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師匠(仮)〜唯一の技術持ってるのに獣になった〜  作者: 杞憂らくは
齧れ、呑み干せ、腐っていても
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77.フレデリカ無双


 傷付いた右肩はしっかりと包帯が巻かれていてあまり痛みは無いが、それは繋がれた点滴のお陰で痛みを緩和しているお陰なのだと云う。


「だから無理に動かそうだなんて思わないでくださいませね?縫ったとは云え、あっという間に傷口が開いて血が噴き出しますからね」


 起き上がった際には念の為三角巾で吊る必要もあると云う。それに血が噴き出すのはご遠慮願いたいので、ベリルは大人しくする事にした。


「⋯⋯だからって、食事くらいは1人で出来ますけど」

「あら、右利きだから左手だけで食べるのはお辛いでしょうに⋯⋯さあ、お口を開けて、あーん⋯⋯ええ、()()()()ですわよ」


 ベリルにまず提供されたのはパン粥であった。確かに器を抱えてスプーンで掬って食べる必要があるので、片手では非常に食べ辛いものである。

 片手で掴める、サンドウィッチで構わないと伝えたのに、エレナが出したのがその面倒臭い食事であった。曰く、「5日も食べてないのに、そんな固形物出せる筈がありません!」と、云う事らしい。

 しかしその食べ難い食事の為、ベリルはエレナから雛鳥の如く給餌される事になってしまった。自分のペースで食べられないもどかしさと、この年で赤ん坊の様に扱われる恥ずかしさ。


(⋯⋯絶対、誰かに見られたく無い⋯⋯‼︎)


 ロビンはニヤニヤするだろうし、サミュエルは自分がベリルに食べさせるとうるさいだろう。此処に居なくて良かったと思える。

 エレナの「もぐもぐ」に合わせて口をもぐもぐさせていたベリルは、一向に姿を見せないロビンとサミュエルの存在が気になった。


「⋯⋯エレナさん、サミュエルとロビンさんは?学術都市(パンテオン)ですか?」

「⋯⋯まあ、何があったか順を追って説明致しますわね」


 エレナはベリルにパン粥を食べさせながら、ベリル達が洞穴を脱出した後の事を話し始めた。




***



 ベリルが魔石を飲み込んでまで作り出してくれた扉を潜った一行は、無事にホテルの中庭へと戻って来ていた。そして何よりも聖女の扱いに頭を悩ませる事になった。

 外交問題と優先順位を考えれば、聖女の身柄を何処かに移さなくてはならない。だが、それよりもベリルの状態が良くない。魔力過剰症の症状は出ていないが、失血状態で大量の魔力を扱った反動が出ていた。


「もうこの2人はその辺に置いてって良いんじゃない?」

「でも坊っちゃま、この季節に⋯⋯女の子をこの寒空の下放置なんて⋯⋯」

「僕はこの子達よりもベリちゃんの方が大切なんだよ?いっそ死んでくれた方が助かる」

「お義母さん、坊ちゃんはベリル君がその女の子と良い雰囲気だったから嫉妬してるんですよ」

「あらまぁ⋯⋯」


 仕方の無い坊っちゃまねぇと、フレデリカは苦笑した。

 意識の無い人間が3人も居るので、運び手を増やさなくてはと考えたロビンは、留守番と云う名の婆の愚痴聞きとして置いて来たキメリアに鳥を飛ばした。

 暫く待っていると、ヨレヨレになったキメリアが中庭に姿を現した。何も言わず此処に駆け付けようとしたキメリアを、煙草屋の婆が引き留めたのだろう。


「急に呼び出してごめんなさいね、キムちゃん」

「キメリア、良かった。坊ちゃんと一緒にベリル君を煙草屋に運んでくれ」


 そうは言っても、少女姿のサミュエルでは役に立たない。血に塗れたツナギが見えない様にキメリアのジャケットで包まれたベリルは、キメリアが抱き上げて運ぶ事になった。

 そして肝心の聖女をフレデリカが、アデラをロビンが抱きかかえてホテルのロビーに姿を見せる事になったのである。

 勿論、行方知れずの聖女を抱えてロビーに姿を現した2人は、すぐに警備兵達に囲まれる事になったのだが、そこはフレデリカが学長達の名前を出した事で事態は一変した。どうやら駅に巨大な女性が現れたと云う話が耳に入っていたらしく、地位のある老人達が転がる様にホテルへ殺到したのである。

 ホテルに着いた老人達は軒並み膝を突き、床に手を突いてフレデリカの前に並んだ。それは非常に圧巻と呼べる光景で、何が何だか分からない若い警備兵やホテルの従業員達は困惑していたと云う。


「お久し振りで御座いますね、ノックス様、クレスト様、マール様、ショーン様」

「や、や、やあフレデリカ⋯⋯」

「き、き、き、君のけ、結婚式以来、だね」

「ど、どど、どうして学術都市、に?か、観光かな?」


 地位も名誉もある老人達は揃って身体を震わせて吃り、微妙に視線をずらしてフレデリカを見ない様にしていた。


「私、可愛い姪孫(てっそん)に呼ばれて来ましたの。是非会いたいって」

「へ、へ、へぇ?」

「私もとても可愛い子だと聞いていたし、良い機会かと思って来たのですけれど⋯⋯」

「け、けれど?」

「お仕えするセレスタイン家の坊っちゃまが、根拠の無い無い罪を被せられてとても苦労していると」

「あ、そ、それは、別に私達の責任では⋯⋯」

「姪孫は犯人を捕まえる為に、今生死の境におりますのよ」


 そこでフレデリカは、ギラリと老人達を睥睨した。フレデリカの顔を見ていない筈なのに、フレデリカの圧力を感じた老人達は皆一斉に身体をびくつかせて床に額を擦り付けた。


「ゆ、ゆ、ゆ、許してくれぇえ‼︎‼︎」

「わ、わ、儂の所為じゃないけどぉ‼︎ごめんなさあああい‼︎‼︎」

「こここ、今度孫娘が結婚するんじゃあああ‼︎‼︎」


 フレデリカはそんな老人達の姿を見て、納得した様に頷いた。


「では、今すぐうちの坊っちゃまに対しての嫌疑を晴らしてくださいませ」

「は、晴らしますぅ!サミュエル・フォン・セレスタイン様は無実!はい解決!」

「それと、うちの姪孫の話では犯人は中等部教師のリスト・グルーザと云う薬学教師だそうですわ」

「か、家宅捜査だ!令状?要らんわい‼︎」


 本来は何事にも手順と云うものが必要なのだが、老人達は自身の持つ最大限の権力を使って今までの捜査と方針を転換させた。

 グルーザ教師の借りていた部屋からマールムと思しき丸薬と精製中の薬品、そして身分詐称の痕跡、警察上層部との黒い繋がりなど、たった数時間で真犯人として決定的な証拠を抑えてしまう事になったのであった。

 後にロビンは、「おじいちゃん達の権力じゃなくて、あれはフレデリカ・シュエットと云う権力なんだよ」と、しみじみ思ったのだと云う。




***



「色々都市内での黒い事が判明したので、学校は暫く閉鎖中なのですよ。もうすぐ年末年始のお休みでしたから、少し早くて長いお休みに入ったのですわ」

「はぁ⋯⋯そうなんですか⋯⋯」


 正直フレデリカ1人で此処までひっくり返せるのならば、ベリルの努力は無駄だったのでは無いだろうか。


「⋯⋯そう云えば、聖女はどうなりました?渡りは付けられそうですか?」

「残念ですけど、聖女様は療養と云う事で聖王国へお戻りになりましたわ⋯⋯元々聖夜の儀式の為にすぐ帰国するご予定だったそうで、お迎えがいらしていたそうですの」


 運の無い事に、フレデリカとロビンは平民だったからあちらの使者にもぞんざいに扱われたらしい。肩書きだけでも男爵家子息のベリルが居れば、少しは対応出来たかもしれない。


「⋯⋯それじゃあ、休み明けじゃないと交渉は無理ですね⋯⋯」


 ベリルは溜め息を吐いた。そんなベリルに対し、エレナはバツが悪そうに視線を迷わせて控え目に否定をして来た。


「その、ちょっと、難しいのですわ」

「⋯⋯?何故です?」





 事後処理が進む3日前の事である。

 煙草屋からホテルに居を移した一行に、フレーヌから鳥が届いた。鳥にはあの常にマイペースな公爵では考えられない乱れた文字の手紙が添えられていたのだが、その手紙の内容が驚愕するものであった。



『現王ルキウス・ファス・ユニヴェールがクーデターを起こした。すぐに帰って来い』

長かった学園編もこれで終わりです。


次回5章はやっと帰国する予定です。また間話挟んでから始めますので、次の章もよろしくお願いします。

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