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第11話

 一応、当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦(はっけ)と言ってはいるものの、自分の占いが上手く当たらなかったから、カインはいまだに困っているということになる。

 このまま終わらせるのはさすがに気持ちが悪い。


 少し悩んだ末に、アフターサービスということで、今回は無料でもう一度占うことにした。


『どうすれば、カインの作品が売れる?』と水晶に問いかける。


 水晶の中にうつったのは、私とエマだった。

 思わず隣にいたエマの顔を見る。


「なに? アタシが何かすればいいの?」

「いや、私もうつってる。もうちょっと見てみる」


 水晶の中では、私達がいつものように店で働いている光景が見えている。特に何かが起こることもない。カインも召喚獣たちもうつっていないので、今回の占いにどういう意味があるのかわからなかった。


「ごめん、占いが失敗したかも」

「失敗することあるんだ? 何が見えたの?」


 私とエマが働いているだけだと説明をすると、トニーがぼそりとつぶやいた。


「鍛冶で失敗作が出来る時も、原因がよくわからないことがあるんだよなぁ」

「そういうときはどうするの?」

「いつもと同じ手順をふんでいるのに、結果が違う。なら、手順以外にいつもと違うものは? 体調が悪いせいで力加減がよくなかったんじゃないか? 素材に問題はなかったか? ……という感じで、とにかく一つ一つすべてを見直すかなぁ」


 なるほど。

 たしかに、私とエマがいつもと同じように働いているだけの光景を見たときに、例えば、私達以外の登場人物があらわれるのではないか、と決めつけていたのかもしれない。

 私とエマ自体に何かおかしなところがないかまでは見ていなかった。


 あらためて私は水晶をのぞいた。

 やはり見えるのは私とエマが働いているだけの光景だ。いつもの場所でいつもの作業をしている……している、が、そういえば何か違和感があるような気もする。


「あれ? なんで私が指輪を……」

「何かわかったのかい!」


 カインが思わずといったように飛びついてきた。


「普段、私は仕事中にアクセサリーをつけないのね。コップとかを傷つけたくないし、衛生的にも悪そうだし。でも、占いで見えた私は仕事中なのに指輪をつけてる。ついでにエマも見たことないネックレスをつけてるね」

「ふーん。どんな指輪とネックレスなの? もしかしてボクが作ったやつ?」

「うーん、細かいところまで見えないけれど……指輪は白いかな。ネックレスはいくつか宝石みたいなものがついてて、赤と黄色と……」

「緑だろう? それボクが作ったやつ! そんで売れなかったやつ!」


 カインが召喚獣たちに協力してもらって作ったのは、『パールの指輪』『マヨ・イド・リーのネックレス』『シヴァの腕輪』らしい。



 占いの再現をするために、一度カインには店に戻ってもらい、パールの指輪とマヨ・イド・リーのネックレスを持って来てもらった。

 私はパールの指輪を、エマはマヨ・イド・リーのネックレスを受け取った。


「へー、可愛いぃ……。マヨたちが木の枝にとまってるのねぇ」

「しゃべらなければ可愛い鳥に見えるね」

「マリーひどいわ……。それぞれ赤、黄、緑色の宝石をはめ込んであるのねぇ」


 エマはご満悦のようでうっとりした顔でネックレスを眺めている。


「そうなんだよ。普段、ここらに住んでる平民むけに作ってるときは宝石なんて使わないんだけどねー、今回はどうしても使いたくて。値段が高くなっちゃった」


 カインはその後もネックレスについていろいろとエマに説明した。この二人が並んでいると本当に姉弟のように見えて微笑ましい。さしずめトニーはお父さんといったところか? じゃあ、私は母親か? そういえばトニーも私も黒髪である。さすがに私達からこの金髪姉弟が生まれることはないだろう……。


「マリー、なにぼーっとしてるの? そう見つめられると怖いんだけど」


 トニーにそう言われて我に返った私は「なんでもない」とつぶやき、自分の指にはめたパールの指輪を観察し始めた。


 白ヘビであるパールの表皮がうまく再現されており、冷やかな白が美しい。指輪の造形はシンプルで、白く細い白ヘビが指に二周巻き付くような形になっており、眼には赤い宝石があしらわれている。


「占いを再現するために、ひとまず、これをつけたままとりあえず数日働いてみる?」

「そうだね、そうしてほしい。どうせ今のままボクの店に並べてても売れないしさ。でも、マリーたちがつけるだけで宣伝になるのかな?」

「男連中は気付きもしないだろうけど、女性陣は気付いて興味を持ってくれると思う。ただ……この店にくるお客さんも平民だから、カインのお店を紹介してもやっぱり買ってくれるかどうかは……」

「だよねー……。ま、他に案もないし、とりあえず一、二週間ほどつけたまま仕事してもらえるかな?」



 繊細な指輪をつけたまま仕事をするのはなかなかに緊張したけれど、数日すれば慣れてしまった。


 予想通り、店によく来る近所のご婦人方や女性冒険者の面々は、すぐに私やエマのつけているアクセサリーに気付いて、「かわいい」「ほしい」と言ってくれたので、カインの店の場所を教えてあげた。

 その後、女性陣やカイン本人から音沙汰がないので、売れたかどうかはわからないが……たぶん値段がネックになって購入まではいかなかったのだろうなと予想している。


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