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06 人との交流

 魔法では怪我を治療することはできない。

 そして、護衛たちは俺を魔導師だと思っている。


 治療を申し出た俺を見て護衛たちがいぶかし気な顔をするのもよくわかる。


「俺は治療も得意なんだ。熊退治以上にな」

「…………いや、だが、その恰好では」

「ああ、たしかにな」


 草で作った服を着て、泥だらけなうえ、蛇の血を浴びている。

 不衛生過ぎる姿だ。


「わかった、少し待て」


 俺は【物質移動】の術式を使い、一瞬で汚れを取り除く。

 瞬間的に綺麗になった。


「これでよしっと」

「え? なにやった?」

「そんなことはどうでもいい」

「いや、良くないだろ。その草? みたいなのはなんだ?」


 そう言われて自分の服を見たら、確かに汚そうに見える。

 汚くはないが、清潔感は皆無だ。


「こうみえて服だ。汚く見えるが大丈夫だ」

「大丈夫って……」


 議論している時間は無いので、俺は無視して怪我人の近くに寄った。

 このままでは、どうせ助からないと思ったのだろう。

 俺を止めた護衛の一人も。疑いの目でこちらをみつつも、止めなかった。


「治療のエキスパートである俺が来たぞ、絶対助かるから安心しろ」

「……心強いよ」

「ああ、任せろ」


 怪我人は全部で三人だった。俺は素早く三人を診察する。

 容態急変の理由を探るためだ。


 普通に考えたら毒の反応なのだが、あの魔熊の牙と爪には毒はなかった。

 魔熊の牙と爪以外で毒が体内に入る理由を探らなければならない。


 錬金術は素材を変化させるのが基本の術理。

 素材が一体何でどんな特性があるのか。それを見極めるのは錬金術師の基本技能だ。

 その見極める対象には毒も当然含まれる。


「……傷口は洗い流した水はどこからとったものなんだ??」

「夕方前に近くの沼の水をろ過器を使って綺麗にしたんだ」

「そのろ過機を見せてくれ」

「ああ。これだ」


 そのろ過器は魔道具だった。しかもかなりの高性能なものだ。

 ろ過すると同時に加熱もするようだ。

 このろ過器を使えば、泥水を充分飲用可能な水にできるだろう。


「ろ過器は素晴らしいものだが、ろ過された水は毒だな」

「……毒だって? まさか! 我々はかなり飲んでしまったが……」

「りゃ!?」


 護衛の一人と同時にリアが驚いて声を上げた。

 赤ちゃんなのに毒という単語がわかるらしい。


「まあ、飲んでもさほど問題はない。安心してくれ」


 毒というか、目に見えないほど極々微小な小さな生物が混じっている。

 その生物は熱に強い。そして酸には弱い。


 口から入れば、胃酸のおかげでほぼ死滅する。

 少量が生き残っても、健康ならば身体の抵抗力が負けることは無い。


 だが、傷口を洗い流すのに使い、その水で洗った包帯を使う。

 そうなれば、血液中に大量に入ることになる。

 そんなことを説明した。


「ど、どうすれば彼らを助けることができるのでしょうか!」


 そう尋ねて来たのは、治療を手伝っていた比較的身なりのいい女性だ。


「安心しろ。任せてくれ。解毒は得意分野なんだ」


 俺は空気中の水分を液体にして、改めて自分の手を綺麗に洗い流す。

 そして怪我人の汚れた包帯を取って、傷口も同様に洗い流した。


「水魔法か。見事なものだ」


 先ほど俺が怪我人に近づくのを止めた護衛の一人がそんなことを呟いている。

 傷口を洗い流してから、俺は道中に採集した薬草で傷口を癒すヒールポーションを作っていく。


 ヒールポーションはケルミ草から、アンチドーテはレルミ草から作ることができる。

 アンチドーテは駆虫薬よりも錬成難度は高い。


 駆虫薬は、駆虫効果のある有効成分を、【物質移動】させるだけでよかった。

 アンチドーテはレルミ草の葉に含まれる有効成分を抽出し【物質変換】を駆使して分子組成を変化させながら水に練り込む。


 ヒールポーションとアンチドーテの練成難度はほとんど変わらない。

 俺は空中に二種類の錬金薬の水球を維持したまま、異なる【物質変換】を同時に展開していった。


「……すごい」


 治療していた身なりのいい女性が呟いた。

 今やっていることは、確かに凄いことだ。


 錬金道具もなしに【物質変換】を二重展開する難度は非常に高い。

 一流の錬金術師でも、これをするのは不可能だろう。


「さて、薬はできた。後は治療だ」


 俺はもっとも重症の者から治療を開始する。


「少し痛い。我慢しろ。すぐ楽になる」

「……」


 一応声をかけたが、返事はなかった。意識が朦朧(もうろう)としているのだ。

 空中に保持した、体内の微生物を殺す薬、アンチドーテを一人分を分離する。


 そして、針ぐらいの太さの極小の槍にする。

 言ってみれば、極小の水の槍、それのアンチドーテ版である。


 そのアンチドーテの槍で皮膚を突き破って血管に直接流し込んだ。

 血管はとても細い。血管を外側から突き破ったところで止めなければならないのだ。

 上手に止めないと、血管を内側から突き破ってしまう。


 その加減が非常に難しいが、適切に実行できれば、極めて細いのでさほど痛くはない。

 それを終えてから全身の傷にヒールポーションをかける。


「これでひとまずは良しと。包帯はまだ巻かないで」

「ああ、わかった」


 包帯は汚染されている可能性が高い。

 傷口はすでにほぼふさがっているはずだが、念のために巻かない方がいいだろう。


 すぐに二人目の治療に入る。


「少し痛いが、我慢しろ」

「すまない。助かる」


 二人目はそう言ってにこりと笑った。

 まだ、症状が軽いようだった。


 俺はそのまま二人目と三人目の治療を終える。

 そして最後にもう一度、改めて三人を順番に診察した。

 苦しんでいた三人は安らかな表情になっていた。


「ありがとう。助かった。もう全く痛くないよ」


 そう言ったのは、最初に治療した最も重症だった男だ。

 意識もはっきりしているようで何よりだ。


「まだ完治したわけではない。二、三日は安静にしてくれ」

「あの傷で二、三日安静にするだけでいいのか……」

「血も流しただろう、栄養のあるものをたくさん食べるといい」

「ありがとう。今度生まれてくる子供に会えるのは君のおかげだよ」


 それから残り二人からも何度も何度もお礼を言われる。

 あまりお礼を言われると、さすがに照れてしまう。


「どういう魔法なんだ?」

「……すさまじいものを見た」


 護衛たちは、仲間がなぜ急に快復したのかまったくわかっていなさそうだ。


「怪我人を馬車の中に運んでやれ。優しくだ」

「了解です」

 トマソンの指示で護衛たちは、丁寧に三人の元重傷者を荷馬車の中へと運んでいく。


 それが終わると、すぐに戻ってきて頭を下げた。

「仲間を助けてくれてありがとう。本当に感謝してもしきれない」


 トマソンからお礼を言われた。

 他の護衛たちも次々とお礼を言ってくる。


「気にしないでくれ。君たちも怪我してるだろう? ついでだから治療しよう」

「よいのか?」

「ああ。傷口からこの辺りの水が入ると厄介なことになりかねないからな」


 大量に入らなければ大丈夫だろうが念のためだ。


 治療が終わるのを待って、一人の女性が近づいて来た。

 それは俺が到着するまで、治療を手伝っていた身なりのいい女性だった。

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