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48.偉大なる魔法王国

解剖公爵回


「嫌になっちゃうなぁ。また呼び出しなんて」


 王城に連日呼び出されて、フレーヌとしては非常に遺憾である。大体呼び出すのは宰相のイザベラで、例の呪術関連から始まり、国家予算の見積もり、式典の招待客、完全に大臣方が頑張る仕事をさせようとするのだ。

 情報の漏洩では無いかと思われるだろうが、実際はこれもフレーヌの仕事だ。望んだ訳では無いし、役職も無いが、宰相補佐の役割を担っている。


「そこはおじいちゃんの仕事だよねぇ」


 フレーヌはそう言って、後ろに従い歩いていたキメリアに相槌を求めた。流石のキメリアも、他公爵家家長の陰口に迂闊に頷くなんて出来る筈も無い。勿論、フレーヌもそれを本当に求めていた訳では無いので、何事も無く再び前に向き直った。

 ご存知老害のヨハネス・フォン・パテルディアスだが、彼がやるべきなのは引退である。引退して、御意見番をやればいいのだ。

 それなのに、未だに法務局の椅子に座り、ぼーっと居眠りするだけなのだから、税金泥棒とはあの老人の為の呼称だ。ようやっと産まれた曾孫娘を側に置いて、茶でも啜っているのだろう。

 老害への文句を脳内で連ねていたフレーヌだったが、その暇潰しのお陰で呼び出された会議室まではあっという間だった。


「やー、お待たせイザベラー」


 フレーヌはノックなんてせずに、無遠慮に扉を開いた。

 何時もならその部屋は円卓なのだが、今日は長机が入れられ、議長が座る筈の席にはイザベラでは無く、金髪の青年が座っていた。


「来たか、フレーヌ。待っていた」

「⋯⋯ああ、陛下。お久しぶりですねー」


 ノック無しで入って、少し失敗したかなぁと、思ったフレーヌであったが、気にする様な素振りは更々見せず、さっさと空いている席⋯⋯王の次に身分が高い席に着いた。

 その青年は、正真正銘この国の王である。ただし、フレーヌには彼が誰かは解らない。何故なら、この国の王は今2人いるのだ。王の顔を不躾に眺めていたフレーヌは、ついついこの王が()()()()確かめたくなった。


「⋯⋯失礼ですけど、ミシェル様ですか?」

「ああ、そうだ」

「あはは、やっぱり。そうですよねー、ルキウス様ならそんな眉間に皺なんて寄ってませんから」

「ふうん?貴殿はよく見ているな。流石はセレスタインだ。毒を呑んだとしても貴殿ならばすぐ気付くだろう」

「いやぁ、それほどでもぉ?結構節穴ですからねー」


 表面的は和やかに、内心ではお互いに棘を刺し合って、2人は笑い合った。

 周りの人間達はたまったものでは無い。ヒラの文官達は顔色が悪いし、頻りにハンカチで額の汗を拭うばかりである。イザベラでさえ、口を挟まずじっと置かれた書類を見詰めるだけだ。


「それで、ミシェル陛下御自らこんな会議に何用でしょう?」

「なんだ、私も仮に王の役職を持つ者だ。国を動かす会議に出て可笑しい事はあるか?」

「お言葉ですが、陛下は軍事関係をご専門になさる筈では?紙の上では何も分からないから、と」

「確かに言ったが、気になる事を聞いたからだ」


 急に、ミシェルの雰囲気が剣呑なものに変わる。茶番は此処迄かと、フレーヌも丹田に力を込めた。


「セレスタイン公爵家が遂に王位を狙いに来たとな」

「⋯⋯与太話に振り回されましたねぇ、陛下」


 フレーヌは鼻で嗤った。この王の片割れは、すぐにそう云う嘘を信じる。何故なら、今の王位が正当なものとは言えないからだ。

 それに、セレスタインには2代前とは云え王家の姫が降嫁している。他の家では精々侯爵家、後は外国に嫁したか、婿入りしたので、公爵家と云う身分を持ち、王家の血と近いのはセレスタイン家しか無いのだ。

 こんな事をミシェルに吹き込んだのはネフティアに連なる誰かだろう。

 迷惑だなぁ、と誰かさんを恨めしく思っていると、ミシェルは驚くべき事を口にした。


「それに、今本家に貴殿の家の精鋭を集めているな?」

「精鋭?⋯⋯もしかして、とうに70過ぎたおばあちゃんの事ですか?」


 確かに精鋭だ。最盛期には程遠いが、未だに誰もあの老婆には敵わないだろう。それでも彼女1人を脅威に感じるとは、無理も無い話だが少々情け無いとは思わないのだろうか。


「それだけでは無い、魔導錬金術師が街から消えたそうだな」

「はあ」

「あの男は貴殿と友誼を結んでいただろう。あれを抱き込んで、何を企んでいる?」


 ジークベルトの所在は、なんとかしなければとは考えていた。ジークベルトは所有技術故、所在を明らかにしなくてはならないのだ。確かに国外に出た形跡は無いし、国内で身を寄せるならばセレスタイン家しか考えられないだろう。

 だからと言って反意有りとは、暴論も良いところだ。


「⋯⋯確かに、ジークベルトはうちの屋敷に滞在してますねー⋯⋯」

「やはりそうか」

「毎日サンドバッグになってますけどね」

「⋯⋯何を言っているのだ?」


 あの日以来、ザレンが事ある毎にジークベルトをデコイに見立てて刺股を振り回す様になったのだ。大人達は暫く構ってあげられなかったので、そのストレスを獣のジークベルトにぶつけているのである。

 その後、ミシェルが何を言ってものらりくらりとフレーヌが誤魔化す(真実であるのだが)ので、ミシェルはとうとう怒鳴り散らして会議室を出て行った。


「もう良い!私は練兵場へ戻る!」

「そうですかー。私も帰りますねー」

「貴殿の悪巧みは既に知れた事だ!忘れるな‼︎」


 悪巧みだなんて人聞きが悪いと思いながら、フレーヌはミシェルを見送った。そして、ミシェルの後に続く様に、フレーヌも会議室を後にしたのである。呼び出したイザベラを振り返る事は無かった。



**



「本当に失礼しちゃうよねぇ。折角解剖を放り出して城まで来たのに、犯罪者呼ばわりだよ」


 ねえ?と、付き従うキメリアに相槌を求めたが、キメリアからの返答は無い。王城の真ん中で、その主人の悪口を言うなんて、それこそ出来る筈も無い。


「本当、もうちょっと広い視野を持って欲しいよ。あれじゃ良い様に使われちゃうよねー」

「そこがみーちゃんの悪い所で良い所だよ」


 まさか返答があるとは思わなかった。フレーヌは思わず立ち止まり、辺りを見回した。すると、回廊の端、日当たりの良い窓枠に、1人の青年がごろりと横になっていた。

 その青年の顔は、先程まで一緒だったミシェル王と瓜二つであるが、持っている雰囲気がまるきり違う。穏やかで、のんびりとしたオーラを放っていた。


「これは、お久し振りです。ルキウス陛下。日向ぼっこですか?」

「うん、この季節になるとね、日差しって貴重だよ」


 そう言ったルキウスは、更に身体を弛緩させて行った。

 このルキウス王とミシェル王は双子なのである。

 元々第三、四王子であった2人に王位は回って来ないはずだったが、王太子が不慮の事故で亡くなった折り、第二王子は既に継承権を返上していた為、まだ少年だった2人が即位する事になったのだ。

 本来ならば兄王子のルキウスが即位するのが順当だったのだろうが、ルキウスが泣き喚く程嫌がった為に2人の王になったのである。


「それよりごめんよ。みーちゃんがまた変な事言ったんだね」

「気にしてませんよ。ミシェル陛下としては、ルキウス陛下の治世を盤石にしたいだけでしょうから」

「私としては、セレスタインよりもネフティアの周囲を気にして欲しいんだけど。みーちゃんてば、一途だからさ」


 よくルキウスよりミシェルの方が優秀だと誤解を受けるが、フレーヌから言わせればルキウスの方が有能である。これは、ミシェルが馬鹿正直に軍部で力を奮い、ルキウスが適当に文官を纏めているから、そう見えてしまうのである。


「ルキウス陛下が全ての采配を奮うのならば、阿呆も出ないのですけどね」

「そう言われてもなぁ。私は自分が王に向いているとは思ってないのだけど」


 ルキウスは自身を指差し、「威厳と云うものを持っていないからね」と、横向きに頬杖を付いた。


「それに、フレーヌは別の人を王にしたいだろう?私もその方が良いと思っているよ」

「⋯⋯ご冗談を。一体誰を推せば良いのやら」


 ではこれにて。フレーヌはにこやかに会釈をし、ルキウスの前から辞した。


(食えないなぁ、全く)


 もう少しルキウスがやる気を出してくれるのならば、フレーヌとしても安心出来るのだが。

短いですが、3章もそろそろ終わりになりそうです。


明日間話を入れる予定ですので、明日もよろしくお願いします。

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