掃除屋の本家〜壱〜
「…う」
「ご……ね…」
「……!!」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
(また、あの時の夢か…)
体を起こして前に住んでいた小屋にはなかった障子を開ける。
そこには木芽月と呼ぶに相応しい空が広がっていた。
「いい朝だ…何かいい事があるかもな…」
(この明るさは…七時半ぐらいだな)
朝食の準備をしようと台所に行くと俺はハッと気づいた。
(材料がない!)
「…朝は抜きでいいか」
今に戻り、普段着に着替え、庭に出て、刀を握って素振りをする。
(…いつもと調子が違う気がするな……)
「おはよー!」
(いつもだったらもっと空気を切るような感覚が…)
「優、聞いてる?おーい」
(朝食を食べていないからか?)
「優!無視すんな!!」
「……!!!」
「律輝…!すまない。気づかなかった」
(…口調が荒れてなかったか?)
「もう!僕の気配くらいちゃんと感知しないとこれから大変になるよ!」
「…すまない」
「気をつけなよ!ほんとに!…この話はこれでおしまい!今日の要件は二つあるんだ〜」
「…??」
「一つは、これ!お弁当〜。作って持ってきた〜」
「昨日から思っていたが、料理が得意なのか?」
「まぁまぁかなぁ〜。凪に教わったんだよね〜。
ほら、昨日の料理凪の味付けとか似てなかった?」
「少しだけ似ていた気はする」
「とりあえず、食べて食べて!」
「…あぁ」
律輝に押されて無理矢理縁側に座らされる。
「食べながら聞いてね!二つ目の用件は掃除屋のことだよ。今日、僕が案内するね!」
(…いよいよか)
「でね、掃除屋に入るには掃除屋の一番偉い人に会いに行って『暗号名』を貰わないといけないんだ」
「暗号名?」
「難しいから説明はあと!それと、祈流から聞いてると思うけど1週間後に優も学校に通うからね〜、準備をしないといけないよ!」
「は!?学校なんて聞いてないぞ!」
「……。祈流にやらせた僕の責任だよ。ごめん…」
「律輝は悪くないだろ」
「次に祈流にあったら文句言っとくよ…」
「本当にあの人は適当だな…」
「あはは…。ともかく!準備のためにもここ数日は時間を頂戴!」
「まぁ、やることないから行くが…」
「が?」
「律輝は大丈夫なのか?任務とか…」
「大丈夫!凪と祈流に任せたから。二人には申し訳ないけどねー」
「そうか、なら良い」
会話をしているとすぐに食べ終わった。
(美味かったな…)
「じゃあ早速しゅっぱーつ!」
「…どこから向かうんだ?」
「本家、つまり掃除屋の頂点に会いに行く!で『名前』を貰う!」
「…いきなり会いに行くのか?」
「みんないきなりだから大丈夫!早く行かないと日が暮れちゃうから!」
(律輝はいつも楽しそうで見てて元気が出るな)
「早く行こうか」
俺は自然と笑みが零れていた。
俺たちは少し前に試験があった場所取りに来ていた。
「ここに入口があるんだよねー。見つけられるかな?」
「見つけられる?」
「本家への入口って場所が変わるんだよね〜。毎回探すの大変!」
「何も見えないが本当にあるのか?」
「あるよ!きつねの窓を使わないと見えないけどね」
「きつねの窓?」
「そっか。学校行ってないから知らないのか!」
「きつねの窓っていうのは霊力によって隠されたものを見つけるための術なんだ。やり方教えるね!」
「まず両手できつねの手を作って右手だけひっくり返す。手の甲が見えないようにしてね! 次に右手の小指を左手の人差し指に、左手の小指を右手の人差し指に重ねる。 その後に指を全部開く。 そうすると、右手と左手の中指・薬指・人差し指の間に隙間ができるでしょ?そこを三回呪文を唱えながら覗く!」
「説明、長くてごめんね。呪文は『けしやうのものかましやうのものか正体をあらはせ』だよ!」
俺は律輝に言われた通りに術を行う。
すると、覗いていたところから霧がかかっていた。
「……!!」
「大丈夫だから、そのまま術をとかないでね」
しばらくすると霧の中から扉が見えてきた。
「あの扉は…?」
「見えた?」
「それが入口だよ!歓迎されてないと見えないから見えて良かった!」
「律輝には見えるのか?」
「僕は…術無しでも見えるから」
「じゃあきつねの窓以外にも見る方法があるのか?…さっききつねの窓以外では見つけれないと言っていたが…。」
「僕、意外と掃除屋の中だったら立場が上だからね」
あははと律輝は苦笑いをした。
「あんまり言いたくないんだよね…。なんか嫌味っぽいでしょ?」
「事実なんだったら別にいいだろ」
「それに僕は家柄もそこまで良いとは言えないからね…」
「家柄とか気にするものなのか?」
「うん、家柄がいいほど強い人が多いからね。霊力の強さとか」
「強い…祈流は良いってことか?」
「祈流はね、めっっっちゃくちゃ家柄いいよ!上から二番目ぐらい!」
(…すごい人だったんだな、祈流は……)
「なら凪はどうなんだ?自分で一番霊力が強いと言っていたが…」
「……それは本人に聞いた方がいいと思うよ!正直、祈流のことも言っていいかわかんなかったんだけど、いつもの腹いせで言っただけだから!」
「なんとなく思っていたが、凪は不思議な人だな…」
「凪は自分のことを自分で話さないからねー。あんまり情報を漏らしたくない、みたいな」
「さぁ!この話はこれでおわり!早く行かないと時間が無くなっちゃう!」
律輝は扉を開けた。
「さっ!早く行こう!!」
律輝が入っていった後に続いて、俺も扉に入った。
すると目が開けれないほどの光が溢れ出した。
「っ!……眩しい…!」
自然と目が閉じてしまう。
「もう眩しくないし、目を開けても大丈夫だよ!」
恐る恐る目を開けてみるとそこには紅葉が舞っていた。
「紅葉…?今は冬のはずじゃ…」
「この場所は年中秋なんだよね〜。落ち葉とか多そうだよね〜」
(…また、霊力とかが関わっているんだろうな……)
「コホン、じゃあ改めて…」
「優!紅葉月家へようこそ!」
「あぁ…家のようなものは無いけどな」
「紅葉月家のもつ領地は広いからね〜」
「早速、当主様に会いに行こー!!こっちだよ!」
律輝と俺は隣に並んで歩き出した。
「律輝、難しい話だと流されていた話についてだが…」
「話?そんなのしてたっけ?」
「『暗号名』が何とか」
「あぁ〜!!それね!」
「『暗号名』って言うのはね紅葉月家の現当主様がつける名前みたいなものだよ。当主様は特別な力を持っているからね」
「特別な力?」
「霊力が強いと稀に変わった力を持つことがあるんだ。霊力を火として操ったりとかね!」
「当主様の場合、名前を付けた相手を呪いにかかりにくくする力なんだよ!ちなみに呪いって言うのは半妖や妖怪が使う呪術のことだよ!」
「難しかったが…とりあえず凄いことだと言うのはわかった」
「そうそう!めっちゃくちゃすごいことなんだよ!」
そう話していると、いきなり視界が開けた。
「…ここは」
「そう!ここが紅葉月家の屋敷!」
「…大きいな」
「まぁ、本家だしね〜」
「そんなことよりさ!早く行こ!!」
律輝は俺の手を掴んで引っ張って行った。
(…力、結構強いんだな。それに手も硬い。そうとう槍を握り続けているんだな…)
俺たちは一気に屋敷の前まで移動した。
律輝は屋敷の前に着くと手を離した。
「ここからは僕、一緒に行けないんだ!ごめんね!」
「ここに一人で入れと?」
「仕方ないじゃん!僕はここに招待されてないし…」
「あっ!そうそう、優が一人で入る前に一応言っておくけど、当主様にはちゃんと敬語で話してねー!」
「それは礼儀作法として当たり前だろ」
「でも僕と祈流と凪には敬語で話してなくない?」
「…言われてみれば、確かに……」
「まっ!どうにかなるからとりあえず行ってらっしゃい!」
「…わかった」
俺は扉を開けた。
ガラリッ
「お邪魔します」
(ん…?)
入ってすぐ目に飛び込んできたのは薄墨色のうさぎだった。
「なんでここにうさぎが?」
「優さん、ですね?」
「私、七草。よろしく、お願いします」
まだ話せるようになったばかりの子供のような話し方をする七草は俺に背中を向けた。
「私に、ついて来て、ください」
俺が戸惑っていると、七草は簡単に説明をした。
「当主様、の、ところまで、連れて、いきます」
「……あぁ、お願いする」
俺は七草について行く。
「当主様、は、お優しい方、だから、敬語、いらない、です」
「敬語、使うと、逆に、怒られちゃう、ので」
「…わかった」
ここから会話もなく、しばらく歩いていると、七草が足を止めた。
「ここが、当主様、いる部屋、です」
「いつでも、入って、いい、から、お入り、ください」
「わかった」
(…少し緊張するな。いきなりこんなことになるなんて思ってもなかったからな…)
俺は深呼吸をした。
「失礼する。」
そう言って俺は扉を開けた。
そこに居たのは退紅色の髪に藤色の瞳を持つ俺と同じくらいの歳の少女だった。
皆さん、こんにちは!こんばんは!
怜です!
今作品を読んでくださりありがとうございます!
今回の作品、投稿するのに時間がかかってしまいました!すみません!!!
話は変わりますが、皆さんはこの小説の中に好きなキャラはいますか?
私は凪さんが好きです!ミステリアスなところが特に好きです!あっ、もちろん全キャラ好きですよ?
みなさんも好きなキャラを感想などに投稿してみて下さい!
いいねや感想、誤字情報、ブックマークなど良ければよろしくお願いします!
ではまた次回お会い出来ますように!