04 リアは魔王か
「なにかおっしゃいましたか?」
「……いや、なんでもない」
俺は千年前に思いをはせる。
たしかに魔王と人族の国は戦っていた。
そして魔王の国に押し込まれ、人族は沢山死んだ。
だが、仕掛けたのは人族なのだ。
俺をはじめとした錬金術師の強大な戦闘能力が、偉い奴らの判断を歪ませなかっただろうか。
錬金術師がいれば、魔族たちの領地を奪うことができると、増長させてなかっただろうか。
魔族の領地を奪い、魔族を奴隷にすることで人族はより豊かに幸せになれる。
そう欲に目をくらませた原因は錬金術師の戦闘力にあったのではないだろうか。
そして、調子に乗って戦を仕掛けた結果、魔王が現われ人族は一気に劣勢になった。
魔王は魔族の救世主だったのではないだろうか。
「……なんでもないんだ」
人族に正義はない。
それでも、俺は人族で、人族が殺される姿は見たくない。そう思ってしまう。
客観的な判断などできるわけがない。
千年前も、人族が沢山死ぬ現状を、俺は座視できなかった。
だからこそ、魔王を討伐せよという勅命に従ったのだ。
「リアが、魔王である可能性が高いとして……どうなされますか?」
カタリナが真剣な表情で、俺の目を睨むようにじっと見つめてきた。
「りゃあ?」
自分が呼ばれたと思ったリアが、カタリナの方にとことこと歩いていく。
そして、机の上にのるカタリナの右手に頭を押しつける。
「どうもしないさ」
「それはなぜでしょう?」
「いくつか理由がある。まず魔王とリアが同一個体ときまったわけではない」
「……ですが」
「仮にリアが魔王だとして、魔王が悪だと誰が決めた」
「ですが、魔王軍は実際に人族の都市を攻撃しています。突然、一方的に……」
「落ち着け。千年前には人族がそれをやったのだ」
そういうと、カタリナははっと息を飲んだ。
「魔王は魔法の王だ。千年前は人族に侵略された魔族を助けるために魔族に手を貸した」
「……魔人はどうなのでしょう」
「魔人はな、当初どちらの味方でもなかった。いや両方の敵だったな」
魔人は強力な魔物なのだ。人族とも魔族とも違う。
人族の村が手薄だと思えば襲い、魔族の都市が痛手を受けたと判断すれば襲った。
「魔王はその圧倒的な力で魔人を服従させて、味方にしたのだ」
千年経っても、魔人たちは魔王に未だに心酔しているようだ。
それほど、魔王は圧倒的だった。
「千年前、魔王が魔人を支配、いやもはや隷属に近い状態だったが、支配した後、人族の非戦闘職の被害が減ったほどだ」
統率されていない魔人ほど厄介なものはない。
突然、大都市に現われて、数十人を殺して消えるのだ。
「恐らく今も魔人は統率されているだろう。そうでなければ、今も断続的に魔人の襲撃があるだろうからだ」
魔人はとにかく血の気が多い。性格が残虐で、死を恐れない。
それゆえ、統率されていない魔人は本能に従い、無謀な突撃を繰り返すのだ。
「亡き魔王に心酔し続けているのか、自称魔王軍副総帥とやらに支配されているのかはわからんがな」
「つまり、ルードさまは魔王は自衛のために戦っただけだと」
「そうだ。あのとき先に手を出したのは人族だ。自分の仲間を守るために戦うのは悪か?」
「……違うと思います」
「だから、俺は魔王を悪だと思っていない」
むしろ悪は俺たちだった。
それでも、人族を守るためには、魔王を倒すしかなかった。
そして、それは魔王も同じだ。魔族を守るためには人族を襲わねばならなかったのだ。
「そもそもだ。仮に魔王の行なったことが罪だとして、千年後の今裁くことに正当性があるのか?」
「…………」
「千年前の罪で裁くのならば、先に裁かれるべきは人族の方だろう」
「それは! 今の人族は、そのときの人族とは別です!」
「それは、魔王も同じだ。当時の魔王はもういない」
「りゃあ?」
「リアは……魔王に似ているが、赤ちゃんだ。それに当時の記憶はないだろう。子孫のようなものだ」
「魂は……同一なのかもしれません」
「かもしれないな。だが、違うかもしれない。そもそも、魂の転生についての現代理論はどうなっているんだ?」
「ほとんど、いえ、なにもわかっていないと思います」
その答えは予想していたが、残念でもあった。
俺自身、転生と転移、魂について、知りたいと思っていたからだ。
「もし何もわかっていないなら、罪に問えないだろう? 本人かどうかすらわからないのだから」
「……ですが」
カタリナは一度言葉に詰まってから、意をけっして話し出す。
「ですが、ことは人族全体に関わることです」
両手をぎゅっと握り、ちらりとリアを見て、さっと目をそらす。
「うん。そうだな」
カタリナは演技力が下手だ。
王族として不安になるほどだ。
これほど、顔に思いが出てしまっては、宮廷政治を乗り切るのは難しかろう。
「リア」
「りゃあ~」
俺が呼ぶとリアは俺の手元にやってくる。
俺はリアのことを撫でた。
「リアはきっと大丈夫だよ」
「ですが……」
カタリナは何度も何度も「ですが」と言うが続きの言葉を発せていない。
反論しなければいけないと思っているが、言葉が続かないのだ。
カタリナ自身、リアが好きなのだ。
だから、しっかりと理論だてて反論できないのだろう。
カタリナは、敢えてリアのリスクについて強調して話している。
リアに情が移った俺が冷静な判断を下せていない危険性を考えたのだろう。
それが民を守るべき王族としての務めだと思っているに違いない。
いや、それが騎士と仲間の献身によって救われた自分の役目だと思っているのかもしれない。
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