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第5話

 エマが店で働きだして一か月がたった。

 エマも魔物たちもお客さんに受け入れられている。


 毎日、何かしらの魔物には店に出てもらい、客寄せパンダの役割をしてもらっている。

 今も、フェンリル(白柴犬)のシヴァが店内をぽてぽてと歩きながら、気まぐれにお客の相手をしている。いや、相手をしてもらっているというべきか。


 他には、三羽のおしゃべりオウムが店内にいる。

 この三羽は、『迷い鳥』という名の魔物で、この子達もエマの召喚獣である。


 基本的に魔物が人間の言葉をしゃべることはないが、この魔物は別で、上手にしゃべる。森の中で子供などに声をかけて迷わせたりするたちの悪い魔物だ。もっとも、大人がそれにひっかかることはないし、ただのいたずら程度のことしかできないので、エマの召喚獣らしく戦闘力は皆無だ。

 初めて彼らを召喚したとき、なぜか三羽まとめて出てきたらしく、そのまま契約したらしい。

 名前はマヨとイドとリーだ。

 マヨが赤、イドが黄、リーが緑色の綺麗な鳥で、見た目は悪くないのだが、いかんせんうるさい。今も冒険者のバルトさんにウザがらみしている。


「エマちゃーん、コーヒーおかわりくれ」

『エマ コーヒー』『ハヤクシロ』『イソゲ イソゲ』

「うるさい! あっ、失礼しました、バルトさん。コーヒーですね、少々お待ちください」

「おう、ゆっくりでいいぞ。迷い鳥どもは今日も元気にうるせぇなぁ」

『ウルセェナァ』『バルトよりマシ』『マシマシ』

「てめぇら、エマちゃんに飼われてなきゃ今頃ギルドの討伐対象だぞ」


 もともと上品な店でもなかったけれど、最近は客層も少しずつ変わってきている。

 この店では酒を出していないので、女性が多かったのだが、柔らかいボアサンドのうわさが広がったおかげか男性の客が増えた。

 コーヒーについても、『苦いまま飲めるかどうかが男らしさのあかし』だのなんだのという小学生みたいな価値観が冒険者の男性連中に広まっているらしく、売上がのびている。


 マヨ・イド・リーに絡まれているバルトさんも冒険者の一人で、今日はパーティメンバーの三人と一緒にご来店いただいている。


「おーい、マリーちゃん、ちょっと来てくれ!」

「はーい、なんでしょう」


 バルトさん呼ばれて、彼がひきいる四人組パーティ『破壊のメイス』に占領された丸テーブルにむかうと、バルトさんが真剣な顔をしてつぶやいた。


「今日はマリーちゃんに一つ占ってほしいことがあってな」


 髪も瞳も薄い茶色で、少しタレ目の甘いマスク。銀級冒険者という実力もあり、かなりモテるらしい。

 そんな彼に見つめられると顔が熱くなるのだけれど、彼の欠点を思い出してすぐに頭が冷えて来る私。


「はぁ、どうせギャンブルでしょ」

「おう、さすがマリーちゃん、正解!」


 そう、ギャンブル依存症なのだ。

 一度、私の占いのおかげで大勝ちしたせいで、ときどきこうして占いをリクエストしてくる。

 さすがに私のせいで負けて恨まれるなんてのは嫌だったので、それ以降は拒否している。


「占いませんよ」

「まあ待て。今日占ってほしいのは、『今日の夜、おれがどんな様子か』だ」

「またそんな、抜け道を探そうとしないでください。……まぁ、いいでしょう」


 こうやって、手を変え品を変え、なんとか占いをさせようとしてくるのでやっかいな客である。結局、断りきれずに占ってしまう私もやっかいな性格をしていると思う。


 水晶に手をかざして「今日の夜のバルトさんの様子を教えて」と唱える。


「バルトさんが笑ってて……その横に誰かがいますね」

「よっしゃぁ! 勝った! これはもう買うべきってことだよな!?」

「バルト、まだはやいだろう、その横にいるっつーのは誰なんだいマリーちゃん」


 彼のパーティメンバーが、バルトさんをたしなめた。


「ちょっとまだぼやけてて、よくわからないですが、女性の方ですね。その人も笑って喜んでます」

「ギルドの受付のカタリナさんとかじゃねぇだろうな。おい、バルトてめぇ嫁がいるのにいいのかよ、浮気か?」

「ちょちょちょ、待て! 浮気じゃねぇ! 確かにカタリナさんにはお菓子をあげたことがあるけど、やましい気持ちはない!」

『バルト ウワキした』『ウワキ ウワキ』『オカシ クレ』

「うるせー! お前らも変な言葉覚えるんじゃねぇ! 忘れろ、その言葉ァ!」


 マヨ・イド・リーまでちゃちゃを入れ始めて場が混沌としてきた。

 私もたまに冒険者として活動しているので、カタリナさんのことは知っているが、水晶の中にうつっているのはどうも彼女に見えない。もう少し集中して見てみよう。


「女性の方は……髪が赤くて」

「赤くて」

「なんというか、筋肉質で……」

「……筋肉?」

「顔に大きな傷があります」

「コートニーじゃねぇか!」


 勢いよくテーブルをこぶしで叩いたバルトさんは残念そうにしながらもどこかホッとしているように見えた。


「コートニーさんって誰なんですか?」

「マリーちゃんは会ったことないのか。バルトの嫁だよ。元冒険者でな、怖いんだ」

「あぁ……浮気じゃなかったみたいですね。よかったじゃないですか」

『ウワキじゃなかった』『ウワキ』『ウワキ』

「こら、その言葉はもう忘れなさい」


 マヨ・イド・リーの前では会話に気を付けないといけない。

 冷静になったバルトさんがまた考え込んだ。


「いや、ちょっと待て、おれがギャンブルに勝って喜んで……それでなんでコートニーまで喜んでるんだ?」

「もうギャンブルに勝った気でいるぜこいつ」

「うるせぇ。……おい、もしかして、おれが今日ギャンブルに行くことがコートニーにバレるってことか? 内緒にしてたのに!」

「あーあ、バルト終わったわ」「コートニーに殺されるぜ」「バルトが死んだら新しいメンバー探さないとね」


 バルトさんのお別れ会が始まりそうだったので、私もフォローを入れる。


「ギャンブルに行ったことがバレたから、おわびにお土産を渡してご機嫌を取ろうとしているってことじゃありませんか?」

「そうなのかなぁ……お土産程度で許してくれるかなぁ……」

「そもそもギャンブルをやらなければいいだけでは?」

「いや、ギャンブルはやるぜ?」

「バルトさん、ギャンブルがからむと本当にクズですよね」

『クズ』『クズ』『オミヤゲでユルス』


 キメ顔でクズ発言をしたせいで、パーティメンバーと迷い鳥たちに責められていたバルトさんだったが、急に大声で叫んだ。


「ああああぁぁ!!!! 思い出した!」

「ちょっと、静かにしてください! どうしたんです、いったい」

「今日、おれたち、結婚記念日だったわ……」

「……ああっ! なるほど。占いで見えたのは、結婚記念日のお祝いにプレゼントを渡している光景だったってことですか」

「あっぶね……あっぶね……ギャンブルどころじゃなかった……まじで殺されるところだった……」



 後日、バルトさんが店に来て、コートニーさんにプレゼントを渡して喜んでもらえたことを報告してくれた。


 ただし、「プレゼントに花を買ったんだけどなぁ、余った金でギャンブルをしたら大勝ちでよ! ついでにその金でネックレスも買ってコートニーに渡したら大喜びだったわ。やっぱりギャンブルは最高だよな!」と言っていたので、救いがない。



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