18 冒険者ギルド再び その2
スカウトはケルミ草とレルミ草を手に取って、観察しながら教えてくれる。
スカウトの実家の農村では、畑の近くにケルミ草とレルミ草が良く生えていたらしい。
農業の邪魔なので、子供のころから草むしりをよくさせられていたそうだ。
「いやになるほど見たよ。根が深くて、草むしりは本当にしんどいんだ」
「確かに根は深いな。根もまた薬になるんだが……」
「家畜もこの草は食べないからな。農家にとってはうざいことこの上ない草だよ」
俺はスカウトから村の位置を聞く。
王都からそれほど遠くはなさそうだ。
「ギルバート、この草の採集依頼って俺が出したりできるのか?」
「ああ……出せる。もちろん金はかかるが」
「大丈夫だ。金ならある」
俺はさっそく採集クエスト依頼を出しておく。
報酬額などは、ギルドの受付担当者と相談して決めた。
一般的な薬草の採集依頼よりは安くするよう勧められた。
本当にこんなに安くて集まるのか不安になったのだが、
「最近暇だし。実家に帰るついでに採集してくるよ。なによりルードの兄貴の依頼だしな」
「ああ、それで兄貴の作ったヒールポーションが出回るなら、俺たちのためにもなるし」
冒険者たちはそんなことを言ってくれた。
「ありがたい。根もついていたら少し色を付けさせてもらう」
「それは願ったり叶ったりだ。沢山採ってくるよ」
「報酬については安心してくれ。人食い魔熊の賞金があまっているからな」
「おお、そいつはいいや!」
スカウトたちのパーティーは採集するために出発した。
本当に暇だったらしい。
それから俺は、ギルバートに魔物の生息域についても尋ねる。
それに関してもギルバートは地図を持ってきて詳しく教えてくれた。
地図を見る限り、千年前から地形はあまり変わっていないようだった。
もちろん街の位置や規模は変わっている。それに川の流れも多少違うようだ。
だが、山や湖、巨大な森には大きな差はなさそうだ。
そして、魔物の生息域も、千年前と大差はないらしい。
「とはいえだ。南方に魔王軍が現われてから、徐々に分布図は変わっている」
それは人の大移動に加えて、魔王軍の乱獲のせいだという。
「その魔王軍ってやつについて聞きたいのだが……」
俺が魔王について切り出すと、ギルバートは深刻な表情になった。
「魔王軍か。まあ俺も大したことは知らないんだがな」
「魔王軍は引きこもっているんだろう? なぜ引きこもっているかわかるか?」
「わからん。想像も付かん」
魔王軍は辺境伯家の城を奪取した後、引きこもっている。
こちらが兵を出せば応じるが、こちらに攻め込んでくる気配はない。
「だから、貴族連中にも刺激をするなと主張している奴らが出始めた」
「こちらの兵力が整うまでは、刺激したくない気持ちはわかるな」
第三王子の軍が壊滅したのがいたかった。
この国には、魔王軍の城を攻め落とすほどの戦力はないのだろう。
「魔王が復活するという話は本当なのか?」
「魔王軍の奴らはそう信じているという話だな」
それからギルバートは機密に触れない程度に魔王軍について教えてくれた。
どうやら、今はいくつもの精鋭冒険者パーティーは魔王軍対策で動いているらしい。
国が依頼人の最高機密のクエストとのことだ。
「具体的に何をやっているのかは、ギルマスの俺も知らん」
ギルバートは遠い目をする。
「どうにか無事に帰ってきて欲しいもんだ」
「そうだな」
「いざとなったらルードも頼む。精鋭がいないってことは……」
「王都近辺の防衛に不安が残るな」
「ああ。今のところ問題は特におこってないがな」
王都近辺の対策。精鋭冒険者の安否。
ギルドマスターとしては心配がつきないことだろう。
「俺も力になれることがあれば協力しよう。なにか魔王に関する情報が入れば教えてくれ」
「わかった。ルードに協力してもらえるなら心強いよ。心にとめておこう」
情報収集を終えたので、ギルバートにお礼を言ってからクエスト掲示板を見に行く。
緊急性の高いクエストは出ていなさそうだった。
そこで俺は換金率の高そうな魔物討伐クエを引き受けることにした。
これから薬草採集クエだけでなく、色んな採集クエを出したいと考えている。
そのためには、お金はいくらあってもいい。
ヨハネス商会で剣の製造に従事すればお金は貰えるだろうが、売れるまではしばらくかかる。
薬草採集クエ以外にも、街で掘り出し物が見つかるかもしれない。
そのとき即金で払うために、自分である程度はお金を持っておきたい。
俺は適当にゴブリン退治クエを引き受けた。
「ゴブリン退治は、本来、ソロのFランク冒険者にはおすすめしないのですが……」
「ならば、わらわがルードさまに同行いたしましょう」
すかさずカタリナが言うので、断っておく。
「いやその必要はない。ソロが良いんだ」
「ですが、ソロはおすすめしないって……」
そういって、カタリナは受付担当者を見る。
「…………ルードさんは無詠唱魔法の使い手。それに人食い魔熊の討伐履歴もありますし、問題ないかなと」
「……そうか」
カタリナはしょんぼりしていた。
「カタリナはリハビリしとけ。まだ全快じゃないんだからな」
「はい! あの!」
「なんだ?」「足が治ったら……わらわとご一緒していただけませぬでしょうか」
「ああ、機会があったらな」
そういって、俺はクエストを引き受け地図を購入する。
そして、すぐにゴブリン被害の出た場所に向かって出発したのだった。





