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277.恋愛マスターとか言ってますけど、アナタ以前やらかしてるの知ってますからね

今回ポンコツなのはベリルじゃないです。ポンコツなんですけど、それを上回るポンコツが居ます。


「⋯⋯ベリル君、流石に無自覚とか言わないよね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯自覚はあります」


 ロビンが探る様にベリルを見た。実はつい先程自覚したばかりのベリルは、気恥ずかしさ故にそっぽを向いた。その反応は図らずも人生経験の豊富なロビンとフレデリカには、内情等筒抜けである。


「まあ、なんて甘酸っぱいのかしら!」

「いやぁ、青春ですよねぇ!これはこの片想いを⋯⋯いや、ややもすると両片想いなんて可能性も有るかも!」

「⋯⋯⋯⋯他人事だと思って⋯⋯!」


 ベリルは2人を恨めしく睨み付けるも、年長者達は何処吹く風。勝手にベリルの恋愛を成就させるには如何すれば良いか、意見交換を始めた。


「勝負は明日の出発までですよね。それまでに何としても、意識はして貰わないと」

「雰囲気作りの前に仲直りかしらね?あのお嬢さん、坊やの身分に後込みしてたものねぇ」

「身分ですか⋯⋯何かあったら何処かの家で引き取れませんかね?」

「それなら、私の実家にお願いしてみましょうかね?男爵家ですけど、セレスタイン家からの信頼は厚いですから」


 そんな勝手な事を言い合う2人に、ベリルは脱力した。


「⋯⋯⋯⋯いや、そもそもの所そう云うのはまだ先の話じゃ⋯⋯」

「先!まあ、まあ!」

「これは思っていた以上に勝算が有るのかい?流石ベリル君、小さい時から数々の男性を無駄に狂わせて来ちゃいないね!」

「あーあーあー!面倒臭えええぇ‼︎」


 “先”の事は2人が言い始めた事であるし、幼い時の事なんてよく覚えちゃいない⋯⋯と、云うよりそれが真実だとすると、物凄く恐ろしい。


「もう!おばあ様もお父様も、少し落ち着いてくださいませ!まだあのお嬢さんの気持ちも知りませんのよ!」

「あら、そうね。年甲斐も無く坊やの初恋にちょっと浮かれちゃったわ」

「いやぁ、こんなベリル君なんて()()だから、つい」

(⋯⋯⋯⋯娘に忘れられてしまえ‼︎)


 仮面をしていると云うのに、ほくほくと笑うのが分かるロビンを睨み付けて呪う。そんなベリルに、咳払いして注目を取ったのがエレナであった。

 エレナは人差し指をベリルの鼻先に突き付けると云う無作法をして、きっぱりと宣言した。


「ベリルさん!今貴方がしなくてはならないのは、自分の偽らざる気持ちを彼女にぶつける事ですわよ!」

「⋯⋯⋯⋯はあ」

「しかも、ただ気持ちを言うだけではいけません!如何に印象に残すか、好意を抱いて貰うか、特別な台詞と行動が必要ですわ!」

「⋯⋯⋯⋯なるほど」

「数々の恋愛小説を読み耽って来た、この恋愛マスターとも呼べる私が全力でサポート致しますわ!」

「⋯⋯⋯⋯凄い不安なんで、遠慮しても良いですか?」


 まさかの机上の空論。未経験の恋愛マスター程、信用出来ないものは無い。


(⋯⋯それに貴女、2年前同僚からの好意にまっっっったく気付いて無かったじゃないか)


 ベリルは呆れてエレナを見遣るも、肝心のエレナは不本意とばかりに頬を膨らませて文句を言い始めた。非常に面倒臭い。


「不安とは何です!年頃の乙女が協力すると言ってますのに!」

「⋯⋯⋯⋯例えば、例えばですけど。エレナさんの愛読書では如何云う事してます?」

「そうですわね⋯⋯」


 小説の一節を思い出す様に、エレナは目を閉じた。


「⋯⋯⋯⋯暴漢に襲われたヒロイン、間一髪で救うヒーロー⋯⋯その庇ってくれる背中にときめきが⋯⋯」

「ああ、吊り橋効果ですね。その状況における心拍を、恋愛的なものと脳が錯覚する」

「ロマンを挫く様な事言わないでくださる⁉︎」


 ベストセラーですのよ!と、エレナは騒ぐが、ベリルからすれば全くロマンを感じない。そんな事でときめいたとしても一時のもの、きっとあっという間に醒める。

 しかし、そんな事を考えたのはベリルだけだった様だ。それどころか、肯定する様な事を言われたのだ。


「⋯⋯それ良いッスね!オレ、ゲンマちゃんに実践しようかなぁ」

「思い出しますねぇ、若い時のおじいちゃまも私の事を守ろうとしてくれたんですのよ。あの時はもう素敵でしたねぇ」


 あのフレデリカですら、体験者らしい。嘘だろ、どの辺を庇われるの?と、信じられない思いのベリルに、エレナはふふんと鼻を鳴らした。


「よろしくて?飽くまでもこれは切っ掛けの様なものですわ⋯⋯本番はこれから!そのときめきを維持させたまま、一世一代の告白です!」

「⋯⋯⋯⋯はあ、例えば?」

「夕暮れの景色の良い場所で2人きり、別れなければならないと泣くヒロインを抱きすくめ、『別れる必要なんか無い』と!逃げようともがく彼女の唇を奪うのです!」

「え、普通に気持ち悪いんですけど」


 エレナの愛読書には申し訳ないが、ベリルは承服出来なかった。


「嫌がられてるじゃ無いですか。それを⋯⋯無理矢理?そいつどうかしてますよ。本当にベストセラーなんですか?」

「なんて事を!嫌と口では言っていても、ヒロインもヒーローを愛しておりますのよ⁉︎この場面は、運命に引き裂かれそうな2人が愛を確かめ合うシーン!大切な所ですの!」

「⋯⋯いや、それ男性主観じゃないですか」

「一応ヒロイン視点で描かれてますのよ!」

「仮にそうだとしても、現実世界じゃ使えません。事実相手の感情は判りっこありません。片方の思い込みで、一方通行の場合もありますから」


 口に出すのも嫌な事だが、これでもベリルは“変態”に言い寄られた回数だけは無駄に多い。


「⋯⋯知らないでしょう。道を歩いていていきなり、前方から歩いて来た見た事も無い中年男に、“やっと愛するキミを迎えに来れた。幸せになろう”と言われる恐怖。買い物中にブルジョアの男から“前世で恋人だった”と宣われた事もありましたし⋯⋯そうそう、小さい時に家の前で“パパだよ”と後ろから羽交い締めにされた事もありましたっけね⋯⋯」

「な、生々しいですわ⋯⋯⁉︎」

「⋯⋯その“パパ”、エリオス殿下じゃないよね⋯⋯?」

「違いますね。少なくとも赤ら顔で爪の中まで真っ黒に汚れた労働者階級の男でしたから」


 もしかしたら、母に懸想していた男だったのかもしれない。あの時はまだベリルもそこまで擦れてなかったので、為されるがままだった。そこを近くを歩いていた親切な紳士に助けて貰わなければ、如何なっていたか分からない。


「兎に角、エレナさんの愛読書は使えません。有効利用なんて絶対出来ません。第一暴漢に襲われるとか、馬鹿じゃないですか?態々暴漢雇うんですか?」

「うう、ぐうの音もありません⋯⋯!」

「ええ⁉︎この方法使えねぇッスか⋯⋯⁉︎」


 エレナとロッチャは完全に打ち拉がれていた。ベリルからすれば、何で利用出来ると思ったのか理解に苦しむ。


「恋愛マスターの看板はさっさと降ろしてください」

「くっ⋯⋯本を読めば、その素晴らしさも理解して貰えると云うのに⋯⋯!」

「エレナちゃんはまだまだ、恋に恋する女の子ですものねぇ。⋯⋯⋯⋯まずお相手を見付けてからだわね」

「お義母さん!エレナちゃんにはまだ早いです‼︎」


 フレデリカの言葉に1番に反応したのは、当事者のエレナでは無くロビンであった。そしてそのまま、アッテンテーター家は長女の嫁入りの事について、ベリルそっちのけで言い合いを始めたのである。


(⋯⋯⋯⋯僕は一体誰に相談すれば良いんだ⋯⋯)


 ふと部屋を見回すと、置いてけぼりにされたロッチャがポカンと一族と言い合いを眺め、マルトーが勝手にポットからお茶を注ぎ直しているのが目に入った。


(⋯⋯⋯⋯⋯⋯残りも()()だな)


 何せ相手にもされない恋愛をノリと勢いだけで突き進んでいる男と、無機物を嫁と言い張る男である。実際、碌な相談相手が居ないと云う事だった。

やっぱりフェルさんしか居ねえや。

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