払った。




 残った1600万円は、天音ちゃんのお金だ。


 あの年で、虐待されて。天涯孤独になりかけたんだ。安すぎるかもしれないが。

 あれ以上は、両親から取れなかった。



 辺土名弁護士は、書類を作っただけなのに。3200万の10%を、取ろうとしていた。


   




  

ナンシーと俺に、共通点が見つかった。

ナンシーの過去に、東江は打ちのめされた。

スナックナンシーの借金。

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