01 戦闘後の朝
ここから、3月15日発売の二巻の内容になります。
一巻の書籍には、50話と二章1話の間のお話である「グルル、最初の夜」が入っています。体は大きいけど子竜のグルルが夜泣きして、ルードが添い寝しにいき、ルードの不在に気付いたリアが騒ぐという話です。
魔王軍を撃退した日、俺はグルルの小屋で眠った。
朝起きたら、リアとガウまで移動してきたので、みんなで朝ご飯を作って食べることにした。
肉を焼いていると、俺の家で眠っていたカタリナも起きてきて、一緒に魔猪の肉を食べたのだった。
朝ご飯の後片付けを終えた後、
「ルードさん! お話しをお聞かせください!」
カタリナが勢い込んで言う。
「わかった。家の中で話そうか」
「はい」
俺が家の中に入ろうとすると、
「……ぐるるぅ」
グルルが寂しそうに鳴いた。
グルルは体が大きいが、とても寂しがり屋なのだ。
昨晩は小屋で一頭寂しくて鳴いていたので、添い寝をしてやったぐらいである。
「グルル、どうしようかな」
グルルは捨てられた子犬ような目でこちらを見ていた。
――ガチャガチャ
「……カタリナ?」
「はい。どうされました?」
家に入ろうとしていたカタリナの鎧から音がしている。
昨夜の戦闘の前、俺はカタリナの鎧を調整、強化した。
万全な状態で、カタリナの鎧から音がするわけがない。
「鎧が壊れてないか?」
「そんなことは……」
カタリナは自分の体を足のほうから、見上げるように確認する。
なぜかカタリナは全身鎧を着たまま眠っていたのだ。
つまり、昨晩の戦闘から鎧を脱いでいないことになる。
「後で確認しよう。きっと昨日の戦闘で壊れたんだろう」
「折角強化して頂いたのに、申し訳ありません」
「いや、気にするな、武器も防具も消耗品。壊れるものだ」
昨日の戦闘は激しかった。
武器も防具も、不具合が出て当然だ。
「……あとでトマソンやギルバード、冒険者たちの武器防具も点検しにいくか」
大規模戦闘で、みんな激しく戦った。
「カタリナ、話の前に鎧を脱いでひとっ風呂浴びてきてくれ」
「……ですが」
「グルルが昨日の戦闘の心の傷が癒えていないからな。小屋を手直ししたいんだ。その間、カタリナは風呂にでも入っていてくれ」
「……わかりました」
よくわかっていない様子で、カタリナはそう言った。
カタリナを風呂に送り出した後、俺は大急ぎで改修作業に入る。
「グルルの小屋を家に繋げるからな」
「ぐるる~」
グルルは嬉しそうに尻尾を振った。
グルルの小屋は、俺の家に隣接する形で建てた。
だから繋げること自体は難しくない。
グルルの小屋を俺の家のリビングに繋げればいいだろう。
そうすれば、グルルも小屋の中から俺たちの様子を見られるし、俺たちもグルルの様子を見られる。
それでグルルも寂しくないはずだ。
「グルルが通れる大きさの穴を開けるわけだから……」
魔法の鞄に入れて置いた木材や石材を使って、グルルの小屋とリビングを繋げていく。
【物質移動】と【形態変化】、【形状変化】も使えば簡単な作業である。
「これでよしっと、グルル、小屋を通ってリビングまで移動できるか?」
「ぐるる~」「りゃあ~」
リアを背に乗せて、グルルは小屋の扉を口で開け、そのまま歩いて行く。
俺はグルルの後ろをついていく。ガウは俺の後ろを大人しく付いてきた。
「ぐるるるぅ!」
リビングまで到着すると、グルルは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「グルルは大きいからな、寝室には入れないが……まあ、俺がリビングで寝ればいいか」
「ぐるるるぅ」
グルルのことはこれでいい。
次はガウの手当だ。
ガウは俺を助けようとして魔人に跳びかかり火傷を負ったので、毛がはげてしまっている。
怪我と火傷は治したが、毛はまだ伸びている途中なのだ。
「ガウ、こっちに来なさい」
「がぁう」「りゃあ」「ぐるる~」
なぜか一緒にリアとグルルも来た。
「ガウ、今日も薬を塗ろうな」
「があう」
毛がはげてしまった部分、つまりほぼ全身に発毛剤兼育毛剤を塗っていく。
「ガウは毛が伸びるのも速いな」
「がう~」
もう短毛種の犬ぐらいに見えなくもないぐらいには伸びている。
伸びた毛をかき分けるようにして、地肌に薬を塗る。
「よく考えたら、発毛はしているから、育毛剤の成分比率を増やしたほうがいいか」
「がう?」
塗った後は丁寧にマッサージをする。
すると、ガウはいつものように、舐めようとする。
「ガウ、舐めたら駄目だぞ」
「がう!」
「リアもだ。塗り薬だからな。舐めたら駄目だ」
「りゃ?」
リアがガウの毛を舐めようとするので止めた。
「……もしかして、この薬は魔獣にとっては美味しそうな匂いなのか?」
多少、魔獣が嫌がる臭いにした方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると、カタリナが戻ってくる。
「いいお風呂でした」
「そうか、それはよかった」
カタリナは全身鎧を籠に入れて、両手で持っていた。
白い服で、脇の部分や膝裏など、全身鎧の隙間になりそうな部分に鎖帷子が付いている。
「ガウの治療が終わったら、すぐ全身鎧を見よう」
「ありがとうございます」
「今度鎧下も強化しよう。持ってくるといい」
「あ、ありがとうございます!」
「礼には及ばないさ。いい鎧下ができたら販売を開始するつもりだからな。協力してくれ」
「錬金術の普及ですね! 私に出来ることならなんでもお手伝いいたします!」
カタリナは笑顔でそう言った。





