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完璧な主人公

 世の中、創作物というものは星の数ほど存在する。そんな星のひとかけらの物語に、主人公として作られた存在が私である。


 私を作ってくれた作者マスターのために、私は完璧な主人公であろうと努めた。


 私の活躍する創作物は、いわゆるミステリーと呼ばれる、刑事や探偵が事件に巻き込まれ、最終的に推理を駆使して真犯人を探し当てるというものだ。


 導入部分。私は懸賞が当たり、部下と共に孤島にある立派な洋館に、三泊四日のゲストとして招待された。他の招待客は、私たち以外に八人。そしてそれ以外に洋館のメイドと執事、管理人を含めると十三人となる。


 二日目の朝、招待客の一人である実業家が、有名な絵師「ダリ」の作品になぞらえて殺されていた。そこから、「ダリ」の作品をモチーフにした連続殺人が起こり、謎が謎を呼ぶ。と、作者マスターは考えていたらしい。


 しかし、私は一人目の実業家の死体が発見された途端に、事実を突き止め犯人を特定し、事件を解決したのだ。やはり、完璧な主人公は、完璧な頭脳を持っていなくてはならない。私はありとあらゆる可能性を脳内で出しては潰し、出しては潰し、犯人を特定したのだ。


 結果、私はそのミステリー小説をクビになった。


 編集担当曰く「解決が早すぎて面白くない」ということらしい。バカにしている。私は完璧な存在でいるべきなのだ。作者マスターのために。


 それからも、私は別の作者マスターのところを転々とした。格闘物に出演したときは、千人の有象無象を一切の攻撃を受けることなく一人で倒した。結果クビ。


 あるときは、恋愛小説の主人公。開始二ページでゴールイン。またもやクビ。


 さらにあるときは、ダブル主人公ということで、時代小説の悪代官になったのだが、クーデターを起こし日本統一を果たした。もちろんクビ。


 もうやけくそだと言わんばかり、今度は絵本にモブとして出演したのだが、モブである私がいつの間にかおむすびを追いかけ竜宮城に行きお金持ちになって鬼を退治していた。やっぱりクビ。


 何故だ。


 完璧を求めているのだろう、読者は。爽快な物語を読みたいはずなのだ。


 ふてくされ、他の創作物を見ていると、どうやら主人公にはある種の欠点があるほうが、読者に受け入れられやすいらしい。人間味がある、ということなのだろう。私は覚えた。これからはこんなヘマはしない。


 決意を胸に、次はファンタジー物に主人公として出た。腕っぷしは強く正義感もあるのだが、おっちょこちょいなのが玉に瑕という役だ。


 完璧に演じきった結果、おっちょこちょいで街を破壊したり、大陸の半分を消し飛ばしたり、最終目標である魔王城を宇宙にとばしたり、挙句の果てに地球を爆発させたかどで、例によってクビ。


 次こそはということで、将棋物に出演したら、IQ七千という超弩級天才だが、将棋のコマの動かし方だけが覚えられないという役を演じ、当然のごとくクビ。


 欠点を完璧に演じた結果、さらに酷いことになったのである。


 もう私は疲れた。大体なんだ、欠点があるほうが人間味があるというのは。そんなこと創作物の出演者が知るもんか。私達だって完璧に演じたいんだ。


 そもそも最近は、現実社会のほうが、創作物のキャラクターなんて太刀打ちできないほどの完璧超人が多数、存在しているではないか。


 「事実は小説よりも奇なり」を地で行っているわけだ。


 まったく、住みにくい世の中になったものだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。  ある意味、最高に真面目な主人公ですけど、空回りというかスゴすぎる能力でクビになっていくのが楽しかったです。  特に「絵本のモブ」と「将棋物」でクビになった理由が好きで…
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