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第10話

 冒険者としてのパーティ『転がる水晶』は順調に活動している。

 といっても、難しい依頼を次々にこなしているというわけはなく、できることをできる範囲でやっているだけである。

 私は討伐依頼、エマは採取依頼とたまにほどよい魔物がいれば討伐をしている。


 しかし、冒険者活動はあくまでおまけであり、本来はカフェとしての『転がる水晶』がメインの活動である。

 今日も今日とて、店を開けており、また新しい客がやってきた。


 背の高い黒髪の青年――鍛冶屋のトニー――と、金髪の少年という二人組。

 金髪の彼は少年と表現してもおかしくない見た目だが、実際のところトニーや私と同い年だ。もっと言うと、三人は幼馴染である。名をカインといい、ハーフリングの血を引いている。


 そんなカインは酔っぱらったようにぐでんぐでんになっていて、トニーに抱きかかえられながら歩いている。


「トニー、いらっしゃい。カインは……どうしたのそれ?」

「こいつ寝不足なんだ。コーヒーを飲ませてやろうと思ってね。うんと苦いのをいれてやってくれよ」


 二人はカウンター席にどさりと座った。よく見ると、カインの目の下には濃いクマができている。確かに寝不足のようだ。



「ああぁぁ……苦い……。ん? なんか目が覚めてきたぞ? っていうか胸もドキドキする……これが、恋?」

「違うから。それくらいなら大丈夫だろうけど、飲み過ぎないようにね」


 ようやく、ふにゃふにゃ状態から脱したカインに注意する私。カフェインが効きやすい体質なのだろう。体も小さいし。体が小さいといえば、エマも小さいのだけど、それよりさらに小さい。そういえばエマもカインも金髪なので、姉弟のように見えなくもない。


「で、なんで寝不足なの?」

「聞いてよマリー! うちの店がやばいんだよ!」


 カインは彫金師をしており、指輪などのアクセサリーを作成し、自分の店で売っている。客層はほとんどが平民。腕はいいので、過去に物好きな貴族が何度か来たこともあるらしい。

 そんな彼のお店『ゴールデンカイン』の売上が少しずつ落ちてきているらしい。


「最近はゴツゴツしたデザインが流行りらしくってさ。ボクの繊細な作品は時代遅れだとか言いやがるんだよ! まったくもう、ぷりぷりしちゃうよね!」

『ゴツゴツ』『ジダイオクレ』『プリプリ』

「そうだよ、ぷりぷりさ! お前らもわかってくれるかい?」


 マヨとイドとリーは、トニーの頭の上にとまって、カインの話を聞いている。彼はアフロとまでは言わないが、強めのくせ毛がもさもさと暴走しているので、座りごごちが良さそうである。


「僕の頭は鳥の巣じゃないってことを教えてやってよエマ」

「ぶふっ! え、えぇ、そうね……」

「もう、注意してくれないと、このまま三匹とも連れて帰っちゃうよ? いいの?」

「それはダメ! わかったわ……ふふっ……あんたたち、トニーの……トニーの頭から……」


 エマが笑いすぎて話が進まないので、迷い鳥たちには私が命令してカウンター横にある止まり木に移動してもらった。ちなみにこの止まり木はアンジェロさんの御好意により植物魔法で作ってもらった。ありがたい。


「ちょっとー、みんなボクの話聞いてる?」

「あぁ、ごめんごめん、それで、なに? 私に占いでもしてほしいの?」

「そう! ここ最近ずーっと新商品について考えてみたんだけど、何も浮かばなくて寝不足になっちゃってね。トニーに相談しに行ったら、マリーに占ってもらえって言われてさ」

「僕は相談してみたらとしか言ってないんだけどなぁ……結局こうなるとは思ってたけど」


 そう簡単に占いに頼るのはよくないと思うんだけどね……とぼやきながらも、それは自分自身にも言えることだなと少し反省しつつ、結局、私は水晶玉を取り出した。


『カインは今後どういう作品を作ればいい?』と水晶に問いかける。


 水晶の中で動くもやもや。形作られたのは……。


「カインが、パールを愛でてる、のかな?」

「パールって、たしか白ヘビちゃんだよね? 愛でるってなにさ?」

「めちゃくちゃ顔を近づけて、観察したり、腕に巻きつけたりしてる。あっ、次はマヨたちのくちばしをなでたり、羽をひろげたり、やりたい放題してる」

「うーん……。あぁ! 彼らをモデルにしたアクセサリーを作れってこと?」

「あー、そうかも」


 カインは今まで主に草花をモデルにしたアクセサリーを作っていた。繊細でかわいらしいデザインなので、私もいくつか買ったことがある。飲食店をやっている手前、仕事中にアクセサリーはつけたくないので、今は外しているけれど。


「動物のデザインは難しいんだよなー。モデルがじっとしていてくれないし」

「だから今まで作ってなかったんだ? でもエマの召喚獣たちなら、頼めばいう事聞いてくれるかも?」


 二人でエマを見ると、彼女は困り顔でこちらを見た。


「アタシからお願いすればモデルくらいできると思うけど、うちの子達がモデルをつとめてる間は店番できなくなっちゃうわよ?」

「一日に一匹だけカインに貸し出すというくらいなら、お店にも影響ないから私は問題ないと思う。報酬はどうする、カイン?」


 私は占い料金だけいただいて、これ以降の報酬についてはエマとカインの二人で話し合ってもらった。結果、エマの召喚獣デザインの商品が売れたら、その売上の二割を毎月エマに渡すということでお互いに納得したようだ。


 それから数日おきに、召喚獣たちは通い妻のようにカインの店へ連れていかれ、約一か月ほどで新商品が完成したようだ。あとはそれが売れてくれるかどうかだが……。



 ある雨の日、天気のせいもあって、客のいない店内で掃除をしていると、カランコロンとドアベルが鳴った。

 入ってきたのは、トニーとカイン。いつか見たのと同じように、ぐでんぐでんになったカインをトニーが抱きかかえながら歩いている。


「いらっしゃい。カインはまたなにかあったの?」

「また寝不足なんだ。とりあえずコーヒーを頼むよ」


 トニーは苦笑いしながら、カウンター席に座った。カインの目の下には前に見たよりさらに濃いクマができている。


「で、なんでまた寝不足なの?」

「聞いてよマリー! やばいんだよ!」


 パールやマヨたちにモデルとなってもらって作った品々は、カインとして久しぶりに楽しい仕事になり、いくつも傑作が出来上がったそうだ。

 これは間違いなく売れると思い店に並べたところ、確かに客の反応は良かった、が、誰も買ってくれない。なぜか? 高いからだ。

 あまりに仕事にのめり込んだ結果、いつもは使わない高めの素材まで持ち出して全力の作品を作ってしまったので、どうしても値段が高くついた。

 その値段では平民としては手が出ないということで、今のところ一つも売れていないらしい。


「まぁ! うちの子たちの何が気に入らないってのよ! アタシが全部買ってあげようかしらね」


 エマは召喚獣たちがせっかく手伝ったのに売れないのがご立腹のようだ。


「ホントに!?」

「いや、エマにそんなお金ないから。実家からお金でも借りるの?」

「……さぁて、皿洗いでもしようかしらね! はー、忙しい忙しい」

「ちょっと! 客はボクらだけでしょ! 忙しくないよね?」


 エマのことは置いておいて、実際どうしたものか……。


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