12 カタリナの帰還とグルルと子供達
「…………そうか」
カタリナは俺が思っていたよりも、辛かったのかもしれない。
冒険者たちはみなカタリナに敬意をもって接していた。
だが、カタリナが冒険者ギルドで浮いていたのは間違いない。
「仲間になりたかったのかもな」
「……そうだな」
初対面の俺に、カタリナはパーティーを組もうと言ってきた。
仲間を失い、死に場所を求めながらも、仲間が欲しかったのだろう。
キッチンの方からはカタリナの泣き声が聞こえてくる。
「…………用も終わったし、俺は帰るよ」
「そうか。忙しそうだもんな。あ、五分待ってくれ」
俺はギルバードを待たせておいて、大急ぎで発毛剤兼育毛剤を作った。
作っている途中でリアが起きた。
「りゃ~?」
「なんだ、リア。錬金術に興味があるのか?」
「りゃむ!」
尻尾を振り、目を輝かせて、リアは錬金釜を見つめていた。
「よし、完成だ」
俺は発毛剤兼育毛剤を瓶に詰める。
尚書は前髪の後退だけだったが、ギルバートは全体的に髪がない。
だから瓶を大きめにした。
「ギルバート、とりあえず、一回目はここで塗っていこう」
「おう!」
「頭全体だから、量はこのぐらいで……。カタリナの従兄殿より塗る量は多めだ」
ギルバートに発毛剤兼育毛剤の使い方や注意事項を説明する。
「かゆみは気にするな。かゆくても掻くなよ。どうしても我慢できなければ言ってくれ。抑える薬を作ろう」
「ふむふむ」
「髪の生え替わりの周期が整うことで初期は少し抜けるかも知れないが……」
よく考えたら、抜ける毛がギルバートにはなかった。
「いや、何でも無い。痛みを感じたり、発赤、つまり赤くなった場合も言ってくれ。対処のしようはいくらでもある」
「わかった。ありがとう! 本当にうれしいよ」
「お礼は生えてからでいい。絶対、我慢して使うなよ? 対処すれば何でも無いことでも我慢したら良くないことになりかねないからな」
「わかった。肝に銘じよう」
ギルバートはこれまでにない真剣な表情で頷いた。
そして帰り際、思い出したように言う。
「あ、そうだ。一応報奨金を出したいから、あとでギルドに来てくれ」
「戦功一位だけで充分だが」
「それとは別だよ。魔物を倒したら倒した数に応じて金を支払う規定だ。それに統計データも欲しいからな」
魔物を倒したらギルドカードに記録される。
その記録が欲しいのだろう。
「ギルドカードを読み取る機械は携帯版がないんだ。すまないな」
「わかった。あとで……ギルドに行こう」
「心配ごとか?」
「いや、グルルが寂しがり屋だからな」
「ぐる……」
「……そうか」
「まあ、それは後で考えるよ」
「頼んだ、殿下にも、伝えておいてくれ」
「わかった」
それから何度も何度もお礼を言って、ギルバートは帰っていった。
ギルバートが帰ってから、さらに五分後、
「あれ? ギルバートはどうしました?」
目を真っ赤にしたカタリナがお茶をお盆に乗せてやってきた。
カタリナが泣いていたことに、俺は触れない。
「忙しいらしいから、帰ったぞ。まあ昨日大規模戦闘があったしな」
ギルドマスターの仕事は山ほどあるだろう。
それなのにギルバートはグルルの登録のためにわざわざやってきてくれた。
きっとそれは、ギルバートなりの感謝の表し方なのだ。
「折角だ、お茶を頂こう」
「はい!」
二人でお茶を飲んだあと、カタリナも帰ることになった。
俺はガウ、そしてリアと一緒にカタリナを家の外まで送っていく。
仮にも王女なのだ。
一人で歩かせるのは危険なので、王都まで送ろうかと思ったのだが、避難民の集落から騎士たちが走ってきた。
いつもカタリナを護衛しているものたちだ。
「っ!」
騎士は家の入り口から頭だけだしているグルルを見て息を呑んだ。
だが、すぐに平静を取り戻す。
「殿下。おかえりですか? お供いたします」
「うむ。帰る。そなたたち。まさか、一晩中この近くにおったのか?」
「はい。ギルバート殿にお聞きしまして」
「野宿か?」
「いえ、集落で休ませて頂きました」
そういって、騎士は近くにある避難民の集落を指さした。
集落の入り口にある門の入り口から、タルホを含めた子供たちがこちらを伺っている。
「そうか。失礼なことはしていないだろうな?」
「もちろんです。謝礼も忘れてはおりません」
「ならばよし。では王宮に帰るぞ」
「はい」
「それでは、ルードさま」
「おお、気をつけろよ。あ、ギルバートがギルドにも寄って欲しいって」
「なるほど。討伐魔物の報告ですね」
詳しく言わなくても、カタリナは理解してくれた。
「りゃ~」「がう」「ぐる~」
そして、カタリナはリアとガウ、そしてグルルの頭を撫でて、騎士たちと一緒に帰っていった。
するとカタリナと入れ替わる形で、集落からタルホを含めて五人の子供が走ってくる。
集落には乳児を除けば、子供は五人しかいないのだ。
「ルードさん! おはよう!」
「おはよう」
「すげー、竜だ!」
「……ぐる」
子供たちに勢いよく近づかれて、グルルはびっくりして家の中に引っ込んだ。
「みんな。こっちに来なさい」
「「「はい、先生!」」」
「いや、授業ではないんだが……」
子供たちは俺から魔法を教わっているので先生と呼ぶことがあるのだ。
「あの大きな子はグルルといって竜の子供だ」
「大きいのに子供なの?」
「そうだ。子供だ。そして怖い目にあったから、寂しがり屋で臆病なんだ」
「そっかー」
「だから、大きな声を出したり、みんなでわっと走って行ったらびっくりしてしまう」
「「「わかった!」」」
「じゃあ、グルルをみんなに紹介しよう」
そうしてから、俺はグルルに呼びかける。
「グルル。こっちにおいで、怖くないよ」
「……ぐる~」
グルルは、家の入り口から頭だけ出す。
そして、ゆっくり、のそのそとこちらに歩いてくる。
「グルル。この子たちは近くに住んでいる子たちなんだ」
「ぐるる」
「みんな、この竜はグルルだ。俺の従魔だ。仲良くしてやってくれ」
「従魔にしたんだ。すげー」
「わー、かっこいい」
子供たちは自己紹介したあと、グルルを撫でる。
「ぐるぐる」
グルルも嬉しそうに尻尾を振っていた。





