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1-1

再び意識が浮上した。あれからどれくらいの時が過ぎたのだろうか。

初めて意識が戻って以降、定期的に覚醒を繰り返していた。

それが日が経つにつれて頻繁に、時間も長くなってきている。

順調に快復しているということだろう。


さらに聴覚に加え、視覚も戻って来たと思う。何故まだ「思う」段階なのかと言うと、未だに瞼を開けられないからだ。重石を乗せられているかの様に固く、ずっしりと重い。

けれどそれも軽くなりつつあるし、何より閉じたままでも光を感じ取れる様になった。光の具合で今は昼か夜なのか見当がつく。


これもクレアの献身的な看病のおかげだ。内心で感謝を述べる事しか出来ず、これもまた内心で歯嚙みする。


「あ、大分顔色が良くなって来たねえ。」


「そうだな。」


また来たのか。


相変わらず5人の彼等はクレアに何度注意されても懲りずにやって来る。クレアが居る居ないに関わらず、だ。

すっかり馴染みの光景になった彼等に対して、警戒心は当に消えていた。と言うのも、彼等がこの場で話す内容は取り留めが無く面白い。


身体の痛みに耐えながら周囲の音を拾う事しか出来ない彼女にとって、彼等の話を聞きながら胸中で想像する事が密かな楽しみとなっていた。

唯一の娯楽とも言える。


話から察するに、どうやらここは「アトランディア学園」という場所らしい。最近は、彼等が使役する動物の強さを競う行事があったとか。

時折専門用語が飛交うため詳しい内容までは把握出来なかったが、ああすればいい、こうすればいいと楽しそうに話す彼等と、その行事の様子を想像し彼女自身も楽しんでいた。


今回はどんな話が聞けるのだろうと、自然と笑みが溢れる。と同時だった。


「え!」


耳元で上がった、決して小さくない声量に思わず顔をしかめる。


「あ、ごめんねえ!って、そうじゃ無くて!」


「クレアを呼んでくる。」


「うん、お願い!僕は他の3人を呼んでくるよ!」


いきなり慌ただしく遠ざかる足音。少し残念に思っていると、そう言えばと思い当たる。


今、笑えた?


表情筋を動かしている感覚は無いのだが、でも彼等の反応からすると出来ている、らしい。だとしたら。僅かな期待を込めて瞼に力を込めてみる。

実際に力が入っているかもわからないが、それでも今なら。



そろそろと、光が広がっていく。久しぶりの直の光に戸惑いつつも、それよりも嬉しさが込み上げてくる。ここまで回復出来たのだと、改めてクレアという女性と、5人の彼等に感謝した。


光が視界いっぱいに広がり、次第に焦点がはっきりしてくる。


「気が付いたか。」


ホッとしたような、柔らかい声。先程クレアを呼ぶと言っていた彼だろうか。

視点を彷徨わせて彼を捉えると、小さく微笑まれた。直ぐに戻って来てくれたのか、額に薄っすらと汗が滲み出ている。


「気分はどうだ?」


黒を貴重にし、金糸と赤のラインをアクセントにした洋服。その洋服に見合った黒髪にルビーの瞳。堀の深い顔立ちに、キリリとした切れ長の目は今は少し細められていた。

さらに僅かに首を傾げられ、サラリと前髪が揺れる。伴って洋服の装飾も小さく音を立てた。



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