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師匠(仮)〜唯一の技術持ってるのに獣になった〜  作者: 杞憂らくは
齧れ、呑み干せ、腐っていても
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59.サミュ子、めげないわ!

タイトルがかなりふざけてますが、やっぱりふざけてます。


「⋯⋯は⁉︎はぁあ⁉︎」


 ベリルが3日振りに顔を合わせたサミュエルは、完全に少女と化していた。

 短髪だった筈の頭髪は長く、ベリルより長身だったはずの身長はやや低く、男物のシャツの上からささやかだが胸の膨らみさえ見て取れた。


「どう?どう?僕って結構美少女じゃない?これはもうベリちゃんもメロメロだよね!」


 サミュエルは可愛らしいポーズを(わざ)と取った。拳を口許に宛てての上目遣い、おまけにウィンクまでされたら、寧ろあざと過ぎてベリルからしたら興醒めのポーズである。何より口を開けばただのサミュエルだ。


「⋯⋯いや、中身がお前だから気持ち悪さしか無い」

「ええ、何それ酷くない?結構頑張ったのに」


 サミュエルは口を尖らせて、拗ねた表情を作った。その顔も完全に美少女で、ベリルは鳥肌が立った。

 確かに純粋に評価して、性転換薬なんて凄いと称賛してやりたい。だがその作製動機を知っている身としては、決して認めてはいけない代物なのである。


「いや、そもそも何で自分で使ってるんだよ」

「純粋な興味と、ちゃんと人体に作用するかの確認。ラットは成功したんだ。20匹は爆散したけど」

「⋯⋯後でそっち掃除するからな。いいな、手伝ってやるから」


 一応この寮室は間借りしているのだから、綺麗に返さなくてはならないと云うのに。ベリルは震えた。染みになっていない事を祈るばかりである。


「兎に角あの薬の解析は終わったんだろ?どんな薬だったんだ?」

「簡単に言うとねぇ、生物兵器。あの薬微生物の塊なの」

「は⋯⋯⁉︎」


 ベリルの脳内には、小さな小さな赤虫が固まって、あの丸薬を形造るイメージが湧き起こった。気色が悪過ぎる。


「摂取する事で微生物が脳に行くんだね。そして信号を書き換える。何故か解らないけど、魔力を放出し続ける様に命令するんだねぇ。人格改変はおまけの副産物みたいなものみたい」

「そ、そんなエグい薬の何処を利用したんだ?」

「それは勿論、脳信号の誤魔化しだよ。訳の分からない微生物を使わなくても、脳を誤魔化す方法はあるからね」


 目の前の偽美少女が口の端を歪めて笑った。その笑い方がサミュエルのままで、こっちの脳がパンクしそうである。


「でもさ、僕、完全に美少女になった訳じゃ無いんだ」

「?」

「見た目は完璧なんだけどねぇ⋯⋯いや、見た目も完璧じゃ無いか」

「どういうことだ?」

「うん、今の僕胸が膨らんでるでしょ?あ、触る?」


 そう言ってサミュエルはささやかなバストを下から掬い上げた。本当の美少女がその仕草をするのならば興奮するのだろうが、実際中身が残念な男と知っているベリルからすれば吐き気を催すものだった。


「男の胸は要らない」

「ちぇー」

「それで女になった訳じゃないってどういう事だ?」

「ああ、そうそうそれね。実は生殖器が男のモノしか無いんだ」


 サミュエルが言うには、変化を及ぼしたのは体格と髪型、肝心の場所には全く変化が無いと言う。


「失敗って訳じゃ無いけど、このままじゃベリちゃんに僕の子供を産んで貰えないよ」

「⋯⋯僕は、そんな薬絶対に飲まないからな⋯⋯⋯⋯‼︎」

「じゃあ僕が産む?」

「絶対止めろ⋯⋯⋯⋯‼︎」

「嫌だなぁ、冗談だよ冗談。僕だって産むよりは産んで貰いたいもん」


 冗談とは思えない冗談をさらっと言い放ち、サミュエルは部屋に備え付けられているソファに座った。座り方は明らかに男の座り方である。その違和感に頭が痛くなりながら、ベリルは1番の疑問をサミュエルにぶつけた。


「で、薬の効果はどれくらい保つんだ?いい加減元に戻れ」

「え、さぁ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ゛⁉︎」

「ラットの戻る時間はまちまちかな?薬の量だけじゃなくて体質の問題もあるみたいだし、まだ姿が戻らないラットもいるんだよね」


 もしかしたら一生かも!と、からから笑うが、どう考えてもそれは大問題である。


「馬鹿野郎⋯⋯お前これからどうするんだよ⋯⋯!授業も出ないといけないし、何より公爵閣下にはどう言い訳するつもりなんだ⋯⋯!」

「別に授業はこのまま出ても問題無いし、父上は実験の結果って言えば笑って済ませそう」

「そんな訳無いだろ‼︎」


 この間までどう見ても男だったのに、見た目だけは女になって学校に通い出されたら非常に混乱するだろう。息子が「見た目だけ娘になりました」なんて言って帰って来たら、流石の公爵も怒り狂うのでは無いか。

 思えばベリルも、似た様な事をE組の皆に犯しているのである。姉弟と云う設定を付けたが、クラスメイト達には迷惑を掛けてしまった。きっと混乱して、ベリルの存在を受け入れるのに苦労をしただろう。今更だが、ベリルは罪悪感に苛まれた。気の良い同級生達だったから、余計に心苦しい。

 頭痛がして来て、ベリルは頭を抱えてサミュエルの対面に座った。

 すると、すかさずサミュエルがベリルの隣に腰を下ろしてベリルに身体を寄せて来た。ささやかな胸部をベリルの腕に押し当て、頭を肩に凭れ掛からせたのだ。


「⋯⋯⋯⋯何してるんだ?」

「いや、物は試しで誘惑出来ないかなって」

「出来ねぇよ。離れろ、吐き気がする」

「もう、つれないんだから!あ、さては照れて⋯⋯痛たたたたた⁉︎止めて、それ止めて!」


 ベリルはサミュエルの顔面を鷲掴み、そのまま力を込めた。所謂アイアンクローだ。サミュエルもこれには流石に音を上げ、ベリルから身体を離した。


「こ、この美少女フェイスに何するんだ⁉︎」

「自称美少女だろ。第一男だろうが」

「くそぉ、女の子になってベリちゃんを誘惑するのも無理なのか⋯⋯!」

「だから、まだ○○○(自主規制)は付いてるんだろ」

「もしかして、胸が足らない?」

「少なくともお前のそれは仮初めだろ」

「まさかベリちゃんって熟女派?」

「話聞いてくれる?」


 ベリルの声掛けも虚しく、サミュエルは一人で思索に耽り出した。胸を更に膨らませるやら色気を足す方法やらをぶつぶつ呟いている。


(⋯⋯自分で使う気か⋯⋯⁉︎いや、でも⋯⋯)


 しかし、最終的にその薬はベリル自身に摂取させるつもりなのだ。自分の姿を改変される恐怖にベリルは震えた。



「いやぁ、うちの坊ちゃんはある意味旦那様より危険だなぁ」


「⁉︎」


 いきなり第三者の気配を感じ、ベリルは顔を上げた。

 先程までサミュエルが座っていた対面のソファ。そこに、見た事も無い男が座っていた。人混みに紛れれば埋没してしまいそうなその顔貌、一度見ただけではきっとすぐに忘れてしまう。だが、その声は非常に豊かで一度聞いたら忘れない。顔には憶えは無いが、その声は心当たりが有った。


「⋯⋯ロビンさん?」

「やあベリル君、2週間ぶりって所?」


 軽い調子で右手を挙げての挨拶。学術都市(パンテオン)に来てからの、数少ない頼れる大人である。


「ああ、この顔は気にしないでくれよ?これは仕事用の顔なんだ」

「ええと、それはすごく気になりますけど。それよりも、どうしてロビンさんが此処に?」


 ベリルの記憶では、ロビンは娘のエレナと隣の街に居た筈だった。公爵家からの報せなら鳥で届く筈だし、お使いにでも出て来たのだろうか。

 ロビンは困った様に笑い、サミュエルに声を掛けて自身の存在を気付かせた。


「それはね⋯⋯うん、今の坊ちゃんなら好都合だ。坊っちゃーん、そろそろこっちに戻って来てくださいねぇ」

「ん?あれ?」

「時は一刻を争います。急いで此処を出る準備を」

「え?出る?」

「最悪、坊ちゃんの姿を変えている薬だけで良いです」


 ロビンはそのまま、サミュエルの身体を抱え上げた。サミュエルはいきなり抱え上げられ、ロビンに文句を言った。


「ええ、ちょっと!僕を抱っこするのはベリちゃんにお願いしたいんだけど⁉︎」

「ロビンさん、一体何が⋯⋯⁉︎」


 ベリルも訳が分からない。だが、急いでサミュエルの部屋に飛び込んで、机の上に置いてあった錠剤を掴んでいた。ロビンが「薬を持て」と言ったからに他ならない。

 ロビンもベリルが薬を持ち出した事を確認し、頷いた。


「今、この都市内で可笑しな薬が出回っている事は知っている?「マールム」と、呼ばれているのだけど」

「はい、知ってます⋯⋯」


 死者も出ている危険な薬だ。最近では生徒に対して、街での買い物は気を付ける様に注意喚起が行われていた。


「その「マールム」なんですがね、製作者に坊ちゃんの名前が上がっているんですよ」

本編に関わらせないつもりでしたが、あまりにも使い勝手が良いのでロビン使います。

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