掃除屋の本家〜弐〜
「初めまして、と言うべきであろうか」
「妾の名は紅葉月華夜という。そなたの名はなんと申すのだ?」
「…優と言います」
「ほう…今、敬語を使ったな?」
(…しまった!律輝に言われていたのに!)
「……くくくっ、あっはっはっは!!」
俺はポカンとした。
「そんなことでは怒らぬよ、妾と君とは歳が近いからのう、友達感覚で話したいだけじゃ」
「ちなみに妾は十八歳じゃ」
「…そうか」
敬語を使わないように気をつけながら話す。
(この人の存在感が強すぎて無意識のうちに敬語を話しそうになる…)
「仕事の話だが、気楽に聞いておいてくれ」
「優よ、まずはそなたに名を与える。まぁ、だからといって名乗る時に使う時はほとんどないがな」
「妾は花を愛でるのが好きなのだ。だから花の名をみなに与えている」
「そなたの名は…そうだな、『トルコキキョウ』じゃな…濃い紫色が似合いそうじゃ」
「トルコキキョウ?」
「トルコキキョウというのは外つ国ではリシアンサスと呼ばれる花じゃ」
華夜は目を細めてこう言った。
「…妾は人には生きる意味があって生きているのではなく、生きる意味を探すために生きていると思っておる」
「だから優よ、生きる意味を探せ」
(生きる…意味)
「ひとつ聞いてもいいか?」
「良いぞ」
「どうやって暗号名を決めているんだ?」
「暗号名…あぁ、私が授ける名のことか」
「そうじゃな…これは妾からの助言じゃ」
「助言?」
「そうじゃ…それ以上でもそれ以下でもない」
(どういう意味だ?)
「これ以上は言えないということだ」
「……」
「妾は優に期待しておるのじゃ…救って欲しい人が妾にはいるからのう」
「その救って欲しい人というのは…」
「いずれ分かるであろう」
「その人は華夜さんには救えないのか?」
「救うことは出来ぬ。力が足りないんじゃ」
「そう…なのか」
「救いたくても救えぬのはとても虚しいのう…」
「……!!」
「ゆ…ご…んね…」
「つよ……だぞ…」
反射的に胸をおさえた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
「おや?優にもそんな経験があるようじゃのう」
「…重く受け止め過ぎるのも良くないからのう。もう少し前を向くのじゃ」
「華夜さんに何がわかるんだ?」
華夜は少し驚いた顔をしていた。
「小さい頃に両親を殺された俺に残ったのは、半妖と妖怪への憎しみと恨みだけだ」
「こんな俺に前を向けだって?どういうつもりだ。皮肉のつもりか?」
「……」
「だんまりか?」
「…いや、少し驚いただけじゃ」
「妾が言いたかったのは過去に囚われるなということじゃ。言い方を間違えたのう。すまぬ」
「……いや、こちらこそ、すまない」
「過去に囚われてしまった奴らを妾は何度も見てきた。そして奴らは必ず不幸に見舞わられてしまった」
「そうならぬように気をつけるんじゃよ」
「…あぁ」
「もう話を切り上げた方がいいかもしれんのう」
「付き添いで律輝も来ているのであろう?これ以上時間をかけたら律輝が退屈してしまう」
「そうだな…じゃあ、さようなら」
「うむ、元気でな」
俺は部屋から出て扉を閉めた。
「…はぁ」
(…今は思い出したくなかったな……)
「ゆう、はやく、いく、律輝、待ってる」
いつの間にか七草がいた。
「いつの間に…」
「ずっと、いた」
「はやく、いく、ついて、きて」
「わかった」
俺たちは廊下を何も話さずにしばらく歩き続けた。
「あっ、優!やっと来た!」
「待たせてすまない」
「大丈夫だよこれくらい!どうだった?」
「初めは緊張したが途中からはあまり緊張はしなかった」
「わかるー!僕もそうだったよ!!初めのなんか圧みたいなのがちょっと緊張しちゃうんだよね〜」
「…律輝って話しやすいよな。見てるだけでも元気が出るし」
律輝は驚いた顔をした。
「えっ!?あっ、えっと、ありがとう?」
「…照れてるのか?」
「そんなことないもん!」
律輝はそっぽ向いた。
「急に変なこと言い出した罰として、僕は全力で走るからね!」
シュタタタタタッッ
「…!!はっや!」
俺は全力で律輝を追いかけた。
でも追いつくことも無く、むしろだんだんと距離が開いていく。
(こんなに早いなら祈流よりも絶対早いだろ…祈流にさえ追いつけない俺に追いつけるわけない…)
(律輝を見失うと帰れなくなる…)
俺は走ることに集中した。
「……」
(見事に見失ってしまった!)
「…どうすれば帰れるんだ……」
「まず、ずっと紅葉しかないせいでここがどこか分からない」
「……」
(…少し…歩いてみるか……)
パサッ パサッ パサッ
紅葉を踏む音だけが響く。
(ここは……少し寂しい感じがするな…)
ピヨッ ピヨピヨッ
「…鳥の鳴き声?さっきまでは聞こえなかったのに」
俺は気になって鳥の鳴き声が聞こえた方へ進んで行った。
進んでいくといっきに視界が開けた。
そこにはたくさんの種類の花が咲いていた。
「……!!すごい…」
(…あれ?)
よく見ると花畑に人がいるのが見えた。
(人がいる…!帰る方法を聞こう)
俺はその人に近づいた。
その人は黒髪の女性だった。
「…キンセンカなんて。私に似合わない花を暗号名にするなんて華夜様も変わっているわ」
「…ちょっといいか?」
「……!驚いたわ。ここに来る人が私以外にいるなんて」
この女性は椿のような紅色の瞳をしていた。
「少し聞きたいことがあるんだ。ここから出るにはどうしたらいい?」
「ここから出る?もしかして紅葉月家の敷地から出る方法ってことかしら?」
「あぁ」
「出る方法、知らないの?新人かしら?」
「あぁ、この前試験に受かったばかりだ」
「そうなの、なら来た時と同じ術を使えば出られるわよ」
「そうなのか、教えてくれて感謝する」
「それと、次会った時に礼がしたいから名前を教えて欲しい」
「名前…そうね。今は、朱音と名乗ってるわ。」
「今は?」
「名前を変えないといけない時があるのよ。仕事の都合でね」
(仕事の都合…)
「そんな仕事があるんだな……」
「そんなことより、ゆっくりしてていいのかしら?
ここはずっと昼だからいいけど、外は違うのだから気をつけた方がいいわよ」
(そうだ…!早く帰らないと)
「色々と感謝する…また会う時があれば恩を返そう」
「えぇ、そうして」
俺は律輝に教えてもらった術を行った。
するとすぐ近くに扉が見えた。
(やっと帰れる……)
俺は扉を開けた。
そこに入るといつの間にかもとの場所に戻っていた。
「やっと試験があった場所に戻って来れた……」
「その呼び方やめてよ〜!試験があった場所じゃなくて、ここは『満神道』っていう名前があるんだよ!」
「ここはそんな名前だったのか…初めて知った」
「ちゃんと覚えておいてね!掃除屋に入る上で必要な事だから!あと、この道は階級が高いほど真ん中に近い場所を歩けるんだ!だから隣に並んで歩く時は気をつけてね!ついでに今は僕の方が上だから俺が真ん中に近い方を歩く!」
律輝は俺の右に立った。
「よしっ!ずっと待ってたせいで疲れたし、早く帰ろう!!」
「そういえば…!急に走り出さないでくれ…」
「えへへ!」
「可愛こぶれば許されると思うなよ?」
「そんな怖いこと言わないでよー」
俺たちはそんな話をしながら夜の道を歩いていった。
皆さん!こんにちは!
怜です!
私が小説を投稿するようになってから1ヶ月が経ちました! やったー!!!
そしてこの小説のユニークは約200を記録しました!
これからも頑張っていくので応援、よろしくお願いします!
他にも書いている小説があるので、ぜひ見て欲しいです!
いいねや感想、評価、誤字情報などの投稿、お待ちしてます!!
では、またお会い出来ますように。