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04 人との遭遇

 初めて遭遇できた人族たちは、巨大な魔獣の熊、いわゆる魔熊に襲われていた。

 襲われている人族たちは馬車隊だ。

 護衛もいるが、魔熊を相手にするには数が足りない。


「りゃ――」

「リア、静かに。熊か。厄介な相手だな」


 熊を見て威嚇しようとしたリアを止めて、様子を窺う。

 熊は強い。そして魔熊は熊の何十倍も強い。

 基本的に人が勝てる相手ではない。


 戦闘型の錬金術師がいれば、もしくは熟練の魔導師がいなければ、撃退は容易ではない。

 戦士ならば、最低でも魔力による身体強化は必須だろう。


「くそ、遊んでやがる!」

「ふざけやがって!」


 護衛たちの怒鳴り声には怒りと怯えが混じっている。

 護衛たちは、俺の目から見てもけして弱くはない。

 動きも良いし、判断も速い。


 だが、魔力による身体強化が下手すぎる。

 使っていないわけではないが、魔力のムラが大きくて、上手く強化できていない。

 これでは、魔熊には勝てない。


「……なぜ逃げない?」

「りゃ?」

「リアも、勝てないと判断したら逃げた方が良いぞ」

「りゃ」


 このような状況になった以上、全力で逃げるしかない。

 何か作戦でもあるのかと馬車隊を観察してみる。


 例えば、苦戦している振りをして、魔熊をおびき寄せ、魔導師か錬金術師がとどめを刺すといった作戦だ。

 だが、隠れている魔導師や錬金術師の気配はない。


「なるほど」


 どうやら、先頭の荷馬車の車輪が泥濘(ぬかるみ)にはまって動けないらしい。

 後続の荷馬車が先頭を避けて進もうにも、道から外れたらそこは泥濘だらけ。

 どうやら湿地帯の上に石を無理やり敷いて作られた道のようだ。


「助けることにするか。リアは大人しくしていなさい」

「りゃ」


 何か作戦があるなら邪魔したら悪いと思ったが、そうではないらしい。

 ならば、助けるべきだろう。


 熊に襲われる人族を見殺しにしては寝覚めが悪い。

 それに、人族と仲良くなれば、色々と教えてもらえるだろう。


 俺は大量の薬草を抱えたまま薮からでて、魔熊の元へと歩いて行く。


「GUA!」


 魔熊は俺を見た。何者だろうかと訝しんでいるようだ。


「お、おぉ……?」


 そして、五人の護衛たちは俺の方を見て頬をひきつらせていた。


 護衛たちも魔熊と同じく、俺のことを敵か味方かわからないのだろう。

 困惑の表情を浮かべていた。


「ひ、人族か?」


 護衛の一人がそんなことを言う。

 一瞬「失礼な」と思ったが、思い直す。


 いまの俺は、とてもひどい姿をしている。

 採集した薬草の茎は長く、葉もたくさん付いている。

 護衛たちから見たら、草の魔物が現われたように見えるかもしれない。


「怪しいものじゃないんだ」


 そういって、薬草の横から顔を出す。


「……え? 人族か?」


 もう一度、尋ねられる。


 薬草がなくても、俺は怪しい恰好らしい。

 木の皮の服は藪の中をこいだせいで、すでにボロボロだ。


 さらにその上から虫よけの泥を塗りたくっている。

 その上、食べた蛙と蛇を解体したときの返り血を浴びているのだ。

 蛇皮のベルトと蛙皮の帽子も印象が悪いかもしれない。


 だから、俺は護衛を安心させるために笑顔を向けて、明るい声を出す。


「安心してくれ。汚い恰好をしているが、俺は人族だ。魔熊は任せてくれ」

「いや、危険だ! 逃げろ!」

「冒険者を何十人と殺している賞金持ちの凶暴な人食い魔熊なんだ!」


 自分たちが全滅しそうだというのに、俺のことを気遣ってくれる。

 なかなかいい奴らではないだろうか。ますます助けたくなった。


「大丈夫。熊退治は得意だからな」


 俺は錬金術の【形態変化】で湿地帯の水分を氷へと変化させ槍を作る。

 それを魔熊の心臓を目がけて放った。


「GUIA!」


 魔熊も大した物で、俺の放った槍をかわす。


「いい動きだ。だが……」

「GIE……」

「槍は一本じゃない」


 魔熊の後頭部から、右目を貫く形で、氷の槍が突き刺さる。

 魔熊に見えるように作った槍はおとり。

 魔熊が避ける先を予想して、放っておいたのだ。


「さて、他に倒して欲しい魔物はいるか?」


 俺は尋ねたが、護衛たちは驚きすぎて返事をしてくれない。


「なんてことだ、あの人食い熊が一瞬で?」

「見たことのない魔法だ。ど、どういう魔法なんだ?」


 護衛たちは驚愕に目を見開きながら、倒れた魔熊と俺を交互に見た。

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