55 魔王軍副総裁
そして、吹っ切れたような笑顔を浮かべる。
「それで、何が聞きたい? 賢者ルードヴィヒ」
「なぜ、魔王軍副総裁があの場にいた?」
「もちろん、錬金術を普及させないためだ」
「配下を使わないのか?」
「剣聖もいるし、上級冒険者もいる。近衛騎士もいるのだ。弱い配下を送り込んでもいたずらに犠牲を増やすだけだ」
「魔人がいるだろう?」
「正気か? 魔人など送り込んだら人を殺しすぎて工作どころではない。王都が半壊するぞ? あいつらは人の血が何より好きなのだからな」
錬金術が普及するのを防ぐ応急工作のために、やってきたということらしい。
「やはり、宰相と宮廷魔導師長は魔王軍と繋がっていたのか?」
「半分あっている。だがあいつらは交渉相手が魔王軍だと知らないからな」
「どういうことだ?」
「渡したのは金だ。商人の振りをして宰相に近づき、このままではカタリナに王位を持っていかれると野心を煽った」
宰相たちにとっては、国の防衛よりも、次期王位が最も重要だったのだろう。
「それでケイナ。今後なにがしたい?」
「…………どうしようかな」
ケイナは困ったように微笑んだ。
「べちゃべちゃ」
そんなケイナを元気づけようとしているのか、グルルが毛布の下に鼻を突っ込み、ケイナのお腹を舐めている。
「や、やめ、やめろ!」
「……ぐるぅ」
しょんぼりした様子のグルルがケイナを見上げる。
「あ、すまない。だがくすぐったいからお腹は舐めなくて良い」
そういって、ケイナがグルルの頭を撫でると、
「ぐる」
嬉しそうにグルルはその手を舐め始めた。
ケイナは諦めて手を舐めさせている。
「それで……ケイナ。目標はないのか?」
「元々……錬金術を忘却させる工作をやっていたのは、父だったんだ」
「父か?」
「ああ、昔話をしていいか?」
「もちろんだ」
グルルに手を舐められながら、ケイナは語る。
ケイナの父は魔族を救うために立ち上がった魔王に心服していた。
それで、錬金術師を殺してまわったようだ。
「あらゆる魔法と錬金術の薬で、寿命を延ばしていたが、二十年前についに死んだ。享年は千二百歳ぐらいだったかな」
「ん? ちょっと待て。ケイナはなぜ老いていない?」
「私は父により眠らされていたのだ。眠らされるとは意味が違うな。時空魔法で別の時空を作りその中で意識と肉体を凍結したんだ」
詳しい術式がものすごく気になる。だが、今大事なのはそれではない。
俺は我慢して話の続きを待った。
「私が別の時空で意識を失っていたのは魔王陛下が死んだ次の年から二十年前まで。父の死と入れ替わりで外に出たんだ」
「なぜ二十年前なんだ?」
「本当はもっと長く眠らせる予定だったんだろう。だが父の寿命が尽きた。それで魔法を維持できなくなったんだ」
「なるほどな」
「目を覚ますと、枯れ木のように老いた父の遺体と、その父にすがりついて泣く一歳に満たないレイナがいた」
「本当に父の子か?」
「わからん。だが、血のつながりなど、どうでもいいことだ。レイナは私の妹であり、私はレイナの姉なのだ」
レイナについて語る際、ケイナは優しい目になった。
「それからは忙しかった。レイナを育てなければならないからな。頭を下げ乳を分けてもらい、おしめを交換し、成長したら離乳食をつくらねばならん。すぐに熱を出すし、父を亡くしたことが寂しいのか毎夜泣くのだ。本当に大変だった」
苦労を語るケイナは、少し嬉しそうだった。
「魔王陛下のことも後回しだ。簡単に死にそうなレイナが死なないようにするだけで精一杯」
「レイナは五歳のときににさらわれたと聞いたが、」
「ああ、人族にな。人さらいどもは皆殺しにした。だが、そのときにはもうレイナはいなかった」
人さらいについて語るとき、レイナは本当に悔しそうに見えた。
「……人族はやはり許せぬと思った。魔王陛下のことを忘れていた罰が当たったのだとも思った」
「そうか」
「だから、私は魔王軍を作り、魔王陛下の復活を待った。そして、人族に復讐することにしたのだ」
そして、ケイナはリアを撫でる。
「だが、魔王陛下は、こんなお姿だ。そしてレイナは無事で、しかも人族の重臣に仕えているという」
「りゃ~」
「レイナをさらったのは人族だが、その人さらいからレイナを救ったのも人族だったのだろう?」
「そう聞いている」
「……だから、もうわからん。そうだな。ルードヴィヒ。そなたと同じなのかもしれん」
「同じ?」
「魔族が虐げられたら、皆殺しにする。だが、こちらから人族を滅ぼそうとは思わん。そして、将来のことは魔王陛下に任せる」
「そうか」
「ルードヴィヒも、魔王陛下に委ねようと思っているのだろう?」
「そうだな。そのとおりだ。赤子のリアに委ねるのはどうかと思うのだが」
「りゃ~」
リアが羽をバサバサさせる。
「赤子だからこそ、委ねる気になるのだ」
そういって、ケイナはリアを優しく撫でる。
リアは嬉しそうに尻尾を揺らし、ケイナに体を押しつけていた。
「魔王陛下。いえリア。千年前はありがとうございました。あなたのおかげで、我々は救われました」
「りゃ~~」
リアはペロペロとケイナを舐めている。
「ところで、リアは魔王で良いのか? 似ている赤い竜とかではないか?」
魔人もケイナも、リアを魔王だということを確信しているように見える。
「どこをどうみても、魔王陛下だろう? 魔王陛下と赤い竜を見間違えることなどあるわけがない」
「りゃ!」
「ルードヴィヒも、魔王陛下とあったことがあるのだ。わかるだろう?」
「……そうだな」
正直、俺にはわからなかった。
リアを抱きしめて、撫でまくっていたケイナがベッドから立ち上がる。
「さて……」
「どうした? もう少し寝ていけ」
「そうもいくまい。私はどう言いつくろうとこの国の法律では罪人だ。長く滞在すればするほど、レイナに迷惑が掛かる」
「ふむ。さっきも聞いたが、これからどうするんだ?」
「……世話になった、ルードヴィヒがいる以上、魔王軍は勝てん。いたずらに死なせるわけにもいかん。解散させるさ」
「そうか」
「…………そうだなぁ。魔王軍を解散させるにしても配下の魔族の面倒もみなければいけないし南に行くよ」
「南? 魔王軍の本拠地がある場所だな?」
「その、更に南だ」
「なにがある?」
「荒野だ。作物もほとんど育たぬ不毛な大地だよ」
そういうと。ケイナは微笑んだ。
「そして、我ら魔族の住処だ。人族に追いやられ、魔族は不毛の大地にしか居場所がないんだ」
「彼らの手伝いをするのか?」
「ああ、こう見えても魔法は得意だからな。魔物を獲ったり、雨を降らしたり、多少は役に立つだろう」
「なるほどな。手伝おうか?」
「…………いいのか? 助かるが」
「ああ、錬金術があれば、農業もなんとかなるだろう」
俺がそういうと、ケイナの目が輝いた。
「たしかに!」
その後、俺とケイナは荒野をどうやって開拓するかについて話し合ったのだった。
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