22 おやつをたべる
「りゃ~~」
リアは鳴きながら、魔法の鞄に抱きついた。
「ああ、そうだ。ガウとグルルにお土産を買ってきたんだよ」
「ぐる!」
魔法の鞄から、外で座る用の椅子を沢山取りだした。
「タルホ。リホ。みんなも来なさい」
「うん」
子供たちが走り出してくる。
笑顔だが、少し表情が硬い。
狼藉者たちが暴れていたのだから、まだ緊張しているのだろう。
だが、怯えている気配はない。たくましいことだ。
「ガウとグルルにはこれだ」
お皿にお肉をのせて、ガウとグルルの前に置く。
「ガウ、グルル、食べていいよ」
「がう!」「ぐる~」
そして机の上には子供たち用のお菓子を乗せる。
「みんなもお菓子を食べなさい」
「ありがとー」
「お肉の他にお菓子もあるからな」
「ぐる~」
「リアも食べなさい」
「りゃ!」
リアのお皿も出して、お肉をのせる。
「りゃ」
「リアは甘えん坊だな」
俺はリアの口の中にお肉を入れてやった。
リアの成長と未来のことは、じっくり考え続けなければいけないのだろう。
俺は笑顔でグルルに言う。
「グルルのために毛布も買ってきたんだが……家がこんなことになってしまったし……」
「ぐるぅ」
「あとで直そうな」
今度は、家の中にグルルの部屋を用意して、魔法と錬金術で保護すればいい。
おやつを食べた子供たちが嬉しそうに言う。
「おいしいね!」「おいしい!」
「少なくてすまないな」
「そんなことないよ!」
子供たちに出したお菓子の量は少ない。
けして、ケチったわけではない。
出かける前にもお菓子を食べさせたのだ。
またここでお菓子を沢山与えたら、夜ご飯を食べられなくなる。
そんなことになれば、親に申し訳が立たない。
同じ理由で甘いお茶を出すのもやめておいた方が良いだろう。
だから、ミルクを出した。
ミルクはお茶に入れたり、料理に使うために、ヨハネス商会で沢山買っておいたのだ。
「わ、ミルクだ!」
「ミルクは好きか?」
「すきー」「引っ越すまえは牛飼ってたの!」
子供たちの中には牧畜をやっていた村から逃れてきた者もいたようだ。
お菓子を食べて子供たちの表情が柔らかくなった。
緊張も解けてきたように見える。
「りゃ~」
「リアも飲みなさい。ガウとグルルも……」
俺はリアとガウとグルルにもミルクを与える。
「りゃむ。りゃむ。ぶびぇ」
リアが、ミルクの入れたボウルに頭から突っ込んでびちゃびちゃにする。
「ははは! リアちゃんかわいー」
「りゃむ!?」
リアの行動で子供たちが笑っている。
そろそろ、何が起こったのか、子供たちから聞き取りしようと思っていると、
「あ、村長だ」
タルホが声をあげた。
集落から村長を含めた大人三人がやってきた。
三人とも老人である。
村長たちは走っているが、若者の早歩きより遅いぐらいだ。
「走らなくていいぞ! ゆっくり来てくれ」
俺は村長たちに呼びかけた。
俺も老人だったので、走ることの大変さは理解できるのだ。
しばらくして、たどり着いた村長たちは肩で息をしていた。
「ぜえぜえ……」
「とりあえず、水を飲んでくれ」
俺は村長たちにコップに入れた水を手渡した。
「あり、ありがとうございます。はあはぁ」
俺はしばらく村長たちの息が整うのを待った。
三分後、落ち着いた村長たちに俺は頭を下げた。
「村長、もうしわけない。子供たちを巻き込んだ」
「いえ! とんでもない。ルードさん! ありがとうございます!」
子供たちを巻き込んだことを、謝ったのに村長からお礼を言われる。
「巻き込んだのはこちらです」
「というと?」
「最近来ていなかったのですが……あいつらは以前から村に嫌がらせをしていた奴等で……」
「嫌がらせされていたのか?」
「はい。税と称して金を要求し、断ると家を壊したり、燃やしたり……」
「それはひどいな」
「そうなのです。王都の官憲に訴えても、街の外は管轄外だと……」
村長が嘆くように言うと、保護者の一人が諦めたようにいう。
「官憲の管轄外だからこそ、勝手に住めているという面もあるので、仕方ないといえば仕方ないのですがね」
「なるほどなぁ。王都の外で暮らす苦労か」
街の外に出るということは、魔物だけでなく、ならず者の相手をしなければならないのだ。
「はい。諦めて金銭を渡してはいたのですが……」
「どんどん、態度が悪くなり、手を焼いていたのです」
そこまで言うと、村長は深々と頭を下げた。
「気付くのが遅れて、もうしわけありません。消火はみんなでやるのがきまりなのに、完全に焼け落ちてしまって」
「いや、気にしないでくれ。恐らく火炎魔法をつかったんだ。焼け落ちるまであっという間だっただろう」
「それでも、もうしわけありません」
村長は頭を下げる。
どうやら、集落の方ではグルルの部屋から煙があがってしばらくして気付いたらしい。
だが、若者と健康な者では出払っていた。
昼間、体力のある者たちは王都の中や、森の中で働いているのだ。





