特別編:ハッピーハロウィン
ハロウィンなので、書いてみました。
ベリルがジークベルトに引き取られてすぐの秋です。
今日のジークベルトは一味違う。
たなびく黒マント、ワインレッドのリボンタイ。そして何より、鋭く伸びた一対の牙。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
「とうとう尻尾を出したな、変態め」
「いたずら」と云う言葉に敏感に反応したベリルは、一気にジークベルトの後ろに回り込んで首を絞めた。
「んぎゅう⁉︎ち、違うよ!そう云う意味じゃ無いからね⁉︎」
「違う?」
「そう、知らない?ハロウィン」
「はろ⋯⋯?下層じゃそんなの知りません」
ジークベルトはベリルに詳しく話した。
西の島国からやって来たその行事は収穫祭の一種である。そして古代に於いては新年を祝う祭でもあり、悪霊達が歩き回る日でもあるらしい。
しかし、長い年月と地域を移動する経緯で変化も有ったらしい。
「この日は子供が仮装をして、お化けに見付からない様にするんだ」
「子供⋯⋯おじさん、子供?」
「お兄さんね。⋯⋯最近は、大人も仮装するから」
ジークベルトは、ベリルに一着のコートを手渡した。フード付きの黒コートだ。フード部分に猫耳と髭が付いている、とても可愛らしいデザインだ。
「なんですか、コレ」
「仮装だよ。本当は何に化けたいか聞いとくべきだったんだけど」
仮装云々に興味の無い擦れたお子様は、特にやりたい仮装も無かった。
「それで、仮装して何をすればいいんですか?オバケ退治?」
「オバケに見付からない為の仮装だからね。当たり屋みたいな事はしないでおくれよ。⋯⋯子供は大人からお菓子が貰えるんだよ」
「⋯⋯お菓子⁉︎」
ベリルは食べる事が好きだ。それでも、大人から無条件に渡される食べ物は、非常に危険だ。眠り薬やら麻痺薬やら媚薬やら、何を盛られているか分かった物では無い。
「大丈夫だよ、商工会が用意したお菓子だから」
安心させる様ににっこり笑ったジークベルトは、オレンジ色のカボチャを刳り貫いて作られたバケツを差し出した。このバケツがハロウィンを楽しむ子供の目印らしい。
「あとコレ!ベリルには特別だよ!」
そう言ってジークベルトが手渡して来たのは、ゴテゴテに装飾されたステッキだった。キラキラの星が先端にくっ付いていて、また女の子が喜びそうなデザインだ。ベリルは特に嬉しく無い。
「⋯⋯⋯⋯」
「ほら此処にスイッチがあるだろう?」
持ち手に小さな突起が有った。死んだ目をしたベリルに対して、大人であるジークベルトの方が目をキラキラさせていた。
仕方無しに突起を押すと、「シャランララン」となんだか煌びやかな音が鳴ったと思うと、ジークベルトの低い声が杖から響いた。
『トゥインクルスター☆マジカルハロウィン!』
「⋯⋯⋯⋯なにしてんだオッサン」
「違うでしょ、お兄さんだから」
無駄に凝った魔導具の様だが、この声で全てが台無しだった。
本当はもう少し長い話にしようと思ってました。町に繰り出してお菓子をカツアゲしたりされたり⋯⋯
そんなこんなで、簡単にプロットを考えたら本編の一話分以上のボリュームになり兼ねませんでした。
ちょっと物足りないかもです。すみません。




