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師匠(仮)〜唯一の技術持ってるのに獣になった〜  作者: 杞憂らくは
自分の欲と感情が最優先。これがセレスタインだ!
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311.これ以上巻き込まれません様に


「⋯⋯魔物退治に行かれたと思っていたのですが」

「⋯⋯色々有ったんだ、何から説明するか」


 律儀にも屋外で待っていたドゥシュアとカピンは、帰って来た4人を⋯⋯特にベリルを呆然と見詰めた。

 何時もの輝かんばかりの美貌は鳴りを潜め、華奢な冴えない男がそこに立っているのだ。透き通るサラサラとした銀髪は茶色い鳥の巣に、仕立ての良い黒のジャケットは擦り切れた垢抜け無いものに、そして顔は大きな眼鏡で隠してしまっていた。

 勿論近付けば顔の造形が兎に角良い事が分かるし、姿勢が良く芯がぶれない歩き方をしているので鍛えている事も容易に分かる。

 ベリルがそんな姿になっている理由を考えたドゥシュアとカピンの2人は、ベリルに近付いてこっそりと尋ねた。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯後ろの方達が原因ですか?」

「まあそう」

「⋯⋯あいつら、何だ?」

「北のお姫様達」

「⋯⋯⋯⋯またややこしい方達がいらしたのですね」


 本当にややこしいと、ベリルも頷いた。

 村へと戻って来る道すがらグルーザを半分脅しながら話を聞いたのだが、北の帝国と云うものは既に体を成していないと云うのだ。

 それと云うのも2年と少し前、ズタボロになったグルーザは帰国してすぐ、国に対して革命を起こした。元々国としての在り方も何も有ったものでは無い皇族の専横政治だった国だが、その革命により完全に瓦解。国内各地で武装蜂起と勝手な独立宣言が絶えず起こり、混沌とした情勢になった。

 そして交戦は続いているものの、革命の中心人物達で何とか国としての指揮系統を整備している時に事件は起こった。その時グルーザはヴォルフヴ(祭司)として相談役を引き受けていた。革命の中心となったリーダーは穏やかな気質の農夫で、この男ならば国を良い方向へと導けるだろうと、グルーザは考えていたのだが⋯⋯その男が殺された。

 犯人は仲間だった筈の、リーダーの右腕。隣で国の全てを手に入れる男が羨ましくなったのか、妬ましくなったのか、その心中は単純では無く複雑なものだったのだろう。しかしその理由が何であろうが、グルーザを絶望させるには十分だった。グルーザは、人間の欲を見誤っていたのだ。

 素朴な人間達なら、無欲と云う訳では無い。寧ろ与えられる事で驚くくらい貪欲になったりもする。今北の帝国はグルーザが抜けた事で混沌としているだろう。右腕の男がどれくらいやれるかは知らないが、己の欲望を優先する男の様だから、現在の革命軍とか云うのも推して測るべしだ。

 しかもちょろっとグルーザが零したのだがその男、グルーザの生命も奪おうとした様なのだ。


(⋯⋯だからと言って自分がやらかした大陸に逃げ込むとか、するかねぇ?)


 その思考回路には首を傾げるが、北に居られ無い事は分かる。それでもこうして頭の可笑しい女性に捕まって、召使い宜しく使われているのだから、祖国で足掻いて居た方が良かったのでは?と、ベリルは考えてしまう。


「今言えるのは、人騒がせで迷惑な人達って所かな⋯⋯魔物を目撃してくれていた事だけは助かったけれど」

「そうだ、肝心の魔物は?」

「怒った()()()女が連れて行ったらしい」


 態と強調して言えば、合点がいったと2人は頷いた。カピンは淡々と、ドゥシュアは疲れた様に。


「聖王国に居るって奴等か?魔物はそいつらの仲間で、怒ってたって事は勝手に彷徨いて居たって事か」

「⋯⋯羝大人(ターレン)のお身内は、自由な者が多いと聞きますからね⋯⋯兎に角、この土地の危険は去ったと見て宜しいでしょう」

「そうだと良いな」


 元が居ないのでは退治も何も無いと云う事で、この件は終わりだ。全員を連れて王都に引き上げよう。そう思って家屋に居るブラムシュタット所縁の2人にも声を掛けようとしたのだが、その反応は酷いものだった。

 フランシーヌは「⋯⋯そうか!これが⋯⋯眼鏡を取ったら美少年ってやつか‼︎」と、メモ用紙を取り出して何かを書き出し始め、ジークベルトに至っては呆然と「だれ⋯⋯?」と、頭をぐらぐらさせていた。弟子であり甥っ子の事が分からないとはと、ベリルはむくれた。だが、そんなベリルの耳許で「仕方の無い事かと」と、ドゥシュアが囁いた事で少し落ち着いた。確かに髪の色も眼鏡も見慣れないだろう。


「⋯⋯取り敢えず、ジーク様。帰りますよ」


 探していた魔物は移動した様で近くに居ないと云う事を簡単に説明した。何より不安を感じている集落の人達には、今外でトリスメギストスが案内してくれた猟師と村長に説明してくれている筈だ。


「⋯⋯居ない?本当か?」

「本当です。目撃した人達がいまして」

「目撃?こんな森でか?」

「ええ、そうです。⋯⋯あー⋯⋯」


 その目撃者達の説明が面倒で、ベリルは取り敢えず他国のやんごとなき身分の人達であり、一緒に連れて行くつもりだと説明した。


「それは、お前がそんな格好してる事と関係有る?」

「成り行きですけれど、概ねそう云う事です。随分とややこしい方達なので、なるべく身分は明かさない方が良さそうなんですよ」


 一心不乱にメモし続けるフランシーヌをカピンが、ジークベルトをベリルが抱えて外へと出て、不機嫌に固まっている軍服の一団を指し示した。軍人達は、姿を現したベリルに揃って忌々し気な表情を向けた。特に皇女はその反応が顕著であり、あからさまな舌打ちをして見せたくらいである。


「⋯⋯一体何をしたんだい、ベリル」

「⋯⋯強いて言うなら、正当防衛の不可抗力と」

「⋯⋯女の子には優しくしなさいってあれだけ⋯⋯!」


 無闇に優しくするのは違うだろうと、ベリルが反論する前にジークベルトはベリルの腕から抜け出し、皇女の元へと走って行ってしまう。


「ちょっ⋯⋯ジーク様⁉︎」

「申し訳無いお嬢さん‼︎」


 どべどべとした走り方だが、虚をつかれた結果ベリルは止める事が間に合わなかった上に大きな声で皇女を呼んだのだから、注目を浴びる事は避けられなかった。


「な、な⋯⋯⁉︎」

「いや本当申し訳無い!うちの子が⋯⋯!うちの子はちょっと空気が読めないだけで、悪い子じゃないんだ‼︎」

「止めてくれます⁉︎」


 ベリルは慌ててジークベルトの身体を持ち上げた。今正に空気を読めていないのは、ジークベルトである。だと云うのに、ジークベルトは更に空気を読まずに皇女に向かって喚き続けた。


「ぶっきらぼうで捻くれてるけれどね、いじめっ子からお友達を庇ったり、買い物でカモられてるおばあちゃんを助けたり、そう云う根は優しい子なんだ!近所じゃツンデレベリルちゃんで有名で⋯⋯!」

「何ですかそれ⁉︎ツンデレ⁉︎」


 知らなかった呼び名を言われ、ベリルは慌ててジークベルトの口を塞いだ。恥ずかしい事は勿論だが、プライドの高い元皇女に無防備に近付いた事が恐ろしい。誓約魔法が無ければ、ジークベルトは殺されてしまっても文句は言えない。

 しかし、皇女は怒りでは無く驚きを持ってジークベルトを見詰めていたのだ。


「⋯⋯そ、そなたも⋯⋯呪われているのか?」

「⋯⋯何ですって?そなた⋯⋯()?」


 思わずぽろりと零れたのであろう皇女の言葉を拾い、ベリルは問い掛けた。ところがその問い掛けが聞こえなかったのか、はたまた故意に無視をしたのかは分からないが、皇女は眦をキリッと吊り上げてグルーザを睨んだ。


「貴様⋯⋯!」

「⋯⋯私では無い」

「どうだか⋯⋯‼︎」


 成る程と、ベリルは溜め息を吐いた。確かにグルーザは帝国にとっての大逆人だが、それ以上に何かやらかしたのだ。恐らく、ジークベルトの様に姿を変えられた者が居るのだ。

 それが真実であれ誤解であれ、面倒事である事は変わらない。ベリルはドゥシュアに指示を出しながら、如何振る舞うか考えていた。

トゥマーンに行く予定は今の所ありません。⋯⋯無いよ?

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