ナンシーと借金
俺は、7年の刑期をを終えて。
7年の間に、天涯孤独となり。
父方の遺産を相続する為に、沖縄の地を踏んだ。
俺は、若い女の子と。羽田空港で、周りがとろけるような、熱いキスをしていた。
「ん゙。んん゙。東江様。申し訳ございませんが、お急ぎください」
俺は、7年ほどお勤めをして。最近出所した。
弁当は無く。綺麗な体で。無事出所を迎えた。
7年で、疎遠だった父親が他界し。父親方の実家とアパートを相続する事になり。
天涯孤独となった。
出所の日に懐かしい人が、迎えに来ていた。
これが、牧ネェとの再会で。25年ぶりになる。
黒井組長の盃を貰い。
ソープランドの呼び込みをしている頃に、ナンバーワンだった、牧ネェにストーカーが付くようになり。
店を出禁にしたら。
泉ネェに、会いに来たと言い張り。
不景気に、週1で50万以上落としてる。
ストーカーが、有る事無い事を吹き込み。
牧ネェと泉ネェの対立を、俺が仲裁して。
ストーカーに対して、俺が手を上げてしまい。
派手によろけて。医者に、理不尽な診断書を作らせて。俺を訴えた。
俺は、黒井組に借金をして。2年のお勤めをして。牧ネェと泉ネェを、逃がす事が出来た。
二人は、訪問介護と言う名の。出張サービスを開始して。
お客を取れなくなった。ソープ嬢を招いては、タンス預金を、世の中に戻し。
さらに、嬢の数が増えて。全国津々浦々にまで手を伸ばし。『雀のお宿』を轟かせたのだが。
対抗して泉ネェが、『花咲じいじ』で、対抗して、何百メートルも地下を掘り。温泉を謳って、客を寄せた。
2つの会社は、裏で繋がっており。
嬢は、行ったり来たりしながら、振り回されていた。
そんな、『雀のお宿』に、1週間滞在して。
酒池肉林を味わい。中世の優雅な貴族のように、パンツを履かずに過ごした。
慣れない事は、長く続かず。
沖縄の実家を、相続に行く。
軽い気持ちだったが。
牧ネェに、二億のスーツケースを持たされ。
ここで着る予定だった、服をもう一つのケースに、パンパンに詰め込まれた。
空港で、服を預けて。現金は、手荷物にした。
俺は、気が付くと。タイトなスカートの大きなお尻を追いかけていた。
ヒューゴボスのダークグリーンのシングルスーツを、ピシっと着ていたのだが。
格安飛行機が、『30分後に離陸する』と聞き。
貧乏性が、まだ抜けず。
飛び付いてしまった。
スーツの三つボタンを外し。黄色の細いネクタイを緩めて。薄いピンクのシャツは、上3つのボタンを開けた。
駄馬の前に、人参をぶら下げた絵を、たまに見るが。
自分が、その状況になるとは。思ってもいなかった。
ヒールで、良く走れるとか。凄い体力とか、申し訳ないとか、考えずに。
ひたすら、大きなお尻を、追いかけていた。
俺が、保安ゲートに到着すると。大きなお尻とは別れ。
現実に戻してくれる。太った警備員が、愛想なく対応した。
俺は、金属探知機をクリアできたのだが。
2億の現金が、時間を止めた。
次のお尻は、地団駄を踏み。左右に揺れて。
時計とこちらを、交互に見ていて。
時折、通路を確認していた。
「お客様。こちらの中身は何が入っていますか」
対応が、俺をカチンと逆なでさせた。
俺と話しながら。マイクの向こうとも、会話をしている。
「二億だが。何か問題でも」
耳を押さえながら。向こうと話している。
「この飛行機には、銀次が搭乗しているのか。それとも、国内旅行で、税金をかけるのかねぇ~」
「問題ないそうです。お通り下さい」
警備員の対応は変わらず。
洋服のカバンが、機内にでも入ったのだろう。
次のお尻は、飛び跳ねて。片手を上げて、大きく胸を揺らしていた。
「東江様、お急ぎ下さい」
次のお尻は、少し距離を取り。
本能が、距離を詰めようと。近くで見たいと。粉骨砕身、駄馬はムチを打たれた。
俺は、搭乗口を通過したが。
歓声の湧かない、ブリッジを一人で通過した。
そして、冷ややかな視線を受けて。小型の飛行機に、足を踏み入れた。
「東江様、お早くお席にお座り下さいませ」
CAは、睨みながら。俺を案内した。
もう一人が、席の前に立ち。分かりやすく、誘導された。
「この度は、12:38東京発、沖縄行。カクヤスにご搭乗いただき有難うございます。この機は、定刻より5分遅れで、離陸いたします。アテンションプリーズ………」
『そんな大きな荷物は、預けろよ』
『遅えよ。じじい』
『何で、スリッパ』
俺が、荷物を棚に入れると。飛行機が動き始めた。
「お早くご着席下さい」
恐ろしいほどの笑顔で、接客を受けた。
これほどの経験をするなら。
4時間待機して、定額の料金を払えば良かったと、反省をした。
シートベルトのサインが消えると。
「申し訳ありませんが、お水とカクヤスのロゴの付いたタオルを下さい」
近くを通ったCAさんに、頭を下げてお願いをした。
マイクを握り。睨みつけてきたCAだったが。
「お待たせいたしました、お水とタオルです」
俺の個人情報はダダ漏れだった。
ペットボトルにコースターが付き。
彼女の名前と電話番号が書かれていた。
オジサンに、SNSはまだ早く。
電話番号だけは、分かりやすくて助かった。
沖縄までの、2時間40分で。
大量に、汗をかいて。購入したタオルで、汗を拭いているのだが。全然吸ってくれないのか。汗が引かないのか。
俺は、大量に水を飲んだ結果。
尿意をもよおして、悶絶すること15分。
何度も、トイレの入口を確認して。
足の位置を変えたり。貧乏ゆすりをしたり。
とうとう我慢の限界を迎えて。
トイレの前に人の姿は無く。
先ほど、人が出て入った人は、確認できていない。
『漢、東江昴。勇気を出して。トイレへ向かった』
トイレのドアは、青く表示をしている。
一度、自分の席を振り向き。
誰も、席を動いていない。
俺は、トイレのドアを開けて。もう一度確認すると。
通路の反対側の男が、CAと会話を始めた。
俺は、席に戻ろうとしたが。
膀胱も限界を迎えており。何度も限界を突破した。
俺は、トイレに飛び込み。チャックを降ろし。一物にておかけ。
放尿を開始した。
『やめられない。止まらない』
体重の3割を失ったと、思える程の量を出した。
俺は、人なのかと思える程。出たが。
俺は、2億が気になって仕方ないけど。
トイレから出たいが。止まってくれない。
俺は、だいぶスッキリして。トイレから出ると。
怖いほど、笑顔なCAさんが。おしぼりを持って立っていた。
「これ。私のプライベートナンバーです。沖縄には、2日滞在する予定ですので。飲みにでも行きませんか」
おしぼりを、渡すタイミングで。耳打ちされた。
俺が、返事をする間もなく。CAさんは業務に戻った。
俺は、自分の席に戻り。店の中のスーツケースだけが気になっていた。
南部を回り。高度を下げ。着陸して。逆噴射。その時。棚から『ガタン』と音がした。
居ても立ってもいられない。
だが、東江は耐えた。
ウチナータイムとか言いますが。
2時間半以上のフライトはきつく。
我先にと、荷物を取り。通路に並んでいる。
俺もその1人だ。
どうせ、預けた荷物が出てくるまで、時間がかかるのだが。
人々は、焦っている。
飛行機を、降りる時に。コースターのCAさんが、腰の辺りで小さく手を振った。
俺も、小さく手を振り返したが。
内心は、それどころではなかった。
俺は、列を離れて。トイレに駆け込んだ。
個室に取り込み。
鍵を掛け。
便座の蓋を閉めた。
そこに、スーツケースを置き。中身を確認した。
俺は、2億を確認することが出来た。
冷静に考えれば。棚から降ろした時点で。重たいのだから。盗まれている事は無かった。
俺は、そのまま免税店に飛び込み。靴を探したのだが。サイズやデザインが合わず。
スリッパを継続した。
預けた荷物を受け取り。
俺は、買い忘れたお土産を、沖縄で購入した。
途中で、クンペンとヨーゴを買って。
味気のないベンチで食べた。
懐かしさを感じて。
ガキだった頃の贅沢を、簡単に満喫していた。
俺は、ヒヨコを2つ買い。
辺土名弁護士事務所へ、電話をかけた。
アポを取るためだ。
もらった名刺に、スマホから電話をかけた。
「もしもし、辺土名弁護士事務所です。雇用権は何でしょうか」
俺は、男性の声に驚いた。
「すみません。こちら東江と言いますが。辺土名先生へのアポイント取りたく、お電話を差し上げました。ご予定はいつ頃空いていますか」
この時までは、すぐ帰る予定だった。
沖縄の実家は、二束三文で売ってもよかった。
「東江さんですか。お待ちしていました。今からでも。明日の朝でも宜しいですよ」
俺は、これを付いていると勘違いして。
これから向かう約束をした。
辺土名弁護士事務所は、浦添に有り。
空港から30分は離れていた。
タクシーに乗り込み。
路地で降ろされた。
寂れた飲み屋街の2階に、看板があり。
エレベーターの正面が、事務所でも無かった。
外見は細く、窶れたおじさんだった。
刑務所に報告に来た奴で、間違いないのだが。印象が違い。今は、売れない小説家に見える。
「ささ、赤嶺不動産へ向かいますよ」
俺の事を待っていたようで。
ガラスの扉の前に立ったら。
ドアを開けて、事務所へ通すわけでもなく。
赤嶺不動産へ行くと、話が読めなかった。
家の管理は、赤嶺不動産が行っていて。
辺土名弁護士は、家賃を確認するだけだったらしい。
辺土名弁護士は、事務所にスーツケースを置いても大丈夫。「服を盗むやつはいやしないよ」と言っが。
俺は、そこを譲らず。
ヒヨコだけ。事務所のカウンターに置いた。
辺土名弁護士が、スーツケースを事務所に置きたがった理由も分かった。
趣味や小説。ガラクタで、軽自動車を物置に使っていた。
物を捨てきるない。大人だ。
俺は、後部座席に服のスーツケースを置き。
助手席で、石抱きの拷問を受けた。
さらに驚いたのは、那覇に向かい。
空港近くの不動産屋だった。
ここで待ち合わせでも、良くなかったか。
いや、辺土名弁護士事務所が暇なのを垣間見た。
赤嶺不動産に着くと。俺は、石抱きから開放されて。足を動かし。血液を送った。
辺土名弁護士は、お客の要望を聞いておらず。
急かすように、赤嶺不動産の中へと入っていった。
俺は、スーツケースを2つ持ち。恥ずかしいが、事務所の中に入った。
軽く会釈をして。ヒヨコを差し出すと。
向こうも、会釈を返してくれた。
「東江さん。こっちですよ」
そう言って。社長室のドアをノックして。
返事を待たずに。ドアを開けた。
これには、流石に反応するだろう。と思ったが。
俺の常識を疑った。
理解の範疇を逸脱していた。
社長の怒鳴り声もなく。
社員は、相手にしていなかった。
俺は、社長室に入り。ドアを閉めると。
辺土名弁護士は、社長の横に座り。
2人共、シングルシートに座っている。
「この度は、長い間土地を管理していただきありがとうございました」
俺は、座る前に、赤嶺不動産の社長に頭を下げた。
「長い間、大変だったでしょう。ご苦労さまでした」
赤嶺社長は、俺のことを知っているようだ。
俺1人で対面の。3人がけに腰を降ろした。
俺が、腰を落としたら。
「東江様に、降り行った話がございます。聞いてもらえますか」
これは、出来ない案件だ。無理難題を押し付ける感じだ。
「色々とお世話になりましたので。俺で、力になれるのなら。力貸しますよ」
他の言葉の選択が、見つから無かった。
辺土名弁護士が、ダムが決壊したように話し始めて。
「東江様。あの家とアパートを、一時的にお貸しいただけないでしょうか」
藪から棒で、変な要求をされた。
「あのですね。あのアパートの住人で、ナンシーさんと言う方がおられまして。その方を助けるために、 1000万と言うお金が必要でしてね。銀行の担保………」
赤嶺不動産の社長が話を割った。
「東江さん。あの土地を赤嶺不動産に売って下さい。6000万でいかがですか」
俺は、大分足元を見られていた。
簡単な話、アパートだけで。一億以上の値が張る。務所上がりで、金欠とみられていた。
スマホで調べられる、簡単なことだ。
「一度、家に持ち帰り。検討しますので。カギを下さい」
他の選択肢が見つからなかった。
ウイットに富んだ、ボキャブラリーが欲しかったのだが。思いつかなかった。
2人は、キョトンとした顔を見せた。
「ですから。家で、考えますから。アパートのマスターキーと実家の鍵を下さい」
赤嶺社長は、食い下がらす。
「東江さん、貴方は6000万が、欲しくないのか」
俺は、立ち上がって。ドアに向かった。
ドアノブに手をかけて。
「ここを開けて、俺の土地を6000万で買うと、言ってくれるかな。浦添の東江邸とアパートを6000万で買う。底地以下ですよね」
赤嶺不動産が、傾くレベルの案件だ。
「分かったから、鍵を渡す。今の話は無しにしよう。なっ、なっ」
赤嶺社長は、辺土名弁護士を睨みながら。
椅子の前を通り。立派な机の引き出しから、鍵を取り出し。俺に渡した。
実際、声は筒抜けで。従業員もヒヤヒヤしていた。
俺は、もう一度椅子に座り。
個人情報保護法を守れない、弁護士からナンシーさんの話を聞いた。
「あのアパートで、やくざ者の男達が話しているのを聞いたのです」
この弁護士。ストーカーなのか。
『あの女、いいカラダしてますよね。いつお風呂に落とすんですか。その前に、一発ヤッてもいいですか。
何いってんだ。あの女は、買い手が決まっているんだから手を出すなよ。指じゃ済まないぞ』
アパートの階段を降りながら話していたらしい。
相当な美人なのは理解できた。
俺は、赤嶺不動産の社員に、タクシーをお願いした。
浦添の風景も変わっていた。
近くを、モノレールが走り。駅もある。
畑だった子供の頃は、見る影を落とした。
大きな道から、路地に入り。途中に父親の実家が有った。
この路地は、ドンツキで。逃げる場所が無く。
住人以外、入る事は滅多に無かった。
静かだが。子どもの泣き声と共に、笑い声も別な部屋から聞こえた。
家の庭は荒れ果てて、草が伸びていた。
一周を見て回ろうとして、裏の洗濯機に足を止めた。
何も考えずに、洗濯機の片方を持ち上げて。
勝手口の鍵を、足で払出だした。
ハブがいたら、俺は死んでいたかもしれない。
勝手口から中に入ると。ホコリまみれで。水場の床は、抜け落ちそうな程に、傷んでいた。
マジックで書かれた、柱の跡に懐かしさを感じ。
懐かしくも有るが、狭くも感じた。
スリッパの跡だけ残り、自分の部屋に向かい。
懐かしい、CDやラジカセを見つけたが。
脇目を振らずに、箪笥の荷物を出して。
2億をしまい。新しい服を上から乗せて、隠した。
俺は、少しのお金を持ち。ホームセンターに向かった。
洗濯用の洗剤セットを買い。
包装をお願いをして1軒ずつ袋に入れた。15件分を持ち。タクシーで、家に戻った。
俺は、5袋を持ち。ワンフロワーずつ周り。
最初に、兆志と会った。
405号室から廻り。
「ごめんなさい。今、母が夜勤明けで、休んでいるので。静かにして貰えますか」
俺は、洗剤セットを渡して。
「ごめんね。後に越して来た、大家の東江です。これ、良かったら使って。うるさくしてごめんね」
俺は、洗剤セットの袋を渡して。隣に移った。
これを繰り返して。201にやって来た。
俺は、何度も洗剤セットのシールを確認して。
『ピンポーン』
普が出てきた。
「あの、これ。後に引っ越して来た、大家の東江です」
俺は、恥ずかしくなり。逃げるように帰ってきた。
ナンシーは、ベランダでスケベなパンツを干していて。
俺が、何往復もしているのを、上から覗いていた。
「お母さん。これ開けて良い」
普は、ナンシーに箱の中身を確認して良いのか聞いた。
ナンシーは、ベランダから顔だけ出して。
箱の大きさから。
「普。余り期待しないほうが良いわよ。中身は洗剤セットよ」
ナンシーは、夏場の日差しを浴びて。洗濯物を干していた。
しかし、箱の中身は違った。
「お母さん、これ本物かな」
普は、ベランダに半身を出して、太陽光で透かしを確認した。
「普。何で一万円持っているの」
普は、ナンシーの表情に驚き。箱を差した。
洗剤セットの中身は、100万円の束が12本はいっていた。
ナンシーは、目の色を変えて。ベランダから箱に飛びつき。
お金を調べた。偽札には見えず。
出した答えは「これで、借金が返せる」だった。
元の生活に、普通に生活をしよう。
しかし、ナンシーを元に戻したのは、普だった。
「お母さん。これオジサンに返さなくていいの」
そうだ。これは奴らの罠だ。
何度か、騙された。奴らの手だ。
ナンシーの借金は。ヤクザによる、お店の乗っ取りと。詐欺だった。
ナンシーは、バラけたお札を箱に戻して。入らない分は、ビニールの袋で纏めて。
「普。お母さんは、少し出てくるけど。絶対に鍵を開けたらためだよ。お母さんと約束をして」
真面目な普は、言い付けど通りに。鍵をかけた。
ナンシーが、家に乗り込んできた。
チャイムを押したら。電気が通って無く。音がならなかった。
「ごめんくださーい。大家さん。こんなお金を貰っても、困ります。馬鹿にしないで下さい」
俺は、部屋の奥で、荷物を整理していたのだが。
大声で、ナンシーが叫んだせいで。
俺は、慌てて。玄関に走り。
口に指を当てて。
「他の方は、普通の洗剤なんですから。大声を出さないで下さい」
ナンシーは、俺の慌てぶりに、驚いた。
「しょうがないな。『有難うございます』って、受け取ってもらえないのかな」
俺は、最初から閻魔大王を晒した。
「このお金は、貴女方に差し上げます。ですから、借金を返済して下さい。足りなければ、もう少し出すことも可能ですが。その時は、アパートを出て行って下さい」
俺は、玄関で散らばったお金をかき集めた。
「俺は、最近務めを終えて、出て来たばかりなんだ。綺麗に足を洗ったつもりだから。奴等との、関わりを持ちたくはない。例え、アパートでも、足を入れて欲しくはない」
ナンシーは。いつものヤクザと、東江とは違うと考え始めた。
「でも、こんな大金を、頂く訳には」
東江の声のトーンが下がった。
「あんたの借金かも知れないが。あの子の未来でも有る。一度落ちたら、這い上がれるのは稀だ。あの子が、そうだとは言わないが。俺の気紛れで、一人でも救えるなら、気兼ねなく使ってほしい。出来れは、アパートから出て行って欲しいのだが。行く宛が無いのなら。借金を返してくれ」
俺は、ナンシーに説教するのを辞めて。
お金の袋を渡し。
一度、奥に消えた。
綺麗なハンカチと。スウェットの上着を渡した。
ナンシーは、ハンカチを受け取って。涙を拭き。
落ち着いたのか、自分の服を見直した。
グレーのランニングパンツに、白いTシャツで。
ノーブラだった。
黒い乳首が汗で透けている。
ナンシーは、東江から。上着を借りて。
「お見苦しいものをお見せして、ごめんなさいね」
ナンシーは、鼻声だった。
ナンシーは、少し微笑みを見せて、アパートに戻って行った。
東江は、実家の畳をすべて捨てて。水場の床は、ベニヤ板を敷き。電気、水道、ガス、を通して。水道タンクも買い替えた。
そんな時に、大雨が振り。天音ちゃんと出会った。