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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
一巻 アース・スターから発売中!

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22 襲撃者

 俺はとっさに空気中の水分を凍らせて壁を作り火球を防ぐ。

 錬金術ではなく、魔法によって作られた火球だ。


 同時に魔法の鞄から取りだして身体強化の錬金薬を飲み干した。

 余分に作っておいて良かったと心の底から思う。


 そうしながら、俺は火球の飛んできた方向を確認する。


 火球が飛んできた瞬間、リアの親竜かと思った。

 リアは赤い鱗を持っている。恐らく火竜の赤ちゃんである。


 だからリアの親の火竜がリアを取り返しに来たのかと思ったのだ。

 それならば、寂しいが返さなければならない。

 そう思ったのだが、そこいたのは竜ではなかった。


 敵は人型で身長は二メトル以上ある。頭からは大きな角が生えていた。


 体表は青黒く、背中からコウモリのような被膜のある黒くて大きな羽が生えている。

 手足は、体に比して一般的な人族よりもずっと長い。爪も鋭く長かった。


 そして、地面から〇・五メトル辺りの位置を浮かんでいる。


 人型の魔獣である魔人だ。

 魔人は強い。知能が高く、魔力は人族よりも圧倒的に高い。

 そして身体能力も人族の比ではない。


 人族と魔人は、狼と魔狼ぐらい違うのだ。


「……魔人が俺に何か用か?」

「……その竜の子を渡せ」


 俺はリアをちらりと見る。


「キシャアアアア!」


 俺の肩の上に乗っているリアは一生懸命威嚇している。

 怯えて震えながら、俺の頭にヒシっと抱きつく。

 どうやら、リアの知り合いの魔人というわけではなさそうだ。


「なぜ、魔人が竜の子を欲しがる?」

「………………」

「お前ら自称魔王軍の奴らか?」


 ここは比較的魔王軍の本拠地に近い南方地域だ。

 そして魔王軍副総裁は数多くの魔人を配下にしているという。

 そこからの推測だ。


「だったらなんだというのだ?」

 明言はしていないが、自分が魔王軍の一員であることを肯定している。


「魔王軍の奴らが、何故竜の子を欲しがる」

「…………」


 再び尋ねたが、魔人からは答えが返ってこない。

 魔人は無言のまま俺に襲い掛かってくる。


「理由は言えないのか?」


 所属は教えても理由は教えられないらしい。


 魔人の鋭い爪を俺はかわす。

「お前、人ではないな?」

「人のつもりだが?」

「嘘をつくな! 人の身で俺の爪を躱せるはずがない!」

「もしかして、人族は身体強化が使えないと思っているのか?」

「はあ? 事実だろうが!」


 人族は強力な身体強化の術を使えないと信じ切っているかのようだ。

 千年の間にそれ常識になってしまったのかもしれない。

 文明の衰退が著しい。


「……おい、魔人。一つ聞いていいか?」

「いいわけないだろうが! 劣等種族が!」

「リア、いや、この竜は魔王なのか?」

「っ!」


 魔人は目を見開いて、後ろに跳び退く。


「お前は、わかりやすすぎるな」


 俺が魔人の退き足について、前進すると、

「くそが!」

 魔人が口を開けた。


 ――パウッパウッパウッ


 魔人の口から強力な火球が、超高速で三発連続で撃ちだされる。


「器用だな、おい!」


 俺は【形態変化】の術式を使って火球を消滅させた。

 基本的に【形態変化】は気体を液体や個体へなど、物質の三態を変化させる。

 だが、応用すれば、火球から魔力の状態へと変化させることもできるのだ。


「……お前」

「なんだ? 何をそんなに驚く。まるで錬金術師を目の前にした魔人のような表情だな」

「ちっ!」


 魔人は錬金術師という言葉に反応した。

 どうやら、こいつは錬金術師の恐ろしさを知っている魔人らしい。

 つまり千年近く、もしくは千年以上生きているのだろう。


「お前は生かしてはおけぬ!」

 そう叫ぶと同時に、魔力弾を火球を口から吐いた。


「魔人風情が、俺を殺せるつもりなのか?」


 そう言って、火球を消滅させた瞬間、俺の直上から巨大な火球が降って来た。

 口から撃ち出された火球はおとり。こっちが本命だ。


 降って来た火球の直径は五メトルほど。高温すぎて白熱していた。

 威力が高すぎる。魔力量も多すぎる。


 含まれる魔力量が多すぎて【形態変化】による魔力変換では対応出来ない。

 火球の一部を魔力に変換したところで、俺の手が燃え尽きるだろう。


【形態変化】で氷の壁を作っても一瞬で溶けるだろう。

【物質移動】と【形状変化】を駆使して、土の壁を作っても、溶けかねない。


「厄介なことを!」


 俺は大きく後ろに跳んでかわしたが、今度は魔人が俺の退き足について来た。

 そして右手を思いっきり振るう。鋼鉄すら切り裂きそうな鋭い爪だ。

 俺は左足で魔人の右手を蹴り上げて軌道をずらす。


 魔人の連続攻撃は止まらない。

 左手に持った剣で逆袈裟に斬りかかってきた。

 これも鋼鉄すら斬り落としそうな斬撃である。


「魔王さまに当たったらまずいんじゃないのか?」


 リアは魔人の攻撃に怯えて、俺の服の中に潜り込んでいる。

 俺が燃え尽きたら、リアも燃えるだろう。


「お前ごときが知ったことではないわ!」


 そう叫びながら、魔人はリアごと斬り殺す勢いで剣を振るう。

 俺は辛うじて身をよじって、斬撃をかわした。


 同時に再び魔人の口から火球。

 即座に左手で発動した【形態変化】で消滅させる。

 だが、その俺の左手首を、魔人の右手が掴んだ。


「つぅかぁまぁえぇたぁ」


 魔人が口をゆっくりと動かして、にたりと笑う。

 俺の手を掴んだまま、魔人は口から強烈な火炎ブレスを吐き出した。


 超至近距離からの火炎ブレス。避けようがない。

 俺はまともに火炎ブレスを浴びた。


「……他愛無い」

「何の話だ?」

「なに……? まともに食らったはずだ! なぜ無傷なのだ」

「この程度の攻撃で殺せると勘違いされていることが驚きだよ」


 魔人はひきつった顔でたて続けに火炎ブレスを口から吐く。

 俺は【形状変化】【物質移動】を駆使して、体の周囲に強固な空気の壁を作ったのだ。

 空気を圧縮し固定して、魔力を練り込んでいる。


「俺にこれを使わせたこと、自慢していいぞ。生きて帰れたらだが」


 空気をその場に固定するのは、固体や液体と比べても難しい。

 固定できたとしても、火炎ブレスがぶつかったら簡単に崩れかねない。

 複雑な術式が必要だし、消費魔力も大きいのだ。


「賢者の石」があれば、術式も簡略化できるし消費魔力も格段にへらすことができる。


「久しぶりだから、一瞬手間取ったな」


 千年前、俺は「賢者の石」に頼り切っていたのかもしれない。

 賢者の石なしで錬成式を頭の中で組み立てる練習をやりなおした方がいいだろう。


「……(なま)ってるな。修練しなおしだ」

「何をわけのわからぬことを!」


 魔人が、空いている左手で剣を振りかぶる。

「ハアアアアアァァァ! 死ねえええええ!」


 魔人渾身の唐竹割り。

 俺はその剣の持つ魔人の左前腕を右手で掴む。


「……少し修練に付き合ってくれ」


 俺の右手は魔人の左前腕を、魔人の右手は俺の左手首を掴んだ状態。

 つまり、俺と魔人で円環ができているのだ。


「この状態ならば……」

 俺は右手から左手に向けて(いかづち)を流す。


「ギアヤアアアアアアアア!」

「うん。まあまあかな」


 雷は錬金術の【物質変換】で発生させることができるのだ。

【物質変換】自体、錬金術の中でも難度は高い。


 だが、操るのは分子組成ではなく電子である。電子は分子よりもはるかに小さい。

 だから、【物質変換】の中でも難しい部類に入るのだ。

 使いこなせたら、千年前の基準でも超一流の錬金術師を名乗れるだろう。


 だが、あくまでも【物質変換】なのだ。

【物質転換】ほどは難しくはない。


 俺にとっては難しすぎず簡単すぎない。そんな難度だ。

 だから、修練には最適である。


「もう少し威力を高めて、さらに速く練成式を組み立てたいな」

「ギアアアアアア!」

「うん。もう少しだな」

「ギアアアアアアアアアア!」


 何度も何度も雷を流して練習する。

 雷の威力と、錬成式の組み立ての速さに満足したころ。

 魔人の全身は、プスプスと煙を出しつつ黒焦げになっていた。

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