プロローグ
「ねぇ父さん麻里が死んだって本当なの?」
この言葉は薄暗い病院の中で父さんと話した最後の言葉だった。
麻里が死んだこの言葉が俺にどんな事を思わせるのか怒り、悲しみ、絶望ありとあらゆる感情がある中で俺が1番に感じたことは自分に対しての悲観だ。
その感情だけがその時の俺を支配していた。
また、この言葉は俺が麻里の病気の重さすら知らないという兄としての哀れさをも表した言葉だった。
なぜあの時俺はこんな気持ちになったのかそれは俺と麻里の兄弟としての思い出がないことが物語っていた。
もちろん、思い出がないということはそもそも会話をしたことがなかったからだ。
それには、麻里が小さい頃より入院生活をしておりなかなか会えないということもあったのかもしれない。
だが、俺が1番分かってるそんな事無駄な言い訳だって他の理由がある事を。
それは・・・
麻理に興味がなかったそんな単純な事だと確信してしまっている。
また、興味がなかったということに疑問を持つかもしれないが、俺は前世では一度も入院している麻里の元を訪れたことがなかった。 父さんに言えば麻里の容体次第ではあるが多分会うことはできたと思う。
なのに俺はそれをしなかった。 それは麻里のことは気にしてないと言っているようなものだ。
だから、興味がなかったというのは自分で言うのもなんだが正しかったのだ。
でも、前世での俺の行動は麻里の兄としては間違いであるという事も確信している。
麻里が産ませた時、父さん母さん、そして俺みんな嬉しいという気持ちで心が満たされたと思う。 それと同時に父さんたちは二人の親へ、そして俺は兄になったのだから麻里の病気が発覚してからなかなか会えない日々が続く事でだんだんと自分一人の人生を歩み出してしまった。
でも、そんな事無責任だよって今の俺は思うんだ。
もちろん、自分の人生を謳歌することは大事だ。 なんたってその人生は一度限りなんだから全力で楽しまないと息が詰まる、ましてやそんな生活なんて誰も送りたくない。
でも、俺は理解してなかったんだその人生ってのは人同士の関わりの中でできている事を。 何ひとつとして
そんな前世での俺は麻里の死を知ったあとは真面目にただ自室に閉じこもってただただ泣くだけだった。
ベットの枕がびしょびしょになるほどに・・・
その時に後悔しても無駄だって分かっていても人は後悔しようとする。
今の俺からするとその時の涙や後悔の理由ははっきりとしないが、今までの俺を考えるとどれだけ悲しみ泣こうともそれは麻里に対してではなく自分を慰める涙にしか思えなかった。
結局わかることは俺は麻里に興味がなかった本当にそれだけだった。 しかし、それがあまりにも俺にとって致命的だったのだ。
自分を悲観するということは自分の間違いに気づくということでもあり、俺は”何も変わろうとしない”という間違いに気づいた。
そんな俺はこのあと転生することになる。
俺が転生したその世界は魔法が存在し誰もが憧れるファンタジーの世界であった。 そんな世界で俺は新たに生を享けた。
もちろん転生した直後は自分が急に知らない場所にいるのだから全く意味がわからなかったし、新しく生まれ変わったからって麻里の死の悲しみが癒えるわけはない。
だから、転生した時は赤ちゃんで当時は誰かわからなかった母さんに対してばぶばぶなんて出来るわけないのにした時は恥ずかしかった。
そんな時を過ごしていくにつれて俺は麻里の死から勝手に解放された気持ちになり、その世界で新たな第二の人生を歩み始めたんだ。
これが人間のダメなところなのか、俺のダメなところなのか。
もちろんずっと麻里の死を引きずって生きていくことが正しいわけじゃない。
ただ、前世での後悔を活かさず前世と同じように自分の人生だけを大事にする何も変わっていない時間を過ごすことは間違っている。
だが、そんな俺の人生を一変させる出来事が起こった。
その日は俺が転生して八年が経ってしまったある日のことだった。
そこからは本当に怒涛の日々の始まりだったし、とても辛い日々が続いた。
でも、自分を変えてくれた日を後悔することはないし、後悔で人生を充実させることがなくてよかったと思う。
色々な人に出会えたし、自分の間違いに気付いたり自分の止まっていた時が進んだことが実感できたんだから。
また、それがどういう意味なのかは、何もかが変わったあの日へと遡らないといけない。