57 論功行賞
次の日、俺は朝から王宮へと向かった。
王都の門では、ヘルマン率いる近衛騎士隊が待機していた。
ヘルマン達の先導で、俺はグルルに乗って、リアを肩に乗せ、ガウを連れて歩いて行く。
かなり目立つが、目立った方が錬金術の宣伝になるのでいいだろう。
王宮に着くと、まず、グルルたちと一緒に待機部屋へと案内された。
そこでお茶を飲みながら、レイナから今日の手順と作法を教えて貰いながら正午までのんびり待機する。
そして、リア、ガウ、グルルと別れて、侍従に案内されて、謁見の間に向かった。
俺が呼び出しに応じて中へと入ると、全員の視線が向けられる。
謁見の間の最奥の数段高い場所にある玉座には王が座っており、その横にはカタリナが立っている。
カタリナはウィッグをつけているようで、自然で綺麗な長い髪をしていた。
そして、部屋の左右両脇には臣下である高位高官が並んでいた。
レイナから、左は領土持ちの諸侯貴族、右が官職持ちの宮廷貴族の列だと聞いている。
そして、王に近いほど高位なのだ。
尚書は、右側の官職持ちの臣下の列で、もっとも王に近い場所に立っていた。
俺は中央を歩いて行き、レイナにおしえてもらった場所で跪く。
「ルードヴィヒ殿。もっと前へ」
「はっ」
尚書に促されて、一歩前に出て、跪く。
「もっと前です」
更に前に出る。
「もう少し前へ」
更に尚書に促されて前に出る。もはや尚書に手が届きそうなほど近くまで前にでている。
その時点で、居並ぶ高位高官がざわめいた。
この場で、跪く場所が王に近いほど名誉なことなのだ。
そうレイナが言っていた。
(わざわざそれを俺に教えたってことは、前に出ろと言われることをレイナは知っていたな……)
いたずらっぽく笑いながら教えてくれたレイナのことを思い出した。
俺が跪くと、尚書は紙を取り出して大きな声で読み上げはじめた。
「陛下。ルードヴィヒの偉大なる功績について説明させていただきます。ルードヴィヒは――」
尚書は俺の功績を美辞麗句で飾り、大げさに俺の功績を強調して語っていく。
正直恥ずかしい。
「まさに、それは武神と称えられし古のゴルダムに、忠臣と賞されしベルガに比肩すべき功績と――」
尚書はウドー王国の歴史上の人物を出して、俺を称える。
尚書が歴史上の人物名を出すたびに、居並ぶ高位高官はざわめいていた。
尚書が俺の功績を読み上げ終わると、王が口を開く。
「ルードヴィヒ。王として礼を言う」
「もったいなきお言葉」
王がお礼を言うと、再びざわめき、
「よって、朕は、朕の命を救い、謀反を防いだ功績を認め、ルードヴィヒにウドー勲章を授ける」
「なっ」
声を上げたのは、右側の列にいる高官だ。
「身に余る光栄。謹んでお受けいたします」
「勲章だけではないぞ。一月ほど前、魔王軍の侵攻を止めた功績を認め、ルードヴィヒをホルト領を封じ、同時にホルト辺境伯の爵位を授ける」
「辺境伯ですと? 平民が?」
「まさか」
高位高官たちがざわめく。
「へ、陛下!」
声をあげたのは左側の列で王に最も近い位置にいる者だった。
つまり大貴族だ。
「公爵。特別に発言を許そう」
「陛下。平民に爵位を、それも辺境伯の爵位を与えるなど、先例がございません!」
続けて右側、つまり高官の列に並んでいた貴族が声を上げた。
「陛下! 発言をお許しください」
「宮中伯。そなたにも発言を許そう」
「平民に我が国最高位の勲章であるウドー勲章を授けられた例もございません!」
二人の抗議をきいて、王は尚書を見た。
「尚書」
「はい。四百年前に、平民であった忠臣ベルガが、その功績により侯爵の地位を授けられております」
「だそうだ、公爵」
「そして、一月前の功績により、辺境伯の爵位を得ておりますので、先日の功績でウドー勲章を授けることに何の支障もございません。必要でありましたら、辺境伯にウドー勲章が授けられた例を上げましょうか? 八例ございますが」
「だそうだ、宮中伯」
尚書の言葉で、公爵と宮中伯は静かになって、頭を下げた。
それから王は居並ぶ高位高官に向けて言う。
「ホルト領がどうなっているか、皆知っているだろう。城も領地も魔王軍に占拠されたまま。領民は逃げだしておる」
魔王軍が蜂起した後、真っ先に落とされたのがホルト辺境伯領なのだ。
そして、王は先ほど声をあげた公爵を見る。
「公爵、ホルト領を治めたいか?」
「い、いえ、私では力不足でございます」
「で、あろうな。他にもおるか?」
魔王軍が占拠している領地に封じられると言うことは、魔王軍への対応を任されると言うことだ。
だから、誰も手を上げない。
精強で知られた辺境伯家の軍は一日で壊滅したのだ。
誰も手を上げないのを確認してから、王は俺を見た。
「ルードヴィヒ殿。他の者にとっては貧乏くじかも知れぬ。だが、カタリナから聞いておる。ルードヴィヒ殿は南方領が気になるのであろう?」
「はい。仰せの通りです」
「だから、ホルト領だ。もし南方の開拓に成功すれば、そこはルードヴィヒ殿の領地として良い」
そういって、王は微笑む。
「辺境伯の重責。引き受けてくれぬか?」
カタリナから、俺の要望を正確に聞き取ってくれたようだ。
「……ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」
「うむ!」
そして、王は横に立つカタリナを見た。
「カタリナ」
「はい。陛下」
カタリナの笑顔と声が柔らかい。
男言葉で肩肘張った感じが消えている。
「南方は魔王軍が闊歩しておる。軍を率いる者が必要だ」
「はい」
「そなたを南方軍司令官に任じる。ルードヴィヒ殿に同行するがよい」
「畏まりました!」
カタリナは笑顔で答える。
「そなたは王太女ではないとはいえ継承順位は一位である。王となる前に辺境伯領の運営を見せてもらい勉強するが良い」
「はい! がんばります!」
カタリナは明るく無邪気に返事をする。
だが、居並ぶ高位高官は、王がカタリナを次期王と明言したことに驚き、固まっていた。
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