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師匠(仮)〜唯一の技術持ってるのに獣になった〜  作者: 杞憂らくは
自分の欲と感情が最優先。これがセレスタインだ!
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330.大人は勝手だ!


 ベリルはクローゼットの深くにあったローブを引っ張り出して羽織り、サミュエル達が乗って来た馬車に飛び乗った。

 本当ならアヴァールの馬車に乗るべきだったのだろうが、「ウチの馬車にこんな別嬪乗せたって知れたら、姉ちゃんに何言われるか分からへん!ベリやんは絶対に乗らんでくれ!」と、激しく拒否されてしまったからである。だから不本意だが、サミュエルとフランシーヌの爆弾ふたつと共に一緒に居なくてはならない。

 しかし、元に戻りたいベリルに対してサミュエルは嫌そうなのであるが、フランシーヌは乗り気なのである。それもこれも、ベリルの見た目が「美少女よりも美少年の姿の方が需要があるから」で、あるらしい。複雑だが、協力してくれるならば何でも宜しいと思う事にする。

 そんな馬車は、(ひた)向きに王城へと走っていた。ちなみに馬車を操るのはグルーザであり、馬車はセレスタイン家のものである。

 実はと云う訳でも無いが、サミュエルは家に軟禁状態だったらしい。それはベリルに対して何かしらの害を与える可能性が有ると考えられたから、だと云う。

 それならそれで絶対に外に出さないでいて欲しかったのだが、サミュエルは上手い事して抜け出した。家に滞在していた()()()()の王女を使い、まんまと商業区画まで降りたのである。


「いやぁ、本当ね。良いもん見しちくれるって言われたから誘いに乗ったけど。結果としたら微妙ですわねん」

「えー?あんなに嬉しそうに僕達のキスを見てたのに」

「アレは良かった⋯⋯もう1回、いや、何回でも見たい。見して!」

「あれは幻。悪夢。お前の目玉が腐った証拠」

「つまり2度としねぇって事だっぺな」


 この中でなら、ポプラが1番()()()である。⋯⋯気分屋で不思議ちゃんのレプラコーンが1番まともだなんて、世も末な話である。


「言われるままにこうして走っとるけんど、王城に何かあるっぺか?」


 まさかおきれいなドレス(べべ)を着る訳じゃ無いべ?と、ポプラは首を傾げてみせた。


「⋯⋯本当なら、そこの馬鹿を張り倒して解毒薬を調合させるべきだとは、僕も分かっているんですが」

「痛くしないでね?」

「⋯⋯泣き叫ばせてやろうか?」


 向かいに座る馬鹿者(サミュエル)を鋭く睨み付けてから、ベリルは首を振った。


「⋯⋯こいつの解毒薬を待つよりも、不確実でも試してみたい事があるので」

「それが王城にあっぺか?」

「⋯⋯まあ、そうですね」


 もしかしたら、()()はセレスタイン家にあるのかもしれない。だが、今現在の状況からして王城の方であると直感した。

 王城の車止めに馬車が停まったので、ベリルは馬車を飛び降りた。後から来るアヴァールの馬車をもどかしく待つ事暫く。何せ王城の中を進むのは、今のベリルでは難しい。

 だからこそ、アヴァールにも同行を願い出ていたのだが、当のアヴァールはと云えば馬車からゆっくりと降りて来たのだ。そんなアヴァールに苛つき、()く様にその手を引っ張ると、ものすごく嫌そうな顔をされた。


「俺がかわいこちゃんと手を繋いだって噂になるやろ。どないしてくれんねん」

「急ぐんで、そう云う冗談は後にしてください」

「⋯⋯冗談やあらへんけど」


 愚痴愚痴口から溢すアヴァールを無視し、目を見開いて口を開閉させている使用人達を見ない振りをして、ベリルは王城の中心へと進む。

 時折行手を阻もうとする騎士達が現れたが、それも全てアヴァールの顔で何とか退けた。


「ヴェスディ公爵閣下、その、この先に部外者をお連れされると⋯⋯」

「よう見てみい、俺がお連れされとるやろが」

「財務卿閣下、陛下にその⋯⋯()()()に?」

「ちゃうわ!何の報告せなあかんねん‼︎」


 アヴァールはその顔と弁舌で、行手を阻む騎士や文官達を退けてくれるので、ベリルとしては非常に有難い。後ろにぞろぞろと連れ立って歩いているのだが、それも全てスルーである。トゥマーンの2人がアヴァールの身分を知って青褪めていたが、そこは割愛しておこう。


「それでベリやん、俺は何となぁく()()を目的にしとるんやと思うんやが、()ぉとるか?」


 ()()の説明は、ルキウスとフレーヌにしかしていない訳だが、アヴァールは奇跡を目の当たりにした1人でもある。ベリルはただ頷いてみせた。


「流石の俺だって、表に出したらあかんと思ったから聞かんかったんやで?後で何なのかちゃんと言えや」

「それは勿論⋯⋯」

「せやけど、残り全部を宰相に渡すとか。ベリやんもアホやな!俺なら嘘付いてでもガメとくわ!」

「言わないでください。僕もそうすれば良かったと思い知ってますから」


 そう、ベリルが求めているのは、アデラが作った聖水だった。

 今の所傷や毒にしか効果が確認されていないが、この状態のベリルにも、何かしらの効果があるのでは無いかと考えられる。

 それは勿論、フレーヌだって考える事だろう。だからこそ、ベリルは急いでいた。


(⋯⋯残りは丸々ひと瓶⋯⋯成分を調べたと仮定したら、最悪半分まで減っているかもしれない⋯⋯!)


 フレーヌは、その残りを返してくれるだろうか。否、ベリルならばまず利用を考える。この2年半⋯⋯もうすぐ3年になる。()()呪われた男の為に使う事を思い付く筈だ。

 そう考えれば、ベリルを外へと出した事も頷ける。ベリルの意向を無視して、聖水を使う為だ。


(⋯⋯事後承諾にする気だな⋯⋯!戻れば御の字、戻らなければ笑って誤魔化すつもりだろう⋯⋯‼︎)


 すぐに戻れば良いのだろうが、戻らない場合、何度も試す事になる為、一滴も残らない。

 そうはさせてなるものかと、ベリルは宰相の職務室の扉を蹴り開けた。


「失礼しますッ‼︎」

「うわっ⁉︎」

「おおっ⁉︎」


 挨拶もそこそこ、ずかずか部屋へと踏み込んだベリルは、デスクに座らず、部屋の隅にしゃがんでいるフレーヌとジークベルトを見て、遅かったのだと絶望した。


「⋯⋯それは、何ですか」

「べ、べべべべベリル君⁉︎こ、これはね⋯⋯その⋯⋯」


 低い声で問い掛けたベリルの変化も目に入らず、フレーヌは明らかに動揺していた。それはそうだろう。フレーヌが齎した()()は、それだけとんでもないものだったのだから。


「⋯⋯ジーク様⋯⋯‼︎」


 大凡(おおよそ)2年半ぶりに、人としてのジークベルトの顔がそこにはあった。特徴的な黒曜石の瞳も、()()と自称するだけあった長くてサラサラの髪も、以前と変わらない。背の高さを表すスラリとした脚の長さも、ベリルが羨ましく思っていた時のまま。











 ただその顔が、獣の身体の上にさえ無ければ。そしてその身体から、人間の生脚が伸びてさえ無ければ。


「⋯⋯なんつーミュータントを産み出したんですか⁉︎」

「いやもう本当、私としてもどうしてこうなったのかと⋯⋯」


 ベリルは公爵家当主である事も宰相である事も忘れて、その襟を掴んで揺さぶった。聖水を使い切った事よりも、あられも無い姿になった師匠の姿が1番精神に(こた)えた。

 しかし、


「見て見てベリル!私のキューティクルが戻ったんだ!」


 当の本人はと云えば、中々嬉しそうであった。

化け物爆誕。

絵にするべきか、迷う所です。

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