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40.魔法と外法


 フレーヌは、簡単に事のあらましを説明した。

 ()()フレーヌが、一切の省略をせず、要点だけを掻い摘んで説明した。後頭部に眼球が有れば、壁際に居るフレデリカが手巾(ハンカチ)で涙を拭っているのを見る事が出来ただろう。

 フレーヌの説明を聞き終えた貴族達は、信じられないとばかりに騒めいた。


「呪術具⋯⋯?そんなもの、信じられるか!」

「それよりも問題なのは、その人体実験施設だろう」

「下民とは云っても我が国の国民であるのは間違いでは無いからな⋯⋯」


 この中に呪術師の顧客が居るのは確実だ。必死で呪術具の話題を否定している者は、特に要注意だ。


(自分の贔屓が噛んでたら、困るもんねぇ?)


 公爵家3家は狼狽える事無く、フレーヌの話を熟考していた。フレーヌの見立てでは、この3家は呪術師とは懇意にしていないだろう。そんなのに頼らずとも、政治的地力も一線を画しているし、一族で使う魔法が強力で呪術に頼る必要も無い。

 その中で、ネフティア公爵がフレーヌに問い掛けた。


「今回捕縛した破落戸は、その実験にどう関与していたのだ?」

「何人かをごうも⋯⋯おどし⋯⋯⋯⋯痛め付けて口を割らせた所、孤児の調達係でした」

「言い直せてへんで、変態」


 セレスタイン家の暗部と共に、破落戸数人を軽く叩いた上で、フレーヌの解剖風景を見せた訳だが、あっという間に震え上がって聞いてもいないのにぺらぺら喋り出したのだ。因みに今回解剖したのは、暗部に適当に捕まえて貰ったハーピーであった。


「月の決まった日に、洞窟内のある一室に攫って来た子供を置いておくのだそうです。1日待てば子供の代わりに食糧やら武器やら金銭やらが詰まっていると」

「なんやそれ。ぼろ儲けやんか」

「本当です。真面目に働くのが馬鹿馬鹿しい」

「ヴェスディ公、セレスタイン公。あまり人として逸脱した非道徳発言はお控えください」


 今まで黙って成り行きを見守っていたイザベラに注意されてしまった。彼女は進行として軌道修正に集中する様だ。


「それはそうとセレスタイン卿、お尋ねしたいのだがね」

「なんでしょうか、ネフティア卿」

「貴殿は、半月前の商業区画との通用門での出来事を隠蔽したな。何故だ」

「隠蔽なんてそんな。魔物が王都に入り、無辜の市民と警備兵を襲った⋯⋯そう云う報告はしてますよ」

「そもそも呪術具だ等と、出鱈目は言っていなかっただろう」


 まさか、出鱈目と思われているとは。フレーヌは信じられない思いで⋯⋯いない。当たり前だ。フレーヌ自身、ジークベルト・シュヴァルツクローネと云う天才が言った言葉で無ければ、信用しなかった。


「百聞は一見に如かず。フレデリカ、荷物をこっちへ」

「畏まりました」


 フレデリカは、預けられていた大きい荷物を持ってフレーヌの横へ来た。

 それは密閉される様に作られた鞄で、外部からどんな圧力をかけても、内部の荷物には影響を及ぼさないジークベルト手製の魔導具でもあった。その鞄を自分の前に置かせ、フレーヌは中のものを取り出した。


「これを見てください」

「何だ⋯⋯これは?」

「呪術具ですよ。こっちの赤い石が孵化前、こっちの白い生物が孵化後のものです」


 どちらも、あの洞窟で採取したものである。勿論そのまま持ち運ぶのは危険なので、分厚い氷で覆っていた。

 石の状態ならまだしも、孵化した後は本当に気持ちの悪い見た目だ。正視に耐えないのか、イザベラと何人かは眉を顰めて目を逸らした。それでも公爵家の3人は流石と云うべきか、()めつ(すが)めつ首を動かし、氷で固まった2つの物体を観察した。

 特に軍事を司るネフティア公は、誰よりも真剣に白い生物を見ていた。


「呪術具とは、寄生生物なのか?」

「そうですね。寄生する事で呪術師としての力を付与し、宿主の魔力を食う事で卵を孵化させているのだと思います」

「魔力を食う?」

「そもそも呪術は魔力と違い、発動エネルギーが割に合わないものです。必要となる魂や血肉は別途用意しなくてはなりません」

「そうやな。その分ジブンの魔力量とか細かなバランス考えんで応用が利くんがええ所らしいやないの」

「らしいですね。それでも下手したら死に掛けるらしいです。勿論皆さんは詳しく無いと思いますが、呪術師は対象呪うだけでなく、己も呪われますので非常に危険なんですよね。魔法と違い外法の業ですが、命懸けだなんて割に合わないと思いませんか?」


 ぐるりと見回すと、明らかに目を逸らした者が居た。これは完全に呪術師の顧客だろう。フレーヌは顔と名前を心の名簿に書き込んだ。


「その危険を軽減させる為に、この呪術具は正しく我々にとっての補助具(アミュレット)みたいなものなんですよ」

「待ってくれるか。話を聞いていると、貴殿はこの呪術具のエネルギーが魔力だと言っている様に聞こえるのだがね?」

「その通りです、ネフティア卿。通用門での検体と、今回発見された検体を比較して解った事です」

「比較?」

「今回発見された孤児達は、全員魔力持ちです」

「⋯⋯全員?」

「ええ、全員の血中魔力濃度を測ったので間違い無いです。残った臓器全てに魔力が行き渡る程、中々に魔力を持った子供達でしたよ」

「ちょい待ち、それ解剖してへんか?」

「呪術使用者の魔力では無く、掛けられた側の魔力を大量に消費する様です。子供達は呪術の被験体と云うだけでなく、繁殖、成育用の養分でしょう。全員卵を埋め込まれてましたし」

「無視せんといて」


 ラットも使用したのだから、間違いは無い。魔石を取り付けたラットと、取り付けてない通常のラットを用意し、孵化したばかりと思われる呪術具を寄生させた。その結果、魔石を付けていないラットは早々に干涸びて骨だけになった。魔石を付けたラットも、魔石の内包魔力が空になってから干涸びた。魔力が無くなった時点で、生命エネルギーを代わりに取られるのだろう。


「孤児は魔力持ちと云う言葉だったが、通用門の女はどうなのだ?そちらは魔力を持っていなかったのか」

「そうですね、そちらの方は本当に微々たる魔力しか持っていませんでした」

「それならば、寄生されただけであそこまで変異するのは可笑しいのでは無いか?自我を失わず活動していたと聞いたが、どこでそのエネルギーを調達したのだ?」

「⋯⋯これはちょっと言い難いのですが、その女はその時点で1人に呪いを掛けているんです」

「⋯⋯なんだと?」

「呪いを掛けた結果、魔力はそっちから引っ張って来てるんです。呪いによって回路を開いたって言えば、ご理解頂けますか」


 実は、ジークベルトが「魔力が練れない」と言った時点で、まあ予想はしていた事であった。あの飛び抜けて潤沢な魔力だ。利用されていると考えて当然である。


「ちょぉ待ってや。呪いって事は、そいつコレが体内に入っとるって事やんか」

「あー⋯⋯まあ、そうですね?」

「そうですちゃうわ!そいつ今どうなっとんのや⁉︎生きとる⁉︎」

「生きてます。取り敢えず」


 人型ではないが、ちゃんと生きてる。知能指数も下がって魔法も使えなくなったが、生きてる。魔力が潤沢なお陰で自我の崩壊も無いし、カラカラに干涸びずにいられるのだ。

 実際、呪術として埋め込まれた寄生体は宿主の魔力を吸い切ってから生命エネルギーを吸い込む様だし、ジークベルトの内包魔力を考えれば、まだまだぷりんぷりんのまる鼠でい続けるだろう。


「それで、どこの誰なんや?呪われてもうた運の悪い奴は?」


 ヴェスディ公は、飽くまで好奇心から聞いたのだろう。しかし、フレーヌからすれば答え難い困った質問である。


「その人の名誉の為にも、言わないでおきます」

「なんや⋯⋯つまらんのぅ」


 とは言いつつ、ヴェスディ公はそこまでがっかりした様には見えない。密談ならまだしも、誰が敵か味方かも判らないこんな場所では明かせるものでも無いと分かっているのだ。


「それよりも問題なのは、この訳のわからん寄生体がどれくらい世に出ているか、だな」


 ネフティア公が忌々しげに呟いた。


「対策はまだ分かっていないのだろう?」

「そうですね。取り敢えず、魔石か何かで魔力を補充し続けるくらいしか、今の所は」

「そんなら各自警邏を重視して、魔石を幾つか確保するしか無いなぁ⋯⋯魔石欲しいならワシんとこで買うてや」


 ヴェスディ公はちゃっかりと金儲けに走る模様だ。

 重要だったのは、この事実を公表し、これ以上の被害を出さない為にあったので、フレーヌとしてはもうやる事は無い。帰ってジークベルトの経過を確認する程度だ。進行役のイザベラも、もう話し合える事はないと判断したのか、締めの挨拶を始めた。


「それでは、本日の会議はここまでに致しま「そうじゃああー‼︎」⋯⋯⋯⋯どうしました、パテルディアス卿」


 ずぅっとだんまりだった老害が叫び出したのである。


「どないしたんや、じいさん?」

「この白っあれじゃ!」


 寄生生物を頻りに指差し、老害は雄叫びを上げた。


「ドクツルタケじゃああ!」


 フレーヌの祖父、先々代公爵アルベルトが最も愛した毒茸である。因みに、アルベルトは祖母テュエリーザの事をその毒茸の異名で呼んでいた。


 「天使(エンジェル)」と。



「⋯⋯おじいちゃん、もう引退したら?」


 その言葉は、もう四半世紀は一族で言われている言葉である。

あんまり良いオチじゃ無い。

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