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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
一巻 アース・スターから発売中!

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17 冒険者ギルド再び

 ヨナの護衛中、奥さんの出産に付き合っている者以外が集まった。


「今までの武器防具に不満点などはあったか? 折角だ。ついでに改善しよう」

 そう言ったのだが、みな最初は遠慮していた。


 だが、説得して改善して欲しい点を教えてもらう。

 それを改善しながら、みんなの武器と防具をオーダーメイドで最適化する。


 武器だったら長くしたり短くしたり、太くしたり細くしたり。重心を移したり。

 防具ならば、幅の調整や丈の調整などなどである。

 調整には少し時間がかかった。


 それを終わらせてから、錬金術で武器防具を強化していった。

 強化自体はさほど時間をかけずに終わる。


 要望を聞いて調整しながら強化していったが、それでも全部で三時間程度だ。

 護衛たちが本当に嬉しそうなので、俺も嬉しかった。


 そのころには、ヨナが大きな鞄を二つ用意してくれていた。

 それをヨナとトマソン用の「魔法の鞄」へと変えたのだった。


 その日は、リアと護衛のみんなと夜ご飯を食べて、風呂に入って寝たのだった。



 次の日。

 朝ご飯をごちそうになると、俺はすぐにリアと一緒に冒険者ギルドへと向かう。

 素材採集に適した地域や、魔物の生息域、そして魔王の情報を知るためである。


 俺が冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのギルバートがやってくる。


「おお、ルード。まともな格好になったな」

「賞金を貰ったからな。一通り装備を整えさせてもらった」


 それにしてもギルバートはギルマスだというのに、暇なのだろうか。

 俺がギルドの建物に入ったとき、ギルドの食堂エリアで冒険者と談笑しつつ何か飲んでいた。

 さすがに朝からは飲酒していないとは思うので、飲んでいたのはお茶などだろう。


「む?」


 建物の中を見回すと、隅っこにはカタリナがいて、こちらをじっと見つめていた。

 どうやらカタリナは冒険者ギルドの中で浮いているようだった。


 カタリナのことは気にしないようにして、ギルバートに尋ねる。

「ギルマスは忙しくないのか?」

「うちのギルド職員は優秀なんだ。何ごともなければ暇なもんだ」

「それはうらやましい限りだ」

「それに冒険者の相談に乗るのも大切な仕事だ」


 食堂で冒険者たちと話をしながら、情報収集をしていたのだろう。

 ということは、ギルバートは情報通に違いない。


「そういうことならば俺の相談に乗ってほしいのだが」

「ん? なんだ? とりあえず何でも言ってくれ」

「……随分と心強いな」

「勘違いするな。力になれるかはわからん。だが、言うだけならただってことだ」


 そういって、ギルバートは近くの椅子に座ると、俺にも座るように促した。


「聞いてもらえるだけでも助かる」

「なんでも聞いてくれ」


 ギルバートは俺の知りたいことを知らないかもしれない。

 それでも、ギルマスで情報通のギルバートが知らないということですら、貴重な情報だ。


「この草がどこに生えているか知らないか?」


 俺は沢山採集した薬草、ケルミ草とレルミ草を、鞄から取りだしてギルバートに見せる。

 ケルミ草はヒールポーションの、レルミ草は解毒薬であるアンチドーテと、病気を治すキュアポーションの主原料である。


 ギルバートは真剣な表情でそれをじっと見る。


「いや、知らないな。それはなにか特別な草なのか?」

「薬草の一種だ。こっちがケルミ草、こっちがレルミ草だ。これがあれば、かなり有用な傷薬を作れるんだが……」


 そんなことを話していると、暇そうな冒険者たちが五人ほど集まってきた。

「ルードさん、この草に触ってもいいか?」

「ああ。手に取って観察してみてくれ」


 俺の許可を得ると、すぐに戦士職の冒険者がケルミ草を手に取って観察する。


「ルードはこんな草を探しているのか? これは雑草じゃないか?」

「お前は聞いてなかったのか? ルードさんが薬草の一種って言ってただろうが」


 戦士と同じパーティーらしい魔導師の一人が呆れた様子で突っ込む。


「ルードさんほどの魔導師が薬草って言うのならそうなんだろうな」

「魔導師は博識だからな。薬草にも詳しいんだろ。うんうん」

 冒険者たちは納得している。


「だけど、どうして魔導師のルードさんが薬草を?」

 冒険者の一人が尋ねてきた。とても鋭い。


「えっとだな」


 冒険者ギルドではまだ錬金術師だと明かしていない。

 錬金術師は詐欺師の代名詞だからだ。


 だが、いつまでも錬金術師だと隠したままでは、錬金術を普及することは不可能である。

 俺は少し考えて、正直に話すことにした。


「実は、俺は魔法も使えるから、魔導師でもあるんだが、本職は錬金術師なんだ」

「ははは、冗談でしょう? 錬金術師って」

「いや、本当だぞ? 俺は錬金術師だ。それも詐欺師ではない、本物のな」


 すると、ギルバートが鋭い目で俺を睨んだ。

「冗談って感じじゃなさそうだな」

「もちろんだ」

「……詐欺師だって自白しているわけでもないんだろう?」

「当たり前だ。俺は本物の錬金術師だ。錬金術師を名乗る詐欺師とは違う」


 ギルバートは真剣な目で俺をじっと見つめる。

「本物だって証明できるのか?」

「ああ。できるぞ。そうだな。この中で怪我をしている者はいるか? いまこの場で薬を作って治療してみせよう」

「…………」


 そういったが、誰も手を上げない。

 この場に怪我人がいないわけではない。むしろ怪我人ばかりだ。

 怪我をしていない冒険者たちはいま忙しく働いている頃なのだ。


 なのに、ギルドの食堂でたむろっているというのは事情がある。

 その事情には負傷したからというのも多く含まれる。  


「どんな怪我でも、いやいっそのこと病気でもいいぞ。今回に限って金はとらない。安心しろ」


 無料だと言っているのに、誰も手を上げない。


 現代において、錬金術師は、つまり詐欺師。

 治療してほしいと誰も思わなくても当然だ。


「……希望者はなしか。仕方ないな」


 誰も手を上げないならば、別の手段を考えるべきだろう。

 犬の糞をコップに入れて水に溶き、それを浄化して飲み干せばいいだろうか。


 いや、それぐらい詐欺師ならばやりかねない。

 汚かろうが、後で病気になろうが、人をだますためにはやり遂げるのが詐欺師である。

 致死性の毒を目の前で無毒化して飲み干す方がいいかもしれない。


「じゃあ、毒を――」

「………………治せるというならば、治してもらおうか」


 そのとき、ギルドの隅っこで大人しくしていたカタリナが立ち上がった。


「……カタリナさん、それは流石に」


 ギルバートがカタリナを見て、言いよどむ。

 どうやらギルバートもカタリナの右ひざから下がないことを知っているらしい。

 いや、他の冒険者の反応を見るに、冒険者たちは皆知っているようだった。


「ルードは本物の錬金術師で、怪我を治せるんだろう? 私の足を治してもらおうか」


 そういうと、カタリナは俺の前に座り、足を机の上に投げ出した。

 そして、全身鎧の右足部を外す。どうやら、鎧と義足が一体化した魔導具らしい。


「驚いたか?」


 カタリナは足がないことに驚いたかと聞きたかったのかもしれない。

 だが、俺はそのとき思ったことを正直に口にした。


「ああ、見事な鎧だな」

「……治療できないならば、どんな怪我でも治療できると言ったことを謝罪するがよい」

「……無理じゃないさ」


 俺はカタリナに笑顔で答える。


「まだいうか。錬金術師はいつもそうだ」

 カタリナは怒っていた。


「ルードが、詐欺師だとは思わなかったぞ。見損なった!」

 カタリナは錬金術師を名乗る詐欺師に騙された経験があるのかもしれなかった。


「文句は全てが終わってから聞こう。すぐに治してやる。カタリナ。とりあえず鎧を全部脱げ」

「なんだと?」

「全身の様子を調べたい。そうしなければ、右足の修復が難しいからな」

「……わかった。詐欺だったら許さぬぞ」

 そういってカタリナは鎧を全部脱いだ。


 俺はカタリナの全身を魔法で調べていく。

 カタリナの筋肉はよく鍛えられていて、しなやかだった。


「ルードさん、今はなにをされているんです?」

 魔導師の冒険者がおずおずと言った感じで尋ねてきた。


「そうだな。折角だ。解説しながら進めて行こう。今は魔法で怪我の状態を調べているところだ」

「魔法? 錬金術じゃないのか?」

 カタリナが怒っているかのように、呟いた。


「魔法とは魔力そのものを使って効果を発現させる。錬金術は魔力を物体に作用させ、物体を変化させて使う。主な違いはそこだ」

「足も物体では?」

 そう尋ねたのは魔導師だ。鋭い指摘だ。センスがある。


「いい指摘だ。錬金術も生物に直接作用させることはできないんだ。魔法と同様にな」

「なるほど」

「今は、魔力そのものを対象、足に当てて、跳ね返って来た魔力を読み取って、状態を調べているんだよ」

「錬金術師も魔法を使えないとだめってことですか?」

「そうなる。だから魔導師だったら、錬金術師になるのは、比較的簡単だ。真の錬金術師は例外なく魔導師だからな」


 千年前においては錬金術師は魔導師の上位職、上位互換という見方をされることもあった。

 それを本気で信じる錬金術師もいたほどだ。


 解説している間に、調べ終わる。

「足を失ったのは先月あたりか?」


 カタリナの傷は古いものではなかった。

 冒険者ギルド内にざわめきが拡がる。


「え、なぜ解ったんだ?」「すげえ、本物だ」


 そんなことを言い始める冒険者もいるが、

「……調べてきたのか? 詐欺師は準備が大切であるからな」

 カタリナはは馬鹿にしたように言う。


「その警戒は大切だ。詐欺師ってのは、そこまでするかってぐらい準備するからな」

「ふん」

「とはいえ、先月ならまだよかった。失って時間が経てば経つほど元通り動きにくくなる」


 肉体が欠損すると、時間をかけて、魂が今の肉体の形に馴染んでいく。

 完全に馴染んでしまえば、新しく足をはやしても、元通りに動けるようになるまで時間がかかるからだ。


「一月程度なら、まあ数週間、二、三週間で大体元通り動けるようになる」

 そう言いながら、俺はケルミ草とレルミ草を、どさっと机の上に置く。


「……材料が足りないな」

「だから今はできないと? 詐欺師の常套手段だな。見損なったぞ」

 確かに何かと理由をつけて、今日はできないというのが詐欺師のやり方だ。


「そういうな。ギルバート、骨と肉が欲しい。ギルドにないか?」

「骨と肉? なんのだ?」

「何でもいい。錬金術師以外にはあまり知られていないが、人も豚も犬も猿も、骨も肉の組成はほとんど変わらないからな」


 骨はどの種族も大概カルシウムだし、肉はほとんどタンパク質である。


「それをどうするんだ?」

「もちろん、錬金術を使って、こいつの足へと変える」


 そういうと、冒険者たちはざわめいた。

 大体は「いや、さすがに無理だろ」と言っている冒険者がほとんどだ。


「骨と肉の代金はしっかり払うぞ。錬金術の宣伝費用だからな。あ、ちなみに骨と肉は生がいい」

「わかった。持って来る」


 ギルバートがそう言ってギルドの奥に消えると、俺は薬を作っていく。

 並みのヒールポーションでは不充分である。何しろ欠損部位の再生なのだ。


 それように、ヒールポーションやキュアポーションを調合しなおさなければならない。

 賢者の石があれば、一瞬なのだが、ないので仕方がない。


 俺は空中に水球を浮かし、【物質移動】や【物質変換】を駆使して、薬草から有効成分を抽出してく。


「す、水球? 重力魔法ですか?」

 魔導師が目を見開いた。


「いや、これは錬金術だよ。【物質移動】っていう錬金術の初歩の術式だ」

「これで初歩」

「水球はメインじゃない。ケルミ草とレルミ草から有効成分を抽出し……」


 俺はそう言いながら、見えるようにケルミ草とレルミ草、つまり薬草から有効成分を抽出する。

 大量の薬草から、大量の緑色の液体が滲みだすように出現するのを見て「ほぉ~」と冒険者たちが声を上げる。


「簡単なポーションなら、このまま混ぜて完成でもいいが、俺は組成をいじる」


 有効成分を【物質変換】を使って分子組成をいじり、より効果的な薬を作っていく。

 それを、ほとんど黒く見えるほど濃縮していく。


「あの、ケルミ草とレルミ草って、どう違うんですか?」


 魔導師の冒険者は錬金術に興味を持ってくれたようだ。

 積極的に質問してくれる。


「いい質問だ。ケルミ草は……」

 説明しながら治療に必要な各種薬を作って、瓶に入れていく。


「ルード、持って来たぞ」

「ありがとう。ちょうど薬ができたところだ。……うん。いい骨と肉だ。鹿か?」

「ああ。魔鹿だ。せめて、足の速い動物の方がいいと思ってな」


 俺は、カタリナの目を見る。

「さて、今から右ひざから下を作る。あまり気持ちのいいものじゃない。目をつぶっておけ」

「……痛いのか?」

「痛くはない。麻酔を使うからな」

「麻酔? って効くのか?」

「お前らが使っている麻酔がどの程度かは知らんが、俺の麻酔は効く」

「わかった。詐欺だったら、許さぬぞ」


 ほんの少しだけ、カタリナの態度が柔らかくなった。


 俺が薬を作る姿を見て、もしかして、本当に足を治せるのではと思い始めたのだろう。

「もちろんだ。安心しろ。不安なら、リアでも抱いておけ」


 俺は肩に乗るリアをカタリナに渡す。

 カタリナは目をつぶり、リアをぎゅっと抱きしめた。

 

 それを確認して、俺は鹿の骨と肉から、カタリナの足を作っていく。

 まだ健在な左足と、右大腿部の筋肉、それに全身の筋肉を観察し、在りし日の右ひざより下の姿を割り出していく。


 それが終わると、鹿の骨をカタリナの足の骨へと【形状変化】を使って作り替えていく。

 しかし【形状変化】で形を変えるだけでは不十分。【物質変換】を使って分子レベルでいじっていく。


 これが難しい。


 骨を作り終えると、肉を使って筋肉を、脂肪を、皮膚を血管を、その他色々を作っていく。

 もちろん【形状変化】だけではだめだ。【物質変換】を駆使して分子をいじる。


 徐々にできていく足を見て、冒険者たちが感嘆の声をあげている。


「見事なもんだなぁ。本物の足にしか見えん」

「形を作るだけなら、俺にとってはまだ簡単な作業なんだが、異物だと思われないようにするのが難しいんだ」

「異物ですか?」

「ああ、体の中には異物を排除する仕組みがあってだな。その仕組みに異物だと判断されないようにしなければならない」

「どうすれば、そんなことができるのですか?」

「分子レベルでいじって、患者の身体に合わせるんだ。集中するから黙るぞ」


 患者の免疫をごまかすためである。

 この作業を怠れば、そっくりの足を取りつけたところで、免疫に攻撃されて壊死してしまうだろう。


 免疫をごまかすのが、とても難しい。

 魔力消費も膨大だし、作業量も、計算量も膨大だ。頭が痛いほど集中する。


 いくら俺でも一日に一人治療するので限界だ。

 それほど欠損の修復は難しいのだ。

 賢者の石があれば簡単なのだが。そう思うが、ないものは仕方がない。


「これでよし……少しチクッとするぞ」


 俺はあらかじめ作っておいた麻酔ポーションを【形状変化】細く硬くし、カタリナのひざに刺して注入する。

 その後、カタリナのひざを薄くスライスする。流れ出す血をそのままにして、新しい足を接触させる。


「さて、接続だ」

 接触部位にヒールポーションとキュアポーションをかけていく。


「ヒールポーションは傷をいやす効果。キュアポーションは恒常性を維持する効果がある」

「恒常性?」

「身体の状態を一定に保つ効果だ。今回はキュアポーションの効果で、血管や神経が新しい足と接続するんだ」


 キュアポーションで接続させ、ヒールポーションでその接続を外れないようにし、傷をふさぐのだ。


 もちろんそれだけでは充分ではない。

【物質移動】や【形状変化】の術式を同時に数千動かして、神経や血管をつなげていく。

 賢者の石なしでやる術式じゃない。そう思うが、仕方がない。


 治療を開始して一時間後。

 足の接続を開始してからならば、三十分後。

 カタリナの足はつながった。


「終わった。目を開けていいぞ」

「………………」

「どうだ?」

「足がある」

「ああ、新しい足だ」

「私の足が、足がある」


 カタリナの目から涙があふれだす。

 リアが、そんなカタリナの肩に乗って優しく撫でる。


「すね毛は省略した。すまんな」

 毛穴まで作るのはしんどかったからだ。

 だが、カタリナにとってはすね毛などどうでもいいらしい。


「ありがとう。……二度と走れないとおもって、騎士も続けられなくて、冒険者も……。もう戦えないって……」

 カタリナは号泣している。


「少し歩いてみろ。無理はするなよ。以前と同じように走れるようになるまで、三日ぐらいかかるからな」

「ああ、ああ」

 号泣しながら、カタリナは数歩だけ歩いた。


「歩けた」

 そんなカタリナの周囲を冒険者たちが取り囲む。

 冒険者たちも号泣していた。


「疲れた」

「りゃあ~」


 カタリナの肩から俺の肩に戻ってきたリアは号泣する冒険者たちをじっと見つめている。


「疲れたが、このぐらい喜ばれたら、やった甲斐があったというものだな」

 そういうと、リアは尻尾をゆっくりと揺らした。



 疲れ果ててぼんやりしていると、ギルバートがやってくる。


「疑ってすまなかった」

「俺が錬金術師だと信じてくれたか?」

「ああ、お前のやったことは魔法にはできないことだ。誰が何と言おうと、ルードは錬金術師だ。本物のな」

 とても疲れたが、実演がうまくいったようでよかった。


「ルードさんありがとうございます」

「すげー」「すまない。疑っていた」

 冒険者たちにもお礼を言われて、疑ったことを謝られた。


「とはいえ、欠損部位の再生はかなり難度が高いからな。そう簡単にはできないからな。お前ら、自分の身体は大切にしろよ」

「わかってる。気を付けるよ」

「ちなみに、切断直後ならくっつけられるヒールポーションなら、そのうち販売するから買ってくれ」

「おお、それはありがたい」


 冒険者たちに錬金術の有用性を理解してもらうことができたようだ。

 錬金術普及の、まずは第一歩である。


 俺は余りにつかれたので、お昼前にヨハネス商会に戻って眠ったのだった。




 次の日。俺がリアと一緒に再び冒険者ギルドを尋ねると、カタリナがいた。


 カタリナはいつも通り全身鎧を身につけている。

 だが、歩き方が自然だった。


「昨日はありがとうございました! このご恩は一生忘れませぬ」

「いや、忘れていいぞ。そんなことより足の調子はどうだ?」

「はい! 絶好調です! これも全て、ルードさまのおかげでございますれば」

「さまはつけなくていい。まだ走るなよ?」

「はい! ゆっくりリハビリですね!」

「そうだ。とりあえず、今週は日常生活を普通に送ればいい。走ったり跳ねたりは来週からだな」

「わかりました! ありがとうございます! 全てはルードさまの仰せの通りに」


 さまをつけるなと言っておいたのに。

 カタリナは嬉しそうにリアを撫でていた。


 それから俺はギルドの受付へと向かう。

 すると、ギルバートが対応してくれる。


「おお、ルード。よく来た。確か、薬草が自生している場所が知りたいという話だったな」

「おお、覚えていてくれたか」

「もちろんだ。で、調べたんだが、ギルドには薬草としては登録されていなかった」

「ケルミ草もレルミ草もか?」

「そうなる。ギルドの採集クエの対象は……直接見てもらおう」


 そういってギルバートは受付の奥に一度行って戻ってくる。

 約縦横〇・五メートル四方、高さ〇・一メートルの木の箱を手にしていた。


「一般的な採集クエの対象薬草は、これらだな」


 ギルバートが持ってきたのは標本箱のようだ。

 中には植物が十種類ほど並べられている。


 俺も知っている薬草だ。千年前も普通に使われてはいた。

 だが、薬効が薄い。

 ケルミ草やレルミ草がない時に仕方なく使う類いのものばかりである。


 錬金術が完全に衰退したせいで、ケルミ草やレルミ草などは雑草扱いされているのだろう。

 嘆かわしいことだ。


 そこに、俺とギルバートの会話を聞いていた数人の冒険者がやってくる。

「昨日、ルードの兄貴が薬を作っているときに気になったんだけど」

 なぜか冒険者たちが俺のことを兄貴と呼んだ。

 俺に話しかけたのは、弓を持つ恐らくスカウト《斥候》職の男だ。


「ん? ケルミ草とレルミ草が気になるのか?」

「多分だけど、これ実家の方でよく見たやつだと思う」

 スカウトは、真顔でそう言った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 急に話しかけて、詐欺師呼ばわりしてるくせに成功したらありがとうって、都合が良すぎませんかね?? さらに言うと、治療費はどうなってるんですか??おそらく超高額な金額がかかると思いますが……
[良い点] カタリナの治療状況が細かく書かれ、それによりギルドに居合わせた人たちの信頼度がぐぐっと増すところがとても良いです!治った足に私も涙してしまいました! [一言] これはもう是非じっくり読まね…
[気になる点] カタリナは嬉しそうにガウを撫でていた。 まだガウは登場していないんじゃ?
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